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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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エンジニアガード

 1.回想-露店バザー


 お金を借りたら返さなくてはならない。

 当たり前のようだが、これがなかなか難しい。何しろ金がないから借りるのだ。

 とはいえ返せませんゴメンなさいじゃ済まないので、肝心なのはどうやって耳を揃えてキチッと金を返すか。そのノウハウというか、ある種の……そう、一種のセミナーを開催することになる。言うなれば俺は講師ということになるな。

 金を借りたほうは意地でも返したくない。貸したほうは意地でも返して貰いたい。意地と意地のぶつかり合いだ。何があっても不思議じゃない。セミナーの帰りにブッ刺されたなんて話は珍しくも何ともない。そんな熱い時代だった。

 だから、まぁある種の補習が重なった日にはくたくたになるし、歩くのも億劫になって、腹から包丁は生えてるし、普段はスルーすることが口からダダ漏れになる夜もある。

 この日がそうだった。

 月明かりの下、いそいそとアクセサリーを作ってる女に声を掛けたのは気まぐれ以外の何ものでもなく。

 特別、目を引く訳でもないブレスレットを摘んで俺はこう言ったのだ。


「おたくさ、いつも同じことしてんね。飽きないの? たまに客が冷やかしに寄るくらいじゃん」


 細工師の女は俯くばかりで答えない。怯えているようにも見えた。大方、俺の悪評を耳にしているのだろう。

 元々大して興味があった訳でもない。俺は鼻を鳴らしてその場を去る。フン、邪魔したな……。

 MMOは目立ってなんぼだ。どんなに真面目にコツコツやっても俺のようなクズのほうが遥かに有名になれる。要するにこの女は遣り方を間違っていて、それが分からないくらいバカなのだ。

 俯いていた女がパッと顔を上げて、去りゆく俺の背に慌てて声を掛けてくる。


「あ、あの!」


 あん? 振り返った俺に、女はぎこちなく笑った。


「その、楽しいことばかりじゃないですけど、私も最初から全部うまく行くとは思ってなくて……。うまく言えませんけど……ちょっとずつ、できることが増えていくのが楽しいんです」


 そうか。スゲーじゃん。

 ごくありふれた話だった。けど俺は凄いと思った。だからそう言った。

 女に背を向けてトコトコと歩き去っていく。……そういえば俺は鍛冶師だったな。魔法は胡散臭いし、村人よりはマシかと思って鍛冶師を選んだのだ。職業なんか関係ない。キレてるヤツが勝つ。このゲームはそういう仕様だ。舐められたらおしまいだから、俺は今まで散々無茶をやった。

 生き馬の目を抜くような生き方だ。PKにPKK、晒しに盗み、詐欺と、よくもまぁそこまでと思うほどに多彩な理不尽が毎日のように押し寄せてくる。それらに対抗するためにとっさに非人道的な手段を思いつき、躊躇うことなく実行に移せるのが俺の強みだった。

 アホなプレイヤーから巻き上げた金で酒を飲むのは最高の気分だったし現状に特に不満がある訳でもない。

 それでも、女の話を聞いて少し興味を引かれた。試しに俺も鍛冶の一つもやってみるかと思った。

 それだけの話だった。



 2.ポポロンの森-上空


 勝つ。勝つ。勝つ。

 クソ宇宙人が。よくも俺のシルシルりんを殺したな。よくもよくもシルシルりんの残機を一つ減らしたな。シルシルりんの残機は俺のようなクズのそれとは価値が異なる。いや、残機がどうこうじゃない。目の前で惚れた女を殺されて黙ってるヤツは男じゃない。自分がどれだけのことをしたのか、思い知らせてやる。

 雲海をバックに洗練されたフォルムの機体がだらりと両腕を垂らして滞空している。今にも折れそうなほど細い腰。オシャレな雨ガッパみたいなパーツはなく、装甲に厚みがある。機体の全長は20メートル近い。

 やはりベムトロンと似ている。個人差なのか? それにしては……。いや、そんなことはどうでもいい。

 敵は七土種族。上等だよ。自分が負けるとは微塵も思ってないのだろう。やってやるよ。

 ウッディの意思とカラダが俺の血をめぐる。副作用は不明。ギルド化が進むとかそんなトコだろう。何も問題はない。


 エンドフレームの実体化にやや遅れて、チキンレースに身を投じた間抜け二人をアナウンスが晒し者にする。

 俺のレベルは1301。ベムトロンのエンフレは1500レベル上乗せだった。俺の場合は1300上乗せだ。職業の表示はバグっている。おそらくは俺の【兵科】はまだ未確定ということだろう。

 対するクソ宇宙人は……。


【警告】

【強制執行】

【命を預けよ】

【肩を並べよ】


【エンジニアガード】【パフワ】【Level-1333】


 エンジニアガード?

 ……生産職や魔法職が単身乗り込んでくるとは考えにくい。おそらくは近接職。表示された【戒律】は二つ……。四次職か?

 聖騎士が二次職というのは早すぎるという説がある。ボランティアやタンクデサントは中世にはない概念だ。現代の兵隊は剣と盾を持って戦場に向かうことはない。剣では銃には勝てないからだ。

 戦争の行き着く先が、無人兵器が飛び交うものであることは想像に難くない。

 その時、人間の役割はごく限られたものになる。未来の兵科……。

 エンジニアガードというのがそうなのか?


 クソ宇宙人は武器すら持たずに空中に佇んでいる。興味を失ったように俺から視線を外して呟く。


【プフ。出て来いよ。あんたの戦闘記憶は俺が継ぐ】


 チャンスだ。

 俺は機体をぐぐッと傾けて束ねた触手をビャッと伸ばした。

 まぁ避けられるとは思っていた。束ねた触手をバラして広げるも追いきれない。速い。だがニャンダムほどじゃない。俺から見て真横に跳んだクソ宇宙人を俺は目で追う。見失ったふりをして全身から銃口を生やして即座に光線を放つ。死ね!

 まぁ避けられるとは思っていた。空を蹴ったクソ宇宙人が【ギルド】と戦うのは慣れっこと言わんばかりの複雑な機動で急迫してくる。

 なんの。俺は三段構えよ。コンテナぁ! なるほど。当たらない。くそがっ、慣れすぎだろ……!

 ならばと俺は自慢の真ん丸ボディを誇示した。可愛らしさをアピールして敵の手をゆるめるワザだ。俺は勝つためとあらば何でもやるぜ。やれるか! この俺を!?

 しかしクソ宇宙人は血も涙もなかった。すれ違いざまに手首のパーツから金属製の杭を打ち出して俺の真ん丸ボディにブッ刺し、身を翻して俺の頭上を取って肘のパーツから杭を打ち出してブッ刺してくる。全身凶器というワケか。しかも一撃一撃が重い。俺の装甲をまるで紙扱いだ。フレームまで一気に貫通とは恐れ入る。

 俺は獣の槍にヤられた妖怪のようにエグいダメージを受けて沈んでいく。くそっ、ダメなのか……。しょせん人間は、人間なのかよ……。シルシルりん、俺は……。

 その時だ。沈みゆく俺を、知らない粗大ゴミがガッと抱きとめる。


【崖っぷちよ〜。オメェーは昔っから変わんねえなぁ。一人で勝手に突っ込むなや……】


 別の知らない粗大ゴミが浮上してくる。


【勝てる訳ねーだろう……。オメェーはホントに急に賢いふりをやめるよなぁ】


 続々と知らない粗大ゴミが実体化していく。

 勝ち目のない戦いに身を投じたゴミどもを目にしてクソ宇宙人が自嘲した。


【ハッ、俺は悪モンだな。いいぜ、掛かって来いよ。ヒューマン。お前らを俺はロストに追い込む。変身はしねえ。あれは体力を削るからな。俺は全力を出さずに、余裕を持ってお前らを殺し続ける。お前らが全滅したらスキルを手当たり次第に撃つ。レイド級には手出ししない。さすがにキツいからな。ロストするのが嫌ならプフを呼べ。あの女を引きずり出せ。あの女なら俺と互角以上に戦える】


 動機、目的、それらを除いた全てを開陳したクソ宇宙人が自己紹介する。


【俺はパフワ。……お前らは知らねーだろうが、七土は天文学的な確率を何度も繰り返して生まれた種族だ。俺らの星系じゃあ知的生命体が二種、同時期に別々の星で生まれた。全宇宙で最強クラスってのは、そういうことだぜ。お前らに勝ち目はねえ】


 環境が生命を産み育てる。

 過酷な環境を生き抜いてきた生命は強い。単純にして明快な理屈だ。それゆえに抗い難いほどの絶望的な差があった。

 俺の身体がボロボロと崩れていく。

 エネルギーが枯渇した母体を救う方法はない。【心身燃焼】はそういう魔法ではないからだ。

 俺は最後の力を振り絞ってゴミどもに言った。

 もう、いい。変身を、解け。あいつの……言う通りだ……。お前らが、ロストすれば、あいつは……お前らのアビリティを、コピーできる……。退け……。

 知らない粗大ゴミどもが、ニッと笑った、ような気がした。


【そのセリフ、ちょっと前のオメェーに聞かせてやりたかったぜ】

【実際問題よォ〜、七土ってのはどんだけ強ぇんだ? ま、試してみる価値はあるわな】

【俺らのアビリティなんざ、やっこさんからしたらゴミだろ。ええ、おい? 見たか? どう見たってレイド級と同格のスキルだったぜ?】

【逆に教えて欲しいね。俺らのささやかなスキルを限界突破のネタにしたとして、宇宙最強クラスの宇宙人様のスキルはどうなるんだい? 食らったあとにちょいとばかり気分が悪くなったりするのかい? そりゃ素敵だな】

【くっ、はははははは! そりゃひでぇ! NAiが言ってたよなぁ! 限界突破にゃリスクもあるってよ!】

【ふふ。クソほど課金してSSRで陣営固めてからガチャでコモン引くようなもんだな。そりゃ要らねーわ】


 へっ、バカ野郎ども。勝手にしろ……。

 俺は粗大ゴミどもの肩にガッと触手を回して懇願した。

 俺の女が殺された……! 頼む……! カタキを討ってくれ……!

 俺の目ん玉からボロボロとドス黒い涙が零れる。

 ゴミどもが俺の触手をガッと力強く掴む。


【別にオメェーの為じゃねーけどよー! やってやるよ! ついでになッ!】

【先に逝ってろやァ! 崖っぷち!】


 俺の触手がボロボロと崩れていく。

 ゴミどもがブンと腕を振って各々の武器を引き抜く。クソ宇宙人を取り囲み、一斉に仕掛けた。

 その勇姿を見届けることもできずに俺はロストして、ダッシュでキャラクリを終えてポポロンの森に降り立つ。ゴミどもが戦っている。上空で大輪の花が咲き、命の火が散っていく。

 がんばれ、ゴミども……!

 俺は応援した。

 再戦を挑むつもりはなかった。どう考えても勝てないからだ。ハッキリ言って時間の無駄だ。そんなことやっている暇があるならシルシルりんの心のケアをしてあげねば。

 ひとまずウチの丸太小屋に戻った俺は、玄関からずるりと這い出てきたセクハラ神様と対面した。

 ……ええ? 俺がロストしても消えないの? この人……いや神なのか? この神?俺から独立したナニカなの? てっきり俺の妄想の産物だとばかり……。本当にドコのドナタ様なの?

 セクハラ神様が動くたびに周囲の風景が脱落していく。これ、やっぱりラグ落ちだよな……。宇宙人の超技術でも再現できないって地味に凄くない?

 ド派手なラグ落ちを撒き散らしているものだから、通りすがりのプレイヤーがギョッとして足を止めてセクハラ神様を見る。

 知らない人たちが集まってくる。俺は正直どうしたらいいものか分からない。生贄でも捧げれば鎮まってくれるのだろうか……?

 俺が生贄を物色していると、女キャラの二人組が歯に衣着せぬ物言いでセクハラ神様をディスった。


「わっ、なんかキモいのが居る!」

「キモーい!」


 ギャルであった。

 現代社会において流行の最前線を行くギャルにセクハラ神様はキモいの認定された。

 こらこらこらこら。俺は割って入った。恐れ多くも神様に対して何てことを言うんだ。割って入った俺に知らないギャルが目を丸くしてからニコッと笑う。


「コタタマじゃん。またロストしたの?」


 いや誰だよお前は。

 基本、俺に絡んでくるのは男ばかりだ。大神聖ロリコン宣言とかいうクソみたいなイベントを皮切りに事あるごとにリビドーを炸裂させてきた所為で女キャラどもの間で密かに流通しているブラックリストに載ってしまったらしい。セクハラの魔眼を習得してしまったのも良くなかった。常識的に考えて好きでもない男から乳尻太ももを凝視されて不快に感じない女は居ないだろう。俺の視界に入るだけでセクハラの対象になるのだからそりゃあ近付こうとしないのも納得だ。

 しかし知らないギャルは特にそういったことが気にならないようで、俺の肩をにこやかにバンバンと叩いてくる。


「コタタマはいつも大変だなー。なんか見掛けるたびに変なコトしてるし」

「ねえねえ、あのでっかいの何なの? 教えてよ」


 クソ宇宙人のことか? 俺も詳しいことは知らんが、七土種族っつう宇宙全体でトップクラスのプレイヤーだよ。こっちの星に顔を出したのは、まぁレ氏絡みだろうな。


「へー。そんなのが来るんだ。地球スゴくない?」


 聞けよ人の話。凄くはないんだよ。種族人間はダメだ。七土が絡んでくるならそれは俺らがどうこうじゃない。言ったろ。レ氏絡みだよ。それ以外にはあり得ない。


「や、その考え方はおかしいっしょ。いくら宇宙人がスゴいって言ったってさ、絶対に私らよりもオシャレって訳じゃないじゃん?」


 むっ、それはそうだな。俺は感心した。

 ダサいダサくないの概念はトコロによって変わる。そしてコイツらにとって一番大事なのはそれなのだ。エネルギー波で月を吹っ飛ばせるとか、チート級の斬魄刀を持ってるとか、そんなのはコイツらにとって大したことじゃない。

 知らないギャルがセクハラ神様を指差して言う。


「てか、コレ何? コタタマの知り合い?」


 知り合いっていうか……。

 俺はチラッとセクハラ神様を見る。セクハラ神様の全身にビキビキと筋が浮かぶ。

 ……まぁ、うん。主神というか、そんな感じだな。

 知らないギャルはけらけらと笑った。


「えー? 何それー?」


 けらけらと笑いながら、ぺんっとセクハラ神様を叩く。


「着ぐるみかー? 出て来いよコラー」

「お前、さっき私らのことヤラシイ目で見てただろー。あんま調子乗んなよー?」


 ぺんっぺんっと二人で軽く叩いて、セクハラ神様の御神体にひじを引っ掛けて指でぐりぐりした。

 セクハラ神様は、じっと俺を見つめ……。

 にこっと笑って……フッと大気に溶け込むように……消えた。

 気安い感じのボディタッチが大層お気に召したようだ。

 かくして、危機は去った。


 ……ギャルは世界を救う。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 救世主ギャル列伝。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[良い点] 神が降臨された [気になる点] 全力のクァトロ君&知らない星の人たちでも処理落ちしなかったGGOがラグるとかセクハラ神マジヤバくね? [一言] 知らないゴミがかっこよくなるの好き
[良い点] こうい〜感じのギャルにボディタッチされながら気安く口聞いてもらったら誰だって昇天する、俺だって昇天する
[一言] セクハラ神はcoolに去るぜ……
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