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1.ポポロンの森-人間の里-怪しい事務所
呪骸とは、【巫蟲呪画】のエリート感染源になるべく人体改造されたプレイヤーである。仙人の出来損ないというのは初耳だが、考えてみれば確かに方向性は似たものになるのか。より感染源に適した人間とは、つまるところ生命力が高いということなのだろう。あるいは仙人を量産しようとした結果生まれた副産物なのかもしれない。多分、答えは両方だ。人体改造が一発で上手く行くとは思えない。色々と試してみて、偶然にも最初の方針と違った成果が出たならそちらを優先することもあるだろう。
ガキンチョ本人に聞けば早いのだろうが、軍人気質らしく頑として口を割ろうとしない。兄サンが頭を抱えるのも分かる。このガキンチョは自分をエリート軍人だと思っているらしく、ナチュラルな種族人間を完全に下っ端と見なしていた。
しまいにはベジータみたいなことを言い出す始末である。
「さっさと幼女を連れて来い! どうなっても知らんぞーッ!」
俺はドン引きした。生態的にロリコンなの?
俺は対処に困って兄サンに尋ねた。
こんなこと言ってるけど、どうなるの?
「……暴走した仙人みたいになるらしい。怖すぎて試せない」
そりゃヤバいな。俺は兄サンに同情した。続けて尋ねる。猶予は?
ガキンチョが偉そうに腕組みなどして答えた。
「五分だけ待ってやる。急げよ。どうしても幼女が厳しいようなら女でもいい。少しは時間稼ぎになる。男はダメだ」
分かりやすいな。見た目が女ならいいんだな? リアル女でなくとも。
ガキンチョは力強く「うむっ」と頷いた。
なんだよ、楽勝じゃねーか。五分もあれば余裕だぜ。他にリクエストとかあんのか? 髪型はロングがいいとか、大人しめの子がいいとかよ〜。
「むっ。そうだな……。ティナンはダメだ。私の頭が破裂する。それ以外は特にない。小学生高学年でも構わない」
おっけ〜。
俺の相棒はロリコンなので、ロリを見る目は確かだという自負がある。
俺はパッと外に出て、そこら辺を歩いている幼女を言葉巧みに事務所に連れ込んだ。これがリアル幼女じゃなきゃダメだっつーならヤバすぎるので見捨てたが、中身がおっさんでも構わないというならさして難しくない。ネトゲーマーは特別な理由でもない限り自キャラに美少女を選択するからだ。このゲームの場合はキレーなチャンネーとヨロシクしたいという理由で、ややロリキャラの割合が低いが、それでも二割を切ることはない。
俺は事務所に連れ込んだロリキャラににこやかに札束を手渡した。
はい、約束のお金。幼女を舐めるだけの簡単なお仕事だよ。それ以外には何にもない。ボロい商売だよな〜。もうちょっと時間あったら俺がやってたよ。いや、でも整形チケットか〜。整形チケットはな〜。
「チュンユウさん面白ーい。でも、ホントにヤバそうなら死に戻りしますよー?」
全然オッケーよ。何なら俺も疑ってるからね。いざってなったら俺も一緒に逃げるんで。どっちが早く自害できるか競争しようぜ〜。
そこまで話して、俺は壁際に突っ立ってる怖いお兄さんたちを一喝した。
どけやっ! オメェーらは居るだけで邪魔だっつーのが分かンねーのか!? てっきり察して居なくなってるモンだと思ったぜ! ああ!?
パッと笑顔に戻って使えないゴミどもに代わってロリキャラに謝罪する。
ゴメンね〜。ッとに気が利かねえ連中でさ〜。まぁ聞いての通りだよ。俺、ここじゃちょっとした顔だから。キミに手出しするアホが居たらブッ殺すんで〜。血とか大丈夫なほう?
「うんっ。私、近接職だからっ」
俺はメニュー開いてティナン時を確認した。ちょっと時間が余ったな。とはいえ、ロリキャラのご機嫌をこれ以上アゲても時間の無駄だ。つるぺったんに存在価値なんざねえ。俺は予定を繰り上げた。呪骸っ子に必要事項を確認する。
で、どんくらいペロペロして貰えばいいんだ? 無理を言って貴重な時間を削って貰ってンだ……。俺の顔に泥を塗ったらタダじゃ置かねえぞ。
呪骸っ子は簡潔に答えた。
「やってみなければ分からない。しかし最長で三分ほどだ」
ほう。その受け答え。テメェー……やっぱり見た目ほどガキじゃねえな。リアル女か? 言え。中身がおっさんなら渡した金だけじゃ釣り合わねえ。
「リアル女だ。根拠を言う。私の体質は【戒律】の一種だ。中身が男なら、よりペナルティが重くなる。それは無駄だ」
……いいだろう。
60%。60%信用できる話だ。この場でこれ以上は望めない。
さて、兄サン。必要経費だぜ。分かってるよな?
「ああ。金は俺が出す」
よし。じゃあ頼まぁ。
「はーい」
ロリキャラが呪骸っ子の頬をペロペロする。
最長で三分か。
俺はソファに腰掛けて、兄サンと話の続きに戻る。
それで? 手を焼いてるっつー話だったが、俺は何をしたらいい?
ペロペロされているガキンチョが横から口を挟んできた。
「私を連れて行け。お前は使える」
ダメだ。俺はキッパリと断った。続けて根拠を述べる。
今回はたまたま上手く行った。環境が良かった。【戒律】の一種と言うが……お前の縛りは面倒すぎる。……スィシー。コイツの体質を直すことはできるか?
「無理だ。体質の改造は死しても継続する。決して直らないことを代償としている」
ちっ。何だってそんな……。
項垂れた俺の脳裏をアットムの幸せそうな笑顔が過った。
(街でスピンの串焼きを売ってるティナンが可愛いんですよ)
……バカヤロウ。アットム……。
俺の相棒は生粋のロリコンだ。救い難い変態だ。どうしようもないクズだ。後ろ指を指されるような性癖を持ってる。弁護はしない。最底辺の人間だ。大抵の連中はアイツを軽蔑するだろう。それは正しい。けど、俺だって人間のクズだ。俺がアットムをクズだと罵れば、他の連中はどの口でと言うだろう。それも正しい。だから俺とアットムはどこまでも一緒だ。二人で肩を組んでドブ底を歩いて行くんだ。石持て追われ、後ろ指を指されて生きていく。
俺は顔を上げて言った。
分かった。お前は俺が引き取る。
ロリキャラが慣れないペロペロに息を荒げていた。
「んっ、んっ……!」
種族人間は自分の毛並みを舐めて整えるということがないから、舐めるのが下手だ。休みナシでペロペロしていたら唾液がどんどん湧いてきて口の端からよだれは垂れるし、呼吸は乱れて荒くなっていく。
逃すまいとロリキャラの腰に腕を回して強く抱き寄せた呪骸っ子が受けて立つとばかりに不敵に笑って言った。
「私のことはツヅラと呼べ。キャラネは別にあるが、気に入っている」
俺はコタタマだ。こっちじゃどういう訳かチェンユウと呼ばれてる。
俺たちは自己紹介した。
ツヅラは唾液まみれになった頬をゆるめた。
「ああ……。そうだろうなと思っていた。この出会いは運命だ。コロリン様の意思は私が継ぐ」
まぁそうだろうなと思っていた。俺はオムスビコロリンに嵌められたのだ。ヤツはとんでもない置き土産を残して行った。多分、何をどう足掻いても俺はツヅラと出会うことになっていたのだろう。
幼女化したマジュンくんが、この一連の流れのゴールなのだと思った。
呪骸の生命維持には幼女を欠かすことができず、それならば呪骸を管理する者が幼女化するのが最も確実で手っ取り早いからだ。
そう、かつては黒髪の美女だったオムスビコロリンが金髪ロリに化けたように。
2.海上都市ニャンダム
でも、じゃあ幼女をお持ち帰りしても許されるのかと言えば、それはまったくの別問題だった。
ツヅラを連れ帰った俺に、赤カブトさんはひどく静かな眼差しを向けてきた。
「……ペタタマくん」
いやぁー……。
……これ正直に言えば許して貰えるのかな? どうなんだろうね? 俺は冷静だ。道すがら色々とシミュレートしてみたのだが、俺に他意がないことを分かって貰うには一度殺されたほうがスムーズに事が運ぶという結論を導き出していた。
よって俺は強気に出る。
よう、ジャム。今晩はJKのヤサに泊まる予定になってる。外泊ってのは、いつぞやの俺密室殺人事件以来になるか……。
すると赤カブトさんはみるみる内に真っ赤になっていく。
「えっ。そ、そうだっけ……?」
そうさ。俺は赤カブトさんの華奢な肩にそっと腕を回した。耳元でぼそりと囁く。
トクベツな夜になりそうだな……?
赤カブトさんはバッと俯いてもじもじし始めた。くくくっ……。
計画通り。ウチの子たちが俺を殺したがる理由は未ださっぱり分からないが、何をどう聞いても恥ずかしがって答えやしねえ。だったら俺はそれを利用するまでよぉ……!
衝動的な殺しさえ回避できれば、あとは時間が解決してくれる。俺は別に悪いことしてる訳じゃねえんだ。身寄りのない幼女を引き取ったまで……! だろ? ポチョよ!
ポチョはコクリと頷いた。ポッと頬を赤らめて、
「コタタマ。優しい」
だよなぁー! 俺、ご満悦である。
スズキに至ってはもはや俺がどんな女を連れ込もうが理解を示してくれる。ティナン警察にガチャッと手錠を嵌められて連行される俺をうっとりと見つめて、
「コタタマ……。輝いてるよ……!」
ち、違うんです。刑事さん……! ご、合意の上……! 合意の上ですから……!
「暴れるな。続きは署で聞く」
署は嫌ぁッ! せ、先生! 先生ー!
俺は何度か警察のご厄介になっているから知っている。警察ティナンは絶対に単独行動を取らない。最低でも二人一組で動く。万が一にも取り逃がせない案件だと判断したなら応援を呼んで倍々で増えていく。
ちょっとした大事になっていた。
ツヅラを肩車している先生が警察ティナンに抗議してくれている。
「誤認逮捕だッ。プレイヤーが見た目を変えることができるのはご存知の筈っ。どうしてもと言うならば私も同行する!」
警察ティナンが首を横にふりふりする。
「二、三ほど事情を聞くだけだ。事件ではない。よって同伴者の必要を認めない」
……!
コイツら、警察ティナンじゃない? 軍部か!? ツヅラを追って……!?
アッ!トム、くん……?
警戒するよう呼び掛けた俺の声が尻すぼみになって消えた。
アットムくんは降って湧いたような幼女を険しい面持ちで観察していた。態度を決めかねているといった様子だ。変態紳士アットムのことだ。てっきり無条件でツヅラを受け入れてくれるかと思っていたが……。
いや、そうか。
ロリコンは心の所作だ。
純粋無垢な心の在り方に惹かれるのであって、見た目の問題ではないのだと彼らは言う。
ツヅラは見た目こそ幼いが、語彙や思考能力から頭脳は子供ではないことは明らかだ。例えるならば、急に子供ぶることをやめたコナンくんと似た印象を受ける。コナンくんって元太と光彦に対しては完全に素で接してるよな……。
おっとコナンくんはともかく。
鋭い眼差しでツヅラを見つめるロリータソムリエ、アットムくんの判定やいかに?
アットムくんの険しい表情。厳しいか? いや、アットムくんの表情が徐々に和らいでいき……? フッと自嘲するように微笑んだ。そして?不意に?俺のほうを向いて……。
ぱちっとウィンク。グッと親指を立てた。
ロリータ認定だ!
変態紳士アットムくんのロリータ認定が下ったぞー!
やはり見た目の問題らしい。
……アットムのロリータ認定が下ったなら問題ない。ヤツは命に代えてもツヅラを守るだろう。
俺はぴたりと抵抗をやめて警察ティナンに言った。自ら率先して前に出る。
「行こう。時間が惜しい。俺に聞きたいことがあるんだろ? それとも……。事情を聞きたいってのは口実かな?」
警察ティナンの目が俺に集中した一瞬。その一瞬を逃さずに、知らない人が路地裏に身を潜める。俺へとコクリと頷いて、さっと裏路地を駆けて行った。
俺とアットムと知らない人のカットインが、互いに背を預けるように一瞬の交錯を交えて三方に散った。
ニジゲンとトドマッの姿はなかった……。
それが何を意味するのかは分からない。
だが、もしも俺を心配して尾行していたのだとしたら……。
ふっ。ちょいとマズいトコを見られちまったかな。
これは、とあるVRMMOの物語。
怪しい事務所に女児を連れ込んで別の女児を連れ出した男……。
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