チワワ埋蔵金を追え!
1.クランハウス-台所
我らが【ふれあい牧場】のメシ炊きは当番制だ。
全員が毎日ログインしている訳ではないので、それほど厳密なものではないものの、一週間、一ヶ月単位で不公平にならないよう調整している。総合すると俺が少し多いかな。俺は家事ができる男はモテると知っているので気が向いた時にはメシを作っている。
そして今日はたまたまそういう気分だった。ウチの子たちの朝メシでも作るかとキッチンに入ると、やたらと小っこい先客が居た。こちらに背を向け、踏み台の上に乗ってみそ汁の味見をしている。耳は長い。
似非ティナンのピエッタだ……。
半ば条件反射的に冷蔵庫の無事を確認した俺に、ピエッタが振り返って親しげに声を掛けてくる。
「よう。突っ立ってないで座れよ。朝メシ出来てるぞ」
俺に何をやらせようってんです?
「崖っぷち。今までちゃんと話したことなかったけど、私はお前のこと高く買ってるんだぜ……」
殺しなら別に俺じゃなくてもいいよな。デカいヤマか? 報酬は? それ次第だな。
「なんだよ! 私が、お、お前のためにメシ作ってやるのがそんなにヘンかよ!?」
粘るね。本当に何なの? 俺を利用するだけ利用してトカゲの尻尾切りしようとしてるんだなってトコまでは分かった。
ピエッタは具体的なことを何も言おうとしない。言質を取られないようにしている。俺の協力を得ようとしているのだ。俺に手料理を振る舞って頼み事を断りにくい状況に持って行こうとしている。
まぁすでにメシを作られてしまったなら俺に食わないという選択肢はない。お前が勝手にやったことだと突っぱねると食材が無駄になるし、ピエッタの手料理に興味がないと言えば嘘になる。
俺はピエッタの勧めに応じて居間に戻り、モグラさんぬいぐるみと一緒に待つことにした。
ピエッタが料理を運んできてテーブルに並べる。白米にみそ汁、ベーコンエッグに漬け物という献立だ。ふーん。やるじゃん。
俺はピエッタメシをありがたく頂戴した。
うん、ウマい。ピエッタよ。お前、料理できるんだな。いい嫁さんになるよ。
俺は女キャラにメシを作って貰った時、いいお嫁さんになれると伝えることにしている。リアルじゃあるまいし、告白はしておいて損はないからだ。異性として意識してくれたならラッキーくらいの感覚でやっている。
ピエッタは照れているような演技をした。
「そうか? へへ。照れるぜ」
……こりゃマジでヤバいかもな。今日という日が俺の命日になるのか。
俺が心の整理を済ませていると、上機嫌にニコニコしていたピエッタが急に太々しい態度になった。ソファの背もたれに腕を引っ掛けて言う。
「今日、暇か? ちょっとツラ貸せよ」
さっそくおいでなすったな。
用件を言え。報酬は?
何か言い掛けるピエッタを俺は手で制した。
だが……女の手料理は「特別」だ。多少の無茶は聞いてやってもいい……俺はそう考えている。報酬を山分けにしろとは言わん。お前がこうまで回りくどいことをするんだ。デカいヤマなんだろ? 6:4でどうだ?
「8:2」
……7:3。
「8:2」
ピエッタさんは一歩も譲ろうとしない。俺は再三繰り返した。
用件を言え。それ次第だ。
「ダメだ」
……話の内容そのものが価値を持つタイプのヤマか。ならば……。
分かった。8:2でいい。ただし人手が必要になった場合、お前の取り分から切り崩して貰う。それでどうだ?
「……ギルドに払う金はねえ。プレイヤーで、二人まで。三人以上は折半だ」
ちっ、分かったよ。で?
「今はだいぶ落ち着いたが、ちょっと前まで山岳都市で銃撃戦が流行ってただろ」
あ?……ああ、そんなこともあったな。
「元凶はテメーだけどな。で、その時に、とにかく物騒だってんで新規ユーザーのコミュニティが発足したんだよ。そこそこの規模でな」
元凶はネフィリアだけどな。コミュニティねぇ……。ま、楽しんでいるようで何より。
「そいつらが共有資産をあるマップに隠してる」
マジかよ。ゴールドロジャーなの? この世の全てをそこに置いてきちゃったの? 初心者ってスゲーな。時として俺の想像の遥か上を行きやがる。
このゲームに所持金を安心安全に保管する方法など存在しない。よほど隠し場所に自信があるのか……。まぁレイド級が寝起きしている最深部に埋めておくという手はあるんだろうが、金が必要になったらそこまでえっちらおっちら歩いていくのかという話だ。深部を抜けるまで何回死ぬか分からんし、二度と辿り着けない可能性すらある。エンフレなら深部を抜けるところまでは行けそうだが、無駄に図体ばかりデカいのでレイド級にワンパンされて終わりだ。
本当に何を考えているのやら。仮に森のどっかに埋めたとしてもよぉ、一人でコソコソ森に入っていくヤツが居たら誰だって怪しいと思うだろ。PKしてくださいと言わんばかりじゃないか。金のニオイに敏感なヤツなら尾行して地中に埋まっている落とし物を幸運にも拾い、ハズレと書いた紙を代わりに埋めておくかもしれない。
もっとも、その手は使えなかったのだろう。初心者なりに工夫はしたか。しかし隙はある。絶対に隙はある。大金を持ち歩くリスクについては言うまでもない。PKされた際にルートされるリスクをなくせるなら、とっくのとうに誰かがやっている。誰一人として成し遂げることができなかったがゆえの現状だ。
ピエッタがニヤッと笑った。
「喜べ。テメーのその自慢のよく見える目がついに役立つ日がやって来た。マップは特定したが、金を運搬する専門部隊が居てな……リレーで運んでるらしく途中でどうしても見失う。要するにコミュニティに参加してる奴らですら具体的な金を在り処を知らないっつー仕組みだ」
……鬼滅の刀鍛冶の隠れ里か。
運び屋がリレーすることで持ち逃げしてもすぐに発覚する仕組みだ。アンカーは自分が何を隠しているのかすら知らされていないのかもしれない。おそらくは幾つかのダミーを用意している。監視体制の構築……リスクの分散……。ネトゲーマーの多くはサブカルに傾倒しており、アニメや漫画に生活の知恵を学ぶのだ。
しかし鬼滅とは違い、運んでいるのは人ではない。金だ。遣り方だけ真似たところで粗は出る。だからピエッタは俺に目を付けた。俺ならどんなにうまくシャッフルしたとしても運搬係を見失うことはない。
場所は……ポポロンの森の深部か?
ピエッタさんは嫌そうな顔をした。
「……なんでそう思う?」
マールマール鉱山には埋められない。モグラさんに掘り返される。常設ダンジョンという手もあるが、土壌の問題もある。隠せそうなダンジョンはほぼ一本道だ。他に遮蔽物が多いマップはポポロンの森しかない。
「……抜け駆けは禁止だぞ」
……そりゃ埋蔵金の額によるね。俺はそう思ったが、口には出さなかった。代わりにこう言う。
俺たちはチームだ。俺もお前も一人で何でもこなせる実力者って訳じゃない。今後の活動に差し支えるような真似はしないさ。
……嘘ではない。俺とピエッタはこの界隈ではそこそこ知られた名だ。抜け駆け、裏切りは自分の首を締めることになる。だから額による。まぁピエッタは使える女だ。この女と縁を切るのは惜しい。よほどのことがない限り俺から裏切ることはないだろう。
もっとも、それは口に出して言う必要のないこと……。隠し場所を特定した状況によっては多めにチョロまかすことになる。当然、ピエッタも同じ考えだろう。
俺たちはチワワどもが汗水垂らして貯め込んだ金をごっそり頂戴するためにお出掛けすることにした。
チワワどもは悲しむだろう。だが、チワワ式のヘソクリはチワワであるがゆえに成り立っている。運び手が世紀末のモヒカンみたいになったら持ち逃げは必至。ならば、俺とピエッタは先達としてチワワどもに教育を施してやらねばなるまい。まだ傷が浅く済むうちに。
チワワよ、知っているか。金は奪われる。奪われた金は別のヤツから奪って補填するんだ。犯人をいちいち探すのは面倒だからな。そうやって俺たちは繋がってる。お前たちもそうしろ。
2.ポポロンの森
罠だ! チワワにハメられた!
このリレー方式は金を運ぶためのモンじゃない! 追跡者を特定するためのもの……! 目のいいクズを誘き寄せ、絡めとる蜘蛛の巣……! ピエッ……!
ピエッタさんはきょとんとして首を傾げている。
「ん? どした?」
こ、コイツ……!
俺は全てを悟った。
テメェー俺を金で売ったな!?
「あ〜? 人聞きの悪いこと言うなよ。お前が何言ってんのか私には分からないんだよ。説明をしろ」
ピエッタさんは演技を続行するが、すぐに我慢できなくなって吹き出した。とても楽しそうにころころと笑う。
「いや、ごめん。笑っちゃ……ふふっ。その顔。察しが良すぎるのも考えもんだな〜……不意打ちヤメロって。あははっ」
ピエッタさんがくすくすと笑いながらサッと手を挙げて合図した。
ぞろぞろと姿を現したチワワの群れが俺を包囲する。
くそっ、おかしいなと思ったんだよ。良く出来たシステムだ。追跡者を警戒するのは当たり前のことだから、役目を終えた運搬係は監視に回る。次の運搬係は監視の監視に回る。伸びた尾を途中で切ってバラける仕組みなんだろう。良く出来てる。が、構成員の良心に頼りすぎている。悪目立ちもする。追跡者を捕まえるという目的がなくてはこの発想には至らない。
じりじりと迫ってくるチワワどもに、俺は銃口を自分のこめかみに当てて威嚇した。
それ以上俺に近寄るんじゃねェー!
テメェーら一体何が狙いだ!? 手の込んだ真似しやがって……!
「話し合いの場を設けようと思ってね」
そう言って一匹のチワワが進み出た。
話し合いだ!? ハッ、残念だったな。俺はいつでも死ねる! オメェーらチワワとは違うんだよ!
「あんた自身が言ったことだ……。あんたに興味を持てってね。だから調べましたよ。コタタマさん。あんたはいつどんな時も興味事を優先する。実際、今この場にとどまっている……。俺に興味があるんでしょう?」
どうだかな。単なる気まぐれかもしれねぇーぜ。
……くそっ、またこのパターンか。
どうやら俺はどこかでチワワどものヘイトを稼いでしまったらしい。
話し合いね……。
俺は両手を上げた。
いいだろう。お前らチワワの頭の血の巡りがどんなもんか試してやるよ。
俺はチワワどもに連行された。
捕縛された俺をピエッタさんが楽しそうに小突いてくる。
「うぇ〜い。崖っぷち、うぇ〜い」
お前、覚えてろよ……。
これは、とあるVRMMOの物語
悪知恵に定評がある先行プレイヤー、新規プレイヤーの罠に嵌まる。
GunS Guilds Online




