潜入!闇の勢力
1.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地-会議室
闇の勢力の会議に参加している。
参加者はネフィリアとネカマ八曜、あと俺。計10名。
俺は光の陣営なので普段は参加しないのだが今回は思うところがあって顔を出すことにした。
つまり、まぁ、その、なんだ……。
ネフィリアさん光の戦士に転生しようとしてねえ?疑惑である。
ずっと前から言ってるし、これからも言い続けるけど、俺はダイ大で言うところのヒュンケルなんだよね。じゃあネフィリアはミストバーンってことになるじゃん。10月3日から毎週土曜日朝9時30分に放映予定のダイ大で言うならさぁ! そういうことになるじゃん! 男を見せたハドラーにちょっと情を移しつつも結局最後にはバーン様を取ったミストバーンだよ!
なのに、くそぉ、ネフィリアめ。実は女子供には優しいみたいな一面をアピールしてきやがった。お前はそうじゃないだろ。お前は血も涙もない女。今に化けの皮を剥いでやるぜ。
そうした思いで俺はここに居る。
会議の内容は今後働く予定の悪事についてだ。ネフィリアは無駄を嫌うので、歩兵ちゃんを通してできることは省く。報告とか情報共有とかだな。そういうのは会議室に集まってわざわざやることではないという認識だ。ある程度の裁量権はネカマ八曜に与えているので、自分で判断して動けないヤツは要らないという考えなんだな。多分リアルの会社っぽくなるのが嫌なんだろう。何しろ悪の秘密結社だからな。
ギルドパワーレンタル社の運営など話し合いは多岐に渡り、やがてネカマ八曜はネフィリアんトコの小娘どもを議題に挙げた。
「ネフィリアさんよぅ。蒸し返すようで申し訳ねえが、アンタんトコのクラメンについてだ」
「今回は崖っぷちも居るしな……」
ネカマ八曜はネフィリアが小娘どもを優遇していることに不満がある。
「分かるだろ? 俺らにも立場ってモンがある。明確な理由を教えてくれ。どうして俺らは、あんたのクラメンよりも立場が下なんだ? 俺らは部下にどう説明すればいい?」
ネフィリアがいつもの決まり文句を言う前にネカマ八曜がダンとテーブルを叩いて畳み掛ける。
「百歩譲ってだ! 百歩譲って崖っぷちには従ってやるよ……! そいつはそこそこ頭が回るし【敗残兵】やら【目抜き梟】に顔が利く。俺らにできねえことがそいつならできるってのはあるだろう」
「だが、あんたのクラメンはそうじゃねー。見所のあるヤツは居るが、それだけだ。経験不足。その一言に尽きる。そうさ、将来性はあるかもしんねーよ? でもそれは今すぐじゃねーし、幹部候補なんざ放っといても勝手に育ってくるだろ。俺らはネトゲーをやってるんだぜ? 会社運営じゃねーんだ!」
ネフィリアがいつもの決まり文句を口にした。
「お前らは飼い慣らされた犬なのか?」
出たよいつものヤツと思いながらも俺らは一応耳を傾ける。
「何度も言うが、私は野心を持たないプレイヤーに魅力を感じない。隙あらばこの私を追い落とそうとするお前らだから幹部に抜擢した。これ以上の説明が必要か?」
いつものヤツなので説明は不要だった。
ネフィリアの主張はこうだ。
小娘どもはネフィリアを裏切らない。能力が低かろうが、裏切らない部下は貴重であり、そもそも幹部とは使い方が異なる。指揮系統で幹部たちが小娘どもの下に置かれているのは便宜上のものであって、飽くまでも小娘どもはメッセンジャーなのだという考えである。
……これまで俺はネフィリアのそうした主張に異を唱えることをしなかった。むしろ小娘どもを排除しようとする連中を皆殺しにしてきた。ネカマ八曜は可愛くないからだ。
しかし今回ばかりは……。
俺は口を開いた。
ネフィリアよぅ。裏切りはせんでも騙されることはあるぜ。
これまでずっと小娘どもを擁護してきた俺の突然の鞍替えにネカマ八曜が「おっ」という顔で俺を見る。
俺は続けた。
アイツらは隙だらけだ。個人差もある。仲間意識が強いから俺ならそいつを逆手に取る。野良パに参加して偶然を装って近付くことなるだろう。実際……。俺は心強い味方が現れたとばかりに俺を見ているネカマ八曜をギロッと睨み付けた。……お前らの中にも居るよな? 小娘どもに余計な手出しをしようとして俺にブッ殺されたヤツらがよ。俺を舐めるなよ。俺はリアル女を優遇するぜ。お前らは自分が可愛いとでも思ってんのか? 身の程を知れ。俺の空気を読め。
身を乗り出して何か言い掛けるネカマ八曜に俺は銃口を突き付けた。
黙って聞け。俺はネフィリアと話してる。お前らが聞きたいことを聞いてやってる。何故か分かるか?
そう言って俺は手元に金属片を浮かべた。
俺はギルド憑きだ。フリオの兄貴とヤり合った辺りから……ギルド堕ちが現れ始めてる。俺もいつまで人間で居られるか分かんねえ。俺には時間がねえんだよ。ハッキリさせておきたい。
ネフィリア。どうなんだ? 俺なら小娘どもを騙くらかしてお前と敵対するよう仕向けることもできるぞ。俺よりもうまくやれるヤツはこのゲームに一人も居ないのか? そんなことがあるのか?
当然、ネフィリアは答えを用意していた。
「アイツらには監視を付けている。私と敵対するよう仕向けることができる? その前提が間違っている。たとえお前だろうと……コタタマ。そんなことはできない」
……もっともらしいことを言っているが、こいつ実は小娘どもを心配してるだけなのでは? 俺の疑念は晴れない。ガタッと席を立ち、至近距離からネフィリアの表情を丹念に観察する。
「……なんだよ」
う〜ん……。分からん。
先日、俺はコイツの部屋の手前でくたばってる。俺の死体はマゴットにも目撃された。ネフィリアにも報告が行ってるハズだ。それなのに、この態度。俺が知らなかっただけで、ネフィリアとしちゃあ小娘どもとのスキンシップは隠すほどのものじゃないってことか?
俺はひとまず言質を取ることにした。テーブルに手を付いて親しげに語り掛ける。
ネフィリアよぅ。他意はないんだな? お前は小娘どもを利用している。そこに情はない。そうだな?
「さあ? どうかな。私はあいつらに期待をしている。この先、進学、就職したとして……どんな人間になるのか。運営陣はサトゥやセブンが第一世代のプレイヤーであることを惜しんだ。あの二人は私から見ても別格だ。仮に戦ったとして負けるとは思わないが……一対一の決闘では……いや、強がりはやめよう。まず勝てない」
俺はテーブルをダンと叩いた。
俺の質問に答えるんだ。ネカマ八曜は使えるヤツらだぜ。こいつらだって女にモテたかったろう。ネカマになるのは簡単なことじゃない。中の人は依然としてモテたい訳だからな。女にモテたい、ちやほやされたいという動機は特別だ。
「いや一緒くたにすんなよ」
黙ってろ。それをコイツらは投げ打ってまで……! 俺はぐぐっと握り拳を固めてネカマの決意に胸打たれたことを強調した。全ては部下のためだよ! 泣かせる話じゃねえか……! スポイトで水滴を目尻に垂らすと、俺の頬を水滴が伝った。
「堂々とやるねぇ」
黙れ。口を開くな。ネフィリアぁ! お前はコイツらの頭なんだぜ……? だったらよ、せめて納得の行く説明をしてやってくれや……。
ネフィリアは溜息を吐くと、重大な秘密を打ち明けるように言った。
「……どれだけネカマの皮を被ろうとも、こいつらは可愛くない。それはもうどうしようもないことだが……だからと言って無視できるほど軽い問題でもない」
くっ……。俺は目を逸らして俯いた。目頭を押さえてふるふるとかぶりを振る。唐突にネトゲーの真理を突き付けられて返す言葉がなかった。どうしてお前らはリアルJCじゃないんだとなじることは簡単だが、建設的な議論になるとは到底思えなかった。俺が余計なことを言ったばかりに……。俺が慰めの言葉を考えていると、ネカマ八曜が口々に不満を垂れてくる。
「この師弟……」
「結局お前らの趣味じゃねーか」
「俺は可愛いだろ。狩りとかしてるとフツーにナンパされるぞ」
「尻の青い小娘どもに負ける気はしねーな」
俺は黙れと言ったぞ。
俺の背中からビキビキと黒いトゲが生える。
……俺は最新式のギルドだ。金属片の扱いに関してどう練習すればいいのか分かっている。無駄な寄り道を省くことができる。まだ完全には身に付けていないワザもある。身体能力の強化はその一つだ。不完全ではあるが……ある程度はモノにしている。
俺は手のひらに視線を落とすと、五指に力を込めて具合を確かめた。チラリとネカマ八曜を見て言う。
ついさっきお前らは俺の言うことには従うと言ったが、それは俺を下に見てないと出てこない発想だと思わないか? 戦えば勝てると思ってるんだろ?
席を蹴って立ち上がったネカマ八曜がめいめいに武器を抜いて構える。自分で言うだけあって緊迫した表情は凛々しくも美しい。敵意と困惑がない混ぜになって肌に刺さるかのようだ。
「そのワザは……!?」
「テメェ、本当にギルド憑きか……?」
俺は手元に浮かべた金属片を床に打ち込みながら叫んだ。
今の俺はサトゥ氏にだって負ける気はしねぇーぜ!(過言)
2.【提灯あんこう】秘密基地-台所
ダッシュで死に戻りした俺は台所でネフィリアと合流した。ネカマ八曜は帰ったようだ。
ネフィリアは無言の腹ぺこアピールをしている。この女は気が向いた時にしか家事をしない。台所で待っていれば小娘どもがメシを作ってくれるのだ。
リアルJCにお世話されるお師匠様を持って俺は悲しいやら恥ずかしいやら複雑な心境だ。……仕方ねえ。今日は俺がメシを作るか。
俺は冷蔵庫の食材をチェックした。ご飯くらい自分でよそいなさいとネフィリアの前にお椀と箸を置く。ネフィリアが箸でチンチンとお椀を叩いて俺を急かしてくる。
俺がメシを作っていると、ノミ女ことフリエアが台所にやって来てお椀をチンチンしているネフィリアの腕にしがみ付いた。
「ネフィリアさん聞いてくださいよぉ〜」
「ん? なに?」
「レディがホスト遊びにハマってるんですよぉ〜。叱ってあげて。ね?」
ドタドタと台所に駆け込んできたテントウ虫女ことレディがネフィリアの反対側の腕を取る。
「ハマってないから! 自分のお小遣いだしっ、お金が貯まったらたまに行くくらいだから!」
両手に花のネフィリアはフリエアとレディを交互に見て、
「ふ〜ん。じゃあ今度みんなで冒険者ギルドに行ってみよう」
なんか……口調が……。
フリエアとレディが俺に気が付いた。
「タマっちじゃ〜ん」
お前らもメシ食うか? 食うならついでに作るけど。
「てかレディのホスト狂いの元凶じゃん!」
「ほ、ホスト狂いとか言うな……」
ご飯食べるの食べないの!? ハッキリしなさい! この子たちは本当にもう!
下らないことで言い争う二人を叱っていると、俺の声を聞きつけた他の小娘どもがぞろぞろと台所に入ってきた。
「タマっちじゃ〜ん」
「タマっち、お腹すいた」
「タマっち〜。タマっち〜」
わちゃわちゃしないの! 椅子があるでしょ! 座って待ってなさい!
これは、とあるVRMMOの物語
ママ、私もお腹すいた。誰か殺して?
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