いざ!修行パートへ……!
1.クランハウス-マイルーム
朝。ログインするなり、セブンが立ったまま死んでいた。
……何だよ。ウザってぇな。よそで死ねや。
俺はベッドから降りると邪魔なセミ野郎を迂回し、パチッとセブンが目を開けた。うおっ!? 俺はびくっとした。い、生きていたのか……。
思わず防御するような姿勢を取った俺の腕をセブンがガッと掴んでくる。
「行くぞ」
相変わらず過程がすっぽ抜けた男だ。まぁ今更の話ではある。俺も無駄な抵抗はしない。セブンに腕を引かれて窓を突き破って地べたに全身を強く打ち悶絶する。漫画みたいにうまく行かなかった。ガラス片が身体に突き刺さるし散々だ。
裂傷を負ったセブンが、決して負けられない戦いへと挑むようにぐぐっと立ち上がり、ぐったりする俺を引きずっていく。内臓をやったらしく、ボトボトと吐血しながら森の中を進んでいく。
「崖っぷち……。お前は、約束を守ったな……。ならば、俺も守ろう」
なん、の話だ……?
意識が朦朧とする。血を失いすぎた。俺はふらふらする頭を押さえ、かろうじて立ち上がる。
枝にとまっているブーンの群れが、俺とセブンをじっと見つめてぢょんぢょんと鳴いている。くそっ、舐めるなよ。俺たちは死なねえ。こんなところで死んで堪るかよ。
俺とセブンの荒い息遣いが森に響く。仲違いしているほどの余裕もなく、俺はセブンの腕を肩に回して引っ張り上げる。比較的、俺は軽症だった。落下した時にセブンの身体がクッションになったのだろう。
虚ろな目をしているセブンに置いて行かれるような危機感を覚えて声を掛ける。
せ、セブン……踏ん張れ……! ヒーラーが、通り掛かれば、助かるぞっ……。ぐっ……!
俺は込み上げてきた嘔吐感に耐えきれずにビシャッと吐血した。見れば、脇腹にガラス片が刺さっていた。へっ、キレイにあばら骨を避けてくれたじゃねーの。俺はへらっと笑ってガラス片を引き抜いた。セブンを引きずって前へ。
女神像まで行けば……。いや、その付近まで行けば誰かしら居る筈だ。特に魔法職は。魔法を劣勢を覆す切り札と考える魔法職は、近接職やガンナーからしてみると単なるカカシだ。フレンド登録する価値もないと見なされれば山場を越えた瞬間に殺される。
魔法とは時間短縮のツールなのだ。いざという時に備えてマナを温存していたなどという言い分は通らない。そのためのマナポだ。緊急時には自腹で購入したマナポをキメて対処するのが魔法職の正しい姿である。これまでずっと装備の損耗を自費で補っていた近接職とガンナーにとってはごく当たり前の話であった。
寄生が解禁されたことで物理アタッカーと魔法職の間に溝が生まれるつつある。つまり女神像の付近まで行けば死に戻りした魔法職が居る可能性は高い。女神像でそのままワープするやつばかりじゃない。寄生を生業とするプレイヤーは、寄生コミュニティのようなものを持っている。寄生ライフを円滑にするために使えるプレイヤーと使えないプレイヤーの情報を交換し合うのだ。だから女神像の付近で休憩しながら同業者を見つけて声を掛ける。
もちろん俺もその一員だ。レベルが上がれば魔法は勝手に強くなるのに死に物狂いでモンスターと戦う意味が分からないと言う彼らと俺はとてもよく話が合った。話してみれば気のイイやつらだ。ひねくれたやつが多いけど、俺に対しては心を開いてくれている。
も、もう少しだ……。セブン、死ぬな、よ……。セブンの息遣いが聞こえない。俺の足からフッと力が抜けた。ガクリと片膝をついた俺を、いつの間にか地面に降りていたブーンがじっと見下ろしている。
俺は血反吐を撒き散らしながら吠えた。
どけよっ! 俺たちはッ、まだ死んじゃいねえ! 生きるんだッ……!
俺は雄叫びを上げた。ガクガクと震える足を叱咤して立ち上がる。
そうだろ! セブン!
セブンの腕がぴくりと動いた。ふらふらと上がって、ブーンを、その先にある女神像の方向を指差す。
それだけで十分だった。
おおおおおおおおおおおおおっ!
一歩。二歩。俺はセブンを引きずって大地を踏みしめる。ブーンが気圧されたようにぴょこんと横に跳ねて俺たちに道を譲った。屍肉を漁ることに慣れたノンアクティブに、俺たちは止められない。
森を抜けた。強い日差しが俺とセブンの生還を祝福するようだった。光の奔流に呑まれるかのようだ。それは【全身強打】の光に似て……イヤそのものだったようで……俺とセブンはパンッと破裂して死んだ。
ふわっと幽体離脱した俺とセブンに、俺たちを流れ弾で殺したエンフレがあっちゃ〜と頭を掻いてメンゴと軽く片手を上げた。
ここは人間の里。エンドフレームが当たり前のようにうろつく魔境だ。
2.マールマール鉱山
セブンが俺をパワーレベリングしてくれるらしい。
なんでも以前にレベルを上げろと言ったら俺が本当にレベル上げを始めたので俺の味方をすると決めたのだとか。
いや待て。俺はジャムジェムの味方になれと言ったんだ。俺のレベル上げを手伝えとは一言も言ってない。
しかしセブンにはセブンなりの考えがあるらしい。
「お前が召喚術師になれ。察しは付いてんだろ? メカドラの操縦者はカレシに憑依したαテスターだ。リビングアーマーのガワを使う」
それは、そうなんだろうが……。
ごにょごにょと語尾を濁らせる俺の先回りをしてセブンが言う。
「お前のクランメンバーにやらせる気はねえんだろ? だから甘ぇってんだよ。まぁカレシは得体が知れねえからな。ライト層には荷が重ぇか」
チッ。俺は舌打ちした。別にそんなんじゃねーよ。お前らと同じさ。αテスターをコントロールするのは俺だ。その座を譲るつもりはねえってことさ。
「そんなのはどっちでもいい。お前はクランメンバーを使わなかった。それが事実だ」
……まぁお前がレベル上げを手伝ってくれるってんなら有難い話だ。ご相伴に預からせて貰うぜ。
俺は気を取り直して軽い足取りでマールマール鉱山の薄暗い坑道を進む。モグラさん狩りかな? 積年の恨みを晴らす時がついにやって来たぜ。セブンと一緒なら安心だ。放っておくと死ぬのはアレだが、腕は確かだからな。
コクリと頷いたセブンが声を張り上げる。
「おい! 連れて来たぞ!」
ん?
んん?
見覚えのあるクソ廃人が曲がり角から姿を現して、RPGのキャラの勝ちポーズみたいにバク転した。頭の悪そうな崩れた敬礼をして俺にバチッとウィンク。
「サトゥです! よろ!」
罠だ! 冷徹な戦闘マシーンに改造されるッ……!
俺は素早く反転するやダッと地を蹴って駆け出した。だが、すぐに退路を絶たれたと悟って立ち止まる。
マッド廃人どもを従えたリチェットが、ザッザッと土煙を立ててこちらへ歩いてくる。
マッド廃人どもが野鳥の会がカチカチするアレをカチカチと鳴らしながら迫ってくる。その後方に控えるのはカメラを構えたネカマ六人衆だ。
俺は驚愕した。
6sTV……!
リチェット探検隊だと……!?
俺はバッと振り返ってセミ野郎に金切り声を浴びせた。
テメェッ、俺を嵌めたな!?
セミ野郎が怪訝そうに目を細める。
「あ? 何言ってる。レベル20が目標だと言ったろ。チンタラやってる暇はねえんだよ」
マールマールの唸り声が断続的に響く坑道内を、丈の長い修道服をバッと翻して歩くリチェット隊長が告げた。
「待たせたな。これよりオマエらのゴミのようなDPSを測定する。人力でな」
これは、とあるVRMMOの物語。
リチェット探検隊! 生放送SP! 人力DPSチェッカー編! はっじまるよー!
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