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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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踊る、踊るダンスレボリューション

 1.日本-山岳都市ニャンダム


 怖い怖い怖い怖い。

 帰国するなり山岳都市をうろついていると、俺を見つけたクソのような廃人サトゥ氏が無言で俺を追い掛けてきた。

 当然、俺は逃げる。サトゥ氏は無言で追ってくる。一言たりとて喋らない。

 何よ。何なん。何なんよ。

 近頃のアイツらは頭がおかしい。一ヶ月くらい前にも俺を拉致るだけ拉致って目的不明のポポロン見学ツアーに強制同行させられたし、とにかくロクなことをしないので、この辺で縁を切ってしまいたい。

 しかし逃げ切れない。このままでは捕まる。怪鳥のように飛び上がったサトゥ氏に、俺は意を決した。ええいっ、ままよ!

 俺は舌を突き出して耳の後ろに手を当てた。ピロロロロロと怪音波を発する。

 しかしサトゥ氏もまた傑物。空中でとんぼを切りながらベッと舌を突き出し、ピロロロロロと怪音波を発した。

 くっ、相殺された……!

 もはやこれまでかと思われたその時である。ぴくりと何かに反応したサトゥ氏が、素早く進路を変えて俊敏な獣のように地を蹴り壁を蹴り屋根を飛び越えて去って行った……。

 さ、ささやきか? 何だったんだ。いずれにせよ、助かった。

 ホッと胸を撫で下ろした俺は、山岳都市をうろつく業務に戻った。

 脳裏をチラつくクソ廃人の奇行の影をブンブンと頭を振って散らし、自分を勇気付けるように殊更明るい調子で自己ナレーターする。

 いやぁー。戻って来ましたよ。日本。

 やっぱね、地元は落ち着くっつーかね。あっちはあっちで知らない人ばっかりだったから変に絡んでこないし子ティナンもとてもお上品で……。

 こっちの子ティナンなんかは、ほら、これですわ。俺がジョゼット爺さんと結婚した辺りから一気に化けの皮が剥がれた感あるよね。それまでは動物園の変な生き物扱いだったのが、実は喋れる変な生き物に昇格したっつーかね。上品さのカケラもねえ。チンパンジーなの?ってくらい何の脈絡もなく俺の身体をよじ登ってきて、耳元で叫んできやがる。


「コタタマー! コタタマー!」


 うるせぇー! お前らっ、お前らはなんっ、何なの!? 俺の鼓膜を破りたいの!? 破ってどうしたいの!? それ本能的なアレなの!?

 いや、分かってる。これはアレだ。覚えたての単語を使ってみたいっていう、ただそれだけのアレだ。分かっている。分かってはいるが、過去に何度もレイド級に鼓膜を破られてきた経験が俺に嫌な連想を働かせる。

 コイツら悪意がないのに俺の指をポッキーみたいにへし折るし、何なら俺の手を下から持ち上げてゴグンッと肘と肩の骨を外してきたりするからな……。

 その無邪気な破壊衝動が怖い。もしもコイツらの中からレイド級が誕生したら女神像の地下祭壇を陣取ってリスキルに走るんじゃないか。育って力を付け始める前に今この場で立場をハッキリとさせておいたほうがいいかもしれない。

 俺は耳元でギャーギャーギャーギャーとやかましいチビっ子どもをブンブンと頭を振って振り落とした。振り落としたと言うよりは、俺が反応を示したのでよく見るために地べたに降りたという感じだ。大人しめの子ティナンが入れ替わりに俺の身体をよじ登ってくる。……何なんだこの永遠に終わらない戦いは。いや、今はそこじゃない。俺は気を取り直した。子ティナンをビッと指差して何か面白いことを言ってやろうとする俺だが、突然の大音量にびくっとして振り返る。な、なんだ?

 種族人間が唐突にミュージカルを始めた。

 ワーッと屋根やら何やらから飛び降りてきたゴミどもが演奏に合わせてダンスを踊る。

 何だ何だ。何なんだ。

 おっと主役かな? 頭にターバンを巻いたクッソ男前がモデルのファッションショーを彷彿とさせる独特の歩調で道のド真ん中を歩いてきて、くるりとターン。ぐんッと大きく仰け反って前髪を搔き上げるような派手なアクション。

 くっ……! 何が何だかさっぱり分からねえが、このままじゃ負けるという確信があった。存在感を示さねば。お前らの好きにはさせねえ……! 俺のアドリブ参加。曲のテンポに合わせ、身体を小刻みに揺すりながら色男の後ろを斜めに横切る。俺と呼応した知らないゴミが俺と対角線を引くように色男の後ろを斜めに横切っていく。ゴミとゴミが連鎖し、ゴミたちの共演が熱を帯びる。

 クッソ男前の周囲に集まった俺たちは、ピアノの鍵盤をまとめてブッ叩くような音に合わせて一斉に各々の最高にカッコいいポーズをキメた。斜めに身体をひねった俺はバッとキレのある動きで腕組みをしてつんと顎を上げる。

 The COOL…

 ヒュー!と歓声が上がり、それを合図に謎のダンサー集団が素早く撤収していく。訓練された動きだった。あっ、おい待て! 俺はクッソ男前を捕まえようとしたが、ひらりと躱された。アラブ系か? 彫りの深い顔立ちにあご髭を蓄え、どこか憂いを湛えた目元がセクシーだった。色男がぱちっとウィンクして、常人離れした身軽さで飛び上がる。残像の尾を引いて、二段ジャンプで難なく屋根を飛び越えて行った……。

 ……い、インドか?

 いや、そうと決まった訳じゃないが……。

 さっきの唐突なミュージカルは、インド映画のそれだ。

 こちとらクソ廃人の相手をしてやるだけで手一杯なのに、また濃い連中が増えるのかよ。トホホ……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 世界は回る。個人の思惑などお構いなしに回り続ける。世界は広い。天国か地獄か。ジャンルか何かを根本的に勘違いしたプレイヤーに影響されて、モンスターが踊る国もある。



 GunS Guilds Online



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