ふれあい牧場よ、永遠なれ
1.クランハウス-居間
セブンめ。
ウチの丸太小屋の居間でちんちくりん一号、AI娘一号と一緒に6sTVを視聴している。
……もうね、ハッキリ言うけど、俺はあのセミ野郎をライバル視してるよ。バチバチにライバル視してる。喧嘩したら絶対に勝てないし、なんていうか俺とセブンだとジャンルが違うってのも理解してる。動画とか見てっとさ、あのセミ野郎はガチ勢に「今の判断は次善じゃない?」とか「人力DPS取るためにギア落としてる」だの「セブンのガチバトル見たいならRTA女神像見ろ」とかコメント飛ぶ訳よ。もうね、層が違うんだよね。俺が出演してる動画だとコメント欄のホモ率が半端ねーもん。俺が嫌がることを的確に把握してて、「崖っぷち〜」だの「あいつのセクハラはカモフラ」だの「構いに行ってやると俺にスゲー興味向けてくる」だの……お前らさぁ! そのコメントは俺に効くからやめろ。女性リスナーがコメントしにくい環境を作るな。BL需要とか言うけど、それガチなヤツはドン引きされっからな? 男女で立場入れ替えてみたら分かるだろ。女の子同士でキャッキャしてるの見るのは好きなのに、実は二人は付き合ってますとか裏設定を出されたら「それは違くない?」ってなるだろ。イヤ知らんけど。ならんかもしれんけど。俺は多分なるよ。生々しいのはダメだろって思うよ。それと同じよ。ディープな世界ってのは門戸が狭いんだよ。門戸を狭めて人が増えることは絶対にない。女性リスナーに媚びて生きようよ。コメント欄でハッテン場の情報共有するのやめよう? 今すぐにだッ!
てな訳でね。俺とセブンはジャンルが違うのよ。なのに、なんでかなー……俺はアイツに大喜利で負けるのはマジで我慢ならない。絶テェーに負けたくねえ。
しかしだよ。セブンめ。以前にリチェット隊長も言っていたが、セブンのプロ意識はマジで高い。自分のキャラを理解した上で崩し方を心得てる。6sTVでさぁ、リチェット隊長がセミくんに「喋れよ」って言うだけで面白いんだよ。こんなの反則だろ。キャラが濃すぎるんだよ。
悔しい! 悔しい! 俺は台パンした。
重石のように口を閉ざしているセミくんにスズキがくすくすと笑っている。
「セブンさんってホントに面白いよね。存在感がスゴイ」
俺はギョロリと目ん玉を動かして赤カブトをじっと見た。
……ジャム。お前、メガロッパと仲が良かったよな。
「え? なに? どうしたの、そんな突然」
俺は素早く計算した。
セブンに負けたくない。リチェット探検隊に負けない人気ユニットを作る。
ウチの子で言うとポチョが断トツで人気キャラっぽいのだが、あの洋モノは俺の手には負えない面がある。何をしでかすか分からない。生放送を安心して任せられる人選が妥当だろう。初手から伸るか反るかの博打は打てない。
【目抜き梟】からアイドル気取りを借り受けることも考えたが、あいつらのファンは面倒臭い。特にこのゲームのプレイヤーであるとは限らないという点が。これで例えば俺が胸を貸す立場だったら話は違ってくるんだが、ネットで俺をちょっと調べても出てくるのはβ組のクランメンバーの一人ってことくらいだろう。俺に興味がないヤツが俺を知るために深く掘り下げるハズがない。サトゥ氏辺りなら少し調べれば日本一位とか出るんだろうけどな。しかも動画を漁ればガチすぎて画面外でしか人が死なない安心の動画とかが出てくる。武器を振ると手に残った感触で相手がどうなったか分かるので目で見て確認する必要がないらしい。変態だよ。これから戦闘を始めようって時にミリ単位で目ん玉を動かして戦力分析してるの最高にサイコパス感が出てて好き。そのサトゥ氏がアイドル気取りとコラボするというなら彼氏面しているファン相手の商売とあって確実安心という訳ではないが、戦闘指南という体裁を取れるため大概問題ないだろう。しかし俺ではダメだ。よほどうまくやらないと炎上は不可避。そんな手間をいちいち掛けていられない。
だからメガロッパを使う。一時期【目抜き梟】に在籍していたこともあってヤツにはアイドル的な人気がある。とはいえ、どう見てもオタク女だからな。コーナーを任せるのは不安がある。そこでハチと組ませることにする。ハチは使える女だ。何をやらせてもそつなくこなすだろうという絶対の信頼がある。
問題は、あの二人の相性の悪さだ。俺の見立てではハチとメガロッパは二人とも優秀すぎて噛み合っていない。歯車に例えるなら二人とも歯が細かくて、しかも高速回転してるんだろう。廃人三連星辺りならかつて自分が通ってきた道だから合わせられるんだろうが、当人同士だけギア比が合わないという奇妙な状況が続いている。
つまり、あの二人の真ん中に程々に使えるギアを噛ましてやればうまい具合に連動できるのではないか。
一番しっくり来るのは赤カブトだ。
ウチのAI娘一号は誰とでも仲良くできる器用貧乏なギアであり、メガロッパは言うに及ばず、ハチとしても気安く接しやすいだろう。
……問題は赤カブトを衆目に晒すことになる点か。
赤カブトの素性は一度大々的に公表されている。だからと言ってプレイヤーが全員知っているということはないだろう。多く見積もっても三割から四割。新規プレイヤーで一ヶ月後も定住してるのは二割から三割ってトコか? 大半は引退すると見ていい。ジェネレーションキャップとやらが開放されて廃人どものレベルが高くなりすぎたからな。オーバーテクノロジーの結晶だろうが何だろうが、プレイヤーは勝ちたくてゲームをやってるんだ。正式サービスがスタートして時間が経てば経つほど新規ユーザーの定着率は落ちていく。それがネトゲーにおける絶対の法則。むしろ現時点で二割から三割というのはかなり甘く見積もった数字だ。二ヶ月後には一割残れば良いほうだろう。知らない星の人たちがどう作用するのかは分からない。しかしそう大きくは外れていないと思う。 PS5出たしな。このゲームは宇宙人が作ったゲームなのでスペックだけはクソ高いが、リアリティを追求したゲームが良ゲーならば俺らゲーマーはどうしてリアルを楽しめないんだ。答えはとうに出てるよな? システムがクソだからだ。限りなくランダムに近い顔面偏差値を俺たちはどう受け止めればいいのか分からない。攻略本をくれよ。リアリティは程々でいいんだ。俺を勝たせろ。努力したらした分だけ成果に結び付け。性格の良さを機械的に評価して報酬を寄越せ。悪いところには目を瞑れ。犯罪してなかったらいいだろ。リアルはそうあるべきだと俺たちは思っている。無論、無茶を言っている自覚はあるので俺たちはゲームをやっている。
……ダメだ。赤カブトの起用がどう転ぶか分からん。先生に相談しよう。それがいい。そうと決まれば善は急げだ。俺は半端ロリとAI娘を両脇に抱えて先生の居室へと向かった。
2.先生の居室
……という訳なんですが。
先生はコゴローと一緒に精神の修養をしていた。
趺坐スタイルの先生がコゴローに「続けていなさい」と一言声を掛けてから座布団にちょこんと腰掛ける。
俺は興奮したが、十字架を切って精神の安定を図った。細い糸でスマイルくんとリンクしたような感触があった。頭の奥がビリッと痺れて視界にノイズと共に先生の木像が映り込む。ルリイエか……? 俺は細い糸を手繰るようにスマイルくんと交信した。お忙しい先生に代わって神託を下す。臭いものには蓋をせよ……。
先生は暴力的な解決を好まない。ならば全てを埋め立ててしまおう。俺たちで穴を掘る。穴は深いほうがいい。先生が気付かないほど深く、暗い穴だ。埋葬せよ。密葬せよ。闇から闇へと葬ろう。
遠く、人間の里の方角からスマイルの雄叫びが響く。いいぞぉ……。ビリビリと大気を震わせる咆哮に狂気の萌芽を感じた。いや、それはとっくのとうにスマイルの心奥深くに根ざしていたものだ。そもそもRMTを生業にするという発想がおかしい。サトゥ氏に敗北した時にスマイルという男は壊れていたのだ。いつだったか本人も認めていたではないか。動画配信のほうが金になると。それでもスマイルはRMT業者をやめようとはしない。サトゥ氏がRMTを忌み嫌っているからだ。
よくよく天才という人種は他人の人生をブッ壊すことに長けている。スマイルにしたって同じ人種だろうに本人は気付かないものなのか。上ばかり見ずに足元に這い寄ってくる雑魚キャラと戯れて生きれば楽だろうに。難儀なことだ。
俺はそんなことを考えながら先生の沙汰を待つ。
先生は耳をぴこぴこと動かして、可愛らしいお口を草でも食むようにもごもごした。
「聞きたいことはたくさんあるが……コタタマ。いや、ジャム。本人に聞こう……。君自身はどう思ってるのかな?」
「私ですか? う〜ん……テレビに出るという感覚がよく分からないです。マグちゃんのほうが向いてる?のかも? この前、サトゥさんたちの番組に出たって喜んでて〜。私、五回くらい一緒に見ましたから」
「うん。最後に決めるのはジャム、君自身だからね。コタタマも。本人の意思を尊重するように。それを踏まえた上での話だよ。ジャムが出演したいというなら私も協力しよう。少なくとも悪い話ではない。もしもの時、私たちは国内サーバーのプレイヤーみんなに助けて貰うことになるからね」
……言葉は悪いが、ジャムジェムとパールマグナはユニークアイテムみたいなものだ。実のところウチのクランで囲っていること自体に無理がある。αテスターの存在が海外サーバーにも知れ渡っている時点で、二人を匿うという考え方では対抗できない。だから先生は目立つことを承知で二人を【ふれあい牧場】に招き入れた。それは赤カブトとマグちゃんの味方を増やし、不特定多数の悪意から二人を守るためだ。俺のようなゴミは基本的に賢いふりをして他人を信頼しないため、互いに牽制し合うことになる。それはきっと異常個体の限界でもあった。
先生の許可が降りたことで俺は本腰を入れて赤カブトを口説きに掛かる。
ジャム。正直なところな、俺はお前に今よりももっとメガロッパやハチと仲良くなって欲しいんだよ。それは下心だ。あいつらはサトゥ氏やセブン、リチェットに次ぐ人材だと言っていい。ネフィリアも言ってたが、クリックゲーじゃない……VRMMOを当たり前のものとして育ったお前らは俺たちとは根っこから何かが違う……次世代のプレイヤーってヤツにあたるんじゃないか。オンラインゲームに連綿と受け継がれてきた負の遺産は俺とサトゥ氏が引き受けるさ。どうも俺たちはそういう役割らしいからな。
俺は大きく息を吸って告白した。
俺はギルド堕ちだ。今はまだ中途半端な状態にとどまっているが、もう後戻りはできないだろう。いや、中途半端と言うよりは……これはもう……。
先生がつぶらな目を伏せて言う。
「間諜、だろうね……。名称は異なるだろうが、コタタマ。君の兵科は内部工作員、それに準じたものだ」
俺は特攻兵と示されたアナウンスをハッキリと目にしている。アナウンスが嘘を吐くならば、そういう兵科なのだと考えるより他ない。ネフィリアに命じられてクラン潰しなどやっていたものだから俺の適性はそちらの方面に偏ってしまったのだ。俺は恋のスナイパーになりたかったのに、その夢は叶いそうにない。許せんよなぁ。
スズキと赤カブトが俯いてもじもじした。スズキがチラッと俺を見て言ってくる。
「……じゃあ、コタタマはもう何してもロストしないの?」
「問題は」
先生が出し抜けに言った。まるで頭のおかしな女の言葉を遮るように。平泳ぎをするように両腕を左右にゆっくりと開きながら、
「どういう企画にするかだ。コタタマ。メガロッパとハチは君の企画を無碍にしないだろう。君は何度か6sTVに出演しているし、何かあれば君の助けになろうと思っている筈だ。どんな企画だろうとある程度は受け入れてしまう。それだけに責任は重大だよ」
俺は両腕をゆっくりと上下に開きながら頷く。
ええ。持ち込む企画はじっくりと練るつもりです。We.TVのスタッフにも声を掛けないと。
俺と先生はどちらからともなくその場でゆっくりと立ち上がると、流麗な動きでぴたりと構えた。
片や天地上下の構え、片や天地魔闘の構えで相対した。型は共に開手……。
「え? え?」と戸惑う赤カブトをよそにスズキが訳知り顔でボソリと呟く。
「メラのほうが強そう説まである……」
スズキの言葉が合図だったかのように俺と先生はカッと目を見開いた!
互いに隙を探り合うようにすり足で壁際に移動し、窓をガラッと開けて虚空へと身を投げる。
俺と先生は【スライドリード(遅い)】を発動した。
残像の尾を引いてスローモーションで森を駆けていく。
まるで頭のおかしな女たちから逃げるように……。
……! 先生〜!
「……! コタタマ〜!」
俺と先生は正面から欠伸の出るような速度で衝突した。交差した上腕をハエも殺せそうにない力で押し合う。
先生が俺を引き込んで巴投げしてくる。
「コゴローは賢い子だ……」
先生……。コゴローという名前には、どういった? 名付けたのは先生なんでしょう?
俺は空中で反転して足から着地した。先生に肉薄して組み付く。
先生が俺の袖を掴んで跳ねるように上下した。
「君と私から一字ずつ取ったのもあるが……」
俺は腰を落として背負いに備えた。
それを見越したかのように先生が懐に飛び込む動きから俺の上体を揺さぶってくる。
先生の大外刈りが一閃した。
「心。ココロさ」
地べたに大の字になった俺に先生がひづめを差し伸べてくる。
俺は一瞬だけ躊躇ってから手を伸ばした。
俺と先生の手が重なる。
……勝手に居なくなってすみませんでした。
先生の声に苦笑らしき響きが混ざる。
「ようやく素直になったね。その言葉を聞くために私は随分と遠回りしてしまったようだ」
俺もですよ。
ずっと謝りたかった。
【クラン勧誘申請】
【Goat さんよりクラン勧誘申請が届いています】
【クラン名:ふれあい牧場】
【加盟しますか?】
【コタタマ さんがクラン:ふれあい牧場に加盟しました】
このゲームにクランチャットといった気の利いたシステムはない。
意味のない繋がりかもしれない。
でも俺は帰ってきたんだ。
みんなが待ってくれてるこの星に。【ふれあい牧場】に。
これは、とあるVRMMOの物語
セブンの魂美味しい。もぐもぐ。
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