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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
443/983

リチェット探検隊!

 DPSチェッカー。

 それは、多くのネトゲーにおいてギスギスオンラインの温床となった封印されしツールの名称である。

 読んで字のごとく、DPSチェックが捗る。

 つまりパーティー戦で誰が一番貢献し、誰が一番使い物にならなかったか一目で分かる。分かってしまう。

 当然、そんなものを導入してしまえば魔女狩りが始まるのは目に見えている。

 考えてみても欲しい。DPSというのは一秒当たりの与ダメを割り出したものであり、MMORPGの基礎となるのは役割ロールに沿った作業分担なのだ。タンクはMOBの猛攻を一身に引き受け、ヒーラーは傷付いた仲間を癒し戦線を支え、俺は邪魔にならないよう壁との一体化を試みる。役割が違うため彼らのDPSは微々たるものだろう。では彼らは不要な存在なのか? 否! 断じて否である!


 DPSチェックなどというものは戦闘要素の一つを抜き出して比較する不完全な指標に過ぎない。

 よってキル数を競うFPSならばともかくMMORPGというジャンルにおいてDPSチェッカーの出番はない。

 しかし廃人どもは諦めなかった。

 動機は分からない。

 単純に自分の貢献度を把握して次に繋げたかったのかもしれない。

 あるいはパーティーに参加したら後はよろしくとばかりにキャラクターを放置して漫画を読んでる寄生プレイヤーを吊るし上げたかったのか……。

 廃人どもの胸の内は定かではない。

 ……が、ヤツらは作り上げた。

 自キャラを着飾ってきゃっきゃと喜ぶようなぬるい世界観のゲームで。

 生産メインだっつってんのに戦うことでしか己の存在意義を見出せない男たちが集まったゲームで。

 ヤツらは作り上げたのだ。

 それが、DPSチェッカー。

 非公式の外部ツールである。

 そういうゲームじゃねえからと運営が難色を示しても、ヤツらは外部ツールの開発に心血を注いだ。

 そして、データをいじることは事実上不可能とされるこのゲームにも、ヤツらの魔の手は迫っていたのである……。



 1.マールマール鉱山


 リチェット隊長が吠えた。


「整列ゥー!」


 はーい!と元気に返事をしたサトゥ氏が俺とセブンに手本を示すように素早く整列をした。

 リチェット探検隊とは、リチェット隊長の無理難題に隊員のサトゥ氏が孤軍奮闘するバラエティ番組である。

 道連れにできる隊員が増えたのがよほど嬉しいらしく、サトゥ氏はハイテンションだ。

 整列した俺、サトゥ氏、セブンをリチェット隊長がじっくりと眺める。

 それから不意にサトゥ氏に声を掛けた。


「サトゥ隊員。オマエらは何だ? 言ってみろ」


 サトゥ氏はびしっと敬礼した。


「はっ。隊長! 我々はゴミでありまぁす!」


 リチェット隊長はニコリと笑った。


「それは違う。オマエらは私の部下であり、ただのゴミを今を以て卒業する。オマエらは上等なゴミとなるのだ。そんなオマエらに良いものを用意した」


 ゴミであると言えばゴミではないと言われ、人間であると言えばゴミだと言われる。そして良いものとやらを用意される。ストーリー分岐に一切影響しない恒例の遣り取りであった。

 スタッフから手渡されたブツをリチェット隊長がずいっと突き出してくる。


「これでオマエらもようやく一人前だな」


 一人前というか、人間失格とばかりに着ぐるみを押し付けられた。

 これを着ることによって俺たちは戦闘力が軒並み低下し、名実ともにリチェット隊長の軍門に降ることになる。

 よっぽど拒否したかったが、俺は6sTVを応援している。俺自身、理由は分からない。しかし6sTV局の創設者である廃課金の六人衆が俺の無課金ライフにおいて重要な役割を果たしていることと無関係ではあるまい。いや、あるいは6sTVを視聴している時、ウチの子たちがやたらと無防備になるため、その時間を惜しんでいるのかもしれぬ。特にAI娘の赤カブトは、自分のスマホを持っていないのでポチョかスズキと一緒に番組を見ることになる。ややあって番組に熱中してくると無意識の内に身を乗り出してくるので胸チラしたりするのだ。そういう時、俺は素知らぬ顔をしながら尊い時間を過ごしていると思う。

 そうした事情もあり、俺は大人しくリチェット隊長の命に従ってゴソゴソと着ぐるみを装着していく。

 人間、つらい時は楽しい思い出に縋りたくなるものだ。あぁ、まさか俺が当事者の一人になってしまうとは……。

 俺は着ぐるみの袖に腕を通しながら、ほわんほわんほわん……と漫画的な表現で回想シーンに入った。



 2.回想-クランハウス-居間


 ウチの丸太小屋でスズキと一緒に6sTVの名物企画、リチェット探検隊を視聴している。

 リアルの暦上は夏も終わろうかという時期であるが、このゲームの季節はリアルよりも周期が長いため、というかぶっちゃけ別の星みたいなものなので公転周期の関係でリアルと季節がズレていく。

 よって衣替えしたばかりのスズキは半袖短パンのパジャマ姿で、露出した二の腕とふくらはぎが俺に生きろと強く訴えかけてくるかのようだった。

 ウチの子たちはログアウト時にパジャマを着る。パジャマというのは身体にストレスを与えないよう作られているので、ログアウトとログインの待機時間が減少する。理に適った服装なのだが、ウチのメンバーで言うと俺とアットムは普段着で寝る。刺客の襲撃を警戒しているからだ。警戒しているというか何度も寝込みを襲われているので、気付けばそんな感じになっていた。常在戦場の心持ちと言うかね。パンパンパンパン窓割って逃げるから修理が面倒なんだな。もういっそ窓全開にしとくか? イヤそれはそれで刺客ホイホイみたいな感じになるしな。

 ともあれ、俺はウチの子たちにパジャマ姿で人前に出るなと厳命してある。当然の嗜みのようであるが、俺の本当の狙いは別にある。

 そう、俺はパジャマ萌えを解する男。パジャマ姿を拝めるのは身内の特権であり、この女は俺に心を許しているのだという優越感こそが肝要なのである。肌さえ露出してればいいというものではないのだ。

 無論、それはそれとして肌がくっ付けば嬉しい。俺は6sTVを覗き込みつつスズキの二の腕と融合を試みる。

 スズキは意外と気遣いができる女だ。さり気なく俺が見やすいよう映像の角度を調整しながら、照れ臭そうにソファに体育座りしている足の指を曲げたり伸ばしたりしている。


「コタタマ。くっ付きすぎ〜。わざとでしょ。えっち」


 そんなことないって。俺はにっこりと笑った。意地悪するなよ〜。俺はレ氏に嫌われてっからな。スマホに角生やしたら何されっか知れたもんじゃねーだろ?

 もちろん嘘だ。以前はデータを抜かれることを危惧していたが、もう今となってはそんなことはどうでもいい。俺が求めているのはウチの子たちとくっ付く口実だ。クソ運営に嫌われているというのは丁度いい言い訳だった。

 俺はスズキのひざ丈短パンから覗く太ももを視界の端でロックオンしながらも6sTVの視聴を怠らない。話のネタになるからだ。俺というキャラクターは頭のてっぺんからつま先に至るまで全存在が女体に集約していく仕組みになっている。許せんよな。俺は義憤を燃やした。特に対象を定めることはしなかった。俺をこんなクズにしたのはネフィリアかもしれなかったし、ふしだらな仕様のゲームを持ち込んだョ%レ氏が原因かもしれない。どちらでも良かった。考えるのも面倒なので両方が悪いということにした。

 それらに輪を掛けてどうでもいいサトゥ氏が、スズキのひざ小僧の上に投影された映像できゃんきゃんと喚いている。

 

『隊長! 隊長! 助けて隊長! 骨ダンはマジ無理! 無理でしょ! だってコイツら死なねーし! 意味分かんね〜!』


 腕組みなどしてサトゥ隊員の奮闘を眺めているリチェット隊長がくッと苦渋の表情を顔面に張り付けた。美人は得だ。見てくれは清楚なシスターという感じのリチェットの百面相はこの番組の見どころの一つである。

 リチェット隊長は窮地に陥ったサトゥ隊員を甘やかすことはすまいと己を強く律した。メイスの柄に伸びる手をもう片方の手で押さえて、白い喉を震わせて言う。


『乗り越えろ、サトゥ隊員……! この試練を乗り越えた時、オマエはまた一歩この私に近付ける……!』


『近付くっつーかあなたヒーラーでしょ!? このっ、骨ども! プレザンス神父もにっこりだよ! くそがぁっ!』


『分かりにくいネタはヤメロぉ! プレザンス神父とはタクティクスオウガの登場人物の一人だ! 除霊が得意!』


 プレザンス神父の紹介をしたリチェット隊長が、いよいよ追い詰められたサトゥ隊員に一瞬だけほっこりとした。

 回復魔法を持たない近接職では無限に再生するアンデッドに対して打つ手がない。サトゥ隊員がくたばる直前にマホイミで死霊どもをしばき倒して隊長の威厳を示すという青写真を描いていたのだろう。

 リチェット隊長はサトゥ隊員に無理難題を押し付けるが、瞬殺されても尺が余るのでギリギリのラインを見極めることになる。ここ最近の放送ではサトゥ隊員が火事場の馬鹿力を発揮したのでうまい具合に殺せなかったのだ。今回こそは……という思いがあったのだろう。

 しかし運命の女神はリチェット隊長に微笑まなかった。

 満を持してメイスの柄に手を掛けたリチェット隊長がギョッとした。

 骨ウサギさんに地べたに押さえつけられて雄叫びを上げるサトゥ隊員の頭の横に、ふわぁ……とブサイクな人形が出現したのだ。


 サトゥ氏のアビリティは自動発動という特性を持つ。

 つまり索敵中に発動して敵影を発見した頃には解けていたり、血圧計をくっ付けたままリアルのボディにエサをくれてやっている時に発動したりもする。

 しかし、この時は違った。

 サトゥ氏は賭けに勝ったのだ。

 ふわっとサトゥ氏の耳元に口を寄せたブサイクな人形が、子供のような声で、ぷれはぶ、おーみ、と囁く。少し目を離した隙に喋るようになっていた。

 リチェットの焦ったような声。


『ちょっ……』


 サトゥ氏の叫び声がぴたりと止まった。

 白目が青白く発光し、パリリと細い稲妻が宙に流れる。

 ブサイクな人形の背中が裂ける。わたを押しのけて突出したペットボトルの赤い内容物がちゃぽんと音を立てて揺れた。


 アナウンスが走る。


【Skill-Chain(Ability!)】


 チェインは鎖。スキルは囚われ、連鎖する。

 国内サーバー最強の男は、プレイヤーたちの屍を乗り越えていくことを期待されている。

 犠牲を前提としたスキルだ。

 悲劇なくして成立し得ないスキルだ。

 リチェットセブンの狭間に立つ男を、看取ってきたプレイヤーたちの遺言が衝き動かす。

 骨ウサギの肩に手を掛け、ごく自然な動作で立ち上がった。押さえつけられる力など最初からなかったかのようだった。

 骨ウサギに驚きの感情はない。隔絶した技量の差に怯むこともない。ただ生きるものに惹かれるようにガシャガシャと骨を鳴らして襲い掛かる。妬ましいのか。それとも眩しいのか。

 だが、すでに勝敗は決していた。

 立ち上がった骨ウサギのろっ骨が斜めにズレる。サトゥ氏の斬撃によるものだ。立ち上がった時には、すでに斬っていた。

 ろっ骨の切断面から、骨ウサギの全身に亀裂が走っていく。何を斬ったのか。何を斬れなかったのか。ざあっと塵となって土に還った骨ウサギを見つめるサトゥ氏の瞳が、一瞬だけ悲しげに揺れた……。

 そして、その瞳を提供の二字が丸被りした。

 放送時間は終わりに近い。

 エンディングテーマが流れ、スポンサーになってくれたクランのメンバー募集要項が提示されていく。

 そんな中、完全に出遅れたリチェット隊長が難癖を付けていた。


『そっ、そのアビリティはダメだー!』


『ダメってことはないだろ!』


 サトゥ隊員はここぞとばかりに強い口調で言い返した。カエル特有の吸盤が付いた指を大きく振りながら、


『お前らっ、使うなって言ったのに俺のアビリティ無駄撃ちしたシーン使ったろ! ちゃんと毎回チェックしてんだぞっ! カメラ意識してんだ! 悪いかよっ! なのに、あんな……! あぁ〜!』


 言ってて該当のシーンを思い出したらしく、サトゥ隊員が顔面を両手で覆って悶えた。

 リチェット隊長も悶えていた。必勝の策を以て挑んだ骨ダン回を潰されて悲しいのだろう。


『あー! あー!』


 悶える二人を置き去りにするようにカメラが離れていき、締め括りに画面の右下に6sTVのロゴがそっと添えられた……。



 3.マールマール鉱山


 俺の回想が終わった。

 着ぐるみを装着した俺たちを、最近イイトコなしのリチェット隊長がじろじろと眺めてくる。何がお気に召したのかは分からないが、フフリと笑って一つ頷く。


「さて、本日我々はマールマール鉱山の探検を行う。珍しく隊員が増えたぞ。喜べオマエら」


 俺たちは喜んだ。やったぁ。ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 リチェット隊長は進行した。


「急に増えた隊員を紹介する。一人目はいつものヤツだ。特に言うことはない。カエルくんだ」


 カエルくんのサトゥ氏がぴょんと飛び跳ねた。


「二人目は目のいいクズこと牛さんだ」


 目のいいクズこと牛さんの俺がぴょんと飛び跳ねた。


「三人目は、セミだ」


 セミことセブンがぴょんと飛び跳ねた。


「以上、カエルくんと牛さん、セミの三名でマールマール鉱山を探検する。オマエら文句はないな?」


 あるわぁ!

 俺は吠えた。牛さんの着ぐるみをバッと脱いで地べたに叩きつける。

 クソ動きにくいんじゃ〜! なんで俺がノーギャラでオメェーらの番組に貢献せにゃならんのじゃ〜!

 俺はカメラマンのネカマ六人衆に突進した。撮んなや! 誰の許しを得て撮影しとんのじゃ〜!

 バッと跳躍してボディプレスを浴びせる。

 ……ハッ!? 俺はハッとした。

 リチェット隊長が牛さんの着ぐるみを手に持ってぱんぱんと土ぼこりを叩き落としている。こちらに背を向けているため、表情は分からない。しかしどこか悲しげな背をしていた。

 俺は金切り声を上げた。

 き、汚ねェーぞ! そうやって俺をまた悪者にすンのか! お、女キャラだからって視聴者の同情を誘えると思ったら大間違いだぞ!

 ネカマ六人衆が学校で女子を泣かせた男子を見るような目で「あ〜あ」とガッカリした声を上げる。

 うぐっ……! さ、サトゥ氏をハメるいつもの手口だ。

 セミ野郎が腕組みなどして急かしてくる。


「グダグダやってねえでさっさと行こうぜ」


 オメェは黙ってろ! 今、俺の好感度がグングン下がっとるじゃろがい! 死活問題なんじゃ〜!

 俺はダッと地を蹴ってリチェット隊長の背中を優しくさすった。

 な、泣くなよ。俺が悪かったよ。き、着る。それ着るから。ね? なんていうかイキナリ連れて来られてさ、ハイ分かりました喜んで〜なんて言うほうが変じゃん? 俺は俺なりに俺のキャラを大切にしてんのよ。分かるだろ? な? ほら、俺って狂犬なイメージあるから。でしょ? ほら、笑って。笑顔。ね? 笑顔大事よ。

 ハイ笑った〜。わぁー。ぱちぱちぱち。

 笑顔で振り向いてくれたリチェット隊長から、俺は牛さんスーツを恭しく受け取った。いそいそと再装着しながらぶつくさと文句を垂れる。

 く、クソッタレぇ〜……。【目抜き梟】で妙な小芝居を身に付けてからに〜……!

 カエルくんがニコッと笑って俺の肩をぽんと叩いた。へいへい。せーのっ。

 俺たちはせーので一斉にぴょんと飛び跳ねて唱和した。


「リチェット探検隊!」




 これは、とあるVRMMOの物語。

 回想長すぎィ!



 GunS Guilds Online


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