KINGコタタマ
1.人間の里-攻略組会議席上
そもそも攻略組とは何であるか。
その定義はひどくあいまいなもので、アップデートで新マップが追加されたからといって、その攻略に出向くものを「攻略組」とは呼ばない。新マップがどんなもんか見に行くのに廃人もライト層もないからだ。つまり従来のMMOに攻略組などという概念は存在しないのである。
その概念がこのゲームで出現したのはSAOの影響だろう。廃人という括りでは収まりが悪い集団が生まれたので、自然と知ってる単語があてられた……そんなところか。
要するに攻略組とは……少なくともこのゲームにおいて……廃人と廃人から見てそこそこ使い物になりそうなプレイヤーの集団である。線引きはひどくあいまいで、例えばイキッたチワワが「俺は使えるぜ!」とか何とか主張して廃人の誰かがコイツは見所があると思ったら無事に攻略組の一員となる。
まぁ一員になったところで特典らしい特典は一切ないので、別に勝手に攻略組を名乗ったところで誰も困らない。じゃあ暇だし一緒にレイド級ブン殴りに行こうぜってくらいだ。
攻略組会議に攻略組ではないウチのクランが呼ばれるくらいなのだから、いよいよ攻略組という定義はあいまいなものとなり、得体の知れない怪物のようになっていく。よっぽどブッチしてやろうかと思ったが、安全地帯の街をわざわざ出てモンスターのエサになりに行く奇特な連中に王の中の王たる余が規範を示さねばならんと思って出向いた所存。
今日も今日とて会議は荒れていた。今日会議やるぞって言ってんのにどいつもこいつも直前まで狩りをやってるもんだから興奮は醒めやらずアドレナリンがドパドパ出ていて血の気は多いし日本語は喋れない。
「もるぁーっ!」
知らないゴミが跳んだ。
このゲームの剣士が使うもっともオーソドックスな剣法を捻流と言う。その極意は先手を取ることにある。
硬い頭蓋骨は狙わない。腕の腱を切れば二の太刀はなく、まず勝ち確だ。前後左右から打ち込まれる斬撃に対処するすべを人間は持たない。
その捻流に対抗するべく編み出されたのが地ずり殺法である。
捻流は跳ばせないこと。それが肝要。だが跳ばせないとは!? 正直俺はどうしたらいいのかさっぱり分からない。何も考えずに突っ込んで脚をブッタ切るしかねえだろうとは思うが、どうも違うらしい。廃人どもが間合いがどうの呼吸がどうのと言っていて、分からないヤツには一生分からないだのと偉そうに……! イヤ分かりますけどね! 分かる分かる。間合いと呼吸だよ!
俺は分かった。
捻流は先手必勝を旨とするためか、事故が起きやすい剣法でもある。チワワがテキトーに振り回した武器に自分からぶつかって死ぬこともある。
対する地ずり殺法は安定の剣。空中殺法の不安定さを突くこととなる。
「もるっ、う……!」
地を這う蛇のような動き。蛇行し、腰だめに構えた剣を抜き打ちする。殺傷圏を掻い潜った次の瞬間には踏み込んでいる。相手の攻撃を躱してから自分の攻撃を当てるなど狙ってやれることではない。人の身体は刃を弾けるようには出来ておらず、手足に深傷を負えば継戦能力を喪失する。ここしかないというタイミングで剣を振り、より速く敵を切る。つまるところ剣術とはそうしたものである。
命の遣り取りだ。全身全霊を込めた一撃。畢竟、示し合わせたかのように始動は重なる。
常人の目には知らないゴミが別の知らないゴミの頭上を飛び越え、互いに剣を空振りしたように見えただろう。
それは死線を擦り合わせる作業の境地であり、熟達した剣士の決闘ではよく見られる現象だった。
相討ちか……!
パッと血の華が咲く。首から血を噴出した知らないゴミたちがどうと倒れ伏して絶命した。その顔はどこか満足げで、死力を尽くすことができたという安堵感があった……。
まぁそんなこんなでいったん殺し合ってスッキリしたゴミどもが広々とした会議室の席に腰を落ち着けていく。
頃合い良しと見たリチェット議長が静粛ハンマーで静粛コースターをガンガンとブッ叩く。
「静粛に! 攻略会議を始める〜!」
攻略組のゴミどもは基本的にガラが悪い。なまじ強いから増長しているのだ。揃いも揃って机の上に足をドカッと置いてるものだから逆に統制が取れている感すらあった。下卑た視線をリチェット議長に向けながら野次を飛ばす。
「おいおい、リチェット〜。今回のコレはどういう集まりなんだよ〜? 召集状に要件を書けって何度言わせんだ〜?」
「そもそも赤札は不謹慎だからヤメロって話だよ〜。お国のために散っていったご先祖様が居てこその俺らだろがよ〜」
口調はゴミなのに言ってることが妙に真面目なのもいつものことである。どんなに悪ぶろうがしょせんコイツらは趣味はオンラインゲームですと開き直ることもできないネット弁慶なのだ。
彼らの意見は至極真っ当なものだったが、リチェット議長は無視した。腹から声を出して議事を進行していく。
「日本国サーバー代表〜! サトウnキくん!」
名指しされたスマイルくんがスッと席を立って会議室に集まった面々を眺める。
「みんな、今年も一年ご苦労だった。さっそくだが本題に入ろう。人型のレイド級についてだ。その脅威はひとまず去ったと見ていいだろう。細かい経緯は省かせて貰う。掲示板でも何でも見て各自で確認しておくこと」
そう言われて行儀良く黙っているゴミどもではない。チラッと俺のほうを見て、
「なんか王様みたいなのが居んなぁ」
「分かりやすく調子に乗りやがって……」
「言っとくけど、それいつものパターンだからな?」
ぬかせ、愚民どもが。
余はズリ落ちそうになっている王冠の位置を調整した。指の爪と肉の隙間からにょきっとウッディを生やして、よしよしと指であやす。言外に射殺を匂わせる俺に、ゴミどもがガタッと席を立って武器の柄に手を掛ける。
リチェット議長がガンガンと静粛コースターをブッ叩く。
「静粛にー! 静粛にー!」
俺たちは学校の先生に叱られた児童のように大人しくなった。
リチェット議長が死刑と言ったら問答無用で死刑にされてしまう。
彼女はモグラ帝国の正統なる血筋を引く女王だ。女キャラの代表的な人物でもある。リチェットの機嫌を損ねたが最後、勝手に空気を読んだ女キャラは結託して少しよそよそしくなるだろう。
国内サーバーにおける三権分立は司法と立法が劇的なドッキングを果たしており、もしもリチェット女王が暴走したらおそらく誰も止めることができない。
聞き分けの良い俺らにリチェット議長がフフリと微笑み、うんうんと頷く。
……こんなの恐怖政治だぜ。
男キャラの希望の星、行政担当のスマイルくんが続ける。
「ここで問題となるのは、新マップの開放だ。レ氏の言っていた『条件』とは何か? ここで検討しておきたい」
着席したスマイルくんに知らないゴミどもが向ける目は不審げだ。
「……スマイルさんよ。曜日ダンジョンの最下層に転がってるギルドの残骸、ありゃあ何だ? あんたのことだ。調べが付いてるんじゃないか?」
スマイルくんはしらばっくれた。
「私がか? それを言うなら【敗残兵】だろう。曜日ダンジョンを踏破したメンバーは数少ない」
スマイルくんとサトゥ氏の確執は有名な話だ。【敗残兵】がスマイルくんに情報を横流しするとは考えにくい。
まんまとスマイルくんに誘導されたゴミどもが【敗残兵】代表の出席者を見る。
怪人セミ男ことセブンであった。
クランマスターのリチェットは議長で、【敗残兵】に復帰したサトゥ氏は元マスターだからと特別扱いはしないと未だぺーぺーの新米である。必然的にサブマスターのセブンに白羽の矢が立ったのだろう。
「………」
セブンは腕組みなどして瞑目している。
死……イヤ生きていた。
ゆっくりとまぶたを開けて正面を向く。
セブンの生存確認を終えたリチェット議長がガンガンと静粛コースターをブッ叩く。
「【敗残兵】代表〜! セブンくん!」
俺たちはいつ死んでもおかしくないこのセミのような男をはらはらして見守る。
セブンが己の生存を主張するように口を開く。
「三人だな。スマイルと……残り二人。お前らで決めろ。三人だけなら教えてやってもいい」
あ? そりゃあどういうことだ? 俺らが足手まといになるとでも言いてーのか?
「そう言ってる」
チッ、気に入らねえ。だが時間が惜しい。さっさと決めちまおう。お前とお前だ。
俺は知らないゴミをテキトーにチョイスして指差した。人選はスマイルくんに任せるのが筋だが、このサトウシリーズ御大は俺を過大評価しているふしがある。この手の厄介ごとに俺は巻き込まれたくなかった。
今こうしている瞬間にもセブンの寿命は尽きようとしているかもしれないという大義名分もあり、ゴミどもは特に反対しなかった。
しかし待ったを掛けるようにスマイルくんが挙手する。リチェット議長より発言を許可され、スマイルくんが言う。
「セブン。三人というのは三つのクランなら管理できるということか? つまり場合によっては口封じが必要かもしれない。そして、この件は新マップの開放には無関係であるとお前は考えている。そういうことか?」
「ああ。そうだ」
「分かった。では曜日ダンジョンの件は閉廷後とする。情報の開示については私が話を聞き判断しよう。ただ、期待はしないでくれ。ウィザード問題の例もある」
それでいい。俺は追随した。とにかく関わり合いになりたくなかった。
ゴミどもの意見は割れたが、スマイルくんに従うものが多数派を占めている。前以て買収されたか、もしくはスマイル政権への期待があるのかもしれない。人間の生首を槍に括り付けてブン投げるといったイカれた発想をするクソのような廃人に従うよりは幾らかマシだろうという期待だ。
新政権も大概クソであると半ば確信しつつもゴミどもは期待の眼差しでスマイルくんを見てしまう。護衛に立っているミドリが視線に気が付いてニコッと笑って手を振る。
信じようが信じまいが結局のところ人は前に進むしかない。ゴミどもが頭を切り替えて議論を始める。古い頭を傍らに置き、
「新マップ開放の条件か。単純に平均レベルじゃねーか?」
「いや、レベルはサーバーによってバラ付きがあるだろう。アップデートは全サーバー同時のハズだ」
「レベルが上がったから何だって話だしな。レ氏のあの口振りは……決定的な何かが足ンねえって感じだったぜ?」
「おい、崖っぷち。なんか言え。そのカッコは……何のつもりだ」
余か……。
「……お前、マジで調子に乗るなよ?」
余はチラッとリチェット議長を見た。
議長がガンガンと静粛コースターをブッ叩く。
「【ふれあい牧場】代表〜! コタタマくん!」
うむ。よかろう。
余は起立してバッとマントを翻した。
下々の者どもに高貴なる考えを聞かせてやることとする。
余が思うにだな。レ氏は我らがどうなろうと知ったことではないであろう。実際……言っていたではないか。NAiとマレを失う訳には行かぬと。レ氏の言う条件を満たしていないのは、あの二人なのだ。我らではない。
「……つまり?」
察しの悪いゴミめらに余はニッと笑った。
もう忘れたのか? 卿らの中には聞き及んでいる者も居よう。NAiはかつて余にこう言った。
穢れた魂ウメェ……とな。
これは、とあるVRMMOの物語
言ってないんだよなぁ……。
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