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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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問われ、試される

 1.クランハウス-居間


 擦り寄ってくるポチョの腰を抱き寄せながら考えごとをしている。

 う〜む……。

 メモ帳を広げ、コツコツとボールペンの尻でテーブルを叩く。

 ……どうにかして先生のクラスチェンジをうやむやにしたい。

 何か大きな事件があるといつもこうだ。面倒臭いことになって、その処理に追われる。

 しかし今回ばかりは……参った。手の打ちようがない。

 ひとまず朝イチに森の奥からポポロンの眷属を引っ張ってきてウチの丸太小屋に近付くゴミどもにぶつけてみたものの、突破されるのは時間の問題だろう。

 このままでは俺の先生が人類の大いなる礎にされてしまう。

 ポチョよ。お前はどうしたらいいと思う?


「んー。サトゥに預けるのが一番いいと思う」


 やっぱりそうなるのか。

 人間性に大いに疑問が残るサトゥ氏であるが、あのクソのような廃人が調査していると聞けば大抵のプレイヤーは納得する。攻略のためとあらば何でもやる男だし、人間らしい感情などとうに擦り切れているともっぱらの評判だ。正面から喧嘩を売っても勝てないというのもある。

 そんな戦闘マシーンであるが、一応先生に対しては敬意を払っているような気がしなくもない。


 第二候補は【目抜き梟】ということになるだろう。まず大前提として先生を付け狙うゴミカスを排除できる組織力が要る。【目抜き梟】ならばその点は問題ない。

 問題は、ヤツらアイドル気取りに先生の相手は荷が重いということ。先生の話術にいなされ、面白おかしく遊び呆けて終わるだろう。それではゴミどもは納得しない。


 第三候補はスマイルの旦那だ。サトゥ氏との因縁を抜きにして考えれば、そう悪くない案のように思える。多分先生を金儲けの手段に使うだろうが、事情が事情だ。多少のやんちゃは目を瞑るしかない。

 だが、あのサトウシリーズ御大は先生にどのような感情を抱いているのか。不明瞭な部分がある。以前にサタウがチラッと言っていたのだが、スマイルの旦那は自分よりも才能がある人物に対して情緒不安定になるらしい。総合力では別に負けているとは思わないけど、コンプレックスってのはコントロールできないからな……。例えば、性癖の大部分はコンプレックスで形成されている。妹萌えは実妹が居たら発症しにくいと聞いたことがある。性癖をコントロールできるやつなんて俺は聞いたことがない。


 結局はどの案も問題がある。

 ウチのメンバーで先生を匿うことができれば一番なのだが、ネトゲーで誰かを守りきるなんて廃人以外には無理だ。ログアウト時は何があっても対処できないという根本的な問題が立ちはだかる。

 やはりサトゥ氏か……。

 でもウチの丸太小屋の窓に張り付いてガムテープとマイナスドライバー駆使して不法侵入してくるようなヤツだからなぁ。

 イヤに手慣れた動きで窓を解錠したサトゥ氏がぴょんと跳ねて俺の対面のソファに軟着陸した。にこっと笑って言う。


「先生は?」


 ブッ殺すぞ。空き巣かオメェーは。

 サトゥ氏は無視して続けた。


「まさかサトウさんに預けたりしてないよね? 俺に預けてくれたら悪いようにはしないよ? 俺は先生のこと尊敬してるモン」


 ……お前には先生を丸焼きにしようとした前科がある。


「でも未遂に終わったよね? 情報を流せばコタタマ氏が動くのは分かってた。あの時、コタタマ氏は誰から先生が処刑されそうになってるって聞いたのかな? もしかしてウチのメンバーじゃないかな?」


 ……メガロッパだ。


「だよね。俺が本気で先生を処刑しようとするならコタタマ氏が動けないよう手を打つよ? お前には人を動かす力があるからな」


 サトゥ氏は急に声を低くした。


「コタタマ氏。俺に先生を預けろ。先生は自分自身のことには無頓着だ。全身全霊、本気で逃げることはない。いずれ捕まるぞ。俺に預けろ。悪いようにはしない。先生をどこに隠した? 言え」


 …………。

 αテスターの隠し部屋だ。ジャムと一緒に居る。


「そうか。その手があったか……。だが……」


 俺は項垂れた。

 ……そうだ。一時避難にしかならない。サトゥ氏、お前の言う通りだよ。二、三日ならともかく、長期間を隠れて過ごすのは無理だ。何のためにゲームをやってるのかって話になる。まして先生は知的好奇心が旺盛だからな。俺が行くまで待って居てほしいとは伝えてあるが、待つのにも限度はあるだろう。

 サトゥ氏。先生を頼む。俺らには無理だ。先生を守りきることはできない。海外逃亡も考えたが、もしもブライトとかいう新ジョブが固有ジョブなら、もう先生に安寧の地はない。もしもそうなら……先生は俺が説得する。

【ふれあい牧場】は解散する。

【敗残兵】を再結成して……先生をお前のクランに入れてやってくれ。

 そう言って俺はサトゥ氏に頭を下げた。

 ……もうどうにもならない。先生は全プレイヤーに狙われる立場になった。追っ手から逃れるためにはトップクランの一員になって常に警備に人手を割くしかない。

 サトゥ氏は俺の真意を計るようにじっとこちらを見つめている。


「お前も来いよ」


 俺は首を横に振った。

 無理だ。俺は廃人じゃない。お前らと一緒に行くことはできない。たまに遊ぶくらいで丁度いい。同じクランのメンバーになったら、多分……悪いが……楽しくない。俺は先生とは違う。特別な才能なんてものはない。お前らに貢献することはできない。


「でも、お前はいつも事件の渦中に居たじゃないか」


 それは俺が弱いからだ。弱いから、ゴミどもは俺に反発する。雑魚が出しゃばってんじゃねえと躍起になる。そういう感情は利用できる。無名のプレイヤーよりも俺は有利な立場に居た。そういう理屈だ。

 だから、もしも俺が【敗残兵】の一員になったら前提が全て崩れる。俺は何かしらの才能を持ったプレイヤーという目で見られる。

 感覚で分かるんだよ。俺は、トップクランの一員になった俺自身を想像できない。向いてないってことだろう。

 しかし、よもや……。俺は苦笑した。俺が卒業するよりも早く、クランを解散することになるとは思わなかったな。


 ポチョは何も言わなかった。コイツも分かっていたのだろう。先生が居なくなったら【ふれあい牧場】は解散するしかない。誰かがクランマスターを継いだところで、意味がない。【ふれあい牧場】は先生のクランなのだから。それなら心機一転……と言うのは少し変だが、新しくクランを立てて再出発したほうがいい。


 サトゥ氏は【ふれあい牧場】について直答を避けた。部外者が口出しするべき問題じゃないと考えたのだろう。床に視線を落とし、ぼそりと呟く。


「……【敗残兵】の件は了解した。だが、先生には俺から言う。気になることもあるしな」


 かくして、サトゥ氏は【敗残兵】の再建に動き出すことになった。

 先生は廃人たちの庇護下に置かれることとなり、怪しい研究所に連れて行かれた。

 人工進化研究所とかいう胡散臭い会社だ。

 どう見てもラスボスの拠点だったので、俺は先生を救出するために乗り込むことになった。

 俺が間違っていた。やっぱりサトゥ氏はダメだ。



 2.ポポロンの森-人間の里-人工進化研究所


 そんなに皆殺しにされてーのか?

 第一声で全殺し宣言した俺をクソ廃人の一味は快く迎え入れてくれた。


「これはこれは。天下の魔王陛下じゃないですか。ご足労頂き誠に恐縮です」


 お前らも懲りねえな。何度俺に皆殺しにされれば気が済むんだよ。


 クランには色々な種類がある。

 このゲームのプレイヤーズクランは人数制限がないため少し特殊だが、懐古厨が多いからなのか何なのか、日本サーバーのクラン体制は従来のものとそう大きく変わりない。

 つまり戦闘職を中心とした攻略型クランと、同好の士が集まった特化型クラン。ぼっちクランの三つだ。

 クラン紹介でよく見掛ける「まったりクラン」は同時間帯にログインするメンバーを集めたものなので、特化型クランの分類に入るだろう。そこに中堅クランやら大手クランといった所属メンバーの質や量で実際の活動内容が変わっていくという具合だ。

 ぼっちクランは……まぁ分かるだろう。日本人はクラン加盟申告するのを恥ずかしがるという奇妙な習性を持っているプレイヤーが多く、しかしクランに所属することで得られる特典は欲しがる。その結果、自分でクランを立ててメンバー募集をしない、加盟申告を受け付けないという怪談じみたクランが乱立することになる。

 もちろん、そういうプレイヤーばかりじゃない。加盟申告は受け付けるが、脱退は自由という亜種もある。根っこは同じっぽいが。要するに人と深く関わるのが嫌なのだ。

 運営からしてみればどうなんだろうな……。え?コイツらオンラインゲームやってるんだよね?くらいのことは思ったんじゃないか。オンラインでありながらオフライン。オフラインでありながらオンライン。それらの境界線をふわふわと行き来するのが国産ネトゲーマーの大きな特徴だ。


 ともあれ、大手の攻略型クランである【敗残兵】には何でもできる人材が集まる。才能があると言うよりは、稼働時間からして一般人とは異なる。

 ゲームの中で二十四時間を過ごす人間に、六時間かそこらログインするだけの人間が勝てるか、という話だ。

 まず勝てない。だから廃人は何でもできる。ずっと戦ってたら飽きるだろう。試しに生産職でもかじってみるかとなる。

 一般人が持てる時間を全て費やして得た技能は、廃人にとって空いた時間に習得した余芸に等しい。


 そんな訳で、クソのような廃人クランには当たり前のようにマッドな人材も集まる。

 白衣を羽織った廃人どもがわらわらと寄ってきて俺の目を代わり番こに覗き込む。


「サイキッカー。ほう。サイキッカーですか。ほうほう」

「外見的な特徴はこれといって見当たりませんねぇ」

「所長。これえぐって移植したらどうなるんですかね?」


 脚照ッッ。

 普通に女キャラも混じっていたので俺は挨拶代わりにセクハラしてやった。

 クソ廃人どもは興奮しきりだ。


「ひょっっほー! ぞわぞわって来ましたァ!」

「素晴らしい! 素晴らしィィィ!」

「えぐっ、えぐりたい! えぐりたいよォォォ! ば、培養液ィィィ!」


 やかましい! 殺すぞ! 先生はドコだ! 事と次第によってはテメェーら全員殺すからなッ!

 やめっ、ヤメロ! 俺の目ん玉に触るな! コイツら一体どういう教育を……! 人の目に触っちゃダメって習ってないの!? ホイホイ他人の目ん玉移植してたナルト世界じゃねーんだよッ! 人体には拒絶反応っていうのがあるの! やめなさい!


「せ、セブンを呼べっ! 混ぜるぞ! 混ぜたい! セブンをっ! セブンをををを!」


 オンドレぁ!

 俺の先制攻撃。ひらりと躱したクソ廃人が俺の背後を取っておそるおそる手を伸ばしてくる。クォリティ高すぎィ!

 悲鳴を上げた俺に、見慣れた無能が駆け寄ってくる。


「ちょっ、ちょっ、ちょお! 何やってんの!」

「ダメっ! ハウスだよ! みんなハウス!」


 ネカマ六人衆であった。

 ハッとしたクソ廃人どもが正気に戻った。


「し、失礼しました。貴重な検体にいささか昂ぶってしまいました……」


 誰が検体だ。


「0231体はイッチさんたちの友人でしたな。いやはや、我々としたことが……」


 0231体とは何だ。俺に怪しい数字を振るんじゃない。

 六人衆が「めっ」とすると、クソ廃人どもはしゅんとなって散っていった。

 今日の六人衆さんたちは輝いて見えるぜ。

 いや、待て。所長だったか? お前は残れ。行くな。俺と無能を残してドコへ行く。


「えっ。いい、んですか?」


 やめろ。期待の眼差しで俺を見るな。誰も人体実験の許可は出してない。所内を案内しろと言ってるんだ。

 釘を刺す俺だが、怪しい研究所の長は嬉しそうに駆け寄ってきて俺の服の裾をちょこんと摘んだ。

 ……とにかく先生のところに連れて行け。やめろ。俺の目の端を摘んでむにってするな。ちょっと。イッチさんたち。この人どうにかして。俺の目に興味津々すぎて話が先に進まない。写輪眼じゃないので。俺の目は写輪眼じゃないので、やめてください。

 イッチさんたちは苦笑などしている。


「ペタ氏は解剖すると好感度が上がる疑惑があるからなぁ」


 上がらないよ。何言ってるの。上がらないよ。上がる訳ないでしょ。むしろ下がるよ。いや下がりはしないが。いや下がるわ。何言ってるの俺。何のフォロー?

 もう何が何だか分からなかった。



 3.人工進化研究所-モニタールーム


 窓ガラス越しに先生の暮らしぶりを眺めている。

 先生は個室を与えられ、怪しいテストを受けていた。

 IQテストみたいなやつだ。

 マークシート方式に近く、ハンコを押す要領で回答用紙にぽんぽんとひづめを押していく。

 何これ……何?

 所長さんが研究員に尋ねる。


「前回と前々回の結果は?」


 研究員が魅入られたように先生を見つめながら答える。

 

「満点(フルスコア)です。……凄い。本当に人間か……?」


 約束のネバーランドかな?

 ねえ。お前ら先生に何やらせてるの? これ新ジョブとか一切関係なくね?

 俺は窓ガラスにばんと手のひらを押し付けて叫んだ。

 先生! 先生ー! 迎えに来ましたよ! 俺です! 先生ー!


 先生は一心にぽんぽんとひづめを押していた……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 出荷ぁ……。



 GunS Guilds Online


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