戴冠式
1.ポポロンの森
今年も最終ラップの年の瀬である。
年末くらいはゆっくりと過ごしたかったのだが、俺が【ふれあい牧場】の二代目マスターに就任したと大々的に発表したことで無関係なゴミどもがギャーギャーと騒いでいる。
俺は後悔した。
あの時はもうそろそろバレ掛かってる感じだったし、新生【ふれあい牧場】の旗揚げを派手に演出したかったのでこれしかねぇと思ったのだが、やめときゃ良かったな。
まぁ実際、俺の発表に前後して厄介なゴミどもは先生が人型のレイド級を連れて諸外国を旅していることを突き止めていた。
先生はョ%レ氏と対決するつもりだ。このゲームのNPCは高度なAIを積んでいて、プレイヤーが去った時に彼らはどうなるのか。サ終して残念データ消去ポチーハイサヨナラーって訳にゃ〜行かんだろうと、そう先生はお考えなのだ。
……もしかしたら先生はガムジェムの正体を突き止めたのかもしれない。ティナンの行く末を知ったから動いたのではないか。
先生が【ふれあい牧場】マスターの座を退いたのは先生なりのケジメだった。
今後、先生はNPCの人権を守るために動く。そこにはきっと赤カブトやマグちゃんも含まれる。この世界で生きていくしかない彼女たちは、たぶん人間よりもずっと長生きする。
だから先生は国境を越え、世代をまたぐ血盟を作るつもりなのだ。それは言ってしまえば建国であった。
しかしゴミどもは納得しなかった。特に俺が後継者というのが気に入らないらしく、嘆願書を手に先生の帰りを待つ。
女神像の登録さえ済ませてしまえばサーバー間の移動も一瞬だ。先生は定期的にウチの丸太小屋に帰ってくる。
俺を縄で縛り上げて地べたに転がしたゴミどもが先生の帰りを待つ。ふん、無駄なことを……。
ガサッと茂みが揺れる。
ハッとしたゴミどもがそちらを見る。
茂みから先生がぴょこっと頭を出した。
「先生! これを……!」
慌てて駆け寄ろうとするゴミだが、しかし先生は鬼ごっこに無類の強さを発揮する。特にポポロンの森は先生にとって歩き慣れた庭のようなものであり、言ってしまえばプロ棋士にアマチュアが詰めろを掛けるようなものであった。駆けっことは訳が違う。ゴミどもはどうにかして必至の局面を作ろうとするが、
「き、消えた……!?」
からの〜……?
「違う! あそこだ!」
ばーん!である。
ひとしきり翻弄されて力尽きたゴミどもに先生が樹上より啓示を下す。
「嘆願書とは言うがね、君たち。今の私は【ふれあい牧場】のOBだ。何の権限も持たないんだよ。そういうのはポチョに言いなさい」
かくしてゴミ連名の嘆願書はポチョの手元に転がり込むこととなり、この時すでに次期マスターの座を約束されていたポチョはいったん権力に興味がないふりをした。うむと偉そうに一つ頷き、
「キミたちの気持ちはよく分かった。これは私が預かっておこう。しかしクランマスターという大役が私に務まるだろうか……」
「なに言ってるんですか! ポチョさんしか居ませんよ!」
「ポチョさんならやれます! 俺ら応援してますんで……!」
「そう? じゃあがんばってみようかな〜」
ポチョご満悦であった。
一方、俺は政権基盤を固めるために奔走する。先生が残した【ふれあい牧場】のカンバンをでっかくして、先生の活動を手助けするのだ。
一番手っ取り早いのは人員を補充することだが……なにぶんウチにはAI娘一号と二号が在籍している。彼女たちはドラゴンボールのようなものなので、新メンバーを募れば不老不死を欲するゴミどもが大挙して押し寄せることは火を見るよりも明らか。
世間では死が一種の救いであり、歳を取って死んでいくのが素晴らしいことであるかのように言うが、そんなのは建前である。もしも実際に若返ったなら誰しもがピッコロ大魔王のように大喜びして用済みの神龍を始末するだろう。幸せは独占したい。人間とはそういう生き物だ。
よって俺は他人を信用しない。ドラゴンボールが転がり込んでくる前にウチに在籍していたメンバーだけが頼りだ。
俺はひとまず分かりやすく形から入ることにした。
王権神授説というものがある。
王様だって人間だ。軍を率いれば常勝無敗とは行かんし、ひとたび剣を握れば一騎当千という訳にも行かない。権力にモノを言わせてキレーなチャンネーをゲットするものの、生まれる子が必ずしもイケメンとは限らない。せめて政治をがんばればいいのだが、王様だからって万民が幸せになれる政策が思い付くなら苦労はしない。そんなものがあるなら最初からやっとけって話だ。
王様はスーパーマンではない。おつむの出来も腕っぷしも大したことなく、おまけにイケメンですらない王様に忠誠を誓えってのも無理な注文だろう。
そこで王権神授説の出番である。
王様が偉いのは神様からお前がてっぺんだと認められたからであるという凄まじい理屈だ。
この理屈の致命的な欠陥は、そのような事実は一切ないという一点である。
だが俺は違う。この俺こそが神より王権を授かった正統なるKINGなのだ。
俺は【ふれあい牧場】代表のタスキを掛けて、なんかふさふさした豪華なマントを羽織った。金ピカの王冠を被る。
マグちゃん手製のそれらは、まるで生まれながらに宿命付けられたかのようにしっくりと俺に馴染んだ。
「うわぁ……」
マグちゃんは「やっちまった」というような顔をしていたが、それはともかく。
俺はメリケンサック代わりにもなるゴツい指輪をいそいそと嵌めていく。ぐッと拳を握ると、指輪に刻まれたKINGの文字が色鮮やかにギラ付く。
バッとマントを翻し、言った。
「俺がKINGコタタマだ」
これは、とあるVRMMOの物語
うわぁ……。
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