第九章、彼女が僕を殺さなくなった日
1.クランハウス-居間
モグラさんぬいぐるみと一緒に居間で経験値稼ぎをしている。
最終決戦より帰還後にベッドの中でスズキに刺し殺されながら聞いたのだが、赤カブトは本気で俺をパワーレベリングするつもりらしい。他の女にロストされる前に俺の浮気癖を直したいのだとか。もうね、ロストっていう単語の使い方がおかしくなってる。
まぁ赤カブトがそうまで言うなら付き合ってやるつもりだ。俺も空いた時間には経験値稼ぎに勤しむとしよう。イヤそれは今まで通りなのだが。
藁人形の出来栄えを眺めていると、首の辺りの作りが甘い気がしてきた。頭を摘んで軽くねじってみる。ところがどっこい。作りが甘かったのは俺の首の方だった。俺の頭がポロリと取れて床に転がる。
問答無用のPKか。やるじゃねえか。ダッシュで死に戻りした俺は、水平に伸ばした腕にずらっとウッディを生やして射撃体勢を取る。倉庫から斧を取ってくる時間が惜しい。ウチの子たちのパンツをこんな下らないことに使い潰すのも惜しい。レーザー光線でバラバラに解体してやる。探偵役を用意するコナンくんよろしくウッディを生やした腕を顔の前に構えて居間に突入。ウッディは感心しているようだった。
(シンイチの目を掻い潜るとは。なるほど。そういうタイプのプレイヤーか)
律儀に俺の帰りを待っていた蛇マンがポケットに両手を突っ込んで佇んでいる。肌が露出している首からウジ虫を生やして肩に乗せていた。
ビッと放たれたレーザー光線が互いに干渉して、ぐわんと歪んだ。狙いが逸れてウチの丸太小屋の壁を削りながら上下に散る。あっ。俺は壁に駆け寄ってレーザー痕を指でなぞる。て、テメェ〜。ウチの丸太小屋になんてことしやがる……! 傷が付いちゃっただろ!
「そうか。しまったな……。壁のことは考えてなかった。すまん」
蛇マンは頭を掻きながら素直に謝罪した。
……まぁ謝ってくれたなら、これ以上はとやかく言うまい。クラフト技能で簡単に直せるし。ただ魔石が要るし、くたばっても残機が一つ減るだけのゴミよりも大切に扱って欲しいものである。
俺はチッと舌打ちしてソファにドカッと座った。経験値稼ぎを再開する。話は経験値を稼ぎながらでもできる。
で? 何しに来た。
「報復だよ。俺を突き飛ばして逃げようとしただろ。ショックだったぜ……。お前は俺のママじゃなかったのかよ?」
おいおい、そんなことを根に持ってたのか? ネチっこいやつだな……。ああ、だからエンフレが蛇みたいな形してたのか。
「違う。イヤ、それもあるかもしれないが……」
蛇マンは俺の言葉を訂正しながらモグラさんぬいぐるみを横にどかして俺の隣に座った。藁人形をクラフトしている俺の手元を覗き込みながら言う。
「俺は暗殺者だよ、崖っぷち〜」
このゲームに暗殺者なんてジョブはないだろ〜。
「そうなんだよな〜。残念だよ。俺は大抵……どのゲームでもそっち系だったからよ〜。アサシン……レンジャー……盗賊……」
ほ〜。ゲームによっては不人気職だろうに……。これは興味本位なんだが、スピード重視ってコトか〜?
「あ〜。ちょっと違うな〜。ガキっぽい理屈で申し訳ないが〜」
そこで蛇マンは言葉を切って、言葉を探すように宙空を眺めた。
「漫画とかだとよ〜暗殺者ってのは無敵の人間みたいに描かれるだろ〜。最近だとファブルとかな〜。知ってるか? ファブル」
知ってるよ〜。ついこの間、最新刊の19巻が出たしな〜。
蛇マンがウジ虫を引っ込めた。スライドリード(遅い)を発動し、膝の動きだけで床の上をスライドしていく。氷上を滑るかのように。
「俺はPKerだ。プレイスタイルは暗殺。付いたあだ名が、蛇。覚えておけ。崖っぷち……。プレイヤーの闇は、お前が思うよりも遥かに濃く、そして深い……」
それだけ言って蛇マンは去って行った。
俺はギリッと歯を噛み締めた。
ヤツの一撃に何も反応できなかった……。
俺も、このままじゃダメってことか。
2.クランハウス-工房
カーン、カーン……
という訳で、モグラさんぬいぐるみと一緒に工房で新しい武器を打っている。試作品をハンマーでブッ叩いて強度をチェックしたりと色々だ。
俺が新兵器の作成に乗り出したのは、ひとえに先月やらかした最終決戦の影響によるところが大きい。蛇マンとの遣り取りはオマケだ。プレイヤーの闇がどうこう言ってたが、どうせ不審者の類いだろう。
種族人間はやはりゴミだ。
俺も何かとゴミだゴミだと言ってきたが、それも今になって思えば不幸自慢に近かったのかもしれない。口ではゴミだと言っておきながらも心のどこかでは種族人間のポテンシャルを信じていた……。そういう面はある。
何しろ種族人間には数多くの動物を絶滅に追いやってきた実績がある。いかなる猛獣も人間様の銃火器に対しては無力だし、地球最強の生物を決するトーナメントに武器使用の禁止というルールがあるのは妙な話だ。動物に道具を使う知性はなく、人間にはあった。それだけの話ではないのか。
何でもありなら人間は誰にも負けない。そうした思いが俺にはあった。
しかし先月のバトルフェーズ……。知らない星の人たちに優しくされた俺は、考えを改めざるを得なかった。
種族人間はゴミである。
ひとたび宇宙に飛び出せば、俺たちは不遇種族という扱いを受ける。脆く非力。特別ズル賢いという訳でもなく、もちろん変身なんかできない。同じ地球人でも国に分かれて争っているという意外性のなさ。大抵ドコの星もそうだろう……。つまり俺たちには何もないのだ。知らない星の人たちから見て、目を惹く要素が一切ない。それじゃあダメだ。
しかし光明はある。
エト様だ。
バトルフェーズの経験豊富な知らない星の人たちですらレアキャラ扱いする珍獣のごとし光の使徒であるが、それは生存能力の低さゆえにだろう。
そのエト様に関して日本産のゴミどもはセブンみたいな使徒だとバカにしているが、俺は違う。俺はあのセブンみたいな使徒に一筋を光明を見出していた……!
すなわち……。
よし、出来たぜ。
俺は、完成した新兵器を手に持って掲げた。
ネコピックであった。
俺はハンターにはなれない。
だからオトモアイルーに俺はなる。
地獄の入り口までオトモするニャ!
これは、とあるVRMMOの物語。
このオトモアイルー全然可愛くない……。
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