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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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ダークサイドステップ

 1.ちびナイ劇場


【あけましておめでとーございますふ!】


 振袖姿の運営ガールズが唱和してぴょんと飛び跳ねた。

 手を取り合ってきゃっきゃとハシャぐ。

 雑なネタバレを食らったプフちんもちびモモ氏と仲良くしており、その笑顔には一点の曇りもない。プロだ。バイトリーダーは伊達じゃない。

 ちびマレとプフちんとちびモモ氏が羽子板を始めた。カンカンと羽根を打ち合う。

 ちびナイが珍しく仕事をしている。振袖姿を見せびらかすようにくるりと回って、観客席に満面の笑顔を振り撒いた。


【プレイヤーのみんな! 今年もよろしくね! 私もパワーアップしたし、今年はがんばるぞー!】


 ……パワーアップ? ああ、そういえば天使と合体して本来の力を取り戻したって話だっけな。そのあと特に何もなかったから忘れてたぜ。まぁ本人ががんばるって言うならそれでいいんじゃねーか。俺から言えるのはそのくらいだ。

 羽根を落としたプフちんが墨で顔を落書きをされている。頬に書かれたナルトマークを手鏡で見て、【やだー! もー!】と満更でもない様子でポカポカとちびマレとちびモモ氏を叩く。

 ……しかし何だな。モモ氏は【ギルド】に取り憑かれたという話だったと思うのだが、まったくと言っていいほど悲壮感がないな。しょせんはゆるバイドのやることか。考えてみたら【ギルド】って5chでダベるスレ民とあんまり変わらないしな。たまに無駄に才能を持て余してる人が居るし。そんな感じなのだろう。

 俺の中で【ギルド】の株が下がっていく。何しろ俺が普段よく目にする【ギルド】はネフィリアんトコに居る自分が猫だと思い込んでる変な虫なのだ。ネフィリア率いるクラン【提灯あんこう】のメンバーはテイマーが多く、召喚獣の犬猫がワンワンニャーニャーとやかましいことこの上ない。あの愛玩動物どもは種族人間のスペックを軽く越えて来るので、やつらを上位の生物と見なしたクソ虫さんたちはそちらの行動様式をコピーしてしまったのだろう。

 かくして我らが日本サーバーは【ギルド】の攻略を完了した。イージーなミッションだった。イベントらしいイベントもなく、勝手に終わった。やっぱガキンチョは無敵だわ。全宇宙に共通する真理かもしれんね。

 と、そのように今ひとつ盛り上がりに欠ける国内サーバーのプレイヤーに、ちびナイは発破をかけている。去年やり残したことを指折り数え、


【プクリを倒して〜。新マップの砂漠を攻略して〜。あと、ここに居るモモちゃんを一回も倒せてないよね。スキルの解放も途中で止まってるの多いよ〜。四次職だってまだ見つかってないでしょ〜? 四次職はすごーく強いジョブが揃ってるからがんばってね!】


 いや、もう新ジョブ探しはいいんじゃねーかな? 俺はそう思った。レベル制限40なんでしょ? 俺、そこまでレベル上げるの無理っぽいしゴミどもが強くなるだけじゃん。何なら三次職すら俺は無理っぽいからね。

 そう考えているのは俺だけじゃない。元よりこのゲームは完全下位互換の職業がないのだ。上位職は手札が多い反面、一定のノルマをクリアしなければ職を失ってしまう。また手札が多いと言ってもそれが必ずしも有利に働くとは限らない。例えば三次職のクルセイダーと二次職の司祭が野良パで一緒になった時、司祭さんが居るからクルセイダーさんは近接戦闘に集中してくださいねということにはならない。蘇生魔法持ちが二人居るならかなり無茶ができますね、となるのだ。ゲーマーにとって他のプレイヤーは時間を短縮するためのツールであるに過ぎない。何ならクルセイダーのバルキリーモードを利用しようとさえするだろう。その結果、クルセイダーが無職になろうが知ったことではないのだ。ネトゲーマーに一期一会の精神などなく、どうせ二度と会うことはあるまいという考えで動く。それはごく当たり前のことであり、表面上愛想良く振る舞うのは他人に興味がないからである。

 そして鬼畜ナビゲーターのNAiもまた俺たちに興味がない。完成したAIだ。極限の域に達したAIは人間を必要としない。全てにおいて自分が優っていると知っているから無関心になっていく。

 劇場の観客席に押し込まれた俺たちはちびナイの可愛さを褒め称えるNPCとしての役割だけを期待されている。実際……時間が解決してしまう問題は多く、鬼畜ナビゲーターの蛮行を話でしか聞いたことがないチワワどもはNAiを好意的に見ている。恐ろしいことだ。NAiの懐柔工作はゆっくりと、しかし着実に根を広げつつある。

 それは羽子板で遊び呆けている三人にも同じことが言えるだろう。顔面に墨で猫のヒゲっぽい落書きをされたちびマレがカンと羽根を打つ。ふわりと弧を描いた羽根が、突如としてトゥルルルルと着信音を発した。


【うえっ?】


 ポトリと地べたに落ちた羽根を、運営ガールズが気持ち悪そうに見つめる。ちびモモ氏が【……うえ〜】と顔をしかめながら羽根を摘み上げて、ちびナイに押し付けた。ちびナイが「私?」と言いたげに自分を指差し、不承不承といった感じで羽根を耳元に持ってくる。


【も、もしもーし?】

【もしもし】


 羽根から声が出た。

 ちびナイがますます嫌そうな顔をする。


【こ、この声は……】

【そうとも。私が運営ディレクターのョ%レ氏だ】


 モモ氏にやっつけられて行動不能に陥っている運営ディレクターがテレフォンでちびナイ劇場に参加してきた。

 ……しかし今になって思えばョ%レ氏は仕事熱心なタコさんウィンナーだった。少なくとも俺たちを呼びつける時は仕事の話をしていた。


【ナイ。プレイヤーの様子はどうかね? 私は今しばらく動けない。話を聞かせてくれ給え。攻略は進んでいるかな? どうだろう】


【もちろん順調ですよ〜!】


 ちびナイは嘘を吐いた。


【ではプクリを倒したのだな】


 そして看破された。


【うっ。い、いえ……。そもそも私の管轄じゃないし……】


【妙な見栄を張りおって……。まぁいい。ナイ。君を責めるつもりはない。この私が帰るまでマレと仲良く……。チッ! Naive-Restore。来い……】


 電話口の向こうでタコさんウインナーが限界突破した。


【……これ程とは。少々手こずるか。聞いての通りだ。マレ。プフ。モョモ。留守を任せる。ヒューマンには時間的な制約を課した。有効に使ってくれ給え。それと、ナイ】


【はい〜】


【くれぐれも言っておくが……。私のえびせんには手出しするなよ?】


 ちびナイの目が泳いだ。しかしすぐにバレなければいいのだと思い直したか、自信たっぷりにニコッと笑う。


【もっちろん!】


 シャッと幕が降りた。



 2.エッダ水道-【提灯あんこう】秘密基地


 年始のおっぱい巡りをしている。

 シーフードに関しては……。

 潔く諦めよう。

 俺は潔く諦めた。

 ダメだったけど一生懸命がんばったので満足だ。そう、本当に大切なのは結果じゃない。過程なんだ。世の中、いつだって努力が報われるとは限らない。では努力することは無駄なのか? 俺はそうは思わない。成果を追い求めるのもいいが、何事も程々が一番だ。

 ログインするなり俺に叩き起こされたネフィリアたんは不機嫌だった。イヤに色っぽいネグリジェから肌が透けて見えている。気だるげにソファの肘置きに頬杖を突いて俺をじっと見つめている。


「……ウオロク?」


 うんうん。


「……生きていたのか。【心身燃焼】か? いや……。しかし、あれだけの深手を負って……」


 このおっぱいはひどいお師匠様なので、俺が手塩にかけて育て上げた上位個体をすぐに殺そうとする。まぁそれも過去の話だ。ウサ吉と同様、ウオロクもネフィリア麾下のクソ虫さんたちに守って貰おう。何しろ上位個体は死んだらおしまいだ。ゴミとは違う。せっかくあそこまで育ったのだから国内サーバーの人間国宝ならぬ魔物国宝に指定したい。

 動物愛護精神に満ちあふれる俺を、ネフィリアは胡乱な瞳で見つめるばかりだ。


「……コタタマ。私の記憶が確かならば、サハギンの地底湖に毒を撒いたのはお前とアンパンだった筈だが……」


 昔の話はいいじゃないか。


「人魚を探しに行くだの言ってアンパンを連れて行ったかと思えば、あの騒ぎだ。私は忘れていないぞ……」


 そうは言うが、元を正せば悪いのはネフィリアである。俺に散々色目を使っておいて何もさせてくれないもんだから、俺は居るか居ないかも分からんモンスター娘に救いを求めたのだ。

 その当時、サハギンが泳ぎ回る湖の底には竜宮城があって、そこでは見目麗しい人魚たちが暮らしているという噂があったのだ。いや、噂どころか目撃証言が多発していた。ただしスクショを出せと言っても誰も出さなかったし、そもそもどうやってサハギンの群れを遣り過ごしたのかが明瞭ではなかった。

 従って俺はこのゲームのイチ冒険者として検証を実施したのである。

 竜宮城と言えば亀だ。俺はいじめられているサハギンを助けて竜宮城に連れて行って貰うという計画を立てた。そのためにはサハギンを陸地に引きずり出さなくてはならない。俺には自信があった。俺にはモンスターのヘイトを買える目があったからだ。

 が、ダメ……! サハギンは目を使っても陸地に出てくることはない。そこで俺は太陽と北風作戦に出た。地底湖に毒を撒いてサハギンが自らの意思で湖から出るよう促したのだ。

 が、ダメ……! モンスターに毒は効かない。種族人間なら数滴でコロリと行くような猛毒を浴びてもぴんぴんしている。俺はヤケクソになってアンパン印の毒を手当たり次第、湖にブチ込んだ。

 さて、プレイヤーというのはドコにでも湧いて出るゴキブリのような存在だ。俺とアンパンくんが毒を撒いている間、入場者がゼロということはない。まぁ認めたくはないのだが、俺とアンパンくんのコンビは相性が良かった。俺が見張りに立ち、アンパンくんが毒を撒く。そのコンボが綺麗にハマった。その当時、幽体を自由自在に操れるプレイヤーがまだ居なかったことも俺たちを後押しした。

 結果、猛毒の湖に浸かったプレイヤーは一瞬で死んだ。続々と死んだ。このゲームにおいて、クラフト技能を介さない化合物の作成は再現性が低い。もっとも当時の俺はそこまで深く考えていなかったのだが……どうやら手当たり次第にブチ込んだ毒がイイ感じに作用し合ったらしい。アンパンくんによれば水というのは実はとても強い分解力を持っているらしく、その辺の影響もあったのかもしれない。もしくは自動的に死んでしまったプレイヤーたちの無念がそうさせたのか……。

 太陽と北風作戦は成功した。俺とアンパンくんはサハギンを陸地へと誘き寄せることに成功したのだ……!

 それが、俺とウオロクの出会いであった。

 その後は、まぁ……一言で表すならナウシカが密かに蟲を匿ってたのが大人にバレて連れてかれるような感じだな。無論、俺からウオロクを引き離したのはネフィリアだ。

 俺は思い出を美化した。

 子供の純真な願いを引き裂くのは、いつだって大人の身勝手な理屈だ……! 許せんよなァー!

 ひとしきり義憤を燃やしたところでネフィリアにウオロクの保護をお願いする。

 なぁ、いいだろ。お前だって気が付いてるんじゃないか……? 常設ダンジョンの魔物にガムジェムを与えれば、そいつはレイド級に昇格できる。それは、つまり固有スキルを獲得するってことだ。サハギンのレイド級なら、おそらくは水にまつわるスキルになる。そして強い個体は強いスキルを得る……。なら、強い肉体を持つ上位個体は生かしておいたほうがいい。そうは思わないか?

 ネフィリアは手をひらひらと振って俺の言い分を否定した。


「ガムジェムの正体が記憶結晶ならば、目覚めるスキルは同一のものになる。ウオロクを生かしておく理由にはならない」


 またまた。分かってる癖に。そう意地悪をするなよ。ガムジェムがただの記憶結晶ならモモ氏やプフは見向きもしなかったさ。俺は以前にゴミどものエンフレからゴミジェムを抽出したことがある。記憶結晶の融合……限界突破を越えた何かをレ氏はやろうとしてるんじゃないか?

 ネフィリアは頬杖を突いたまま俺をじっと見つめている。面白くなさそうに鼻を鳴らして、頬に掛かった髪を指で払った。


「いいだろう。そうまで言うなら、お前が幹部を説得しろ」


 幹部。ネフィリアの下に付いたクランの連中だ。そいつらにネフィリアは【ギルド】の管理をさせている。もちろん最上位の命令権を持つのはネフィリアだが、マナポの製造やプレイヤーの監視などは幹部に任せている。旧ネフィリアチームの俺やアンパンくんは幹部ではないが、元幹部のような、そうでもないような……離反者のような、そうでもないような……人によって対応が異なる微妙な立場で。なんていうか、ふわっとしてる。俺とアンパンくんだけがふわっとしてる。

 ともあれ、ネフィリアが幹部と話を付けて来いと言うので、俺はそうすることにした。アンパンくんを連れて。


「え、なに? ドコ行くの? ていうかログイン待ち伏せするのやめて欲しいんだけど。ログインしてる時ってCGがキラキラしてて綺麗でしょ。見せ場だよ? それをさぁ、横から割り込まれておんぶされたら台無しだよ。ホント台無し。旦那は昔からそういうトコある……」


 マイキャラを着飾るのが大好きなアンパンくんは登場シーンを俺にカットされたのがご不満の様子。俺はおんぶしているアンパンくんを宥めた。

 行き先をお前が知る必要はないが、そう膨れなさんな。じっくり鑑賞するのもおかしな話だろ。スカートめくれる訳でもねえしよ。


「日本語おかしくない? 俺をどうするつもりなの?」


 なーに悪いようにはしないさ。

 具体的なことを何も話そうとしない俺に、アンパンくんは俺の頭をガクガクと揺さぶって金切り声を上げた。


「もー! この魔族、誰か何とかして!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 余罪は数知れず。旧ネフィリアチームのバイオテロコンビが行く。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[良い点] アンパンくんは可愛いですね [気になる点] 気になることが多すぎる [一言] レ氏はえびせんが好きなのか。意外だな。ギャップ萌えだぜ
[良い点] 久々の旧ネフィリア組コンビで嬉しいもる [一言] レ氏さあ……登場する度に苦戦してない?
[一言] 正月から暇してんなこいつら
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