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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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Dreams〜灼熱の球児たち〜

 1.ポポロンの森


 アンパンくんをおぶって人間の里に向かっている。

 途中、ギャンッと俺の頬が裂けてグググと歯が生えた。俺の頬肉からニュルンと舌が生える。お喋りウッディだ。生え揃った歯列をガチガチと打ち鳴らして具合を確かめてからウッディが言う。


「ネフィリアは機嫌が悪かったな」


 お喋りウッディは俺と同じ声をしている。自分の声、というのをウッディは知らない。初期段階では宿主の口を動かして喋るから、声質を変えると気持ち悪いのだろう。

 アンパンくんが自分に話し掛けられたと勘違いして「へ?」と間抜けな声を上げる。


「ネフィリア? ネフィリアがどうしたの?」


 俺とウッディはアンパンを無視した。

 不機嫌だったな。あの女はたまにああなる。まぁアポなしで突撃しちまったからな。


「シンイチ。分かってるだろう。あれはポーズだ」


 そうかな。そうかもな。結論がおかしかったもんな。


「あの女はひねくれ者だからな。機嫌がいいとそれを表に出すまいと不機嫌なふりをする。よほどお前の働きぶりがお気に召したらしい」


 ガチ勢とまったり派の件かな。嫌だねぇ。他人が喧嘩してるの見て喜ぶなんて人格が歪んでるよ。人間ああはなりたくないもんだ。


「ネフィリアは闇の勢力とお前の接点を増やし、既成事実を作ろうとしている」


 上位個体にガムジェムを与えて新スキルを解放するのは我ながらいい案だよな。てかガムジェムの使い道を考えたら普通はそうなる。既成事実か。だがそうは問屋が卸さないぜ。うっかりアンパンくんを連れて行って俺の印象を薄める作戦だ。

 ウッディとお喋りしている俺の肩をアンパンくんがバンバンと叩いてくる。なんだよ。構って欲しいのか?


「自分と会話するのやめて! それめっちゃキモい! なんか前よりスムーズになってるし……」


 同じ口を使ってるとどうしても舌がうまく収まらないからな。ほら、頬に口が生えてるだろ。俺とウッディの新しいスタイルだぞ。くいっと首をねじって俺たちのニュースタイルを見せてあげた。ウッディの歯列がギラつく。アンパンくんは「キモいキモいキモい!」と連呼した。


「そっ……! えー? それ人間がやっていいことなの?」


 うるせえな。黙ってろ。ケツ揉むぞ。

 俺はもう見た目が女なら誰でも良かった。ネカマは嫌などという次元はとうに超えている。リアル男だから何だと言うのか。オフ会やるでもなし。いや、リアル美女とオフ会して「ステキ!抱いて!」ってなるのは望むところだが、俺の場合身バレは即命取りになりかねない。さしもの俺もリアルの命は惜しい。つまりオフ会はしたくてもできないので別に中身が男でも一向に構わないという究極の結論に至っていた。俺はホモなの? 結論が究極すぎてアバターリアルが追いつかない始末である。悪いのはネカマだ。見た目と仕草が女なら単なるオレっ娘じゃねーか。

 まぁアンパンの野郎に萌えるほど落ちちゃいないがね。背中に当たる柔らかい感触もそれがアンパンのものなら冷静で居られた。揉んでもOKなら遠慮なく揉むけど。もはや自分でも自分がよく分からなかった。

 つーか、なんで俺がおんぶしてんだよ。自分で立って歩けよ。


「旦那が勝手におんぶしたんでしょ。俺は知らないよ」


 はぁ? なんだよ。まだ根に持ってるのか?


「俺はね、ログインしたらいつもその日の気分で服装を決めるの。旦那が強引だからログアウトした時のままの格好じゃんか」


 へいへい、悪ぅござんしたね。お前の楽しみにケチを付ける気はねえよ。今度何か奢ってやるから許せ。


「仕方ないなー」


 俺は許された。しかしおんぶは続行した。俺とアンパンは昔からこんな感じだ。会話に意味はない。アンパンが降りたそうな仕草をしなかったから俺も降ろさなかった。文句だけは言う。降りろってのウゼーなぁ。よっこらせとアンパンを担ぎ直してダラダラと歩いていく。

 行き先はネフィリア率いる闇の勢力の中でも一番のタカ派だ。どう転んでも真っ先に文句を言う連中なので、そいつらを黙らせれば全部片付く。レイド級候補に有力な上位個体を生かしておくというのは悪いアイディアではないからだ。

 しかしアンパンくんは俺とは異なる見解を持っているようだった。


「どうかなー。上位個体の魔石はカートリッジの核だよ。人間を丸ごと作り変えるのはね、普通の魔石じゃできない。レイド級は一定の品質の魔石しか落とさないし。ガムジェムで保護されてるんじゃないかな」


 ほぉー。つまり実質的に最高品質の魔石をドロップするのは上位個体ってことになるのか。随分と詳しいな。まるで魔石博士だ。

 俺はタカ派のクランハウスに乗り込みながら物知りなアンパンくんを褒めてやった。


「へへー。旦那がツヅラちゃんを【巫蟲呪画】に使いたいって言ってたからね。勉強したんだ」


 嘘吐け。人体改造に興味があるんだろ。ヤバいクスリだけじゃ満足できなくなったか。

 アンパンくんは廊下ですれ違うゴミどもに手を振って愛想を振り撒いてから俺の言葉に唇を尖らせた。


「ちょっとー。決め付けはやめてよね。旦那は言い方が悪いよ。俺はみんなで楽しく遊ぶのが好きなの。俺は薬屋だからね。快楽をコントロールできればみんな幸せになれるじゃないか」


 すっかり歪んじまって……。ネフィリアはとんでもない怪物を生み出したな。

 ハイ、ちょっくらゴメンなさいよ。タカ派の連中は正月から宴会をやっていた。マナポ産業がオイシ過ぎて笑いが止まらないようだ。アルコールが入って陽気に笑っているゴミどもをひょいひょいと躱してゴミの元締めの横に座る。

 元締めも例外なく酒が入っており、赤ら顔でガハハと豪快に笑って俺の肩をバンバンと叩いた。ぐいっと盃の酒を飲み干し、


「ぷはっ。うえっへっへ。魔女も地に落ちたな! あんな小娘どもに何ができるよ? ネフィリアを追い落としてェ〜天下を取るのはこの俺だァ! オメェーら俺に付いて来い! イイ目を見してやんぜェー!」


 酔っ払ったゴミどもが「お頭ー!」と喝采を上げる。ドコの山賊だよ。

 ……まぁ【ギルド】側に付こうなんて人間にろくなのは居ない。

 なお、ネフィリアの下に付いた連中の幹部は漏れなくネカマだ。元々は男キャラだったのかもしれんが、表向きにでもネフィリアに忠誠を誓った以上は女キャラになるのが最低限の礼儀だった。整形チケット一枚で無駄な恋愛沙汰を回避できるのだから安いものである。そんな簡単なことすら分からないようでは幹部になれない。

 人呼んでネカマ八曜。

 ネカマ八曜きっての武闘派は手下の喝采に気を良くして俺の肩をバンバンと叩いてくる。俺は空になった盃に酒を注いでやった。


「おぅ、すまねえな。楽しんでるかぁ? オメェーも飲めよ。堅苦しいのはナシだ。俺ぁ〜オメェーらのことを家族の一員だと思ってるんだぜ……。ががが崖っぷちゃァー!」


 い〜いリアクションを頂きましたぁ……。

 オッスおらコタタマ。

 俺の悟空モノマネにアンパンがけらけらと笑う。アンパンくんはビビりだが、俺と一緒に居る時は強気になるのだ。

 元締めは俺と盃を見比べてから、ひとまずぐいっと盃の酒を飲み干した。ぷはーっと酒臭い息を吐いてから、中枢神経が麻痺しているらしく時間差でナイスリアクションを連発した。


「なななナニしに来たテメェー!?」


 幹部の一人ともなれば使える手下の一人や二人は居る。参謀役のクールキャラが千鳥足で俺に向かって歩いてくる。俺へと突き付けた人差し指はふらふらと焦点が定まらず、頭にはネクタイを巻いていた。何を言おうとしたのか忘れたらしく、俺の前にすとんと足を崩して座った。深々とお辞儀をしてくる。


「新年、あけましておめでとうございます」


 あけおめ。

 今のコイツらに何を言っても無駄なので、俺も酒を飲んだ。

 ぷはっ。よう、八曜の〜。いい酒じゃねえか。大分羽振りがいいみてぇだな、ええおい? マナポ産業でぶくぶく肥えやがってよォ〜。どんだけちょろまかしてんだオメェーはよォ〜。


「放っとけぇ。崖っぷち〜。ネフィリアの遣いかぁ? てめ、テメェーはどの、どの位置に居るんだよォ〜。俺よりテメェーは偉いのか? どうなんだよォ〜。……おい、待てぇ。飲みすぎだ。テメェーは酒そんなに飲めねぇだろ……」


 バカ言えぇ! 俺は吠えた。こんなもんアレだ、アレ……。アレと変わんねえよ。


「水?」


 水? 水がどうした。おら、アンパン。オメェーも飲め。

 元締めが三度素っ頓狂な声を上げた。


「アンパンっ! テメェーもしや毒を!?」


「なんなの、そのイメージ。俺はネフィリアに言われて仕方なくだよ。仕方なく……聞いてる?」


 聞いてなかった。元締めはだらしなく口を半開きにして俺とアンパンをぼんやりと見つめている。


「……コイツら二人揃ってるとネフィリアの気持ち分かるわぁ〜。もう、なんかろくなことしねーなってオーラあるもん」


 ンだとぉ? 俺はバッと服を脱ぎ捨ててパンイチになった。座り直して酒を飲む。何の話をしていたのか忘れた。そもそも俺は何をしにここに来たんだ……?

 おっ、アンパンが居るじゃねーか。やい、アンパン。A-5の件はどうなった?


「いつの話をしてるの。A-5は旦那が湖に全部ブチ撒けたでしょ……」


 あ? オメェー……あんなモンばら撒いたら大変なことになるぞ。たくさんの人が死ぬ……。何してる! 俺を止めろ!


「なんなのこの酔っ払い! 急に正義感に目覚めた! そんな酔い方ある!?」


 まぁまぁ。そう怒鳴るな。飲めって。お酒飲んで酔っ払っちゃえ。た、た、た、楽しいねェー!

 わっはっは。わっはっはー。俺は元締めと肩を組んで身体を揺すった。嫌がるアンパンとも肩を組み、人の輪を広げていく。

 そこから先の記憶はない。



 2.翌朝


 目が覚めると、俺はアンパンと元締めに腕枕をして寝転がっていた。えっ、事後? 一瞬ビビッたが二人とも着衣の乱れはあるものの服を着ていたのでホッとする。む、俺の服がない。俺の服はどこへ行った。

 アンパンを揺り起こして聞いたところ、俺は酔った勢いで「服なんざ要らんのじゃ〜!」だのと吠えてレーザー光線のフルバーストで服を焼却したらしい。マジかよ。俺、何かってーとすぐにパンイチになるな。腹芸の痕跡も見受けられる……。くにっと腹を曲げると落書きの【目口】さんがニコッ笑った。いつの時代の酔っ払いだよ。

 まぁないものは仕方ない。俺はパンイチでタカ派の元締めとの交渉に入った。

 元締めは何故か俺と目を合わせようとしない。


「上位個体ねぇ……。お前の言うことはもっともらしいけどよぉ。肝心のガムジェムにアテはねんだろ? それともマーマレードが持ってるヤツを使うのか?」


 無理だな。ティナンにゃ勝てねえ。だがガムジェム探索クエストってのがあったよな。あれはどうなった?


「ありゃあ金を回すための方便だろうよ。仮にどっかに転がってるとしたらとうにモンスターの腹の中だ」


 だろうな。となればレイド級を生かしたまま解体するか、ティナンから奪うか。二つに一つだな。なんでも俺らっトコの王族は特別強いらしい。運命の子なんてのも居る。ロマサガ3かよ。不吉ったらありゃしねえ。


「で、アテはねーんだな?」


 ちっ、分かったよ。俺は何をしたらいい?

 元締めはニヤッと笑った。


「無茶は言わねーさ。ヘタにお前を突付くと何されるか分かんねーからな。互いにとって利益になる話をしようや……」


 元締めの話をまとめるとこうだ。

 元締めはネカマ八曜の中でも頭一つ抜けた存在になりたいらしい。ゆくゆくはネフィリアを出し抜くつもりで居るが、それは今すぐでなくともいい。というかネフィリアは頭が回るので、正面切って争うつもりはないようだ。

 ネカマ八曜で存在感を示すには、味方を増やして勢力を伸ばすのが一番だ。そのためには手柄が要る。

 元締めはこう言った。


「俺らは砂漠マップの攻略に乗り出すつもりだ。【歩兵】を連れて厄介なミミズを撃ち殺してやる」


 好きにすればいいじゃねーか。


「だがモンスターは強ェ……。そう簡単には行かねーだろう……。俺はタカ派で知られちゃいるが、そんな俺にだって情はある。ウチの【歩兵】にあんまり無茶なことはさせたくねえ。……マナポ産業は金になるが、心にクるんだ。どうしても【歩兵】に甘くなる。ウチのモンは全員そうだ。無茶をさせれば反動が来る。そこで崖っぷちよ。お前の出番だ」


 なるほどな。【歩兵】の前じゃいい子ちゃんぶるお前の手下を軽く人格改造すればいいのか。そういうことなら俺に任せな。良心なんつークソの役にも立たないモンをキレーに取り外して外付けHDDにしてやるよ。


「ヤメロ。お前の同族にしろとは言ってねえ。そうじゃねーよ。砂漠マップを内側から切り崩す。お前には曜日ダンジョンを攻略して貰う。方法は任せるが、話にゃ聞いてるぜ。お前、曜日ダンジョンのバイト連中と親しくしてるらしいじゃねーか。パウンドガイズだったか……?」


 ……砂漠マップの女神像は流砂に埋まって常に動き回っているらしい。曜日ダンジョンは砂漠の地下にあり、両者の間には何らかの関係性があると噂されている。

 プフさんのテコ入れによって曜日ダンジョンは難攻不落の要塞と化した。まともに戦っても勝算は薄い。俺から口利きしても冒険者の味方をしたゴブリンはクビにされるだけだろう。敵対した上で打ち破って先に進むしかない。

 考えられるとすれば……。

 パウンドガイズ曜日ダンジョン杯だ。


 もるるっ……。俺は悲しげに鳴いた。

 俺のパウンドガイズプロマイド集が火を吹く時がやって来た……。

 ドリームチームの結成だ。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 熱砂の下を熱い風が吹く……。



 GunS Guilds Online


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― 新着の感想 ―
[一言] みんなでがみんなを使ってに見える… いや、前後の文脈からすればそうではない…筈だ… 下手しなくてもコタタマよりヤバいよね? コタタマは多方向にヤバいけどアンパンは一本筋が通ってるもん。
[良い点] 魔族同士の会話怖すぎて笑った でもアンパンくんの理念(世迷い言)好きだよ
[一言] 私はアンパンくんで構わん!! 純粋培養悪意すき
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