GunS Guilds Online!
1.ポポロンの森-深部
NAi率いる鬼武者たちの突破力は凄まじく、ゴミどもの戦線は崩壊し、森の深部にまで押し込まれてしまっていた。
NAiは山岳都市とは逆方向に進軍したことになる。マレの復活を悟って標的をポポロンに変えたのか? 分からない。先生ならNAiの狙いを看破できたかもしれないが、新職業にクラスチェンジしてしまった先生を人前に晒すことはできない。今頃は赤カブトの先導でポポロンの森を脱出している筈だ。
しかしコイツら……。俺はゴミどもを蹴散らしている鬼武者たちを見て思う。
……以前にも思ったが、赤カブトほどじゃない。俺を殺す時のAI娘はもっと凄い。もしかしてハイフレームじゃないのか?
……NAiはサトゥ氏と遊んでいる。サトゥ氏がNAiを自由にはさせまいと纏わり付いている。しかしNAiが警戒しているのはサトゥ氏よりも魔法使いだ。だからこそサトゥ氏は何とか食らい付いていけてるという感じだ。
NAiが硬質化した羽衣でサトゥ氏の斬撃をさばきながら指の動きで小剣群を操り、次々とゴミを処理していく。リチェットとセブンがサトゥ氏のフォローをしており、惜しいところまで行くが詰めきれない。新しい攻撃パターンを試してもすぐに対応される。NAiの学習能力が高いと言うよりは……。
ああ、と俺は納得した。
今のNAiは天使だからと言って完全に別人という訳ではないのか。
ヤツはサトゥ氏の戦い方を知っている。今、段々と身体が馴染んでいるだけのことなのだろう。
サトゥ氏も俺と同じことに気付いた。足を前後に大きく開き、低く。低く、低く構える。
スキルという超常現象が存在するこの世界でリアルと同じようにやる必要はない。正しい構えや正しい剣の振り方を無視することで至れる境地もある。
サトゥ氏の地ずり殺法。剣を肩に担ぎ、半円を描くように身体をねじりながらNAiに肉薄する。更に低く。極限まで仰け反ったサトゥ氏が仰向けになってNAiの首を刎ねた。
たちまち再生したNAiがサトゥ氏を見る。この土壇場でまったく新しい戦法を生み出した男に最大の賛辞を送った。
「サトゥ。私の使徒になれ」
サトゥ氏は軽口を飛ばした。
「そういうのは後にしてくんない? 今、ノッてきたトコだ。続けようぜ」
だが答えたのはNAiではなく。
「いいえ。ここまでです」
鬼武者を従えたマレだった。
マレは【戒律】を操作するスキルを持っている。αテスターたちを縛る【戒律】を無力化することができる。
NAiが吠える。
「お前は要らない」
マレが述べる。
「連れ帰ります」
NAiが律理の羽を走らせた。
マレが全身から蔓のようなものを伸ばす。
NAiが空中に刻んだ【戒律】をマレの蔓が無意味な落書きに変えていく。
カウンタースキル。
マレはNAiの天敵だった。
マレは泣きそうになりながら笑った。
「私たちは相性が最悪。共闘しても互いに足を引っ張ることしかできない。あなたはワガママで乱暴だ。いつも」
小剣群の集中砲火を鬼武者たちが手に持つ刀で弾いた。撃ち漏らした小剣で手足を貫かれても彼女らは止まらない。
マレは叫んだ。
「好きとか嫌いとかじゃないんだよ。ずっと近くに居たヤツが急に離れてったら……混乱するだろ! バカ!」
子供だ。
マレは子供だ。知識はあっても、生まれて過ごした時間は幼児と変わりない。
マレとNAiが互いに指差して攻撃魔法を撃つ。
マレの指先から放たれた光の輪が捻じ曲がってNAiの脇を抜けて行った。魔法の撃ち合いではガムジェムを持つNAiが有利だ。
NAiの【四ツ落下】を横から割り込んできたリリララが相殺した。
【四ツ落下】の「四ツ」は「四隅」という意味らしい。具体的なことは分からない。説明を聞いても分からなかった。とにかく一部の熟練者は【四ツ落下】の制御に成功した。
プレイヤーはどんどん強くなる。
マレはNAiのスキルを封じ込めることはできるが、厄介な律理の羽は健在で、これといった対策も思い浮かばない。
こういう時に頼りになるメルメルメは消されてしまった。キャラデリかロストか知らんが俺のフレリから無断で消えてんじゃねーよ。
マレの参戦も良し悪しだ。範囲攻撃持ちのキャラ同士がぶつかると近接職は手出ししにくくなる。巻き添え食ってくたばったサトゥ氏は今頃山岳都市に向かっている筈だ。
俺はアッス〜と大きく息を吸って、発声練習を始めた。
先生の作戦通りに。
2.回想-先生の作戦
工房で別れる前に、先生は俺とマレにこう言った。
「あの歌ならNAiを止めることができるかもしれない」
歌、ですか?
「ティナンに伝わる歌だ。多くのティナンはナイのことを知らない。しかしナイを祀る信教が廃れ、また地下でひそかに祀られていたことには何らかの意味がある」
これから先生が向かう地下には先生を祀る神殿があって、俺は最後までそれを言い出すことができなかった。
だから、とっさにナイ教信徒を庇うような言葉が出た。
信教の自由ですね。政治と宗教は切り離せない。いずれかの代で迎神教が台頭して地下に追いやられたのだと俺は思っていましたが……。
赤カブトさんがじっと俺を見つめている。
俺は無視して続けた。
俺もあまり宗教には詳しくはありませんが、むしろ根絶するほうが難しいんじゃないですか?
先生は何かを察した。地下に続くハシゴを見つめ、すぐに視線を俺へと戻す。
「……ティナンは素直だからね。やるなと言われればやらない」
そんなことはありませんよ。特に子ティナンはひどい。俺の扱いがひどい。
「彼らにとって君は王妃だからね。身内という感覚が強いのだろう。これまでの悪さが祟って尊敬されるとまでは行かないんじゃないかな」
先生。大切なのは過去じゃなくて未来に目を向けることですよ。
先生はおみ足が短いため、ハシゴを登り降りすることができない。よって赤カブトとツヅラが先生の身体をロープで吊って下に降ろすことになる。
試しにツヅラが先生の身体を持ち上げて、赤カブトがロープの具合をチェックする。
宙ぶらりんになっている先生が言った。
「……歌だ。歌詞はスマホで見ながらでもいい。導いてあげれば大半のプレイヤーは歌えるだろう。何故なら……」
3.決戦
何から何まで急ごしらえで、俺たちには何も確信できるものがなかった。
先生だけが俺たちの寄る辺であり、唯一の道しるべだった。
俺はよく知るメロディーを大声で歌う。声を張り上げて、たくさんのゴミに届くように。アカペラはツラいのだが、やってやれないことはない。
プレイヤーの本当の武器は、クソ夜中にモンスターと戦って得た戦闘技術やクソ強いレイド級をブッ倒して解放したスキルではない。
プレイヤーのそれは最初から持っていたものだ。レイド級やティナンですら持っていないそれ。
それとは、すなわち……。
リアルの動画サイトや掲示板を駆使した情報戦である。
ある一定のラインを越えた時、情報は悪質なウィルスが爆発的に増殖するように人から人へと感染していく。
事情を知ったゴミや俺に触発されたゴミが、俺に続いてヤケクソになって歌う。
このゲームのプレイヤーなら誰もが知っている歌。
このゲームのPVに流れるテーマソングだ。
ボーカロイドか何かを使って作曲したのか、人間がそれを完全に再現することはできない。
練習もクソもないぶっつけ本番なので、笑えるほどヘタクソな合唱だった。
即席の伴奏隊が結成され、楽器を弾き鳴らす。少し楽になったが、やはりヘタクソだ。
しかし律理の羽の動きが少し鈍った。
NAiが頭を抱えて獣のような唸り声を発する。
【その歌を……ヤメロ……】
MOTHERかな?
頭にガンと響いたささやきに吐き気を催しながらも、効果アリと見た俺たちは声を張る。誰が一番の音痴なのかを競うように音程を逸脱していく。
合唱が大合唱に膨れ上がるまでさしたる時間は掛からなかった。種族人間は嫌がらせが大好きだ。もはやNAiでなくとも不快に感じるだろう。歌っている俺たちですら今すぐに耳を塞ぎたいくらいだ。
【その歌を、ヤメロォォォ!】
NAiのマレへの対処がおざなりになっていく。律理の羽はバラバラに動き、開戦当初の精密さを失っていた。
この歌に何があるんだ。俺は何も知らない。けど、メルメルメ……これでいいんだな? カタキは討ってやる。
俺は歌うのをやめて、わさわさと木登りして樹上に立った。荒ぶる鷹のように両腕を広げてゴミどもを煽る。もっとだ! もっと声を出せッ! どうせ大して上手くもねーんだから!
サトゥ氏の先導でティナンたちが合流した。
間に合った。最深部に到達していたらアウトだった。さすがにレイド級の寝ぐらにティナンを連れ込むことはできない。
先生の直談判で動けるティナンは全員参加して貰っている。
ティナンの舌ったらずの歌声が加わる。
ティナンに代々伝わる三大秘法。
一つ目はガムジェム。
二つ目は月の雫。
そして最後の三つ目が、原初の記憶に刻まれた子守唄だ。
明るくポップな主旋律とクソ不吉な副旋律。
歌が上手いヤツ、下手なヤツ、声が高いヤツ、低いヤツ、音を外すヤツ、雰囲気があるヤツ、ただ怒鳴るだけのヤツ……。
ありとあらゆる要素が詰め込まれた時、このゲームのテーマソングは完成する。
ポポロンの眷属の触手が俺の胸を貫いた時、マレが動いた。
蔓を木に巻き付けて大きく跳ぶ。ふわっと幽体離脱した俺を追い抜いて、NAiに迫る。
苦しげに呻くNAiが小剣群をカウンターで放つも、狙いが逸れてあらぬ方向に吹っ飛んでいく。串刺しにされたセブンが打ち上げられて、大空に汚い花火を咲かせた。
レイド級に変身したマレが両手から根っこを伸ばしてNAiを絡め取った。
命の火が燃え上がり、今更のようにアナウンスが走る。
【女神の加護】
【Death-Penalty-Cancel(戦士に休息を)】
【Stand-by-Me!(勝利はあなたたちと共にある)】
マレがNAiの耳元で何か呟き、二人の姿が命の火となって消えた。
加護を浴びて再生した俺は大きく振り返って、珍しく完勝したゴミどもにひらひらと手を振る。
ま、こんなもんだろ。
さて、恒例のサトゥ氏の処刑タイムと行こうか。もう公開処刑も飽きたし、そろそろ次の段階へ進もうぜ。
名付けてサトゥ氏のモグラ地獄変だ。
俺たちはサトゥ氏をマールマール鉱山の深部に放り込んだ。カメラマンを同行させて、孤軍奮闘するサトゥ氏の模様をお伝えする。
全員が共犯者なら、それだけで完全犯罪は成立するのだ。
リチェットさんはとても喜んでくれた。
これは、とあるVRMMOの物語。
罪状。大して役に立たなかった。
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