子連れ魔族のアンパンデート
このタイミングでインドが介入してくるの? そう思った。韓国サーバーがどんな具合なのかも分かっていないのに? 俺を待てよ。俺の空気を読め。
まぁ待たれても困るんだけどな。
俺は自分で言うのも何だが天邪鬼な性格をしている。ネフィリアの影響だろう。文句を言わなくちゃ気が済まない。面倒臭い男だと自分で思う。関わり合いにならなければいいのに、何故かメガロッパは定期的に俺の様子を見に来る。もちろん悪い気はしないが、たまに心配になる。他にイイ男なんて幾らでもいるだろうに。
1.クランハウス-居間
「なんで逃げたんですか?」
ウチの丸太小屋の居間で経験値稼ぎをしていると、ふらっと立ち寄ったメガロッパがそう言った。
いや、なんでって……。
「近頃のコタタマは冷たいってサトゥさん嘆いてましたよ」
逃げるわあんなモン! 俺は吠えた。
サトゥ氏さぁ。アイツ本格的に頭がイカれてきたんじゃねーの? 情緒不安定っつーか、リアクションが不安定で見てて危なっかしい時があるぞ。
「うーん……。キャラを模索してる感はありますね」
と言うと?
「アメリカにはカートリッジ。中国には呪骸と仙人。非人道的な手段で戦力を強化してるじゃないですか。じゃあ日本は?っていう目で見ると……ちょっと地味ですよね。この前もサトゥさん、狩りから戻ってきたら窓際に立って星を見てて、何してるのかなーって思って見てたら……」
メガロッパは当日のサトゥ氏の奇行を再現した。ウチの丸太小屋の窓際に立つと、足をもう片方の脚に絡めて、窓の敷居に肘を寄せる。ぽつりと言う。
「カートリッジかぁ……。とか言ってるんですよ。ちょっと危ない人ですよね」
ちょっと危ないっつーか、サトゥ氏がカートリッジ製造に着手したら材料になるのは多分お前らだぞ。
メガロッパはぱたぱたと手を振り、
「大丈夫ですよ。二番煎じはちょっとダサいかなーって言っておいたので」
サトゥ氏の苦悩が垣間見えたような気がした。よもや元【敗残兵】の幹部からダサいのは嫌などという言葉が出てくるとは思っていなかったのだろう。
ネトゲーマーにとって有効な技術はパクるのが当たり前だ。むしろ称賛されて然るべきだ。
それがメガロッパは嫌だと言う。
この目隠れキャラは知らず知らずの内にアイドル気取りどもの影響を受け、垢抜けてしまったのだ。
一つ謎が解けた気がした。
サトゥ氏がポポロン見学ツアーを企画したのは俺がどうこうではなく、元【敗残兵】メンバーに所属クランは違えど自分たちは仲間なのだと伝えたかったのかもしれない。
要はアレだ。シグルイの虎子海亀産卵見学ツアー。……つくづく漫画かアニメのコミュニケーション方法しか知らねえ男だな。まぁ照れ隠しもあったのかもしれない。となると、俺を連れて行ったのはスベった時の保険か。
謎が一つ解けた。解けたところでどうなるものでないが。
長い前髪越しにメガロッパが俺をじっと観察している。
「それで、呪骸はどこですか? 連れて帰ります」
呪骸? 何の話だ? 呪術廻戦かな? パンダ先輩いいキャラしてるよな。パンダと言えば知ってるか? 着ぐるみ部隊の新メンバーの……。
素早く話をはぐらかそうとした俺に、そうはさせじとメガロッパがドンドン話を先に進める。
「生命維持に女児の協力が要るのでしょう? 私たちならば彼女の希望に沿うことができます。大して難しいことではありませんから」
……まぁな。整形チケットを使えば済む話だ。だが……。
俺が言葉を濁すと、メガロッパは溜息を吐いた。
「……そうですね。彼女はお前に着いていくと決めた。やはり見た目ほど幼くないのでしょう。目的が複雑、我が身の置き場を決めている」
そう言ってメガロッパがサッと立ち上がる。
「とにかく気が変わったら言ってください。今のところはそれだけです。それでは」
待てよ。
俺はさっさと帰ろうとするメガロッパの肩をガッと掴んだ。肩越しに振り返った目隠れ女がくすりと微笑む。
「なに? 殺して欲しいの?」
そんな訳あるかァ!
そうじゃない。やけにあっさりと引き下がるんだな? 何を企んでる。言え。
するとメガロッパは階段のほうをチラリと見た。人目を気にしているらしかった。
「……ここではチョット。二人きりで会えませんか?」
……コイツはどっちの話をしてるんだ?
いや、事は重大だ。廃人どもが本気で迫ってきたら、せっかくの貴重なサンプルをあっさりと奪われてしまう。俺は決断を下した。
分かった。俺の部屋に来い。
メガロッパはいつになくしおらしい様子でコクリと頷いた。
「……うん。コタタマがしたいなら、いいよ」
2.山岳都市ニャンダム-露店バザー
女神像の地下祭壇から這い出した俺は、呪骸っ子のツヅラを連れて山岳都市に繰り出した。
「私をドコへ連れてくんだよ」
文句たらたらのロリキャラを俺は歩きながら説得する。
専門家にお前を診せる。ツヅラ。お前が自分の体質をどう考えてるのかは知らないが、選択肢は多いほうがいい。もうコロリンは居ないんだからな。
「コロリン様はいずれ帰ってくる」
そうかもしれない。他星系の、俺たちよりもずっと先に進んだプレイヤーを見て、な。考え方の一つや二つは変わるだろう。仙人のスィシーはああ言っていたが、俺は絶対や永遠なんていうものを信じちゃいない。部屋で二人きりになって絶対に何もしないなんて言葉が信用に値しないようにな。俺の命乞いがまるで通用しなかった……。まぁ俺の話はいい。
ツヅラよ。お前の体質は、仮にロストしても継続するものじゃない筈だ。隙はあるということ……。体調管理のためでもある。お前の【戒律】は偶発的なものだろう。狙ってやったとは思えない。コロリンは凄いやつだった。アイツはお前をつぶさに観察して何かあればすぐに対応した筈だ。そのコロリンがお前と俺を引き合わせた。そこには何か意味がある。俺の交友関係も把握していた筈だ……。やれる範囲で思い付くことは試しておくべきだ。
「……まぁいい。お前の幼女を連れ込む技術には感心している。コロリン様以上かもしれない。ただし条件がある」
条件だと。言ってみろ。
「マジュン様に会わせろ。それと、私に変なことはするな」
安心しろ。絶対に何もしない。
俺は請け負った。
マジュンくんの件については考えておこう。そろそろキルペナが明ける筈だ。向こうの都合もある。
おっとアンパンくん発見。バザーで服やらアクセサリーやらを見て回っているようだ。消極的なネカマは自キャラを着飾るのが好きだからな。本日のアンパンくんは珍しく髪を下ろしていて、普段付けないイヤリングなど付けてチャラチャラしている。人によっては別人のように見えるだろう。だが俺の目は誤魔化せない。それで変装のつもりか? 甘いんだよ。
俺は無言でアンパンに近寄っていく。
上体を屈めて服を吟味しているアンパンくんが俺に気付いてハッとした。俺に背を向けてそそくさと別の露店に向かう。俺は無言で追尾する。
アンパンくんは他人のふりで遣り過ごすことを諦めたようだ。歩調を速め、忙しく肩越しに振り返っては焦りを口にする。
「ちょっ……。ええ? 怖い怖い怖い怖い」
…………。
「やっ……! な、なに? 目がマジすぎる……!」
ダッと地を蹴って逃げ出したアンパンくんに、俺はすかさずビッとレーザー光線を放った。アンパンくんの耳についてるイヤリングを掠め、通りすがりのゴミの額を撃ち抜く。
次は耳だ。
びくっとして立ち止まったアンパンくんを攻撃圏内に収めて、俺は言った。
すまない。人違いだ。知り合いに似てたもんでな。
俺の言葉に勇気付けられたアンパンくんが一拍遅れて演技に入る。
「い、いいえぇ。よく言われるんですぅ」
演技の質が低すぎる。口調を少し変えた程度じゃねーか。
まぁいい。俺は気付かないふりをした。アンパンくんのイヤリングにチャラリと指先で触れて続ける。
本当に悪かった。少し傷を付けちまったな。弁償するよ。
「……いいの?」
アンパンくんは意外と乗り気だ。俺を騙すのが楽しいんだろう。髪を下ろしてモテ系ファッションした程度で上手く化けたつもりなのか。コイツの能天気な考えには時々驚かされる。
俺はにこやかに笑った。もちろん。
俺はツヅラの手を引いてアンパンくんの買い物に付き合うことにした。
最初は楽しそうだったアンパンだが、自分の正体にまったく気付く様子のない俺に段々と不安になってきたらしい。髪を結んだりしてアンパンアピールに入る。
「ど、どう?」
ん? ああ、似合ってるよ。
せっかく褒めてやったのに、アンパンくんは何故かムッとした様子だ。
「ふーん。そうなんだ。……さっき言ってた知り合いってどんな人なの?」
そうだな。俺がこのゲームで二番目に知り合ったやつだよ。親友と呼べるかもな。向こうがどう思ってるのかは知らないが……。俺はあいつを大切に思っている。俺は自分で言うのも何だが天邪鬼な性格でね。だから、ついついちょっかいを掛けたくなるのさ。こんなふうにな。
そう言って俺はアンパンくんの手をそっと握った。歯列をギラつかせて言う。
ほぉら、捕まえた。アンパンくゥーん。
ギョッとしたアンパンくんが素っ頓狂な声を上げる。
「ひえっ!? なっ、うっ、えっ? い、いつから……?」
最初からだよアンパンくゥん。俺がお前を見間違える訳ないだろォォォ? 他人のふりして誤魔化そうったって無駄なんだよォォォ。無駄無駄無駄ァ。
「そ、そうだよね」
アンパンくんは何故か少し嬉しそうだった。変なやつだな。
まぁいい。イヤリングだったな。俺が見立ててやるよ。お前のビジュアルにはシンプルなデザインのほうが似合う。
「なんでだよー。俺には俺の好みってもんがあるでしょ」
あー? 言うじゃねえか。だったらお手並み拝見と行こうか。お前のセンスがどれほどのもんか見てやるよ。
おら、ツヅラ。お前もだ。お前はしばらくウチの預かりになる。先生に恥を掻かせる訳にゃ行かねえ。それ相応のカッコして貰うぜ。
「服なんか着れればいい。どうでもいい」
どうでもいいなら俺が決める。良かったな。楽できるぜ。
「買い物に来たんじゃない。下らない用事なら帰るぞ」
まだ分かんねえのか? 俺はアンパンを指差して言った。
コイツがさっき言ってた専門家だよ。アンパンってーんだ。実績もある。こっちのサーバーで最初にポーションを開発したのはコイツだ。別にピカイチの薬剤師って訳じゃないが、ずっと早い段階で人体改造には目を付けてた。ポーションはその副産物だからな。モンスターの肉体を人間に移植する計画だった。
「旦那、旦那」
あんだよ。
「俺、薬剤師じゃないよ。このたび召喚術師にクラスチェンジしました」
あん? テメェ……。この俺を差し置いてレベル20になったとでも言うのか?
「いや、普通だから。レベル20とか普通に遊んでればなれるから。ちょくちょくロストしてる旦那と一緒にしないでっ」
ちっ、生意気な……。カレシは連れ歩かねーのか?
「当たり前じゃん。あれ【ギルド】でしょ。ホイホイ召喚してる人のほうがおかしいんだよ」
……【ギルド】だ? 謎の発光物体が? なんだそれは。俺は知らねーぞ。
「乗っ取られた人が明らかにそれっぽいこと言うのっ。そのものじゃないかもしれないけど……。知ってる? レ氏のご先祖様をこっちの世界に召喚したのはカレシなんじゃないかって言われてるよ」
知らねーよ。そりゃおかしいだろ。だって……。
反論し掛けて、俺は反論できる材料がないことに気が付いた。俺らの宇宙に魔法なんてものはないから、クァトロくんと小さな子供たちを召喚したのは何かしらの装置だろうと思っていた。
俺たちは、嫌がる謎の発光物体を握りしめることでこっちの世界にログインしている。
答えは最初から示されていたのだ。
カレシそのものでなくとも。
クァトロくんたちを召喚したのは【ギルド】なのかもしれない。
……いや、早計だ。【ギルド】はリアルには干渉できない。そこは揺るがない筈。何かあるんだ。俺たちの知らない何かが。
まぁそんなことはどうでもいい。俺の知ったことじゃない。俺以外の他の誰かが勝手にやればいい。そして世界の果てやら何やらで勝手にファイナルバトルにでも何でも突入すればいい。好きにしろ。俺には関係ない。
俺はアンパンくんの肩にガッと腕を回して耳元でボソリと呟いた。
「サンプルが手に入った」
くすぐったそうに身をよじったアンパンくんがチラリとツヅラを見る。すぐに俺へと視線を戻して弁解するようにこう言った。
「お、俺はそういうのに興味ないから」
……いいや、お前はやってくれるさ。俺はそう内心で呟いた。かつてアンパンが試した人体改造が失敗に終わったのはレベルが足りなかったからだ。このゲームのクラフト技能はプレイヤーのレベルが上がるたびに作れるものの幅が増える。
アンパンはネフィリアプロデュースの大量虐殺に手を貸しながらも、のうのうとみんなに愛される薬屋になりたいと言うヤツだ。罪の意識がまったくない。それは、これがゲームだから。プレイヤーを殺してもどうせ残機が一つ減るだけだから自分は悪くないという考え方を持っている。
だったら今更だよな?
なぁアンパンよ。俺と一緒に幼女の身体をいじくり回して幸せになろうぜ。
くくくくっ、ふははははははははははは!
俺は哄笑を上げながらアンパンの背中をバンバンと叩いた。咳き込んでつんのめったアンパンが俺を見上げて呆然と呟く。
「……く、狂ってる」
いいや、狂ってるのは俺じゃない。世界だ。
つまり俺は正常個体ということになるナ?
やはり俺は間違っていなかった。
俺は正常個体さんたちと共に行く。
ゴミどもはエンフレに化けて勝手にドンドン死ねばいい。そのために必要な力はバラ撒いてやった。
異常個体は滅べ。正常個体だけが生き残った優しい世界を俺は作ろう。
さあ、まずは買い物だ。プレゼントでアンパンとツヅラの好感度を上げる。好感度を上げてイベントを起こすとしよう。
これは、とあるVRMMOの物語。
それで、次のロストはいつ頃になりそうですか?
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