強者の条件
1.クランハウス-マイルーム
ログインした。
伸びをして肩をぐるぐると回しながらドアを開けて廊下に出ようとしたが出れない。ドアが開かない。つっかえ棒でも噛まされているような感じだ。びくともしない。なんなんだ。仕方ない。窓から出よう。カーテンをシャッと開く。するとどうだろう。そこには外から貼り付けられた板が自らの存在を強固に主張しているではないか。
これは……。
俺は思索を打ち切って壁に仕込んである隠し扉をくるっと回して赤カブトの部屋にお邪魔した。うっ、少し見ない間に刑務所チックに改造されている……。な、なにゆえ? 窓とドアに鉄格子が嵌められていて、廊下から監視できる造りだ。
こ、これは……もしや監禁……。いやっ、気の所為だな。どうせ知らないゴミどもの悪戯だろう。そうに決まってる。
ハッ。ポチョさん。
俺はハッとした。
ポチョさんがドア上部の鉄格子越しに俺をじっと見つめている。
しばしの沈黙。
ポチョさんがニコッと笑って部屋に入ってきた。俺の手を取って言う。
「コタタマ、何してるの? 下に降りよ?」
やはり気の所為だった。
俺は安堵に胸を撫で下ろして先に歩き出したポチョに付いていく。
なんでジャムの部屋に鉄格子が入ってんだ? お前なんか知ってる?
ポチョさんは答えなかった。上機嫌そうにふんふんと鼻歌を口ずさむばかりだ。
俺は頭の中で自分の手札を再確認した。いざという時に壁をブチ破って逃げることは可能かと自問する。エンフレなら可能という結論が出た。しかしそれをやってしまうとウチの丸太小屋が全壊する。それは避けたい。
俺は階段を降りていく元騎士キャラの出方を窺うことにした。
ウチの洋モノは相変わらずエロい身体つきをしている。ちんちくりん一号との凸凹コンビは健在で、こうしてラフな格好をしていると俺は目の遣り場を固定されて困らない。とても目に優しい。視力がぐんぐん回復していくのを感じる。俺が思うに男の視力低下はおっぱいとパンチラで克服できる。それは生物として正しい行いだからだ。正しさこそが力なのである。
彼女は俺に勇気を与えてくれる存在だ。具体的に言うと一緒に街中を歩いている時、俺のナオンパツキン美女っスけどまぁ普通ですよ普通ハハン?という勇気だ。お前らは胴長短足族同士で精々安く満足してろッ俺は違うッという勇気だ。俺もまたご多分に漏れず白人コンプレックスを患っているので、そうした気持ちが出てしまうのは致し方のないことである。むしろこれで何とも思わないならそれは心が綺麗と言うよりは単なるバカだろう。それまでの人生で一体何を見て何を学んで生きてきたのかという話になる。だが俺は違う。俺は心の中で全力マウントを取らせて頂く。俺が上ッお前らは下だッ。俺は言ったよな? 男の価値は女で決まる。
そう、「勇気」は人を正しい道へと導いてくれる。パツキン美女こそが勇気の象徴なのだ。正義とはかくあるべし。
俺はメニューを開いてプロフィール欄に「俺はモテる」と書き込んだ。時代に即したリモートマウンティングだ。俺のプロフィールを見たゴミどもは躍起になって俺を殺そうとするだろう。俺は藁のように死ぬ。だが俺よりもちょっと強いからって何だと言うんだ? ゲームがうまい。それがどうした? 悔しかったら精々イイ女を捕まえることだな。
イイ気分で先行くポチョの尻を眺めていると、シュパッとヘッドショットされた。ウチの丸太小屋を貫通したレーザー光線がしゅんと宙に溶け込んでいく。
ダッシュで死に戻りした俺は全身からウッディを生やして全方位にレーザー光線を放った。吠える。
どこのどいつだ俺を撃ちやがったのは出てきやがれッ! それとも俺の前に姿を晒す度胸はねえかッ!
俺の挑発に知らないゴミが姿を現す。俺の目の前で黒い金属片が結集し、人の輪郭を組み上げていく。ギルドだと……!?
片腕がライフルのようになっている。知らないゴミがギョロギョロと目ん玉を動かしてボソボソと独り言を口にする。
「たしかに……たしかに中途半端だ。どういうことだ……人間のふりが随分とうまいな……」
テメェ、ギルド堕ちだな。人間としての尊厳を捨てたかッ。
俺は自分を棚上げした。
聖書には罪のない者だけが石を投げよという言葉もあるが、そんなことを言い出したら裁判官は揃って廃業だ。人間はそんなキレーな生き物じゃない。だから俺は自分を棚上げしてでも悪を許さない。俺が何をしても俺だけは俺を許そう。それが自分を信じるってことだぜ。
俺はギルド堕ちを指差した。金属片が俺の腕を取り巻く。
抜けッ。早撃ちと行こうや。西部劇みてーによぉ〜。俺らはガンマンだ。そうだろ、色男。
「……ガンマン? くひひっ」
色男の目の焦点がぴたりと定まった。ゲラゲラと下品に笑ってライフルと一体化した腕を上げる。銃口を俺へと向けて言った。
「崖っぷち〜……! オメェーもさっさとこっちへ来いよ! 俺はずっとオメェーを見てきたッ! オメェーと一緒なら退屈はしねえ! 来いよッ! 俺と一緒に永遠を生きようぜ〜!」
へっ、情熱的なんだナ? 悪くない誘い文句だ。考えとくよ。
……ョ%レ氏は「お前たちが」ギルドに選ばれたと言った。「お前が」ではなく「お前たちが」と。前例があるんだ。一人でもギルド堕ちが出たなら、それをきっかけにギルド堕ちがどんどん増えて行ったという前例が。
俺と知らないゴミがすり足でじりじりと時計回りに距離を狭めていく。互いに利き腕は右。有利な立ち位置を取ろうとしたら自然とそうなった。
俺は次手を組み立てるよりも早く地を蹴った。大きく真横に身体を揺さぶって金属片を射出する。知らないゴミがレーザー光線を放つ。ぐっ、うぅ……! 俺は五枚の金属片で光線をかろうじて逸らした。ライフルという形状から予想はしていたが、大した威力だ。俺のレーザー光線にはウチの丸太小屋を貫通するほどの威力はない。コイツは……!
俺は引き戻した金属片を地面に打ち込む。
アスファルト!
ベムトロンの下で学んだ俺の新技だ。金属片で滑走路を作る。滑るように距離を詰め、金属片を斧の形状に組み上げた。俺はラム子じゃない。ラム子やNAiを参考にしてもダメだ。俺は金属片を自由に動かすよりも身体の近くで扱うほうが向いてる。そういうタイプのギルド堕ちなんだとベムトロンは言っていた。
知らないゴミが全身から銃身を生やして応戦してくる。
構わず斧を叩き付けた俺の腕が斧ごと宙を舞った。
レーザーメス! 【狙撃兵】だ……!
「崖っぷち〜! オメェーの技能は何だ!? 兵科は!? 半端なままじゃ俺にゃ〜勝てねえぜ!」
だったら見せてやるよ! 俺の全身にドカドカと金属片がブッ刺さる。ジジジと放電しながら俺は雄叫びを上げて突っ込んだ。ガチッと歯列を打ち鳴らして知らないゴミに組み付く。
知らないゴミがひじを俺の背中に叩き込む。がっ……! 地べたに這いつくばる俺の頭に知らないゴミが銃口をぐりぐりと押し付けてくる。
「そうじゃねえだろ〜! そんなクソったるい特攻があるかよ! 言ったろ! オメェーは半端なんだよ!」
……俺の兵科? 俺は特攻兵だろ? そうじゃねえってのか?
二人きりの世界を作り上げている俺らだが、初期マップのポポロンの森で派手に殺し合いなどやっていれば横槍が入るのは必然だった。通りすがりの知らない女どもが参戦してくる。
「ギルド堕ち見っけた!」
「新しい武器買えるかも!」
きゃっきゃと喜色に弾んだ声を上げ、ぴょんぴょんと跳ねて近寄ってくる。
とっさに俺は死んだふりをした。なんだ? 新しい武器? 賞金首制度でも導入されたのか?
知らないゴミは天敵と遭遇した小動物のように震え上がっている。
「正常個体ども〜! 俺に近寄るんじゃねえ!」
ぶんぶんとレーザーメスを振り回すが、当たらない。嬌声を上げた女どもが一気に加速して知らないゴミの身体から生える銃身を断ち切った。嵐のような連携攻撃。たちまち丸坊主にされた知らないゴミが「くそっ」と悪態を吐いて自壊していく。自分の意思で死ねるようだ。
そうはさせじと女どもが動く。一人の女が魔石を孵して小さなモグラさんを生み出し、もう一人の女がモグラさんに手を添える。「せーのっ」と掛け声。
自壊しようとしていた知らないゴミが「おごおっ!」と無様な声を上げてグシャッと潰された。女どもが「やったー!」と歓声を上げてぴょんと飛び跳ねる。
肉塊と化した知らないゴミを女どもが拾い上げてきゃっきゃとハシャぎながら立ち去っていく。
「はぐれメタル感あるよね〜」
「あるある。弱っちぃ割には、ていうね」
「賞金は山分けねっ。私、あの服買っちゃお〜」
「ねーねー。死んだふりしてるの居るけど、あっちはいいの?」
「いいの、いいの。あれポチョちゃんトコの子だから」
……なんてことだ。
俺はゾッとした。
やはりギルド堕ちはレイド級を討伐して開放したスキルを使えないのだ。
知らないゴミはあっさりと狩られてしまった。ギルド堕ちして弱くなったんだ……!
俺はポチョさんの謎の人徳に助けられた……! 狩ろうと思えば狩れたのに見逃された……!
俺は立ち去っていく見目麗しい戦乙女たちにほんの少しでも無礼があってはならないと土下座して見送った。
女どもが見えなくなるなり、すっくと立ち上がって土埃をパンパンと叩き落とす。
きびすを返してザッと歩き出した。歯列をギラつかせて。
ま、この勝負……生き残った俺の勝ちってトコかな。
これは、とあるVRMMOの物語
ヒソカコラですか?
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