命の値札プライスレス
1.ミスコン会場-勇者の血を引くもの
俺はしばしば男キャラはダメだの存在価値がないだの言ってきたが、その理由の一つに挙げられるのがおっぱいだ。
例えば物語の主人公が苦難の末にヒロインを救出したとする。あまたの試練を乗り越えての再会だ。抱擁の一つや二つはするだろう。そこにヤラシイ気持ちはない筈だ。しかし動かし難い事実としておっぱいは身体の正面にあるので、抱きついたらおっぱいが押し付けられる訳だ。もう二度と離さないという気持ちを込めて強く抱きしめたらより密着するのは必然であり、ごくありふれた自然現象として押し付けられたおっぱいが逃げ場を失っていくことになる。
バランス党に所属している俺が党内でも巨乳派と目されているのは、その逃げ場を失ったおっぱいの感触が多幸感を与えてくれるからだ。俺は下心を感じさせない動きでポチョを強く抱きしめておっぱいを堪能した。細い腰に腕を回してガッチリ固定しながら復活したテンションでマイクを口元に寄せる。おっぱい効果は大きい。カラオケでビジュアル系バンドのサビに突入した時ばりのマイク角度だ。マイクと小指がぴんと立ち、俺は天へと挑むようにシャウトした。
「さぁー! 始まりましたGGOに輝く一番星を決めるこの大会! 我こそはと名乗りを上げた勇気ある選手が総勢13名! 飛び入り参加してきたモモ氏は運営の刺客にして今大会屈指のビジュアルと言えるでしょう! ギルド化した%という設定も目を引く注目株です! 解説のポチョさんどうでしょう?」
「え、私? 私はー。2番の子がいい。ちっちゃくて可愛い。ウチのスズキみたい。コタタマは?」
甲乙つけ難いですねー! というか俺は司会者なので! 個人的な感情は秘めておきたいと思います!
モモ氏についての説明が欲しかったのだが……会場には新規プレイヤーも居る……説明は早いほうがいい……俺は素早く計算しながら話の流れを頭の中で組み立てた。
つーか会場のポチョ人気が凄い。観客席から「ポチョさーん!」とか声援が飛んでいて、そいつとセットで俺に矢がびゅんびゅん飛んでくる。もののけ姫のアシタカばりの強弓だ。それらが秒単位で切り替わる魔法環境の洗礼を浴びて失速、あらぬ方向に吹っ飛んでいく。種族人間はスキルの使い方がヘタクソだ。もっとも使い慣れているだろう【スライドリード】ですら嫌がらせの【八ツ墓】が頻発する状況下では使い物にならない。
ゴミどもの大半は観客席に残って様子見をしている。モョ%モ氏の固有スキル【重撃連打】はすでに解放されており、積極的に戦う理由などないのだ。しかしサトゥ氏の言う、クァトロくんを若社長の手から救い出す唯一の手掛かりという理屈は正しい。劣勢と見れば参戦してくるゴミも居るだろう。そうなれば【八ツ墓】の頻度は減少し、熟練者は魔法環境変更の切れ目を狙って動き出す。それまでは安全ということ。
俺は盾を持って待機しているスタッフに目配せをしながら司会を続ける。
解説のポチョさんイチ推しのエントリーNo.2はロリっ娘ですね。このご時世です。他のネトゲーではロリ一強の牙城を崩せずにいるというのが実情ですが、このゲームでは何しろビジュアルがリアルなので、ガチっぽく見えてヤバいのでしょう。ロリ勢が割と大人しい印象です。俺の体感では全体の二割といったところか。通常であれば四割は固いです。
ロリっ娘の魅力というのは〜……おっと仕掛けた。【敗残兵】十八番の空中殺法。大人にだって負けないというひたむきさ。しかしモモ氏強い。掴んで落とした。いや、殺さない。遊んでいる。それならばとゴミどもが参戦。律理の羽とかいう反則臭い武器を警戒していた模様。必殺の飽和攻撃を仕掛ける。満員電車を再現してモモ氏の身動きを封じる作戦か。あ、ダメだ。全滅した。反則臭い金属片の乱れ撃ちだ。おや、ロリっ娘は無事だ。どういうことだ。一人だけ扱いが違うぞ。しかし足場がない。血の海だ。スタッフが清掃に入る。が、ロリっ娘が戦闘再開。ゴミを踏んづけて跳ぶ。こんなことは日常茶飯事と言わんばかりの安定した動き。物理アタッカーのNo.2果敢に攻める。一対一の戦い。モモ氏の手札を晒すのが狙いか。
ポチョに解説の自覚が芽生えた。俺のマイクにしがみ付いてロリっ娘の健闘を称える。
「メガロッパがんばれ! あなたががんばってるの私は知ってるよ! 私のほうが強いけど、いつかあなたなら私にだって勝てるよ!」
ロリっ娘の表情は苦々しい。持ち前の負けん気がもたげたか、小さな唇を吊り上げて気丈に笑う。
「天才め」
その言葉には対抗心以外の何かが混ざっていた。俺の知らないところで色々とあったのだろう。MMORPGにはプレイヤーそれぞれにドラマがある。罵り合って、殺し合って、けれどプレイヤーの命は軽いから、悪意も善意も薄くなる。それゆえに様々な感情を抱く余裕がある。
ポチョの応援が、応援された本人にしか分からない意味を持つこともある。
カッと大きく目を見開いたロリっ娘が【八ツ墓】の間隙を突いて【スライドリード】を発動した。無詠唱。速い。いや巧い。シフトチェンジと慣性制御、部位別使用と残像効果、近接職の最先端技術を詰め込んだような動きだった。
モョ%モ氏のカウンターにロリっ娘の残像が霧散する。稲妻のエフェクトが走る。残像が一斉にモョ%モ氏に迫る。【スライドリード】の消音効果により実体を特定できない。これは入る。
黒い金属片が結集する。追い込まれればモョ%モ氏は律理の羽に頼る。当たり前のことだから当然読んでいる。ロリっ娘が剣の軌道を捻じ曲げた。それ相応の負荷はあるが、レベル上げで作った強い身体がある。黒い金属片の隙間を縫ってロリっ娘の剣先がモョ%モ氏の喉に迫る。
最後の最後、極限の状態で顔を出すのが種族差だ。生まれ持ったものの違い。努力ではどうにもならない壁。
ロリっ娘の剣はモョ%モ氏の喉を切り裂けなかった。当たりはしたが、それ以上押すことも引くこともできない。ロリっ娘が剣の柄を両手で握って全身に力を込める。びくともしない。
磁力だ。剣は金属で出来ている。磁石が鉄に張り付くように、金属製の武器ではモョ%モ氏の最終防衛ラインを突破できない。
手札を引きずり出されたモョ%モ氏だが、何やら不満げである。
「あまり変わっていないな」
「ううっ……!」
ロリっ娘が剣を手放して殴り掛かる。しかし体術ではモョ%モ氏のほうが上だ。拳を手のひらであっさりと受け止められる。
宙に浮かんだ金属片がゆっくりとロリっ娘に迫る。退路を潰すように念入りに。金属片の先端がねじれ、鋭利な凶器と化していく。ロリっ娘のやわらかな肌に金属片の切っ先が触れ、ぷつりと玉のような血が滲む。
エントリーNo.3が動いた。弾をモョ%モ氏に投げつけて、それ以上は許さないという意思を示す。
No.6のメガネっ娘が苦言を呈した。
「まだ早い。まだだ、セブン。メガロッパはまだやれる。甘やかすな。あいつは幹部だ。まだ仕事が残ってる」
しかしNo.3は強硬に推し進めた。
「俺がやる。メガロッパ、下がれ」
俺はエントリーNo.3の紹介をした。
正統派の美女です。すらっとしていてスタイルが良いですね。ネトゲーではロリ勢に押されてあまり目立たないタイプですが、このゲームでは鞍替えを迫られるプレイヤーも多いのではないでしょうか。顔面コンプレックスを拗らせたお前らは成人女性に苦手意識があるようですが……ご覧ください。問答無用のモデル美女です。萌えというのは大なり小なりニッチな方面に向かうもので、何故かスタンダードな美女に対して萌えとは言いません。美女萌えとか浅すぎですよね。その辺りに萌えという概念を解き明かす鍵がありそうなのですが、要するにお前らの苦手意識が原因なのでしょう。しかし、どうでしょう。実際にこうして目にすると圧巻ですね。簡単に言うと、従来のMMORPGをエロ漫画とすれば、VRMMOはエロ動画なのです。パッケージに騙されたこともあるでしょう。しかし今一度ご覧ください。彼女は俺たちを騙しません。
……モモ氏は動きませんね。レ氏は動き回って乱戦に持ち込みましたが、モモ氏には律理の羽と【重撃連打】があります。攻めあぐねたゴミどもがうろうろしてます。ゴミは尽きません。おや、一部のゴミが地べたに這いつくばって? パンツだ。パンツを覗こうとしている。これはいけません。観客席から大ブーイング。実況のリチェットさーん。彼らのコメントを。
実況のリチェットがたったか走って衆人環視の中で覗きに走った猛者に心境を尋ねる。
「えっと、なんで覗きを? そこまでして見たいもんか?」
「見たいに決まってンだろ。……いえ、援護射撃ですよ。モモ氏がどんなに強かろうがパンツ見せたら負けですからね。これはそういう戦いなんです」
なんという屁理屈。人間のクズです。しかしモモ氏の金属片が迫る〜いや地面を転がって回避した! 素晴らしい反応速度。追撃の金属片であっさり殺されましたが、ゲス行動時の潜在能力は侮れないものがある。恐るべしスケべ根性といったところか。そしてポチョさん顔が近いです。何ですか?
「コタタマもあんまり人のこと言えないよね」
はははははははははは。
俺は笑った。
さぁ仕切り直しです。選手交代でNo.3のモデル系がモモ氏と向かい合う。No.2のロリっ娘はいったん休憩ですね。徹底して一対一の戦いに持ち込もうとしている。これは……どうやら作戦ですね。モモ氏のプライドを刺激して消耗を誘うつもりか。うまい手かもしれません。モモ氏が乗ってくれれば、ですが、試してみる価値はあるでしょう。
エントリーNo.3は射手のようです。距離を置いてモモ氏と睨み合う。PvPで射手の扱いは難しいんですよね。そもそも近接職と向かい合ってヨーイドンというのは後衛職の在り方に反する。でもね、このゲームの射手はPvPに強いんです。普通に撃っても時速200とか出ますからね。漫画みたいには避けられませんし、一番マトが大きい胴体に当たっただけでもかなりのダメージが入ります。中にはひょいひょい避ける変態も居ますけどね。もちろん遠ければ遠いほど射手に有利なのですが……No.3は動きませんね。この距離で仕掛けるのでしょうか。解説のポチョさん、これはどういった思惑があるのでしょうか?
「うーん……。PvPには色んなルールがあって。出会ったらスタートっていう遣り方もある。片方が凄く有利になるルールはないから……モモ氏をルールで縛ろうとしてる、んだと思う」
なるほど〜。モモ氏はクソ運営タコさんの同期で、GGO社トップのクァトロくんの孫娘です。洗脳されて中二病女子みたいになっていますが、本人の意識はあるようです。正当性を盾にするのはいい考えかもしれません。それにしてもモモ氏は美人ですね〜。このゲームの運営陣は美形揃いですよ。ネトゲーマー特有の照れがない。あえてちょっと崩すとかね。あえてオーソドックスを避けるというか。そういうところがネトゲーマーにはあるのですが、運営陣は違います。自分が美人で何が悪いんだと言わんばかりの態度。堂々としています。タイプとしてはNo.3と似た者同士。目の保養になりますね〜。さぁどちらが先に仕掛けるか。開戦前のこの緊迫感は遠距離アタッカーならでは。おっとゴミどもが仕掛けた〜! 目立ちたくて仕方ない! そして全滅! これにはモモ氏も呆れ顔だ! さすがに全滅芸には飽き飽きか? 待機中のゴミ一同に金属片を突き付けたー!
「良い子だから邪魔をしないように」
でも動いたー! お構いなしにゴミが突っ込む! 全滅、全滅、全滅! 動くなと言われれば動く! これぞまさにゴミの生き様!
俺とポチョはキャッキャと手を打って喜んだ。ゴミが死んでるのを見るのは楽しい。ゴミ最高〜。
No.3は動かない。……死んでる? いや、違う。モモ氏の注意を引き付けて……仕掛けたのはNo.6のメガネっ娘だ。ゴミどもが動くのを待ってたのか。率先して駆け出し、剣を鞘から引き抜いて叫ぶ。
「総員突撃ぃー!」
観客席で様子見をしていたゴミどもが雪崩を打ってモモ氏に殺到する。そうこなくちゃな。
総力戦だ!
これは、とあるVRMMOの物語。
かき入れ時だ〜!
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