父と子
1.???宙域-深部
【ギルド】は滅びない。無限に成長し続ける。
しかしレイさんの言う通り、このクソ広い宇宙に散らばるプレイヤーを仲間にしていったなら、その頭数は天文学的な数になるだろう。つまりプレイヤーの総戦力もまた無限の域にあるのだ。
これは、とあるVRMMOの物語だ。
MMOとはMassivery Multiplayer Onlineの略称であり、簡単に言えばネット上のゴミ集積場ということになる。
可燃物、不燃物、資源ゴミ、様々なゴミが一堂に会して人生を浪費している。真面目にやっていれば違った人生もあったろうと断言できるレベルの膨大な時間を、たかがゲームに費やした連中の集まりだ。
【Phase-4】
地球じゃ賢いふりをして偉ぶっている人間様も、このゲームでは新参者の種族の一つに過ぎず、またザコが増えたな程度の認識であるらしい。
レイさんに同調を示した他星系のプレイヤーが続々と集結してくる。
言語の壁は問題にならない。
レイさんに触手を引かれて宇宙空間をすいすいと泳いでいる俺に知らない星の人たちが声を掛けてくる。
【見ない顔だな。お前、レイさんの何だ? また新しい男か?】
……いえ、俺があんまりにも弱いもんだから見かねたようでして。ハイ。
知らない星の人が俺の真ん丸ボディに馴れ馴れしく手を掛けてくる。
【レベルいくつ?】
あ、1301です。
【低くない? 種族的なアレだったりする? ドコ銀河?】
え〜っと。天の川銀河って言って通じますかね? 俺ら、あんまり宇宙について詳しくなくて……。
【翻訳されるから大丈夫だよ。天の川銀河ね。近くの星にロケット飛ばし始めた系?】
あ、ハイ。近くの星にロケット飛ばし始めた系です。あ、これ言って大丈夫だったのかな? あの、俺らの住んでる太陽系って俺ら以外に知的生命体が居ないっぽいんですよ。だから地味にどうしていいのか分かんないっス。
【ああ、そういう子多いよ。あんまり気にしなくていいよ。俺らもゲーム歴長いだけでリアルに自分の身体に何されてるのか分かってない系だから】
知らない星の人がとても優しい。
おっと見覚えのあるゴミが接近してきたぞ。デカい蛇に手足が生えたような粗大ゴミだ。
【崖っぷち〜。またオメェーかよ。オメェも懲りねえな。今度は何やらかしたんだよ?】
こっちが聞きてーよ。オメェーらも引っ張り込まれたんか。まぁスマイルの旦那も居たからな。そうだろうとは思ってたが……。
同郷のゴミと察した知らない星の人が話の邪魔をしては悪いからと俺から離れて行ってしまった。地球産のゴミは本当にろくなことをしない。
大蛇に丸呑みにされたような姿をしている粗大ゴミがしつこく俺に絡んでくる。
【見ろよ、崖っぷち。ボスラッシュだぜ。俺らに出番はなさそうだな。幹部クラスのギルドがどんどん墜とされてく】
……光の使徒を最高峰のプレイヤーと見なすなら、限界突破なしのノーマル状態でレベル1500前後がプレイヤーの限界値ということになる。
幹部クラスの【ギルド】はレベル2000〜3000といったところか。一対一では厳しいかもしれないが、種族ゴミじゃあるまいし、優秀な種族を一名ないし二名含んだパーティーなら幹部クラスに対抗できるようだ。
もちろんプレイヤーの質は種族によってピンキリなのだろうが、強そうな人たちがフォローして回っている。幹部クラスが展開したゲストルームをなんか強そうなスキルで外部から崩し、幹部クラスに一撃を加えて素早く離脱して次に向かう。残った連中がトドメを刺す。その繰り返しだ。
レイさんは多くのプレイヤーに慕われているようだった。
【レイさん、また突発イベントっスか? 勘弁してくださいよ〜。狙ってた子とちょっとイイ感じだったのに……】
【レイさん。また今度ウチに遊びに来てくださいよ。ウチの運営ディレクターやる気がないんスよ……!】
【レイさん。今夜どうスか? てか、コイツ誰スか?】
レイさんは俺を知らない星の人たちに紹介した。
【モョモは知っているだろう? あの子の同期にョレという%が居る。そのョレが運営しているタイトルのプレイヤーだ。実力的にはまだまだだが、私は今回のイベントを新規プレイヤーにこそ参加させるべきだと考えている。光の使徒を目指すなら早いほうがいいからな】
知らない星の人がなるほどと頷く。
【まぁ実質的に不老不死みたいなもんスからね】
俺はドキッとした。
言われて初めて気が付いた。
勇者の召喚に応じて現れる光の使徒は、俺が赤カブトに期待しているパーソナルの保存そのものだ。
散りばめられた点と点が繋がって線になっていく感覚がした。
だがそれは気の所為だったらしく、特に何か素晴らしいアイディアが降ってくることはなかった。
代わりに蛇野郎が何かイイコトを思い付いたようだ。ハッとして言う。
【上位存在……】
あん?
【……俺やお前は工兵の力を借りて黒い粒子を操る。あれはどこからやってくるのかとずっと考えていた。NAiは、自分たちにとって俺らのリアルはゲームのようなものだと言っていた。律理の羽……。どこからともなく出現する力ある形。……ゲームなら可能だ】
で?
【分からないか? ギルドと天使は似ている。ギルドの正体は俺たちの世界の天使なんじゃないか?】
可愛くねえ天使サマだなぁ。
俺はそう述べるにとどめた。事はそう単純じゃないだろうとは思ったものの、クソ虫さんたちが上位存在というのはあり得そうな話だった。どこからともなく出現する黒い金属片が【ギルド】の余剰パーツだというなら、なるほど滅びない訳だと納得することができた。何しろ使い減りしない。
まぁ俺には関係ないな。これから宇宙の果てで最終決戦が始まるようだが、俺の出る幕じゃないことは明らかだ。精々賑やかし要員に徹するとしよう。
レイさんがようやく手を離してくれた。思わず【あ……】と声を上げた俺に、レイさんはタコ足を軽くうにょると掲げて言う。
【私も少し格好良いトコを見せておかないとな】
鍛え上げられたプレイヤーに阻まれ、これまで幹部クラスの【ギルド】がレイさんの元に辿り着くことはなかった。
しかしボスラッシュもいよいよ佳境だ。
レイさんの行く手を遮るように、どこからともなく出現した黒い金属片が渦巻く。
それらは難解なパズルを解くように一目で幹部クラスと分かる巨体を組み上げていく。
幹部クラスが複数。
警戒した知らない星の人たちが一定の距離を取り、幹部クラスを包囲する。
そんな中、レイさんが進み出る。
【我々はこの世界に召喚された際に一部の細胞が変異している。これを%細胞と呼ぶ。%細胞はスキルの発現を司るものであり、かつて我々が天使の卵と呼んでいたものと同一の性質を持つ。つまり遺伝子に刻まれた戒律。代償は故郷。あるいは世界だ】
それは……。
【気が付いた時には手遅れだった。我々がスキルを……天使の力を振るえば振るうほど、我々はこの世界に強く縛り付けられる。いつしか我々は誤作動を起こすようになった。変異し、失われた細胞は我々の意識に作用する重要なものだった。誤作動とは、すなわち……】
異種族を守れ。
そう小さく呟いたレイさんの全身から禍々しい光が立ち昇っていく。
%細胞の活性化。
組み上がった幹部クラスの【ギルド】が一斉に砲口をレイさんに向ける。
レイさんは言った。
【Naggy-Doom。力を貸せ】
叫ぶようにアナウンスが走る。
【限界突破!】
レイさんの全身を稲妻が迸る。
稲妻すら置き去りにしてレイさんが駆ける。
幹部クラスの【ギルド】は全滅した。
何をしたのかまったく見えなかった。
いびつに広がる光を従え、レイさんが呟く。
【準備運動は終わりだ。互いにな。クロ……】
そう呼び掛けた先に、小さな人影が二つ浮かんでいた。
その内の一つ、優男がニヤニヤと口元を歪めている。
「やあ、レイ。久しぶりだねぇ」
若社長だった。
一人の女が、若社長にしなだれ掛かるように身を寄せている。
黒く長い髪と赤い瞳。唇がイヤに赤い。どこかラム子と似た雰囲気を持っている。
誰かが震える声でぽつりと呟いた。
【最高指揮官……】
遅れてアナウンスが走る。うめくように。
【End-Phase】
女が後ろから若社長を抱きしめる。
女の腕に手を添えた若社長が目を細めて不可解な遣り取りをした。
「……そう? まぁ、そうだね。君がそう言うならそうしようか」
小さな死出の門が咲いた。
子供一人が通るのがやっとの、小さなものだ。
死出の門を潜って小さな人物が現れる。
若社長の傍らに佇んだ、クァトロくんが、その手に持つ大剣を俺たちに突き付けた。
分離した律理の羽が激しい稲妻を放ち、巨大な剣の輪郭を描く。
かつては感情豊かだった瞳が無機質な光沢を帯びて俺たちを射抜く。
黒衣を身に纏った最強の勇者を従えた若社長が、楽しそうに言う。無邪気な口調だった。
「お父さん。レイは強くなったよ。もう守られるばかりの小さな子供じゃない。お父さんと、どっちが強いのかな……」
俺はメニューのログアウトボタンを連打していた。
これは、とあるVRMMOの物語。
ボス戦は逃げられない。
GunS Guilds Online




