プレイヤーの現段階(いま)……!
1.チュートリアル空間
つまりウッディが俺に内緒でダメなほうのNAi(今後ナイと棒読み気味に呼ぼう)と共謀したのは、俺に前情報を与えて余計なことを考えさせないようにするためだったらしい。
当然ながら、【ギルド】の一員たるウッディの所有権をナイは持っていないのだ。
そして賢者の称号を持つ先生の心を読むこともできない。むしろ賢者の称号とはプレイヤーの所有権を持つ者と戦うためのものなのかもしれない。
で、俺にどうしろってんだ。
「コタタマ。いえ、コタタマブルー」
俺の新たなキャラネだ。本当はコタタマ身勝手の極意にしたかったんだが、キャラネに漢字は使えないからな。
ダメなほうのナイがうめく。
「超サイヤ人とスターマンの親和性が高すぎる……」
誰がブルースターマンだ。……まぁ軽く狙ったみたいなトコあるけど。なんかもういちいちキャラネ考えるの面倒臭くて。かと言って同じキャラネで行くのも負けた気がするし。
ともあれ、ナイさんよ。そのコタタマブルーさんにオメェーは何をやって欲しいんだよ? あーん? 言ってみろや。
ナイは俺の頬をブッ叩いた。何しやがる。
「調子に乗ってはいけない。あなたには何も期待していません。あなたはメッセンジャーです。Goatに伝えなさい」
嫌ですぅー。ぶたれたのでー。
「私の言うことを聞かないと後悔しますよ」
後悔?しないね。俺は別にお前の手下じゃねーんだ。物を頼む態度ってモンがあるんだよォー!
「ふふん。その強がりがどこまで持つか、楽しみです」
けっ、言ってろ。
俺とナイは睨み合って、ぷいとそっぽを向いた。
俺には先生とウッディが居る。こんな性悪女の助けを借りる必要はない。
俺とナイの共同戦線は崩壊した。俺は悪くない。先に手を出したのはナイだ。
「小学生か」
心を読むな。そっちがその気なら俺にも考えがあるぞ。今からお前を俺の頭の中で全裸にする。そして口では嫌がりながらも身体は正直なお前に小学生には言えないようなおねだりをさせてやる。自分だけは安全圏だとでも思っていたのか? 甘いんだよ。俺ぁ女なら誰でもいいんだよォー!
ナイが俺に軍資金やら斧やらを投げつけてきた。
「こ、この変態! 出てけっ!」
言われんでも出てくわ!
俺は舌を突き出してピロロロロロと怪音波を発しながらチュートリアル空間をあとにした。
2.ポポロンの森
……ごめん、ウッディ。ダメだったわ。ついカッとなって。
(……想定内だ。最悪から数えたほうが早いくらいの展開ではあるが。まだ取り返しは付く)
だよね。よゆーよゆー。
大体、天使だから何だよって話よ。あれだろ? 天使ってのは暫定エイリアンの天敵みたいなものなんだろ? レ氏をヤッてくれるっつーなら放っときゃいい。
ところが、おっと赤カブトさん。のっぴきならぬ赤カブトさんが抜き身の凶器を大事そうに抱えてメスの顔で俺を見つめている。
「ペタさぁん。好きっ」
なるほど。
そういえば天使の尖兵なんつー設定もあったな。
なるほどね。
俺はナイの言うことを聞かなかったことを後悔した。
いつになく大胆な赤カブトさんにイチバン敏感なトコロを執拗なまでに責め立てられて俺は果てた。
女神像に死に戻りするなりダッシュで逃げるが、すぐに追い付かれた。
「ペタさぁん。どうして逃げるの?」
追われると逃げたくなるのが男ってモンなのさ。
赤カブトさんはじっと俺を見つめて、くすくすと笑った。
「でもぉ、ペタさんの身体は正直だね。すごく足、遅いよ……?」
え。あ、はい。レベル1ですから。
口では嫌がりながらも俺の身体は正直だった。走って撒けるような生ぬるいレベル差ではない。
延々とリスキルされながら俺は驚愕した。
は、ハメ技じゃねーか。
ロストしたての俺は、他の女神像を登録してない。一瞬の隙を突いてワープすることができない。エンフレを出すか? いや、でも赤カブトさんもエンフレを出してきたらどうする? 強そうなほうのNAiさんが暴れてるってのにそんな無茶はさせられない。【奇跡】のスキルで遠距離狙撃とか普通にあり得る。エンフレはダメだ。じゃあどうする。こうだ。
俺は心の中でナイさんに詫びを入れた。
ナイさん。マジすんませんっした。俺ぇ、調子乗ってたっつーかぁ。やっぱぁ。美人の前じゃ無様?晒せないよねっつー意地?プライド?捨てられないよねっていう。そこ捨てちゃダメだよねっていう思い?あるんで。でも今はマジで反省しててぇ。てかガチでヤバいんで助けてください。メッセンジャーでも何でもやりますんで。こう見えて尽くす男系なんでぇ。俺、マジ。
俺のチャラ男風味レシピ謝罪にナイさんは応えてくれた。
ぴたりと動きを止めた赤カブトさんが、バッとその場でしゃがみ込む。
……おい、大丈夫か?
俺が声を掛けると、赤カブトさんは顔から火を吹くんじゃないかと思うほど真っ赤になって、
「い、い、い、今のは私じゃないから! き、記憶にないし!」
このチャンスは逃せない。俺はここぞとばかりに強気に出た。
記憶にないんだ? ふーん。でもさぁ、俺スッゲー殺されたなぁ。それはさぁ、やっぱりジャムジェムさんが普段から俺をそういう目で見てるからじゃないの? 俺はそう思うなぁ。いくらNAiの命令だからって殺し方までは注文つけないと思うんだよなぁ。その辺どうなの? ジャムジェムさん的にはさぁ。本当は命令されて俺を殺すっていうシチュに興奮してたんでしょ? どうなんだよ? おら。
軽く小突いてやると、赤カブトは「うーうー」とうなって、俺にしがみ付いてきた。ぎゅっと強く抱きしめてくる。俺は内心ホッとして赤カブトの背中をぽんぽんと軽く叩いてやった。
赤カブトが少し落ち着くのを待ってから言う。
ジャム。俺を手伝え。俺はお前が一番大事だ。だから本当なら安全なところに避難して欲しい。でも俺の目の届かないところで無茶をされるほうが怖い。そういう状況だ。
NAiはαテスターを動かした。お前だけってことはないだろう。そして天使とαテスター……天使の尖兵ってことになるらしいが、それらを用意したのはレ氏だ。
俺はこう考える。レ氏は天使の軍勢を用意したんだ。何のために? ヤツは自分たちの世界で起きたことを再現するつもりだ。天使に兵隊を与えて、そいつを自分が打ち負かすという筋書きなんだろう。
レ氏は依代がどうこう言ってたよな。天使がこっちに来れるなら神さんだってこっちに来れる筈だ。どうやるのかは分からないが、天使を倒すことが条件なのかもしれない。
だから……ジャム。このままじゃお前の姉妹が危ない。だったらやることは一つだ。俺と一緒にαテスターを止めるぞ。
ジャムジェムはコクリと頷いた。
「うん。あの子たちは私が守るんだ」
よぉーし。
ナイ! それでいいな? そういうことなんだよな?
……返事はない。不安だ。
しかし、いずれにせよαテスターたちを放っておく訳には行かない。
NAiがマレを狙うのは、マレの固有スキルがまさしくカウンタースキルだからだろう。【戒律】を操作できるマレなら多分αテスターをNAiから引き剥がせる。【奇跡】のスキルはクラフト技能と似ている。汎用性が高い代わりに多少のタイムラグを要する。おそらくマレとαテスターの奪い合いをしたら勝てない。
鍵になるのはウチの丸太小屋でブッ倒れているカイワレ大根娘だ。未来のパーティーメンバーを迎えに行ってやらねば。
ただ……。
俺は胸中で呟いた。
……マレ。お前はどっち側に付くんだ?
ョ%レ氏と、ナイの。どっち側に。
もう何も知らなかった頃とは違うよな?
だから先生に助けを求めたんじゃないか?
マレ参戦のフラグは立ったのか……否か。
選択の時が迫っている。
俺はジャムジェムの手を取って立ち上がった。
振り返ってウチの丸太小屋がある方角を見ると、ブーンの群れが上空を旋回していた。
俺は目に力を込めた。
【律理の羽】が地上から飛び立ち、空をキャンバスに【戒律】を刻んでいく。
生ぬるい風が吹き、ふわっと幽体離脱した大量のゴミどもがダッシュで女神像に駆けてくる。
……くそっ、心がくじけそうだぜ。
俺の手を引いて駆け出した赤カブトさんに引きずられて俺は嫌々ながら戦場に向かう。
2.ポポロンの森-クランハウス前
イヤに蒸し暑いな。女ども脱がねえかな。
何があったのかは知らんが、見学していたゴミどもが参戦していた。
NAiは強いが無敵じゃないという印象だ。
以前に同じレベル99のョ%レ氏が俺らで無双したが、あのリア充の権化ほどプレイヤーの心理を突くすべには長けていないのかもしれない。
だがプレイヤー側の被害はあの時の比じゃない。小剣群が飛び回るたびに数十、数百というゴミが刈り取られていく。
反撃に遭ったNAiも命のストックをどんどん削られていく。
それを上回る勢いでゴミどもが同士討ちして倒れていく。
NAiと戦いらしい戦いを繰り広げているのは十名ほどのレギュラーメンバーであり、要するに大火力を持つ人間サイズの相手を百人、千人で囲んでボコるのは物理的に不可能なのだ。
功名心に駆られたゴミが割り込むもレギュラーメンバーを応援する一派が素早く撃ち殺し、特に意味なく邪魔したい派が魔法環境を秒単位で切り替えていく。
レギュラーメンバーにしても入れ替わりが激しい。死因は不明だがセブンは居なかったし、サトゥ氏は処刑されていた。リチェットは生きてる。女キャラはプレイヤーの総意により生存率が高いのだ。
まぁこんなもんだろう。大まかには予想通りだ。
しかし、これは……。
ゴミどもの熱の入りようが尋常じゃない。
血しぶきが舞う。
今か今かと昂ぶる戦意が煮立っていくかのようだ。
NAiのレベルは99。だが、それで終わりってことはないだろう。本性がある筈だ。暫定エイリアンと互角以上に渡り合える戦闘形態が。
NAiがそれを出した瞬間にゴミどもはエンフレ戦に移行するつもりだ。
俺は新規プレイヤーのチワワたちと一緒にドン引きした。
傍目からだとロストしたがっているようにしか見えない。頭がおかしい。新種の病気かもしれない。
まるで熟したゴミと新規プレイヤーは別の生き物であるかのようだった。
エンフレ戦は負ければ終わりの大きな賭けだ。それなのにゴミどもはその瞬間を今か今かと待ちわびているように見えた。
完全変身は癖になる。
巨体を駆り、思うままにスキルを振るう快感に取り憑かれてしまったのか。
つーかゴミが多すぎる。ゴミが邪魔でウチの丸太小屋に近寄れない。コイツら全員死んでくれねえかな……。
俺の切なる願いを叶えるように、αテスターが参戦してきた。木々を飛び越え、着地した鬼武者の集団がNAiを中心に布陣する。
赤カブトが俺の手をぎゅっと強く握ってくる。
……分かってるよ。
俺はゴミのようなアビリティを重ね合わせた。
俺だって、ただ漫然と日々を過ごしている訳ではないのだ。エンドコンテンツと言うだけのことはある。
新しいスキルを作るのは楽しい。
【限界突破】
俺は抽出した【戒律】を円環状に束ねて放った。
黒い波に洗われたαテスターたちを手で作ったカメラのフレームに収める。
見える。見えるぞ……。
ツルスケだぜ。
俺は舌を突き出して、まなじりを裂けんばかりに目ン玉をかっ開いた。
コタタマ王国ッッ!
ゴツい甲胄越しに俺の妄想を焼き付ける新術だ。
セクハラ限界突破した俺の前では、もはや厚着は何の意味も為さないと知れ。
俺のイメージ画像と化したαテスターたちは今や美少女戦隊に堕ちた。
今ならっ!
俺のカットインが入る。
通れ……!
脚照ッッッ。
「ダメーッ!」
俺は赤カブトさんに素っ首を叩き落とされた。
ふわっと幽体離脱した俺に、赤カブトさんがあたふたと言い訳をする。
「だ、だって、とにかくダメ! 私の妹だからっ……! 私の妹にそういうことしちゃダメ!」
分かったよ。ジャム。もうしない。
俺はにっこりと笑って天に召されていく。
「ぺ、ペタさーん!」
これは、とあるVRMMOの物語。
新しい国が生まれた……! そして滅びた。
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