Eight Children
1.???宙域-深部
【Phase-3】
このシューティングゲーム、負けても最終面に進めるみたい。
俺はミツバチさんに連行されて次のステージに駒を進めた。
俺の愛らしい真ん丸ボディは全身が痺れていて手足の感覚がまったくない。イヤ俺のエンフレに手足など最初からないが。
宇宙飛行することしばし。
ミツバチさんはぐったりしている俺をボスキャラの御前にお供えした。
ボスキャラ。女王蜂だ。やたらとデカくて腹部が大きい。どう見ても幹部クラスです。本当にありがとうございました。
【上位個体と遭遇しました】
【勝利条件が追加されました】
【勝利条件:指揮官の撃破】
【時間制限:00.00】
【目標……】
【指揮官】【????】【Level-3058】
ほうほう。レベル3000越えですか。結構なことですなぁ。
無性に地球が恋しいぜ。サトゥ氏はドコで道草食ってんのか、ちっとも姿を現さねえしよぉ〜。
おや、女王サマは俺の真ん丸ボディがお気に召したご様子。節くれだった脚で俺を抱えてニッパーみてぇな口をギチギチと鳴らしてらっしゃる。食べられちゃうのかなぁと俺はぼんやりと思う。生きたまま食われるなんてのはこのゲームをやってれば慣れっこだ。今更泣き叫んだりはしないが、優しくして欲しいなぁ程度の感想を思い浮かべてもバチは当たるまい。ハチだけにね。
しかし? おっと? 女王サマは俺に対して食とは異なるアプローチを選択したようだ。出現した黒い金属片が合体し、舌のようにうねって俺の歯列をこじ開けてくる。どうも俺の体内に興味があるらしい。大胆なんだナ?
女王サマの熱烈なベロチューに俺がいよいよ観念しようとした、まさにその時である。
俺の身体に巻き付いたタコ足が、俺を女王サマから力尽くで引き離した。
いつの間にか俺の頭に無尽さんが乗っかっていた。
俺の身体に巻き付いているタコ足は無尽さんの分身体みたいなものであるらしい。
両手をポケットに突っ込んでいる無尽さんが女王サマを見上げて呟く。
「男以外は帰ってくれないか」
女王サマが過敏とも言える反応を示した。黒い金属片をハニカム構造に組み上げて蜂の巣を形成する。
ゲストルーム……!
外界から隔離された俺と無尽さんを、巣から這い出したミツバチさんたちが取り囲む。
引き下がる女王サマを、無尽さんは半ば無視して俺に話し掛けてきた。
「コタタマくん。いや、コタタマ。この世で最も素晴らしいものは何だと思う?」
俺が何か言う前に無尽さんは一人で勝手に答えを出した。
「それは友情だ」
言うが早いか、無尽さんの分身体が残像の尾を引いて女王サマに迫る。速い。ミツバチはおろか女王サマですら反応がまったく追い付かなかった。伸びたタコ足が女王サマの首に巻き付いてギリギリと締め上げる。
無尽さんが続ける。
「父と息子。兄と弟。友ら。あるいは敵同士すら……。レベルなどという数字に我々の一体何を量れる?」
無尽さんがタコ足に少しずつ力を込めていく。びきびきと黒い蜂の巣に亀裂が走っていく。
ひび割れたゲストルームに微かな光が差し込む。星々のきらめきが、後光となって無尽さんを照らした。
女王蜂の複眼が一際赤く輝き、甲高い悲鳴を上げた。女王の危機にミツバチたちが殺到する。たちまち蜂球を形成して無尽さんを覆い尽くした。襲撃してきたスズメバチをミツバチの群れが蒸し殺すアレだ。
しかし女王サマを締め上げるタコ足に怯えや焦りは一切見られない。女王サマが苦しげに仰け反っていく。
母体の危機に耐えかねたかのようにゲストルームがボロボロと崩壊していく。
蜂球を形成していたミツバチたちがバタバタと倒れていく。
傷一つない無尽さんが歌うように言葉を紡いでいく。
「何も量れやしないさ。無限に成長できるから何だと言うのだ。ならば我々はより多くの友を作ろう。お前たちは永遠の敗北者だ。何も得られはしない……。この先、何一つとして」
予備動作なしに俺の頭を蹴って飛び上がった無尽さんが宇宙空間をたゆたう。
その身に纏ったスーツを突き破ってタコ足が伸びる。厚い胸板を窮屈そうに閉じ込めていたカッターシャツのボタンが弾け飛んだ。いじめ抜かれた裸体を惜しげもなく晒した無尽さんが変身していく。
幹部クラスの【ギルド】すら物ともしない。クァトロくんと共に俺たちの宇宙に召喚された子供たちの一人。そのレベルは……。
【ゲスト参戦!】
【Eight Children(八人の子供たち)】
【勇者】
【君主】【レイ】【Level-????】
当然のようにエラー表示を叩き出した宇宙でとびっきりの男色家が、女王サマにタコ足を叩きつけた。一撃。ただの一撃で女王サマの巨体は真っ二つにへし折れて爆散した。
無尽さんがタコ足をバッと広げて雄々しく吠える。
【全宇宙に散らばりしアツい男たちよ! 私の声が聞こえるか! 私の友を、私の愛を、深い闇より救う時がやって来た! この時がやって来た! クロ……! 聞こえるか! 私は……ずっとお前を想っていた!】
宇宙開闢より史上稀に見るハイレベルなカミングアウトが光の波となって真空の海を照らし出すかのようだった。
それらはチャンネルの壁を貫き、この広い宇宙のどこかでアツい戦いを繰り広げる男たちの雄姿をまざまざと浮かび上がらせる。
【ギルド】との戦いに傷付き倒れ伏した男が歯を食いしばって立ち上がる。
友を守らんと砲口に身を晒した男の機体から命の火が吹き上がる。
友の死に涙する男も居た。守るべきものを喪い、一度は戦う意味を見失った男が顔を上げる。
戦うことにしか生きる意味を見出せない男も居た。狂ったように笑い、手にした戦斧を振るい【ギルド】を八つ裂きにしていく。いいぜ、乗ってやるよと小さく呟いた。
この戦いに無関心な男は苛立たしげに舌打ちした。強制的に駆り出された戦場には男以外に立つものは何もなく、【ギルド】の残骸が漂うばかりだった。
生まれた星が違えば種族も異なる。光すら届かない遠い遠い遥か彼方の男たち。時空を超えて、本来であれば出会う筈のなかった男たちの姿が見えた。
光の洪水が押し寄せるかのようだ。
その中にサトゥ氏の姿も混ざっていた。
サトゥ氏もまた戦っていた。
しかし相手は【ギルド】ではない。
四本の腕を持つ、泥人形のようなエンドフレームだ。のっぺりとしていて、身体の凹凸が極端に少ない。顔面に四対の目が均等に具わっている。
サトゥ氏の剣が泥人形の腕を一本撥ね飛ばし、泥人形の剣がサトゥ氏の胸を貫く。肩から突っ込んだ両雄の機体が激しく衝突し、身体を入れ替えて振るった刃が火花を散らして噛み合う。
それはまさしく死闘であった。
サトゥ氏が血反吐を撒き散らしながら絶叫を上げる。
【ッ……! あんたはもう君主じゃないもんな!? だからだろ!? 失うモンがなくなッて! それでッ! それがあんたの遣り口だ! いつもいつも! そうやって! 俺たちを見下して! バカにしてぇッ! どけよッ! あんたじゃ俺には勝てねェーよ!】
……サトゥ氏がこうまで敵意を剥き出しにするのはスマイルの旦那しか居ない。
そして……スマイルの旦那が感情を剥き出しにする相手もまた。
【サトゥ〜! 強くなったなァ! 私が教えたことを忠実に守っている! そのエンドフレーム……。まるで私自身を見ているようだよ! 使い慣れない筈の二刀がしっくり来るだろう? どんなに強がろうと、お前の根底にはこの私が根付いている! 逃げられやしないさ! お前は……お前は私のモノだ!】
ホモオンライン、待ったなし。
一体ドコをどう間違えば野郎と野郎がこうまで強く互いに意識し合うような事態に陥るのか。
イヤになるぜ。このゲームのプレイヤーにはホモしか居ないのか?
俺はハイテンションで骨肉の争いを繰り広げるホモ二人から目を逸らした。もう勝手にするといい。
だが目を逸らした先に居るのもホモだ。
タコ足をこちらへ差し伸べた無尽さんがイヤに優しい声音で言ってくる。
【おいで】
俺は小動物のように怯えた。
……いえ、俺なんか一緒に行っても足手まといですし。
無尽さんが俺の真ん丸ボディにタコ足を掛けて、ぐっと身を寄せてくる。びくっとする俺に構わず低い声で囁いてくる。
【言ったろう? 種族の違いなど些細な問題だ】
こんなに俺に優しくしてくれる暫定エイリアンは初めてだったが、俺の頑なになった心を解きほぐすには性別:男という処方箋は不適切だった。やはり最後に立ちはだかるのは性癖の違いだ。永遠に分かり合える気がしなかった。
無尽さんはとっておきの秘密を打ち明けるように声を潜めた。
【まして性別など。我々には他星系での活動を想定した機能が備わっている。つまり子を産み育てる力だ。性差など、あってないようなものでね】
俺は強引に話題を変えた。
GGO本社に攻め込むんスか?
【そうだ。クロ……クァレュュは実の父である会長を社内に監禁した。このままでは、全面戦争になる。私が止めてみせる。クァレュュを説得してな】
無尽さんは若社長の幼馴染みだ。
かつては仲が良かった時期もあるのかもしれない。
説得はまず通じないだろうと思っていたものの、俺は自分可愛さに若社長を売った。
【きっと上手く行きますよ。社長さんもあなたを待っている……そんな気がするんです】
【レイでいい】
【はい。レイ……さん】
暫定エイリアンにしてはひどく呼びやすい名前が、俺に断る理由を与えてくれなかった。
俺はレイさんに触手を引かれて宇宙空間をすいすいと泳いでいく。
三面で終わりと思いきや、どうやら裏面に突入するようだぞ……。
これは、とあるVRMMO。
最終局面を性癖が怪しく彩る……。
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