↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
536/990

GunS Guilds Online

 1.夏祭り二日目


 夏祭りイベントは三日間工程だ。

 初日は花火でエモい感じに〆て、二日目から運営三人娘とプッチョムッチョが出陣。

 出張版ちびナイ劇場と銘打って特設ステージでひとしきり茶番を繰り広げてから、三人で一緒に屋台を巡る企画に移る。

 悔しいが、NAiとマレの浴衣姿には目を奪われた。この二人はいつも凶器にもなる羽衣を着ているので、新鮮味とギャップにヤられた感じだ。その点、プフさんの浴衣姿は心情的に素直に誉めれる。似合ってるよ。俺たちは後方彼氏面しながら三人娘のあとをぞろぞろと付いていく。

 認めるのは癪だが、NAiとマレはプレイヤーに人気があるのだ。顔面偏差値が極めて高い数値をマークしているのと、単純に知名度の高さがプレイヤーの比ではない。サトゥ氏辺りが一人でシコシコと超絶技巧を披露していたとしても、クラン【敗残兵】を知らないプレイヤーはたとえ少数派でも絶対に居るし、知らないものは評価しようがない。世に言うアンチですら「知っている」ことが前提だ。特にチュートリアル担当のNAiに関しては、このゲームのプレイヤーであれば興味がなくとも嫌でも目にすることになる。どんなエンターテイメントにも共通して言えることだが、その存在を「知られること」は最初にして最大の難関なのだ。だから炎上商法という商売モデルが成立する。

 ティナンの家の屋根をびっしりとゴミが埋め尽くし、ありとあらゆる角度から観察されている運営三人娘であったが、上野動物園のパンダもかくやという状況下にあって承認欲求が強い天使サマはむしろプロ根性を発揮した。自分のキャラを計算したらしく、嫌々ながらという態度を崩すことなく企画そのものは受け入れるという姿勢だ。

 たこ焼きを頬張っているところをカメラマンに扮したプフさんが撮影していると、


「カメラ向けんな! プライベートだろ!」


 だのと引かれない程度の剣幕でプフさんのカメラを押しのけ、さり気なくマレのほうに向ける。マレは清純派路線だ。かつてはNAiが勝手に座ろうとしていたが数々のやらかしで資格を失い、ぽっかりと空いた席にマレが収まろうとしている。恥ずかしそうに口元を手で隠し、


「……口に青のり付いてませんか? タコ焼き、とても美味しいですけど……口元が気になる方は青のり抜きにして貰ったほうがいいかもですね」


 先回りして店主に成り代わったプッチョムッチョが「ガハハ」と豪快に笑う。


「青のりが気になるなら飲み物も売ってるよ! さあ買いねえ買いねえ!」


「ふふっ。商売上手ですねっ」


 本物の店主はティナンだ。撮影できないこともさることながら、ユニークスキルを持つ運営陣と至近距離で接するのは合法ロリ姉妹からストップが掛かったのだろう。勅命が走っているらしく、ティナンたちは一定の距離を置いてベガ立ちで見学している。

 そんな具合にNAiがいちゃもんを付け、マレが取り成すというコンビ芸で企画は進行していく。

 お化け屋敷ではNAiが「こんなのよゆーよゆー!」とか言いながらズンズン先に進んでお化けに変装したプッチョムッチョにビビって悲鳴を上げるなど、あざとい一面をキッチリと入れてきた。

 時折り「これが好きなんだろ?」と言わんばかりにナイマレの仲良し場面を織り込んでくる。ふとした瞬間に収録を忘れて素が出たという演出が秀逸だった。

 俺もWe.TVの看板を背負ってる立場だから勉強になる。あれを狙ってやるのはかなり難しい。ナイマレは場数を踏んでるだけのことはある。ベテランの風格が備わってきたな……。

 手応えを強く感じているらしく、プフさんの撮影にも熱が入る。

 彼女は宇宙人だ。チャンネルと翻訳機能が悪さをしているため髪を結い上げたメガネ美女にしか見えないが、種族人間と同じ進化の過程を辿ってきたハズがないので実際は異なる姿をしていることだろう。もしかしたらポポロンと同じく触手を生やした種族なのかもしれない。

 だが、たとえ実像と乖離した姿をしていようとも、五感を数値化されて操作されたなら俺たちは齟齬を感じることすらできない。それを可能とするのがVRMMOという技術だ。

 それでもプフさんと種族人間を隔てる大きな差が、翻訳機能にすら見放されて超能力という解釈を俺たちの目に投げかけてくる。

 興奮してAV監督みたいになってるプフさんが結い上げた髪を解くと、独りでにわらわらと広がった長い髪が撮影機器を器用に操る。

 彼女は目もいい。俺の目ですら見抜けなかったプクリの擬態を看破するほどの、おそらくは視力という言葉では収まりきらない何かが備わっている。

 ホラーじみた威容に血相を変えて逃げ出したNAiとマレを、束ねた髪で進撃の巨人の立体機動みたいなことして追い回している彼女が、この宇宙で最強クラスの知的生命体「七土種族」だ。

 七土種族は例外なく変身ができる。長い進化の歴史で天敵を滅ぼし、脅威となるもの……あるいは天災をも克服した結果、長期的に消費カロリーを抑える能力を獲得した。それが変身能力だ。

 変身すらしていないプフさんは非戦闘体であるにも拘らず、軽く走っただけで俺たちをチギり、曲がり角を経て忽然と視界から姿を消してしまう。素の状態でレベル500越えは伊達じゃない。

 突如として発生した隠れんぼ大会に俺たちは発奮した。祭りの熱気に当てられたのかもしれない。一斉にバラけて夏祭り会場の山岳都市を隈なく捜索していく。掲示板で情報を共有し、目撃証言を頼りに運営三人娘を追跡する。勅命により活動時間を延長されたティナンたちも動員しての大捕物だ。

 一番最初に見つかったのはNAiだ。ガチめにプフさんを気持ち悪がっており、ぎゃーぎゃーと大声で喚いているので分かりやすかった。息を荒げたプフさんが撮影機器一式を髪で操りながら迫る。メガネをくいっと指で押し上げると、レンズの表面が光を反射して強い輝きを発した。


「罠、ですね? 逃げ回りながら戒律を仕込んだ。それも入念に。私を捕縛するつもりですか……。マレはどこに? 身を潜めましたか。カウンタースキル……。あなた方は不思議なコンビだ。スキルの相性は悪いのに、どこかしっくり来る……」


 言うなりプフさんはしゅんと肩を落として大きく溜息を吐いた。


「……やはり避けては通れませんか」


 隠れんぼ大会の優勝者はイョママだった。

 全体チャットが走る。


【マレちゃん捕まえた〜】


 プフさんが特設ステージのある方角をバッと振り返った。全体チャットで返す。


【狙いはマレですか。イョ。あなたは最初からそのつもりで……? いいえ、違いますね。あなたはナイを無視できない。天使である彼女を】


 イョママの笑う声が夏の夜空に余韻を引く。


【どうかな。特設ステージにおいで。待ってるよ】


 プフさんが頭痛を堪えるようにひたいに手を当てた。顔を上げて俺たちを見る。


「……正念場です。申し訳ありませんが、私たちに手を貸してください。私一人では敵わない。あの女は、本気で宇宙を平和にしようとしている。未来に囚われるあまり、今を疎かにしすぎる。私たちの、敵です」


 嫌だなぁ。俺はそう思った。

 NAiさんも同じことを思ったらしい。


「……放っとけば? マレはどこでもやって行けるよ。あいつ、ちょっと凄いから。私のほうが凄いけど……」


 おーおー。冷たい女だねぇ。さっきまであんなにマレと仲良くしてたのに。やっぱり穢れた魂が主成分の女は違うわ。

 NAiが吠えた。


「うるさいな! 黙れ魔族! 何が穢れた魂だ! 私はそんなこと一言も言ってないんだよ! お前が勝手に言い出して勝手に記憶を捏造して勝手に私が言ったことにしたんだよ! クズが!」


 あ〜? ンなことねえだろ。絶対にお前が言ったよ。俺、お前自身の口から絶対に聞いたもん。この耳でしかと聞いたぜ。記憶に焼き付いてる。よしんばお前の言うことが正しかったとしても火のないところに煙は立たないって言うぜ? 特に反論もなかったしよ。結局は日頃の行い。自分で蒔いた種なのさ。

 NAiは「うるさいうるさいうるさい!」と連呼しながら肩を怒らせて早歩きでプフさんを追い抜いていく。動こうとしない俺たちにバッと振り返って怒鳴った。


「なにぼさっとしてんだ! 行くんだろ! やってやるよ! 八本足どもの一人や二人! 私よりマレのほうが使えるってか? 納得できねーなッ!」


 おお、怖い怖い。今日のNAiさん荒れてるわ〜。

 俺は肩を大仰に竦めた。

 ま、NAiもこう言ってることだし、おっぱじめるとしましょうかね。

 プフさんは縮こまって繰り返し何度も謝っていた。


「……本当にごめんなさい。全部、私が仕組んだんです。イョに対抗するためにはあなた方の力がどうしても必要だったから。夏祭りイベントと称してアクティブユーザーを一人でも多くと……」


 プフさんよ。


「……はい?」


 俺はニカッと笑った。

 俺らは最初から何事もなくイベントが終わるなんて思っちゃいねえ。

 定期イベントの最終決戦なんだろ? もう慣れっこさ。そんなことより、このひょっとこ面を何とかしてくれ。

 するとプフさんはますます縮こまった。


「……すみません。そのお面はイョが作ったものなので……。何かしらの鍵があるハズなのですが……」


 ゴミどもが口々に「気にするな」だの「いつものことさ」だのとプフさんを慰めた。

 ズンズンと先に進むNAiを先頭に俺たちはぞろぞろと特設ステージへと向かう。

 その間、イョママは全体チャットでマレを口説いていた。


【マレちゃん、良かったね。みんなあなたのことが大好きみたい。あなたもみんなのこと好きでしょ? だったら私と一緒においでよ。私があなたを連れて行きたいと思ったんだから、それがあなたの幸せに繋がるんだよ。緑豊かな地球で生まれたあなたには才能がある。どこの星に行っても歓迎されるよ】


 ともすれば傲慢とも思える口振りには暫定エイリアン特有の知性という裏付けがある。


【『人間讃歌』のエト様みたいにね。私、ファンだったんだぁ……。昔、凄く大きな戦争があってね。エト様が居なかったら勝てなかったよ。たった一度きりの勝負手だったから、もうギルドには通じないんだけどね】


 山岳都市に響き渡るイョママの声は夢見る乙女のように明るく朗らかだ。


【エト様は宇宙の宝石みたいな種族の生まれでね。全宇宙で一番綺麗で、一番美味しい。そんな感じ。普通に絶滅し掛けてたところをクァトロパパが助けたの。エト様はお姫様で、色々あってパパと一緒に色んな星を冒険したんだよ。最高のパーティーだったよね……。キラキラしてて、すっごく憧れたなぁ。もう結婚しちゃえばいいのにってみんな思ってたよ。エト様はパパのこと好きだったんじゃないかなぁ】



 2.【黄泉比良坂】イョ


 特設ステージに到着した。

 マレは手足に枷を嵌められて座り込んでいる。力なく項垂れるその瞳がNAiの姿を見つめて潤んだ。情けなく懇願する。


「お姉ちゃぁぁぁん……。助けてぇ」


 NAiさんが苛立たしげに地団駄を踏む。


「このおバカ! ヘマしたね! どうしてそんなあっさりと捕まるんだよ!」


 NAiが戒律をバラ撒いていたのはイョママの襲撃を予期してのことだろう。

 しかしイョママは八人の子供たちの一員だ。何をやらかしたのかは知らんがマレの不手際を責めるのは酷とも言えた。いや、それもやらかしの内容によるか。

 マレが涙ながらに自白した。


「だってぇ、ョ%レ氏のお母様だからぁぁぁ……! 私、個人的に挨拶したくってぇ……!」


 一片の同情の余地なしに私情だった。

 過信……軽率……マレの弱点だ……。黒ひげかよ。ワンピースね。

 雁首を揃えて現れた俺たちにイョママが悲しそうな顔をした。


「ママの邪魔するの……?」


 なお、プフさんは別行動中だ。イョママと正面からやり合って勝てると自惚れるほど俺たちはバカじゃない。プフさんならどうにかこうにかやれる相手でしょうけど俺らじゃあ分かりませんよ……次元が違う。鬼鮫さんの自来也アゲがアツい。ナルトね。

 俺はイョママに嫌われたくなかったので言葉を濁した。

 いやぁ……。俺は別にぃ、邪魔するとかじゃないんだけどぉ。ゴミどもがね。そう、ゴミどもが。コイツらマレは未来のパーティーメンバーなんだってずっと言い張ってるからぁ。な?

 俺は知らないゴミの腕をぐいっと引っ張ってドンと突き飛ばした。おら、言えって。俺を盾にするんじゃない。ちゃんとお前の口からママに言えよ。


「ま、ママ。違うんだよ。コイツがっ、崖っぷちがGMを未来のパーティーメンバーだって……! 言い出しっぺはコイツなんだ!」


 俺は知らないゴミの耳元でボソボソと呟く。

 ん? それでいいのか? お前は俺に言われたからって従ってただけなのか? 本当にそれでいいのか? その理屈は弱いぞ……。簡単に言い負かされる。そうじゃないだろ……? お前はマレを見捨てられねーよ。いよいよとなったら戦うさ。非情になりきれやしない。そうじゃないって言うなら証明してくれよ。今すぐ完全変身してマレを殺せ。あの女が連れ去られたらヤツのスキルは二度と手に入らない。この場で直ちに殺すべきだ。どうした……。お前がマレのことを何とも思っていないならやれるハズだぞ。ネトゲー史にお前の名を刻むチャンスじゃないか。知ってるだろ? どんなに良い子ちゃんぶっても無駄なんだぜ。ネトゲー史において「事件」と呼ばれ、後世に語り継がれるのは、その多くが悪行だ。人間ってのは惨劇が好きだからな。お前が今この場で変身すれば他のゴミどもだってお前に続くさ。なんなら俺がアビリティで後押しやってもいい……。見出しはこうだ。プレイヤーたちに見守られて卒業しようとしていたGMを暴走したプレイヤーがスキル欲しさに殺害。どうだ? 完璧だろ。マレを殺せ〜……!

 ……ちっ! 使えねえ。

 俺は動こうとしないゴミに見切りを付けて声を張った。

 おい! サトゥ氏はどこだよ! 仕事の時間だ! 俺らの頭はお前だろ! 出てきやがれっ……イヤ。さすがはサトゥ氏だ。

 特設ステージに身を潜めていたサトゥ氏がイョママに仕掛けた。ひょっとこのお面越しに平坦な声が漏れる。

 

「GM連れてくならスキルくれよ」


 スキルくれよお化けの連撃。イョママには当たらない。踊るようにステージを舞うイョママに援護射撃が殺到する。セブンか?

 イョママは心から嬉しそうにふわりと微笑んだ。


「良い子」


 八人の子供たちがクァトロくんに次ぐ実力の持ち主であることに疑いはない。

 目指すべき頂点はただ一つだろうに、しかしイョママの動きにはレイさんの烈しさや元社長の不気味さとはまた違った華やかさがあった。サッと手を振ると、手品のように弾(ビン)が手のひらに収まっていた。

 大きく踏み込んだサトゥ氏の渾身の一撃。イョママが無傷で切り抜けることを前提としたものだ。実力差を埋めるために博打に出た。危険域に足を踏み入れてなお加速する。これをイョママは悠々と上回る。白刃が踊る刹那にどれだけの読みが行き交ってるのか分からない。

 大技の硬直時間をキャンセルしたサトゥ氏が跳躍した。頭上を飛び越える動き。十八番の空中殺法だ。

 ぴょんと跳ねたイョママが上下反転してサトゥ氏の頬に唇を押し当てる。サトゥ氏がハエを追い払うようにブンと剣を振る。

 そう来ると分かっていたかのようにイョママは軽やかに身をひねって躱した。

 着地したサトゥ氏がイョママの唇が触れた頬をゴシゴシと拭う。剣を引き上げて構える。じりじりとイョママににじり寄りながら素早く構えを切り替えて出方を窺う。と思えば、いつの間にか握り込んでいた小石を投げ付けた。仕掛ける。ガクンと脱力して不自然な急加速で前に出る。

 サトゥ氏は戦いに多くの言葉を求めない。

 この男にとって高い集中状態に身を置くことこそが至上の喜びだった。いや、あるいは喜怒哀楽という感情でさえ……。

 極致。

 あまたのアビリティをコピーし、幾度も肉体の限界を越えてきた。そうした経験はサトゥ氏の中で息づいている。

 高い学習能力こそがサトゥ氏の真骨頂だ。その力でスマイルを下し、国内サーバーの頂点に立った。地を踏む感触をも糧にして成長していく。

 イョママはにっこりと笑った。

 

「ョレちゃんを助けてあげてね」


 サトゥ氏の身体が泳ぐ。ふらつき、夥しい量の血を吐いた。

 毒、か……!?

 俺は口元を押さえて素早く後退した。邪魔なゴミの首を引っこ抜く勢いで背負って投げる。どっせい!

 かぶり付きで観戦していたゴミどもが血を吐いてバタバタと倒れていく。サトゥ氏も死んだ。

 イョママは空中に散布した毒を吸い込まないよう忙しなく動き回っている。平気な顔をして立っているNAiを見て小首を傾げた。とても三児の母親とは思えない若々しさだ。不思議そうに言う。


「致死毒なんだけどな」


 NAiは答える義理はないとばかりに無視した。無言で片手を差し出すと、得体の知れない金属片がどこからともなく出現する。

 イョママはマレとNAiを交互に見て、別の質問をした。腑に落ちないといった様子で、


「……本当に人格があるの?」


 言下に死出の門が無数に咲く。光の使徒が潜ってやって来るような大きなものではない。

 NAiに対する疑念がイョママの方針を変えたようだ。

 死出の門を潜って現れたのはブーンの群れだった。ぢょんぢょんと鳴いてじっと俺たちを見つめてくる。こっち見んな、ノンアクティブ。

 イョママが小さな子供をあやすように俺たちに微笑みかけてくれる。


「ごめんね。ちょっとこの子たちと遊んでて?」


 凶鳥が一斉に飛び立った。

 おいおい。今日のブーンはいつになく積極的だな?

 俺たちには何も分からない。ブーンたちにどんな心境の変化があったのか、どうしてイョママがワッフルの眷属を召喚できるのか。誰も説明してくれないから分かった気になって強がることしかできない。いつもそうだ。

 種族人間とブーンの群れが激突した。

 ところでドサクサに紛れて俺を殺したゴミはどいつだ。気付けば幽体離脱してるとかビビるわ。俺の精神衛生上、下手人はキレーなチャンネーであって欲しいね。こう、腰がキュッとくびれてる感じのさ。

 俺がポチョ似の美女に刺し殺される妄想をしていると、イョママが合掌した。くるりと手首を返すと、目を刺すような赤い輝きが手のひらから漏れ出した。

 イョママが赤く光る球体を突き出す。球体から管が伸びてジャコジャコと枝分かれしていく。

 枝分かれした管の先端から光線が放たれた。

 ……少なくともこのゲームにおいて、武器は一目でそうと分かる形状をしている必要性がない。

 NAiが細分化した金属片で光線を防ぐ。

 ……見てから動いて間に合うような攻撃じゃなかった。

 どうした。今日のNAiさんはひと味違うぞ。いつもの負け犬天使じゃない。

 期待を、してもいいのか? 

 いや……待て。俺は逸る気持ちを抑えた。そうさ、最初はいつもこんな感じなんだ。NAiには何も期待しないと決めたじゃないか。

 なのに、今日のNAiさんにこんなにも期待してしまうのは何故なのか。

 NAiさんは防御に徹している。攻め気が見られない。注意力も散漫で、囚われの身と化したマレをチラチラと見ている。

 何を待ってる?

 クラフト技能に対して後手に回るメリットなんかあるのか?

 マレの目にもNAiの戦法が危なっかしく見えるらしく、ハラハラしながらシャドーボクシングして早く自分を助けるよう強固に主張した。


「ナイ! ほらっ、がんばって! 何してるの! そこだって! そこ! 攻めて! なんで攻めないの! やる気あんの!?」


 NAiの口元が引きつった。


「う、うるさいな! 私を心配しろよ! 私に期待するな! なんで私がお前のために戦わなくちゃいけないんだよー!」


 イョママそっちのけで二人が口喧嘩を始めた。

 イョママがあらあらと困ったように頬に手を当てる。射撃をやめて合掌した。祈るように呟く。


「【五人囃子】」


 ステージの床を突き破ってミイラみたいなのが生えた。お坊さんが着るような法衣を身に纏い、座禅を組んでいる。首に枷を嵌められており、床から伸びる鎖で繋がれていた。

 五体のミイラが痩せ細った腕を上げて合掌する。

 NAiが「ぎゃあっ!」と悲鳴を上げて地べたに這いつくばった。頭を抱えて苦痛に喘ぐ。

 俺と同じく幽体離脱したゴミどもが孤軍奮闘しているNAiの健闘を祈っている。

 やっぱり今回もダメなのか……。


「ぎぎぎっ……!」


 NAiさんは気が狂ったように床板を剥がし始めた。金属片の制御をしている余裕がないようで、ゴトゴトと床に落ちて転がる。

 俺たちはNAiさんの狂態を物悲しげにじっと見つめる。

 しかし、おっと? イョママはNAiさんの行動が正解であると言いたげだ。


「あれ? 重ねを知ってるの? ョレちゃんはこういうの嫌いだから、あなたは見たことないハズなんだけどな……」


 舞い降りたブーンが狩りの成果を誇示するようにイョママに種族人間の亡骸を捧げた。


「ありがとう。でもその子たちの魔石は私にはあんまり合わないかな。食べちゃっていいよ」


 クズ石は不要ということだ。イョママは俺たちを傷付けないよう言葉を選んでくれた。優しい。俺たちは胸キュンした。

 一方、脳キュンしているらしいNAiさんは床下から大きな壺みたいなのを発掘していた。「おるぁっ!」と汚い雄叫びを上げて壺を頭上にブン投げる。

 NAiさんが床下から這い出てくるのを待ってから、イョママが合掌した。祈るように呟く。


「【内裏雛】」


 ひえっ。俺たちは声なき悲鳴を上げた。

 壺から全身を刃物でメッタ刺しにされた人形がヌッと出てきた。髪は長い。裸体だ。球体関節がギギギと錆び付いた歯車のような音を立てる。

 NAiさんは金属片を打ち出して反撃しようとしたが、間に合わなかった。

 頭を抱えて地べたを転がりながらびくびくと痙攣している。責め苦の激しさに声も出ないようだ。

 イョママがNAiを問い詰める。


「あなたはいつ、どこで活動してた個体なの? 年号と地名を言える? 所属は? 戦歴は?」


 NAiは答えない。答える余裕があるようにはとても見えなかった。

 イョママが質問を続ける。


「大天使じゃないよね? 私たちの三世代前には道連れにして封印したって聞いてるよ。なのに、あなたには感情があるの? それは、あなたたちには必要のない機能でしょ。最初から備わっていないものを、あなたはどうして持ってるの?」


 イョママはしゃがみ込んでNAiの髪を手櫛で整えてあげた。


「ねえ、本当に分からない? あなたは自分が天使だと思い込んでる人じゃないの? でも……う〜ん、それもョレちゃんらしくないんだよね……。依代を使ったのかな? けど天使の器になれる人間なんて……。あ、旧人類なら……。でも、そこまでやるなら天使に頼らなくとも……。う〜ん、分かんないなぁ」


 NAiがイョママの胸ぐらをガッと掴んだ。蒼白になった顔面に青筋を立てて怒鳴る。


「ぺらぺらやかましいんだよ! そんなのどっちだっていいだろ! 私の存在を疑うな! 悪魔め! お前たちの発想はグロいんだよ! やることなすことエグいしグロいの! 私たちの上官殿が手に負えないからって融合して封印するとかあり得んからな!? なんか美談っぽくまとめてたけども! ドン引きだよ! この悪魔、悪魔! 私たちはいっつも! お前たちにドン引きしてたんだよ! お前たちが勝手に呪詛だの何だの呼んでたものだってなー! 自然には優しかったりするんだよ! エコなんだよ!」




 これは、とあるVRMMOの物語

 エコなんだよぉぉぉぉ!



 GunS Guilds Online



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ただでさえ高かった女性の魅力についての観察描写・表現能力が更に上がっている… (*´ω`*) 筆がノってるのがビシビシ伝わってくる…vとの邂逅とはこれほどのものか…('ω')
[一言] これ、他国サーバだとどんなイベントになっているんだろう。
[気になる点] 重ねねぇ [一言] キャラがめちゃくちゃだよ。湯婆婆みたいになってんじゃん なんか魔物さんみたいなこと言い始めた
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。