不殺系アイドル
1.ポポロンの森-【敗残兵】前線基地
メガロッパだな。メガロッパさえ口説き落とせば、あとは芋づる式だ。
リチェット探検隊に負けない人気ユニットを作る計画である。ギスギスヒロインプロジェクトとでも名付けよう。
ウチのAI娘一号はまだ悩んでいるようだが、メガロッパが乗り気なら首を縦に振るだろう。もしもの場合はマグちゃんに頼ることになりそうだが……マグちゃんはテレビっ子だからな。あの様子だと多分カメラの前だとテンパる。その点、赤カブトは意外とキモが据わっている。何しろカメラの前で俺を殺そうとした前科持ちだ。
という訳で俺はメガロッパ、ハチと出演交渉をするためにクソ廃人どもの巣窟に足を運んだ。正確には出演交渉をするのはサトゥ氏ということになる。さすがにクランマスターに無断でコトを進めるのはマズい。逆に言えばサトゥ氏の許可が得られたならメガロッパの退路を閉ざせる。
ヒロインプロジェクトの概要を話している俺に、サトゥ氏は口元をいじりながら吟味をしている。目線を俺ではなく壁に向けているのは余計な情報をシャットアウトするためだろう。計画の粗探しをしている。そう察した俺は早期決断を促す。
どうだ? 悪い話じゃないと思うぞ。何も独占契約を結ぼうって訳じゃない。お前らの6sTVは今でこそ業界No.1、先駆者という立場だが、今後さらに後追いは増えてくる。こうして俺がお前に話を通してるのは無駄な手間を省くためだ。俺はメガロッパとハチに直接出演交渉しても良かったし、あいつらが承諾したなら、いくらクランマスターだからってお前に反対する権利はないんだぜ。お前はあいつらを雇用してる訳じゃないんだからな。
考えがまとまったのか、サトゥ氏が目ん玉をギョロリと動かして俺をじっと見てくる。
……今まで散々迷惑を掛けられたので忘れがちだが、この男は国内サーバー最強の戦闘集団を率いる長だ。本来ならこうして口を利くこともできないほどの格差がある。
俺を探るように見つめていたサトゥ氏が重々しく口を開く。
「もるぁ……」
2.翌日
クソのような廃人がもるっていて使い物にならなくなっていたので、交渉は翌日に持ち越しになった。
改めて交渉に入る。
ソファに腰を降ろしたサトゥ氏が目ん玉をぶるぶると震わせて俺のカラダを隅々までチェックしながら言う。
「なるほどな。ウチのメガロッパとハチを使いたい、と。独占契約じゃない……。お前の言いたいことは分かった。その上で言うが、ウチの商品のイメージにキズを付けて貰っちゃ困るぜ? イヤ誤解がないよう言っておくが、俺とお前の仲だ。コタタマ氏。他でもないお前の頼みとあって俺はこうして話を聞いている。他のヤツだったなら門前払いだ」
その辺は感謝してるよ。しかし商品か……。誤解を招きかねない発言だナ?
「商品は商品さ。腹を割って話そう。俺はメガロッパとハチが使い物になるよう労力を割いてきた。それはもちろん俺自身のためでもある。指揮を執れるプレイヤーは貴重だからな。能力さえあればいいってモンでもない。人間関係、知名度、注目度、精神力……どうしたってミスは出るからな。不満も出る。まぁタイプによるが……お前のような図太さを身に付けるのも手だ」
……そうか。お前はメガロッパとハチをお前やセブン、リチェットと同格まで引っ張り上げたいんだな?
「理想を言えばな。まぁそれは難しいだろう。あいつらはリチェットの上には行けない。俺とセブンの存在が大きいんだろう。いっそ【敗残兵】から放出して支部クランを率いさせることも考えたが……こればっかりは本人の意思だからな。そこで、だ。お前の下に付けるのはアリかもしれない……俺は今そう考えている……」
俺は廃人じゃないから、だな? 立場上は俺の下でもあいつらが主軸になるしかない。自主性を養えるかもしれないと。
「ジャムがメンバーの一人というのが凄くイイ。αテスターは客引きに最適だ。引退することがない訳だからな」
その言い方に俺は少しカチンと来たが、息を長く吐いて己を鎮めた。落ち着け。感情的になるな。サトゥ氏はわざとそういう言い方をしてるんだ。俺の本音を引き出そうとしている。
サトゥ氏が俺を観察しながら続ける。
「さらに先生のバックアップも期待できるとなれば……。確かに悪い話じゃない。デメリットを挙げるとすれば、ウチであいつらを使える時間が減るということか。そのことについてはどう考えてる? つまり見返りは用意してあるのか?という話だが」
お前らは5chを監視してるんだったな。
「……ああ。クラメンには戦闘中でも目を通すよう指導している。全チャ代わりになるからな。それがどうした?」
ギルド堕ちのリークがあったろう? あれを指示したのは俺だ。サトゥ氏。俺はギルド堕ちだ。先生にも相談した。おそらくは内部工作員、それに準じる兵科らしい。
「だろうな。目新しい情報じゃないぜ。あの状況でお前がギルド憑きのままだと信じるほど俺はおめでたくない」
しかし決定的な証拠がない。俺はクラフト技能を使える。アナウンスも表記上は細工師と流れるだろう……。
サトゥ氏はニヤッと笑った。
「その言葉が聞きたかった。決まりだな」
俺もニヤッと笑う。
俺たちは固く握手を交わした。
歯列から放たれた閃光が室内を白く塗り潰し、ピロロロロロと怪音波が飛び交う……。
3.プロジェクト始動
サトゥ氏のゴーサインが出たとあって、プロジェクトはトントン拍子に進んだ。
ハチはあっさりと承諾。企画を持って行くと、なんか面白そうだからとその場でメンバー入りを決めてくれた。攻略組ですら悲鳴を上げる一日36時間ペースの狩りもハチにとっては「遊び」の範疇に収まるものであるらしい。気の抜き方がうまいんだろうな。気を張るべき場面とそうでない場面の見極めができている。
メガロッパは企画を持ち帰って検討したのちに、条件付きでメンバー入りしてくれた。その条件というのはWe.TVのスタッフとの細かい打ち合わせを希望するというものだ。ウチのスタッフは廃人じゃないからな。場合によってはメガロッパとハチが企画を練って、スタッフがハイハイと企画を通すだけの関係になりかねない。メガロッパは成り行きでWe.TV所属になることを警戒しているようだった。
ハチとメガロッパのメンバー入りが決まると赤カブトも乗り気になってくれた。トリオの結成だ。正式にWe.TVに所属するのは赤カブトだけなので、表向きは三人の中でリーダー的な立場になる。何しろウチの広告塔になって貰う訳だから、三人で並ぶ時はセンターに立たせることになる。そうでなくとも、ハチとメガロッパは赤カブトの両脇を固めたろう。不特定多数の悪意からAI娘を守るための布陣だ。
しかし赤カブトのOSはいささか型遅れなので、当面は俺が頭を張ることになる。最初の数回を舵取りしてやれば、あとは要領を掴んだハチがうまくやってくれるだろう。
メガロッパの希望もあり、スタッフとの面合わせを行う。
ウチのスタッフはおもに曜日ダンジョン勢だ。そこに俺のストーカーであるスズキシリーズとギルド憑きのギフターズが呼びもしないのに勝手に寄ってくる。面合わせということで今回は査問会のメンバーも呼んだ。警護だったり邪魔なゴミを排除したりと様々な場面で顔を合わせることもあるだろうからな。メガロッパは性格上、そういうのを把握しておきたいんだろう。
結果的に100名を越える大所帯になった。
俺は三人を連れてスタッフを紹介していく。
コイツらが査問会だ。俺の査問会はちょっと特殊でな……俺の不在時に誰が指揮を執るとかはない。しいて言うならアットムがそうなんだが。アイツはアイツで基本居ないし、不思議とそれで回ってる。
「室長。俺らは室長と副室長以外の命令は聞きませんよ。聞いたフリはしてもね。タチの悪いホモ集団は俺らが押さえます」
そんなガチガチにゲームやってて楽しい? お前らのプレイスタイルに俺は口出ししないけど、ゲームを楽しめよ。
メガロッパは査問会を危険視していた。
「一番ヤバいのだ。規格が統一されてる……」
紹介を続けるぞ。
コイツは無関係なゴミだ。ココでナニしてる。殺すぞ。
「崖っぷち〜。ジャムジェムさんに何かあったらポチョさんが悲しむだろ〜。俺は人間のクズだが、借りは返すぜ。借りっぱなしじゃスッキリしないんでね」
赤カブトは感激していた。
「みんなそう言ってくれます!」
……チッ、命拾いしたな。モブがハシャぎやがって。次はねえぞ。行け。
知らないゴミが大仰に肩を竦めて歩き去る。通り過ぎざまに俺の肩に手を置き、ボソリと呟いた。
「異星人がお前を追ってる。ムィムィ宙域とか言ったか……。気を付けろ」
ほう。ザコ種族が俺を? ザコはザコ同士、狭い箱庭で傷を舐め合って暮らしていればいいものを。
宇宙は広い。下を見ていけばキリがない。種族人間よりも弱く、脆い種族だって探せばいくらでも見つかる。そいつらを相手にするのは初心者狩りよりも簡単な仕事だったぜ。
俺がフラグを立てていると、スズキシリーズとギフターズが睨み合いを始めた。コイツらはあまり仲が良くない。互いに互いを俺に害をなす存在だと見なしているのだ。
俺はそうでもないけどな。
ウチのちんちくりん一号ことスズキは微妙にモテる。人前に出ると無口キャラに戻るので、ロリっぽい見た目も相まって優しくしたら惚れてくれそうな感じがするのだろう。スズキにしたって親切にされたらお礼を言うことくらいはある。なのに、お礼を言われたゴミはそれが特別なことだと勘違いして勝手に恋に落ちるのだ。半端ロリの身辺警護をしてくれるスズキシリーズは俺にとってありがたい連中だ。空気を読んで出しゃばらない謙虚さもある。また三大氏族に名を連ねるシリーズだけあって初日組がごろごろ混ざっている。実力は折り紙付きだ。
しかしギフターズも負けちゃいない。ギルド憑きの彼らはとにかくフィジカルが高い。機械化とスキルを兼ね備えるギルド憑きは種族人間の中で最高の潜在能力を秘めている。その代償として思考能力が後退しているようだが、言われたことはキッチリとやるので、先走ったホモの始末に役立つ。
アットムくんはギフターズと仲がいいんだよな。時々一緒に遊んでいるらしい。
スズキシリーズとギフターズは一触即発の空気だ。
「ウチのものをヤッてくれたらしいな。配置に穴を開けられてこちらは大変に迷惑を被ったよ」
「枢機卿の周辺をこそこそと嗅ぎ回るネズミに相応しい末路を与えただけだ」
ハチがころころと笑っている。
「パイセン。モテモテだね〜」
特別な所有権が俺の純潔を守ってくれるさ。そう言って俺はこんなこともあろうかと用意しておいたゴングを打ち鳴らした。
一斉に武装したスズキシリーズと機械化したギフターズが衝突する。
乱闘騒ぎを尻目に俺は三人娘を曜日ダンジョン勢の元へ連れて行く。
廃人でもホモでもストーカーでもない彼らはとても大人しく、バイトで日銭を稼ぐまともな人種だ。
席を立って挨拶してくるゴブリンの中の人たちにメガロッパはホッとしたように表情をゆるめた。
「ああ、良かった。こういう人たちも居るんですね」
あっ……。
ギフターズの一人が嬌声を上げて【全身強打】を撃った。ゴブさんとにこやかに挨拶を交わしていたメガロッパが椅子を蹴って飛び上がる。空中でとんぼを切って剣を投擲。テーブルの上に着地するやゴブさんの武器を拝借して残像の尾を引いて反転し、ホモとストーカーの乱闘に身を投じていく。
「教育がなっていないようですね。ハチ。ジャムを」
「おっけー」
ハチが赤カブトの手を引いてフォークやらナイフを弾にホモとストーカーを撃ち殺していく。
会場は血の海と化した。
メガロッパとハチは強い。強いが、しかしスズキシリーズとギフターズにも腕利きは居る。
「イイ腕だ。さすがは【敗残兵】だな。粒が揃っている。古参ほどではないが……」
大手クランの【敗残兵】には指揮は執れないが戦闘を専門とするプレイヤーが何人も居る。中にはサトゥ氏やセブンに迫る腕利きも居る。戦闘員は指揮官ほど目立たないから有名ではないが、その手の動画を漁れば地味ながらとんでもない戦歴を持ったヤツもごろごろ出てくる。メガロッパやハチの師と呼べるのは、何かと忙しい廃人三連星よりもむしろそいつらだ。
ギフターズの一人が前に出て機械化した拳を構える。
「丁度いい。お前らの実力がどの程度のものか見ておくとしよう」
メガロッパが不敵に笑う。
「いいでしょう。そういうことなら……ジャム?」
参戦を促すメガロッパに、赤カブトはチラッと俺を見てふりふりとかぶりを振った。
「んん。私はいい。ペタさんがね、他の男の人を殺すと嫉妬しちゃうんだって」
メガロッパが目を丸くして俺を見てくる。
「えっ。そ、そうなの?」
そうね。
俺は認めた。
メガロッパさんが頬を赤くして俺をなじってくる。
「何を考えてるの……ヘンタイ。じ、じゃあ殺しはナシで」
俺の特殊な性癖を鑑みて殺しはナシになった。
まるで俺は平和の使者のようだ。
ハチが「ふ〜ん?」と訳知り顔で俺を見ている。ゴブさんたちもチラチラと俺を見ながらボソボソと何やら井戸端会議を始めた。
アットムくんと会いたい。
俺はそう思った。
これは、とあるVRMMOの物語
コタタマの魂まだー?
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