愛の手を差し伸べて
1.クランハウス-居間
ガチ勢とまったり派の戦争は自然消滅した。
そんなことがあるのかと思うが事実だ。自然消滅した。男女の仲でもないのに。
ただ、元彼氏と元彼女がそうであるようにしこりは残った。
具体的にはこうだ。
経験値稼ぎしてる俺のすぐ隣で知らないゴミが言う。
「廃人は強ぇーよ? それは認める。でもさぁ……」
テーブルを挟んで向かい側のゴミが追従した。
「分かる。あいつら課金してねーじゃん?」
その隣のゴミが反論した。
「いや、俺はこう思うね。課金勢と廃人はある程度リンクしてる。問題はあいつらが俺らで欲望を満たしてることだよ」
俺の左隣でモグラさんぬいぐるみを抱いてるゴミが「なるほどな」と頷く。
「それはあるかもな。レ氏も言ってたが廃人だけじゃオンゲーは成り立たねえ。俺らまったり派を廃人どもはNPC扱いして気持ち良くなってんだ。オナホかよっつー」
あのさぁ。俺は堪らず言った。
まずオメェーらは誰なの? 俺の気持ちにもなってみ? ウチの丸太小屋で朝イチから経験値稼ぎしてたら赤の他人がズカズカと上がり込んできてイキナリ談笑始めたらどう思うよ? あり得ねえだろ。何事かと思うわ。
「あり得ないのはお前なんだよ。崖っぷち〜。戦争起こしといて知らんぷりか? まず戦争起こせる時点でおかしいんだよ。お前のツテはどうなってんだよ」
そんなこと言ってオメェーらはいざって時にサトゥ氏辺りと関わろうとしねえじゃねえか。文句があるならアイツに言えよ。
「それをやって目を付けられたのがお前じゃねーか。言っちゃ悪いがな、俺らはソロ活動してる時に邪魔されたくねーんだよ。そんなのは自由申告のクランが人気って時点で分かるだろ。他人と関わり合いになりたくねんだよ」
だったらオフゲーやってろよ。いや分かるよ。爪痕を残したいんだろ。分かるけどさぁ……。実際に今こうして俺のソロ活動を邪魔してるのはお前らじゃん?
「おいおい、何を勘違いしてる? 俺らはポチョさんの様子を見に来たんだぜ?」
余計悪いわ。今すぐ帰れ。ポチョは俺のモンだ。誰にも渡さねえぞ。
「そういうんじゃねーよ。尊敬してンだ。アメリカのヤンキーだってポチョさんの前じゃ大人しいモンよ」
……そうなの?
「おうよ。まぁ〜ヌルい環境に降りてきて俺TUEEEするようなのはろくな連中じゃねえ。日本人はレベル低いだのよ〜。その癖、女には優しいんだぜ。ムカつくよ。あいつらが言うには日本の男は根暗で女は奥ゆかしいんだとよ。そりゃ同じことだろう」
単なる事実じゃねーか。お前らは平等なんて信じちゃいねーだの言う癖して都合が悪くなると急に崇高な使命に目覚めるからダメなんだよ。
「お前の自己紹介はいいんだよ。アメ公の話だ。ヤツらが日本人はレベル低いデースとか言ってるとよぉ〜ポチョさんが俺らの肩を持ってくれるんだよ。スカッとするんだよな〜」
チッ、クズどもが。日本もアメリカもねえ。似たり寄ったりだ。
隣のゴミが俺の頬をピタピタと軽く叩いてくる。
「なにピリピリしてんだよ崖っぷち〜。クズ同士仲良くしようぜ。またウマでスッたんか? ん?」
オメェーらと一緒にすんじゃねえ! まず騎手同士なら攻撃アリっておかしくねえか!? 第四コーナー回って一気って場面で騎手が揃って全滅したらそりゃあスピンも戸惑うだろうよッ!
俺は編み掛けの藁人形をテーブルに置いてぐっと身を乗り出した。つられてゴミめらもぐっと身を乗り出す。俺はゴミどもの顔を順々にチラ見してから手をくいっと回した。
……人力パチの件はどうなってる?
「……正直難しいぞ。でも方向性は見えてる」
マジかよ。お前らスゲーな。さすがに無理だろうと思ってたんだが……。具体的には? やっぱりギルド憑きのゲストルームか?
「いや、エンフレを使う。ゲストルームは無理だ。負荷がデカすぎて長持ちしねえ。その点、エンフレはロストするまで回せるからな。残る課題はアビリティだ。今、色々と限界突破を試してるらしい」
言うまでもないことだが……。
「分かってる。女キャラには言わない。あいつらは口うるさいからな。しかし……VRMMOだからなのか? 変なトコで男女差が出てきたのは……」
俺らが特別な所有権で足踏みしてる間に先に行かれた感があるな……。
「……ウチのクランの女どもさぁ、常時オーバーキルを狙ってくるんだけど」
「ウチも同じだ……。特に黒魔がヤバい。立ち回りで間接的に男キャラを巻き添えにしようとしてくる」
……三次職の黒魔術師は使い魔を介した攻撃魔法の段階解放が特徴的なクラスだ。【全身強打】の三段階目を食らうと残機がゴリゴリ削れて一発でデスペナが五回分くらい入る。デスペナ倍加の【戒律】を持つデサントなら10回分ということになる。素早く自害すれば多少マシになるとはいえ……。
プレイヤーはドンドン強くなる。それは基本的な立ち回りですらそうだ。クソ強力な魔法を使える魔法職はヘイトを集めやすいから、モンスターの行動をコントロールできる立場に居る。斜めに切り込めばモンスターの攻撃を特定の方向に誘発できたりと色々だ。そういうことを意識してやれる魔法職が増えてきた。
俺とゴミめらは更に身を乗り出して顔を寄せ合った。女キャラが成長するたびに男キャラは肩身が狭くなる。俺らの連帯感は増していくばかりだ。
「つーか、さ……。ド派手にフレンドリーファイアかました女が急にツンツンし始めるのは何なの? ラブコメっぽい雰囲気になってるトコ悪いんだけど俺はデスペナ食らって足ガクガクしてっし……」
ウチの子たちに発症した謎の病状は蔓延しつつあった。大量ロスト事件が発端だとされているが、定かではない。俺らは別にラブコメの主人公ではないのだが、鈍感キャラを強要されている。殺害事件と恋愛沙汰がどうしても頭の中で結び付かないのだ。それはもはや鈍感キャラがどうこうより生理的な反応だった。龍槌閃・惨みたいなのを食らったあとに上目遣いでもじもじされても困る。どう足掻いても龍槌閃・惨のインパクトが上回るし、身の破滅が物理的に迫ってくるから臆病にもなる。慎重に生きることは当たり前のことの筈なのに、意気地なしとまで言われて悪者扱いされるのも納得行かなかった。それなのに女キャラはどいつもこいつもキレーな顔してるからあわよくばお付き合いしたくて、冷たく当たることもできないので、いよいよ八方塞がりになる。
……まぁこの件に関しては先駆者の俺から言わせてみれば、本能を理性でねじ伏せるのが一番だ。
ゴミどもは頭を抱えた。
「……できっかな。生存本能って普通に一番強い感情だろ……」
「……暴力ヒロインなんて次元じゃないぞ。ガチで殺しに来る。なんでこんなことになったんだ……」
もっとも……。俺は内心でペロリと舌を出した。俺には清楚なヒロインが居るから問題ないんだけどな。
2.山岳都市ニャンダム-露店バザー
今日はシルシルりんとバザーデート。
ところで、シルシルりんと一緒に遊んでるといつも邪魔が入る。原因は分かってる。妬みだ。シルシルりんは俺を殺さない真っ当な女性であり、俺と一緒に歩いていると悪い男に騙されてるようにしか見えない。そこで本日はゴミの横槍を未然に防ぐべくバンシーモードで出動だ。
これが大当たりよ。女同士とあって今日のシルシルりんは警戒心が薄れて少し大胆だ。自然と腕を組み、俺を誘惑するように身体を擦り寄せてくる。でへへ……。
二人で露店バザーを巡っている間、俺の目はシルシルりんに釘付けだった。シルシルりんは終始ニコニコとご機嫌で、俺という恋人が居ることを熱心にアピールしている。俺の腕に密着して甘えるように俺におねだりしてくるのだ。こんなふうに。
「コタタマりん、ここのアイス屋さんは美味しいですよ。私が露店を始めた頃からずっとここにあって、ライバルじゃないけど、私もがんばろうって思えるんです」
ぶっちゃけ俺はシルシルりんよりも露店バザーに詳しい。借金取りなどやっていれば、店の間取りはもちろんとして、その店主が何をされるのが一番嫌なのか把握することが大切だからだ。となれば当然、人間関係や周辺の店のことも探りを入れることになる。
シルシルりんが案内してくれたアイス屋は行列ができる店の一つだが、俺はもっと美味いアイス屋を知っている。だが、ここでそれを言い出すほど俺は野暮じゃない。
俺はシルシルりんと歩調を合わせて自然な流れでアイス屋の行列に並んだ。
俺はストロベリーにしようかな。シルシルりんはどうする?
「私はソフトクリームにしますっ。ここの店主さんが夕方くらいになると仕入れに出るんですけど、日によって時間がちょっと違って、長くやってる日はあまりお客さんが並んでなくて穴場なんですよ〜」
シルシルりんのように家庭的な女性は異性を見る時、彼氏としてではなく、お父さんとしてはどうなんだろうという目で見てくる。つまりこの人はいいお父さんになるな〜と思わせることができれば勝ちなのだ。
俺とシルシルりんの後ろに野郎二人組が並ぶ。何が悲しくて男の二人連れでアイスなんぞ……。俺はそう思いながらさり気なく立ち位置を変えて野郎二人組からシルシルりんを少し遠ざけた。コンビ・ゴミが俺とシルシルりんを見てヘタクソな口笛を吹く。
「ちっちゃくてカワイ〜」
「バザー来るの初めて? ココは女の子二人じゃ危ないよ〜?」
これまたテンプレ通りのゴミだな。
レベル10くらいになるとゴミは急に調子付く。自分は修羅場を潜ってると勘違いして、このゲームは他のゲームとは違うだの甘い世界じゃないだのと自分の手柄のように語り出すのだ。そうした輩を見るたびに俺はこう思う。こんなヌルゲーで何を分かった気になっているのか。ゲーム界隈における真の修羅場とは楽しさとは無縁の場所に在る。そこには苦痛しかなく、女キャラが可愛い時点でこのゲームはクソゲーの資格を失っている。
まぁいい。今日の俺は寛大だ。シルシルりんの手前、脱チワワ記念にちょっとくらいは構ってやってもいい。
俺はコンビ・ゴミの相手をしてやることにした。
バザーが物騒なコトくらいは知ってるよ。で、あんたら強いの?
「それなりかな。今も狩りに行ってきたトコだよ。【敗残兵】のサトゥって知ってる? ここらで一番って言われてるヤツなんだけど、そのサトゥと俺らは組んだこともあって〜。いや、アイツはマジで凄いわ」
そりゃ組んだことくらいはあるだろうさ。俺は内心でそう思った。野良パで一緒になったことがあるなんざ顔見知り以下だ。それを自慢げに話すということは、コイツらは知らないのだ。サトゥ氏が野良パに参加するのはヘタクソの研究のためだ。固定パーティーってのは考えようによっちゃヌルいからな。
……それを差し引いたとしてもサトゥサトゥと馴れ馴れしいのは気に入らねえな。
よし、脱チワワ記念だ。受け取れ。
俺は天を仰いで目に力を込めた。俺のうなじからにょきっと生えたウッディが俺の頭をよじ登って俺と同じく天を仰ぐ。上空を飛んでいるブーンに照準を合わせて俺とウッディは同時に呟いた。
「【コンテナ】」
上空で黒い金属片が組み上がり、ブーンを閉じ込めた。禍つ鳥入りのコンテナが降ってきてコンビ・ゴミの後方に落下。ゴミ二人がギョッとして後ろを振り向く。そいつらの肩に、俺は背伸びしてガッと腕を回した。囁くように言う。
あんたら強いんだろ? カッコイイとこ見せてよ。俺は強い男が好きなんだ。
ガン、ガン、とコンテナが内側からブッ壊されていく。俺ごときが操れる金属片の強度など高が知れている。モンスターを封じることなどできやしない。
ガンと蹴爪状にひしゃげたコンテナの一面が吹っ飛んで、中からのそりとブーンが姿を現した。ギョロリと動いた目ん玉が俺のほうを向く。
コンビ・ゴミが舌打ちして武器を引き抜く。
「チッ、ネカマか。だが、いいぜ。守ってやるよ」
「フレンド登録は?」
いいぜ。精々がんばりな。
俺は二人にデコピンを浴びせて送り出してやった。俺ぁコタタマってーんだ。
雄叫びを上げた二人がブーンに突進した。
ブーンとゴミが死闘を繰り広げている間に俺とシルシルりんはストロベリーアイスとソフトクリームを買った。ペロペロと舐めながらその場をあとにする。
シルシルりんの小さな舌がソフトクリームを舐めとっていく。ソフトクリームも美味しそうだな〜。ちょっとシェアする?
俺の提案にシルシルりんは頬を赤くして、くすぐったそうにはにかんだ。
「だ、ダメですよぅ。私が舐めたのをコタタマりんが、なんて……は、恥ずかしいし……」
俺たち付き合ってるんだし、恥ずかしいこともちょっとずつ慣れていかないとね。こうやって一緒に居るだけで俺は凄く楽しいけど、前に進みたいっていう気持ちもある。でも俺たち二人のことだから、二人でタイミングを決めようね。
俺の頬がギャンッと裂けてお喋りウッディが物欲しそうに舌を突き出した。俺はウッディとストロベリーアイスをシェアした。二人でバクバクと食べて物の数秒で片付ける。二人揃ってペロリと舌舐めずりした。俺とウッディのタイミングはすでに完璧だ。
一方、シルシルりんは食べるのがあまり速くない。俺はシルシルりんが道行くゴミにぶつからないようシルシルりんの腰に腕を回してそっと抱き寄せた。
俺が見てるからゆっくりでいいよ。シルシルりんはコクリと頷いた。
「う、うん」
シルシルりんが俺に少し重心を預けてくる。
……俺はシルシルりんの前では紳士的に振舞ってきたつもりだ。しかし時々は性急になってもいいのかもしれない。奥手な彼女を俺が引っ張るくらいで丁度いいのかもしれない。
いや、それは言い訳だな。
シルシルりんが唇に付いたソフトクリームを舌で舐めとっているのを見て、俺は我慢できなくなったのだ。
気付けばシルシルりんの腰に回した手が滑り落ちてお尻へと向かっていた。俺はシルシルりんのお尻を撫でたかった。撫でたくて仕方なかった。
不可視の障壁にガインと弾かれてハッと我に帰る。特別な所有権……! 慌てて言い訳しようとする俺を、シルシルりんが悪戯っぽく笑って言う。
「こ、これ以上はダメ。い、今はまだ、ね?」
今度は俺が赤面する番だった。素直にコクリと頷いて照れ隠しに頬を掻く。
シルシルりんには敵わない……。惚れた弱みってやつだ。
この日のデートは大成功だった。
パーフェクトコミュニケーション!
3.パピコ砂漠
シルシルりんの笑顔をプレイバックしていると、全身血塗れのゴミが砂の中から這い出してきて、フラフラと覚束ない足取りで砂漠を引き返していく。
「だ、誰か……ヒーラー、を……」
死に損ないのゴミの足にたちまちミミズさんが巻き付いて地中に引きずり込んでいく。骨が砕ける音と共にゴミの断末魔の叫びが虚しく響いた……。
おコアラ様と一緒に死にゆくゴミどもを観察している。
女神像が流砂に埋もれたゴミのように漂流しているということで、ゴミどもは桟橋を設置するなどして組織的に女神像の登録を進めている。女神像を掘り起こして見失わないよう追い掛け回すのだが、ミミズさんのバックアタックで全滅して女神像を見失い、また掘り起こすという地獄のように地味な作業を繰り返している。せめてもの救いとして、すでに登録を終えた有志らが女神像掘りに参加しているため女神像を探す時間は短縮できている。砂の中に居る状態からスタートするので、砂を掻き分けて地上に這い出て「ここだー!」と叫ぶのである。なおミミズさんにリスキルされて心折れるやつも続出する。
ゴミのような種族人間であるが、ネトゲーマーには一銭の得にもならない活動を行う養護班が突然変異的に生まれることがある。動機は様々だ。自分も世話になったから。他人に恩を売りつけて感謝されたい。隙を見て養護班を殺したい。ミミズさんのバックアタックを解析中……。
ミミズさん対策の一つが動かないことだ。頭から布を被って砂の上に腹ばいになったおコアラ様が双眼鏡で地中に引きずり込まれていくゴミをじっと観察している。
「……やはり小刻みに跳ねて移動するのは意味がないな。こうして見ていても普通に歩いているのと生還率が変わらない」
ミミズさんのバックアタックは正確無比だ。振動で獲物を探していると考えるのが妥当だろう。だからゴミどもはカンガルーのように飛び跳ね、【スライドリード】で足音を消すという移動法を採用している。しかしそれはジンクスの域を出るものではなかった。
おコアラ様が言う。
「比重だ。おそらくは砂の密度を感知している。それだけならば橋を架けるなりして対策も打てるが……厄介なのはレイド級の下知だ」
三回目のトライをミミズさんに阻まれたゴミが癇癪を起こした。半泣きで完全変身して当てずっぽうにミミズさんを叩き潰していく。
砂塵でボヤける遠方、最深部の方角でチカッと何かが光る。次の瞬間、暴れ回っていた粗大ゴミが輪切りになった。
キャラクターロストの現場を目の当たりにしてもおコアラ様は動じない。その冷徹さは着ぐるみ部隊の中では例外的なものだ。やや興奮気味に言ってくる。
「見たか? なんという射程距離だ。ポポロンが我が子を基地局に有効射程を広げることはあるが……森の怒りと呼ばれている……それとは明らかに異なる現象だ。あの光の正体が気になる。ガラスかもしれない。高速で砂を打ち出しているのかと思い調査してみたが何も分からなかった」
こうして隣り合って寝そべっていると同衾しているようでドキドキしてくる。俺は別の意味で興奮していた。
パピコのスキルは伐採に使えそうですよね。
「そう。いい目の付け所だ。いいぞ、コタタマくん。伐採だけじゃなく掘削にも使える。そうした用途を期待できるスキルは実のところ今までなかった。そうなると射程の広さはむしろマイナスになるかもしれない。便利すぎないバランスはこのゲームのスキルに共通するポイントだ」
自壊したエンフレから舞い上がる命の火が大気を赤く染めていく。
おコアラ様は立ち上がって赤焼けの空を見つめた。その背はどこか寂しそうで、今にも遠くに旅立ってしまいそうに見えた。お、おコアラ様……。堪らず声を掛けた俺に、おコアラ様は振り返らずに言った。
「通常、流砂の原因は地下水だ。このマップで見られるような流動するものではない。便宜上そう呼んでいるに過ぎず、これは流砂とは別の現象だ。鍵になるのは穴だろう。地下の曜日ダンジョンと地上が開通した時、流砂は確認できなかった。大量の砂が一気に地下に流れ込むこともなかった。何らかの引き寄せる力が働いている。この星にまつわる大きな謎。その一端を我々は幸運にも目にすることができた。ADプフの称号……公主とは世界を切り開くものなのだろう」
おコアラ様。
俺は焦って声を掛けた。
おコアラ様は振り返らない。
「コタタマくん。この星は二重構造になっている。曜日ダンジョンは地下にある世界の一部だ」
そ、そんなの分からないじゃないですか。プレイヤーの行動範囲はマップで縛られてるんだ。調べたって分かりっこない。確実じゃない。どうして、そんな……。らしくないですよ! おコアラ様!
「……そろそろほとぼりが冷めた頃だろう。メルメルメを検証チームに戻す。フォローしてやってくれると嬉しい」
おコアラ様は最後まで振り返らなかった。
赤く染まった空をずっと眺めていた。
……オーストラリアの森林火災は今なお解決の兆しを見せない。
10億にも及ぶ動物たちが犠牲になっており、その中にはカンガルーやコアラも含まれる。
天災に対して俺たち人間はあまりにも無力だ。学校、会社があるから現地に駆け付ける訳にも行かない。いや、それは言い訳だな。結局のところ俺たちは自分が可愛いだけだ。
そんな俺たちにもできることがある。
募金、しようぜ。
これは、とあるVRMMOの物語。
募金は信頼できる団体に。
GunS Guilds Online




