そして日常へ
1.クランハウス-居間
スマイルくんが完全復活した。
冒険者ギルドの社長に復帰したスマイルくんは休暇中の遅れを取り戻すように精力的に活動しており、アメリカサーバーに遠征して君主のジョブを、と言うよりエリアチャットを取り戻す計画まで立てているらしい。君主に拘る必要はないのだ。俺が流れるようにロストした所為で詳細は不明のままだが、カーディナルというクラスが存在することは判明している。カーディナルは枢機卿のことだ。一般的な会社で言う副社長のことで、ささやき魔法の段階解放は社会的なヒエラルキーに準じたものであると予想されている。副社長クラスの役員がエリアチャットを使えないのはむしろ不自然だ。
スマイルくんはサトゥ氏に敗れたことで精神的に脆い部分を晒してしまったが、ドンドン人間離れしていくサトゥ氏を見ていると、スマイルくんの脆さは共感を呼ぶ面もあった。種族人間は何の特徴もない種族なので空気を読む程度の能力はある。分かりやすく言うとマジンガーの兄貴だな。あそこまで自由だと、それは個性になる。群れを作って外敵に備える生き物が種の保存を優先するのは当たり前だ。結局のところ種族人間は考えれば当たり前のことを実行に移すだけの生き物なのだ。それが気に入らないってんで一部の人間は非行に走る。それすら当たり前のことだ。どれだけイキっても種族人間は既存の枠組みを越えることはできない。世界を変えてやろうと本気で勉強するヤンキーが現れることはない。そんなのは漫画だけだ。何故なら勉強はつまらないからだ。それが種族人間の限界なのである。以前に先生が言っていた通り、国家という枠組みを超えた世界大統領の誕生が一つの境界線なのだろう。しかし断言できる。地球という惑星を統べる人間が生まれることはない。国家というカテゴリーが人間の限界なのだ。それ以上のことは処理できない。仮に政界に圧倒的なカリスマを備えたスーパースターが生まれたとしても、そいつの言うことに外国は従わない。当然のことだと誰もが思うだろう。政治はそんな単純なものではないと言うだろう。その「当然」が種族人間の限界なのだ。俺程度のアホでもそんなことは分かる。俺は決して天才ではないから、俺程度にも思い付くことはその他大勢の意見なのだ。突飛な発想でも何でもない。
小面倒臭く、語るだけ無駄な政治の話に持って行った俺をミドリは無視した。
「コタタマくん凄ーい!」
だろ?
……ウチの丸太小屋に乗り込んできたアオくんとミドリさんの対応をしている。
ミドリさんはクソ長い俺の話を完全スルーして言いたいことだけを言った。
「今の隊長キレッキレだよ〜。動きが違うもん。たまに変になるけど」
ほ、ほう。たまに変とは?
アオくんは無言でじっと俺を見つめている。
「…………」
「独り言が多くなったかな〜。独り言って言うか技の解説? あと、ちょっと優しく?なったかな。急に今のは良かったとか褒めてくるの。正直ちょっとキモいよね。あははっ!」
ミドリさんは朗らかに笑った。他人の話を無視できるのは一種の才能だ。ミドリはβ組ではないが、地獄のチュートリアルを乗り越えた初日組にはこういうヤツがごろごろ居る。つまり俺の手には負えない連中だ。
反論したくなる話題を振ってやったつもりなのに、ミドリさんは俺の長文レスを完全に無視して話を進める。隣に座っているアオくんにぱたぱたと手招きをして、
「アオも戻っておいでよ〜。今の隊長キレッキレだから」
だがアオくんは完全に標的を俺に絞っていた。ボソリと言う。
「……たまに変とかいうレベルじゃねえぞ」
チャンスだ。俺はスマイルくんの現状を知らない。関わり合いになりたくなかったからだ。時間が解決してくれると思っていたのに、アオくんとミドリさんの電撃訪問に出鼻を挫かれた。今はとにかく情報が欲しかった。事前調査すれば済んだ話ではあるのだが、そんな面倒臭いことはいちいちやってられなかった。俺はキレーなチャンネーときゃっきゃしたくてこのゲームをやっているのだ。しち面倒臭ぇことはどうしても優先順位が下がる。
そんな俺を過大評価しているらしく、アオくんは無防備に今のスマイルくんの有様を俺に教えてくれる。
「神棚に先生の像を飾るのは……まぁいい。いや良くはねえが……布教してくる訳じゃねえし、実害はねえ」
スマイルくんの中で先生の木彫り像は「あっても損はしないもの」という位置付けに収まったようだ。古今東西、狂信者というのはそうやって生まれる。ヤバい宗教にハマっていると自覚できるようなら、そもそも身銭を切ったりはしない。それは無宗教の日本人がゴミをきちんと持ち帰るのに似ている。マナーと宗教は紙一重だ。いや、同じものだと断言してもいいかもしれない。
そんなことはないとでも言ってくれれば話を逸らせたのだが、アオくんは俺の思惑に乗ってくれなかった。
「なんつーか……見えちゃいけねえモンが見えてるぞ、あの人。病院だろ」
アビリティかもな。
「なに?」
俺は観念したふりをして嘆息した。
スマイルの旦那のアビリティは何だ? お前ら知ってるか?
「……知ってても言わねえよ。俺は別にお前の味方って訳じゃねえんだ」
知らないんだな? そこだよ。
俺はぺらぺらと口を回した。
旦那はβ組だ。さぞ強力なアビリティを持ってるんだろうと思って見てても特にそれらしい素振りはなかった。おかしいだろ。強力なアビリティってのは隠せねんだ。まぁスマイルの旦那は何やらせても一流だからな。常時発動の基礎ステータス向上辺りが妥当かもしれねぇなと思ってた。中国サーバーの怪物、白龍ってのがそんな感じだったらしい。覚醒だったかな。地味ながら確実に成果を出すアビリティってのもある。スマイルの旦那もそのクチなのか……そう思ってた。でも実は違ったのかもな。
「テメェ、隊長に何をした」
俺が思うに、旦那のアビリティはサトゥ氏のそれと対になるスキルだ。アビリティってのは他者の認識による。スマイルの旦那と言えば、有名なのはサトゥ氏との確執だ。そこら辺が影響したんじゃねえかな? つまり自動発動型の、成長するタイプのアビリティなんじゃないか。それなら辻褄が合う。ここに来て急成長したのはお前らが旦那を見捨てたからだよ。旦那も可哀相になァ。腹心のお前らに捨てられて心の拠り所を求めたんだろう。最後に頼れるのは自分だけ。そんなふうに思っても不思議じゃねえ。だが旦那はそこら辺の凡百なプレイヤーじゃねえからな。当然のこと、一人でやれることなんざ高が知れてるなんてのは百も承知よ。だから作った。何があっても裏切らないもう一人の自分をな。そんなトコだろう。いや、自分自身とは限らねえか。技の解説をするって話だったな。成長するアビリティ……。現段階じゃあまだ赤ん坊みたいなものなのかもな。そいつは多分スマイルの旦那にしか見えない。サトゥ氏のブサイクな人形な、あれは憑かれた本人には見えないらしい。そういうタイプのアビリティは多いとか言ってたぜ。だったら逆に憑かれた本人にしか見えないアビリティもある筈だ。
俺はアオくんの罪悪感を刺激しつつもあり得そうで、かつ上辺だけ見ればそう簡単には露見しない偽証を重ねた。
スマイルくんは病院に行ったほうがいい。アオくんの言うことはもっともだ。しかしそれは俺に累が及ばないよう期間を置いてからにするべきだと俺は考えている。スマイルくんのためにがんばった俺が全ての罪を着せられるのは可哀相だし、公序良俗に反すると思ったからだ。
「ルリイエって誰だよ」
ルリイエってのは。
俺はミドリさんが余計なことを言う前にアオくんの素朴な疑問を拾い上げてやった。ミドリさんは俺が女キャラに扮してスマイルくんのケアに当たっていたのを知っている。俺は素早く言葉を継いだ。
ルルイエのことかな? クトゥルフ神話に出てくる架空都市のことだ。アトランティスとかムー大陸みたいなもんだよ。
「……随分と詳しいじゃねえか。そりゃあ一般常識の範疇に収まるもんなのか?」
俺はアオくんの説得を諦めた。今のコイツには何を言っても無駄だ。完全に俺を犯人だと決め付けている。そしてそれは一面の真実なので否定することは難しい。俺は矛先を変えた。ミドリさんに話を振る。
アオは意地っ張りだからな〜。スマイルの旦那と和解するにはきっかけが要るだろう。俺がお膳立てしてやるよ。
……アオとミドリは対等の関係だ。ミドリが言うことにアオはある程度の不満は飲み込む。部外者の俺には強く言えるってだけだ。
案の定、アオはミドリをチラリと見た。ミドリがスマイルくんにセクハラめいたことをされた件は聞いているのだろう。甘い甘い。そういうところから足が付くんだ。お前は女キャラを蔑ろにはできない。硬派を気取りやがって。お前はそういうヤツだよ。
水面下で火花を散らせる俺とアオをよそに、ミドリさんはどこまでも自由だ。スマイルくんとアオくんの仲を取り持ってやろうかと提案した俺に嬉しげに手を打ってメチャクチャなことを言ってくる。
「それ、いい! ついでに隊長とサトゥくんが仲悪いのも何とかして?」
可愛くおねだりされても困る。あの二人は互いに強く意識し過ぎていてどうにもならない。ヘタに手出ししたら余計に拗れるまである。もう言っちゃうけど、あいつらは理想の自分に突っ掛かってるだけなんだよ。スマイルの旦那は器用貧乏な自分を自覚していて、誰にも真似できない何かが欲しいんだ。サトゥ氏がそうなんだよ。サトゥ氏にしたってそうさ。あいつの言う余計な感情を捨てたマシーンってのは、まんまスマイルの旦那のことじゃねーか。あいつらは言葉じゃ互いのことを否定しつつも、サトゥ氏はスマイルを、スマイルはサトゥ氏を手に入れようとしてるんだ。どうにもならねーよ……。よくもまぁあそこまで拗れたもんだ。いっそ感心するね。分かるか? 俺の言ってること。サトゥ氏もスマイルもやたらと俺を勧誘してくるだろ。それは妥協なんだよ。本当に欲しいものが手に入らないと分かってるから俺で手を打とうとしてるんだ。失礼な話だよな。
アオくんがギョッとした。近くに居ては逆に見えないこともある。俺の言い分に納得しそうになったのだろう。
「……そんな単純な話じゃねーと思うが……。お前はそれなりに使えるプレイヤーだ。先生の近くに居るってのも大きい」
どうあっても俺を認めようとしないアオくんが俺のことを認めるような発言をした。言ったな? 思わぬ収穫に俺は内心でほくそ笑んだ。吐いた唾は呑めない。一度でも口にしたことは撤回できない。俺のようにテキトーに生きてればそうでもないが、アオは性格上無理だ。そういうのは言葉の端々に出る。スマイルくんの言ったことを律儀に覚えていて、弱みを見せたスマイルくんに我慢ならなかったというのはそういうことだ。
しまった、という顔をしたアオくんを俺はあえて追求しなかった。自覚をしているなら俺からどうこう言う必要はない。気付かないふりをしたほうが有効な場合もある。俺が揚げ足を取ればアオは意固地になって否定するだろう。そうはさせない。自分の言ったことには責任を持つんだ。当たり前のことだよな?
俺はミドリが余計な茶々を入れる前に話を戻した。
俺からスマイルの旦那に言っといてやるよ。今の旦那に俺が変に手助けする必要はないだろ。アオ、覚悟しとけよ? お前がどんなに意固地になっても旦那にゃ勝てねーよ。β組はモノが違う。精々足掻いてみるこったな。
アオくんは言い返せなかった。スマイルくんを誰よりも高く評価しているのはコイツらなのだ。せめてもの抵抗に悪態を吐いてくる。
「チッ……! そりゃあ隊長次第だな。俺はアイツがハッキリと成果を出すまで戻る気はねえ。アイツは部下殺しをやった。そんなヤツに誰が着いて行くってんだ? 謝りもせず、行動で示してやるって態度も気に入らねえ。猿じゃねんだ。そんな簡単じゃねーだろ……」
お前の意見なんざどうでもいいんだよ。オメェーはスマイルの旦那にゃ敵わねえ。俺はそう言ってる。だったら意地を張るのはやめてお前から復縁の話を持ってくのはアリだ。アオよ。お前に欠けてるのはそういう視点なんだよ。俺がどうもお前を上に見れないのはそういうトコだ。天下の初日組を捕まえてよ〜、こんな話をしてる時点でおかしいんだよ。気付けよ。そりゃあ俺はちょっとばかり頭が回るかもしれねえよ。けど俺は初日組じゃねえ。地獄のチュートリアルを体験してねえ。動画を閲覧したからって何が分かる? 何も分かりゃしねえさ。お前らの経験は安くねーんだ。意地を張る場面は選べよ。お前の考える有能な人間ってのはそうしてる筈だぞ。
時間だ。お前ら帰れ。
俺にも予定ってモンがある。俺はアオミドリを帰した。ったく、どいつもこいつもアポなしで攻めて来やがって。俺は風俗嬢かよ? 指名でコタタマちゃん空いてる?じゃねーんだよ。
赤カブトがこそっと廊下から顔を出した。
「……呼んだ?」
呼んだ呼んだ。俺は素早く赤カブトの腰に腕を回してソファに誘った。
「な、何? 私、もうお姉ちゃんだし、そういうのは、えっと、うん……。あんまり、ね?」
いやいやいやいや。まぁまぁまぁ。
……マグちゃんが来る前、ウチの末っ子ポジは赤カブトだった。となれば、三女ポジに繰り上がった赤カブトは不満の一つや二つはあるだろう。その辺りのケアはママの仕事だと俺は思う訳だ。放ったらかしにしても良いことなんて一つもないだろう。
俺は赤カブトに優しく声を掛けた。
最近どうだ? ん? お前は何かとマグちゃんに気を遣ってるようだが、俺からしてみればお前らは二人とも可愛い娘だからな。具体的にはアレだ、近頃俺とそういうアレしてないよな? もう言っちゃうけど、俺の理想は日替わり定食なんだよ。これ前にも言ったよな? だからさぁ、お前が身を引くってのは違うんだよな。まぁ大切な時期ってのは分かるよ。何事も最初が肝心って言うよな。お前がマグちゃんを大切にしてるのは分かる。でも、だからって俺はお前を蔑ろにしていいと思わないし、何ならマグちゃんのためにがんばってるお前にはご褒美が必要なんじゃねえの?とすら思うのよ。いや、分かるよ? お前はポチョとスズキを手本にしてるんだろ? けど、お前ん時ゃ俺はガチで記憶喪失入ってたからな。状況が違う。
なあ、ジャムジェム。お前とマグちゃんの距離感は家族そのものなんだよ。近しい相手にゃ遠慮無用だから反発することもある。母ちゃんに風呂入れって言われると、あん?風呂?ってなるのと一緒だよ。風呂なんか別に言われんでも入るのにな。そういうのを計算に入れるのは俺やお前じゃ無理だ。先生に頼れ。先生の言うことを聞いときゃ間違いないんだよ。だったら俺やお前が一番にやるべきことは先生の負担を減らすことなんだよ。この理屈、分かるか?
「……分かるけど、私は」
全部が全部そうしろとは言わねーよ。お前なりにマグちゃんと遊びたいって気持ちもあるだろう。それを我慢しろとは言わない。でもな、家族だからこそ不利になる場面もあるんだ。それは頭に入れとけ。仲良し家族ってのも居る。お前が目指すべきトコはそれだ。具体的には先生に聞け。お前も薄々は勘付いてるだろ。先生はリアル教師だ。大学の教授がいい線じゃねーかと俺は思ってる。あの人のレベルになると分かんねーけどな。リアル凸されないよう何らかの対策はしてるだろう。ログイン時間を意図的にバラしてるかもしれない。信じられるか? アップデートがあってもブレないんだ。それはもうゲーマーの領域を越えてる。俺には先生のことを読めない。そういう人が俺らのクランマスターなんだよ。ハッキリ言ってポチョやスズキにお前は先生のことを侮ってるぞ。いつも忙しそうにしてるから遠慮してるだろ。まぁ先生からしてみれば先約を優先せざるを得ない。俺も悪い。俺が先生の肩代わりをできれば大分違うだろう。けど俺は、まぁーブッ殺して終わりみたいなトコあるからな。悲しいことだが、先生はチワワの世話やら他のクランとの付き合いを俺に委ねてくださることはそうそうないだろう……。まぁ俺は俺なりにね、先生の邪魔をするゴミどもを片付けたりはしてる。先生が光なら俺は影でいい。俺は【ふれあい牧場】の幻の六人目なんだ。
「幻って言うか……ペタさんが濃すぎて私たちはあんまり目立たないってよく言われるけど……」
それは、まぁ視線誘導しててもボールに掌底浴びせてたら目立つよねっていうのはあるよ。場合によっちゃ一回転するからね。黒子のバスケ知ってる? お前、スズキから漫画借りて読んでるだろ。あいつのスマホは状態2だからな。電子書籍なら引っ張り込める筈だ。
「内緒〜。ホントはやっちゃいけないことなんだって」
すでに自白してるも同然だが……まぁいい。とにかく、俺はマグちゃんと同じくらいお前に目を掛けてるからな。それだけは言っておきたかった。
「……同じくらいなの?」
赤カブトは妙に艶っぽく笑った。隣に座ってる俺の太ももに手を置いて俺の目を覗き込んでくる。自然と身を乗り出すような姿勢になって、襟から白い肌が覗いて見えた。
「私に変なこといっぱいしたのに。……マグちゃんとできないこと、私とはしていいんだよ?」
……そんなこと言って俺のこと殺すんでしょ?
「……殺して欲しいんだ?」
……やっぱり俺の翻訳機能ブッ壊れてンのかなぁ? これ俺側の問題なの? この手の話になると急に文脈がおかしくなるんだよね……。
甘ったるい空気に誘われるように赤カブトさんが俺の手を引いてくる。
「来て。ペタさんの好きなこといっぱいしてあげる。今日は私が上になってちっちゃくなってもいいよ……。スズキさんといつもしてるみたいに」
もう完全にそういう雰囲気だったから、そういうことなんじゃないかと俺はどうしても一縷の希望を抱いてしまう。
赤カブトさんのお誘いに「殺さないで欲しいんだが……」などとボヤきながらも手を振り払えないでいるのは、心のどこかでそういうことを期待しているからなのか、それとも赤カブトの喜ぶ顔を見たいからなのか、判然としなかった。
部屋で二人きりになると、赤カブトさんは窓のカーテンを閉めて俺をベッドに押し倒した。俺は拒まなかった。
カーテン越しに朝日が仄かに室内を照らしている。床に置かれたぬいぐるみは何かの儀式のように整然と配置されていて、光の谷間に落ちた陰影が、彼らの無垢な瞳を妙に大人びて見せた。外界から閉ざされた部屋に、しゅるしゅると衣擦れの音が響き、赤カブトのミニスカローブが膝下まで落ちてくる。
俺は動揺した。今にも折れてしまいそうな赤カブトの頼りなく細い手足に見てはいけないものを見てしまったかのような罪悪感を覚えて目を逸らす。ま、待てって。さすがにそれは。NAiが見てる……。
「そのほうが興奮するんでしょ?」
靴を脱ぎ、ベッドの上に膝立ちになった赤カブトさんが俺に覆い被さってくる。
ギシギシとベッドが揺れる……。
これは、とあるVRMMOの物語。
私をダシにするのやめてくれます?
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