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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
537/990

GunS Guilds Online!

 1.山岳都市ニャンダム-特設ステージ


 状況を整理しよう。

 俺は幽体のままふわふわと宙を漂って戦況を見て回る。

 まずゴミどもはブーンの群れを相手によく粘ってる。四次職の開放によりプレイヤーの戦力は向上しており、特に魔法戦士の働きぶりは圧巻の一言に尽きる。ただし転職条件が判明していないので四次職の数は少ない。国内サーバーで最初に四次職にクラスチェンジしたのは全員が知らないゴミだ。

 ブーンの怖さは頭上からの強襲にある。こうして見る限り、アクティブ化したことでむしろ弱体化している。まぁ強いには強いが、あちらから近寄って来るならモグラさんやウサギさんほどの怖さはない。これはイョママの采配ミスとも言えるが……イヤ。低コストで召喚できるのがブーンだけだったと見るべきか。

 プレイヤーについてはいったん置いておくとして、次はイョママを足止めしているNAiだ。こちらはかなりマズい。

 特設ステージに向かう途中にプフさんと情報共有したのでイョママの手札はある程度分かっていた。


(呪術は化学です)


 プフさんはそう言っていた。

 のんびり長話している場合ではなかったので詳細は省かれたが、呪いとは【奇跡】の後遺症のようなもので、それらを利用できるよう体系化したものを呪術と呼ぶらしい。

 特にイョママが多用する「重ねの兵術」とやらは一種のハメ技に近く、決まった手順を踏まないと攻略できない。「重ね」とはパズル的なニュアンス。つまりイョママに対抗できるとすれば、こっちの世界に来る前に暫定エイリアンとバチバチやり合っていたNAiしか居ない。

 別に俺らでゾンビアタックして総当たりで攻略法を見つけても良かったのだが、プフさんがNAiに賭けると決めたのだから従おう。

 しかしNAiはあまり長持ちしそうにない。当の本人は全盛期の力を取り戻し【奇跡】のスキルと律理の羽を合わせ持つ自分はクァトロくんと互角以上に渡り合えると豪語していたが……。話半分に聞いていた俺たちの予想を余裕で下回ってきた。単に自分が天使だと思い込んでる人という疑惑も出てきたし、今のところはただ拷問を受けに来た人でしかない。

【内裏雛】とやらが球体関節をギギギと鳴らして一歩進むと、【五人囃子】とやらの内の一体の首がねじ切れて自壊した。砂とも錆とも付かない物体と首枷だけが残される。

 四人囃子になってしまった即身仏たちが拝むように合掌した手を顔の前まで持ち上げる。首枷から伸びる鎖が【内裏雛】の手足に巻きついて強く戒める。

 イョママの手札はあまりに多彩、膨大、多種多様につきプフさんも全容を把握していなかった。事細かに聞き出している時間もなかった。

 が、しかしこれは……なるほど。ハメ技だ。

 要するに【五人囃子】は【内裏雛】の力を制限しているらしい。仕掛けを意識の外に置く遣り口がョ%レ氏の【玩具箱】を思い起こさせる。いや、より悪辣かもしれない。

 これは初見殺しのギミックだ。

 念力じみたものでNAiを攻撃しているのは【内裏雛】であり、【五人囃子】を殺害すれば責め苦はより苛烈さを増していく。【五人囃子】の首枷は「自分の首を締める」という助言に類するものなのかもしれない。

 NAiは持ち前の知識で初見殺しを回避したが、この戦いに乗り切れていないのは明らかだった。精彩を欠き、攻勢に転じるべき場面でまごついた。

 結果、このザマだ。枷を一つ打ち崩した【内裏雛】の呪詛を脳髄に叩き込まれたNAiが絹を裂くような悲鳴を上げて仰け反る。

 壮絶を通り越して怪談の領域に突入したキャットファイトにマレは大きく目を見開いて絶句している。

 正直、俺としても見るに堪えない。よって俺は別のほうを向いた。

 ギルドに動きはない。ネフィリアは参戦するつもりはないようだ。あの女の興味はいつも大衆とは別のほうを向いている。俺やサトゥ氏がどう動くのか見物しているのかもしれない。俺と同じ目を持ち、俺よりもレベルが高いネフィリアならそれが可能だ。

 ティナンも動かない。ティナンは心の優しい子たちだから、俺たちに近寄ろうとすると勅命に縛られて特等席でベガ立ちする嫌味なゲーマーみたいな感じになる。少しイラッとするけど、俺としてもティナンを巻き込むつもりはない。

 大体そんな感じだな。

 イョママはマレの固有スキルに目を付けてカイワレ大根娘を連れ去ろうとしている。

 NAiを拷問に掛けているのは、その正体を疑っているからだ。

 俺らはマレを連れて行かれると困る。まだスキルを開放していないのだ。

 NAiは……どうかな。口を開けば悪態を吐く間柄のマレをどう思っているのか。

 場に出ていないカードは……俺らはプフさんだ。当然、イョママは察しているだろう。俺らの手は読まれてると見ていい。

 対するイョママの切り札はおそらく数え切れないほどある。

 つまり、俺たちに勝ち目など最初からないのだ。しかしそんなものだろう。八人の子供たちと戦って勝とうなどと考えるのは自惚れだ。そして、だからこそ打てる手もある。

 よし、こんなもんだな。

 俺はダッシュで死に戻りして、【五人囃子】の一人に近付いた。首枷から伸びる鎖を手に取ってじゃらりと鳴らす。

 これ、取れねえのかな?

 おっと人違いだったわ。めんご、めんご。

 でも、五人囃子さん。がんばってください。応援してます。

 五人囃子さんは俺らの味方だ。見た目は多少グロいが、俺は自分の味方をしてくれる人を外見で判断したりしない。大切なのはハートだぜ。

 五人囃子さんの一人が俺の目の前で両腕をねじ切られてジャラジャラと巻き取られた鎖に吊るされた。内裏雛さんは更なるパワーアップを果たしたようだ。

 ……まぁ彼女には彼女なりの事情があるだろう。雛祭りをモチーフにしているようなのに相方の姿が見えないことにとてつもなく深い闇を感じて、俺はそれ以上考えることをやめた。

 そそくさと退散してマレの横でしゃがみ込んで手足の枷をちょんちょんと指先で突付く。

 どっちも枷を嵌めてるもんだから間違えちまったよ。コレ取れないんか? ん? オメェーの固有スキルでよぉ〜。

 びくっとして振り返ったカイワレ大根娘が俺に縋り付いてきた。


「こ、コタタマ。な、ナイを……ナイを助けて。お願いだから……!」


 そうか。外れないのか。俺らのひょっとこ面と同じだな。

 なぁマレ。どうしても分からないことがあるんだ。教えてくれるか?

 マレの視線が忙しなく俺とNAiを行き来する。俺の言葉が頭に入っていない。


「どうして、あいつ。さっさと逃げればいいのに。勝てないよ、こんなの。あんまりだよ。やめてよ! ョ%レ氏のお母さんがどうしてナイにそんなことするんだよ!」


 マレが変身を試みた。しかし手足の枷の効果なのか、変色し掛けていた髪が途中で一気に塗り替えられて元に戻る。

 変身できない。おそらくはスキルも封じられている。ワンピースの海楼石みたいなモンだろう。代償はなんだ? 効果が強すぎる。気軽に量産できる類いのものじゃない。

 ……プッチョムッチョはどこに行った。あいつらはバカだが、根は悪い奴らじゃない。NAiとマレを見捨てるとは思えない。

 こ、この枷は……。

 い、いや考えすぎだ。イョママは最上品質の魔石を幾つも持っていても不思議じゃない。プッチョムッチョはイョママに勇敢に立ち向かったが納屋に押し込まれて晩ごはんを抜きにされてしまった。そういうことにしておこう。落ち着け……。俺にはゴミどもを沈むと分かっている泥舟に案内してやる大仕事が残ってる。ここで死ぬ訳には行かない。さしずめ俺はハーメルンの笛吹きといったところだ。

 俺は落ち着いた。マレに質問をする。

 マレ。聞け。NAiは俺が助けてやる。プフが居ないだろ? 作戦があるんだ。

 マレがぼんやりとした目で俺を見る。

 イョママの声が割り込んできた。全体チャットだ。ここには居ない連中に言い聞かせるように名推理を開陳していく。


【プフちゃんを逃がしたのね。とても良い子たち。最大の戦力を捨てるなんて、そうするべきだと分かってても簡単じゃないでしょうに。あなたが作戦を考えたの?】


 いいや、知らないゴミさ。俺の出る幕はなかったよ。俺は自分のことを多少知恵が回る上等なゴミだとばかり思っていたが……。いつからかな、このゲームのプレイヤーはドンドンずる賢くなってる。今となっては騙すのもひと苦労だ。人を信じるという気持ちをどっかに落っことしてきちまったらしい。まったく、世も末だぜ。ギスギスオンラインってのもあながち間違ってねえかもな。どいつもこいつも自分さえ良ければいいと思ってる。嘆かわしいね。

 首尾良くイョママが釣れたので、俺はマレへの質問を取りやめにした。

 マレに聞きたかったのは、カイワレ大根娘のスキルを開放するにあたって殺しちまったらマレがどうなるかだ。ロストするのか、しないのか。

 だが、もうそんなことはどうでも良かった。俺がそういう質問をすればマレの殺害を企図しているように見えるから、イョママの注意を引けるのではないかと読んだ。その程度のショボい作戦だ。

 そう、俺はもうマレのスキルなんてどうでも良かった。どうやら……俺はこのゲームを堪らなく気に入っているらしい。マレを殺さなくちゃ手に入らないスキルなら要らないと考える程度には。

 俺はイョママにベッと舌を出して、種明かしをした。

 ああ、そうだよ。ママ。プフは逃がした。理由は言うまでもないよな? いくらママでも逃げに徹するプフを仕留めるのは難しいだろう。緒の民ってのは高い踏破能力と機動力が魅力的な種族なんだろ? 俺は目が良くてね。バトルフェーズで異星人どもの戦いをじっくりと拝ませて貰ったが、ペペロンの動きに付いて行けたヤツは数えるほどだった。

 ママ。あんたはマレに一緒に来いと言ったな。それがマレの幸せなんだと。


【私たちはそういう生き物なの。私はこの宇宙を良くしたいと思ってる。でも誰かの犠牲の上に成り立つ平和はイヤ。もう、うんざり。みんなの笑顔だけが私の生き甲斐なの。私ならそれができる。私は反魂の術を使える。この宇宙を私の愛で包んであげたい。どう? とっても素敵でしょ?】


 素敵だよ、ママ。

 イョママの服装は働く女性という感じだ。腕まくりしたジャケットが風もないのにマントのようにはためき、ぴっちりしたジーンズがスラッとした脚線美を際立たせている。現代風の装いにあって、頭の上にちょこんと乗っているイヤに刺々しい王冠だけがひどく時代錯誤だった。

 それはイョママのセンスがおかしいと言うよりは、俺たちの文化に合わせてくれた結果だったのだろう。

 このゲームの翻訳機能は細かいニュアンスまで無理に拾おうとするから、時として齟齬が生じる。

 それは【ギルド】との対話を期待してのことだった。

 地球人類とは似ても似つかない姿をしているハズのイョママは、気の持ちよう一つで、俺たちの目に映る虚像を、より本来の自分に近しい姿へと塗り替えていく。

 ジジジと波打つ黒い波がイョママの衣装を換装していく。


【怖がらないで、マレちゃん。あなたがNAiを大切に思っているのはよく分かった。分かった上で言ってるの。私に付いてきなさい。しばらくは寂しい思いをするでしょうけど、きっとあなたはいつか……重大な危機が迫るNAiを救うことになる。私は譲らない。それが、あなたたちの為なのだから】


 俺は何か言い掛けるマレを手で制した。言う。

 ママ。あんたらの弱点は、あんたら自身の知性をコントロールできないことだ。無自覚の内に正しい判断を下せる……要は自覚できないんだろ?

 だから……ママ。あんたは自分の夢に振り回されて負けることになる。それがあんたの言う、幸せってヤツの正体だからだ。

 俺は内心焦った。

 これでもないのか? 鍵ってのは。この間抜けなひょっとこ面を外す鍵はドコにある? プフさんからリークして貰った暫定エイリアンどもの弱点というネタは使ってしまった。俺の残弾はゼロだ。

 ……俺は重ねの兵術とやらを詳しく知らない。だから当てずっぽうに試すしかなかった。決まった手順を踏めば外れる。そのハズなんだ。ゴミどもっ、何してるッ。お前らが大好きなバトル関連の条件なら誰か一人くらいヒットするだろッ。報告が上がって来ねえぞッ。そんだけ雁首揃えて何やってるッ。

 このひょっとこ面を外さないことには次に進めない。間抜け面で真面目くさったことを言ってる自分を客観視したら闘争心が萎えてしまう。

 ええいっ、ままよっ……!

 俺は最後の賭けに出ることにした。

 イョママの衣装が換装を終える。王冠はそのままに、黒いドレスを身に纏っている。それは女王の姿だった。

 アナウンスが走る。


【GunS Guilds Online】


【Eight Children(八人の子供たち)】

【勇者】

【君主】【イョ】【Level-999】


 五人囃子の最後の一人が全身を雑巾のように絞られてひねり殺された。

 NAiはもう限界だ。いや、よく耐えた。まだ正気を保っているのは凄いと思う。芋虫のように地べたに転がってまぶたをきつく閉ざしている。

 大きな死出の門が咲く。光の使徒か? イョママ。全て読まれてる。完全に見透かされてる。俺たちがやろうとしていることを全て。俺に確信と呼べるものは何もない。他に手がなかった。プフさんをぶつけたところで勝てる訳がない。同じ八人の子供たちの元社長はプフさんとパフワくんの二人掛かりでも擦り傷一つ付けるのがやっとだったのだから。

 俺は最後の賭けに出た。最後の最後に俺が信じたのはイョママの頭の中に収まっているハズのハッピーエンドだった。それがとても分の悪い賭けに思えたから、俺は半泣きだった。あらん限りの声を張り上げて叫ぶ。


「NAiィッ! お前はどう思ってんだよ! マレのこと! このまま行かせていいのかよ! 答えろぉ!」


 NAiは。

 ぱちっと目を開けてマレを見て。

 とても嫌そうな顔をした。

 ふいっと顔を逸らして。

 もにょもにょと動いた唇を引き結ぶ。


 戒めから解き放たれた内裏雛が立ち尽くしている。おぞましいまでの怨念が瘴気となって身体の輪郭を歪めるかのようだ。身体をメッタ刺しにしている刃物が黒ずんでボロボロと崩れ落ちていく。

 ヤバいヤバいヤバい……!

 ダメだ。俺は成し遂げることができなかった。両手でメガホンを作って叫ぶ。

 NAiさん逃げてぇぇぇ!


 NAiは一人で勝手に百面相をしていた。

 芋虫みたいにモゾモゾと身じろぎをして、チラッとマレを見る。

 マレの頬から涙が伝って落ちた。

 NAiはサッと目を逸らした。

 唇を尖らせて、拗ねたようにボソリと言う。たったの一言。誰に向けた言葉なのかすらあいまいで、文脈すら破綻していたけれど。


【……お願い】

 

 その言葉は魔法のようだった。

 マレの手足に嵌められた枷と俺らのひょっとこ面にびきりと亀裂が走る。

 手足の枷が砕け散る前にマレは駆け出していた。瞬時に変身して伸ばしたツルを内裏雛に巻き付けてNAiから引き剥がす。

 死出の門を潜って英霊が現界する。鋼鉄の城を思わせる威容。ドラム缶を繋ぎ合わせたような佇まいから薫るのは暴力的なまでの昭和の匂いだ。

 赤い光が山岳都市を埋め尽くし、死出の門が無数に咲く。聞き分けのない子供をそうするように、群がってくるブーンを手で優しく払いのけて、俺たちは山岳都市の大地に立った。己の存在を誇示するように天を仰ぎ咆哮を上げる。

 アナウンスが走る。


【条件を満たしました】

【イベント】【虚なる神】【Clear!】

【Class Change!】

【サトゥ さんがアジテーターにクラスチェンジしました!】


【条件を満たしました】

【イベント】【明日を捨てて】【Clear!】

【Class Change!】

【セブン さんがブーステッドマンにクラスチェンジしました!】


【条件を満たしました】

【イベント】【覗く深淵】【Clear!】

【Class Change!】

【リリララ さんがシーカーにクラスチェンジしました!】


【条件を満たしました】

【イベント】【後戻りはできない】【Clear!】

【Class Change!】

【リチェット さんがエゴイストにクラスチェンジしました!】


【GunS Guilds Online】

【バトルフェーズに移行します】

【戦列を組んでください!】


 待たせたな、お前ら。

 さあ、始めようか。

 お待ちかねのエンフレ戦だぜ。

 しかも、コイツはただのエンフレ戦じゃない。

 お前らの大好物だ。

 知ってるだろ?

 ゾンビアタックって言うのさ。

 そいつをエンドフレームでやる。




 これは、とあるVRMMOの物語

 ……別にマレのことなんか何とも思ってねーし。そもそもアイツは私の気持ちを裏切ったからね。私の気持ちを裏切ったんだ。とんでもないヤツだよ。まぁ? どうしてもって言うなら一緒に居てやってもいいかなって思ったワケよ。泣き虫だし、やっぱり私が付いててやらないとダメなんだよな〜。そういうコト! そういうコトよ! あっ、やっ、何する! 抱きつくな! 汚ェ! 鼻水つくだろ! は、離せ!



 GunS Guilds Online



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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、やっぱり虚ろなる神ってサトゥくんだったんだ…
[良い点] 熱すぎる! [気になる点] 他のエイリアン達はどうしてるんだろ?ョレ氏とかこういうことは首突っ込んできそうだけど。 [一言] …プッチョムッチョ良い奴らだったよ
[一言] もしもコタタマに4次職とかあるならルサンチマンとかですかね?(妄想)
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