テレサ
人間はアホばかりじゃない。
個人同士の付き合いなら大抵は上手くいく。
なのに徒党を組むと途端にアホになる。
結局のところはそこなのだろう。
Chapter2.手をとりあって
ウサギ王国の侵攻を押さえることに成功したモグラ帝国であったが、「内乱」による被害は甚大につき持久力の低さを露呈してしまう結果となった。
これを機と見たウサギ王国の首脳部は再侵攻を決断。兵力を多方面に同時展開しモグラ帝国の領土を削り取っていく。
モグラ帝国の劣勢はひとえに動員の少なさによるものだった。当然ながら女キャラは非モテ組を捨てモテ組に付いたのだ。
先の会戦で反攻に出れなかった時点でモグラ帝国の敗北は決していたと言っていい。沈みゆく泥舟の上で大黒屋の目に映るものとは……。
1.スピンドック平原-モグラ城-会議室
「この戦争は負けだ」
窓際に立つ大黒屋が、もぐらっ鼻とウサ耳どもの戦いを眼下に収めて言った。
「敗因は、リチェットを迎え入れなかったことか。NAiは夢見に立ちもぐらっ鼻の戦意を煽ったが、ADプフはウサ耳と共に戦場に立った。その差とも言えるが、こればかりはな……」
ハッ、大黒屋よ。貧乏くじを引いたな。
「いや、そうでもない。崖っぷちよ。お前たちはADプフを追え。ウサギ王国の連中はかなり前掛かりになっている。慎重論も出たろうにな。この城で起きた惨劇をいつもの内輪揉めだと見ているのだろう。情報が漏出していない。私が思っていたよりも我が国の結束力は強固なものだったらしい」
へえ。お前でも読み違えるなんてことがあるのか。
「まぁな。これが戦争だ。個人の思惑が繋がり、途切れ、あるいは大きなうねりとなって時代を作っていく。やってみなければ分からん、ということだな」
目を覚ました饅頭屋を旅の仲間に加えた俺たちはモグラ城を出てプフさんを追う。
俺は小高い丘からウサ耳どもに包囲されたモグラ城を見る。
……モグラ帝国はもうおしまいだ。
いや、国なんか関係ない……。
大切なのは、どうモテたかなんだ。
この日、モグラ城は陥落した。
残存兵力を率いて最後の反撃に出た大黒屋はもぐらっ鼻と運命を共にした。
戦争は終わったのだ。
しかし俺たちの戦いはまだ終わっていない。
ハチ……。待ってろよ。
俺たちはウサ耳どもによる残党狩りを避けて森の中を進む。そこで俺たちが目にしたのは、一体の怨霊を追う怨霊どもという奇妙なものだった……。
ガフさんが怪訝な声を上げる。
「なンだ? 何がどうなってる?」
セブンがガフさんに判断を委ねる。
「班長。あんたが頭だ。命じろ。それだけでいい」
メガロッパがガフさんを急かす。
「助けるなら急ぎましょう」
饅頭屋が意見を述べる。
「拙者は反対にござるよ。怨霊には怨霊の理がござる」
俺はどっちでもいいぜ。
ガフさんが決断を下した。
「面白そうだ。助けるぞッ」
うぇーい。
俺たちは怨霊どもを追い払った。
展開早すぎて離脱する暇がなかったもんだから普通にリチェットが同行してる訳だけど、このパーティーめちゃくちゃ強ぇな。
ハッキリ言って俺要らねえだろ。
しかし何故かはぐれ怨霊は俺に懐いてきた。「チョコくれよ」とか言いながら俺のケツを揉んでくる。いや、なんでだよ。そこにお色気担当のリチェットとメガロッパが居るだろ。そっちに言えよ。
だがシャイな怨霊は俺から離れようとしなかった。
仕方ねぇな。短い付き合いになりそうだが、お前をテレサと呼ぼう。テレサ。いいな?
「俺の女にしてやるよ」
OKってことか? まぁいいや。
テレサが仲間になったぞ。やったぁ。
役立たずが増えて俺も嬉しい。これで少しは肩身の狭い思いをしなくて済むだろう。
2.ポポロンの森-人間の里
もうなんかエンフレが当たり前のようにうろついてるのも見慣れたな。
このゲームはレベルを10や20上げても劇的に強くなったりはしないので、モブにもモブなりのドラマがある。俺のアビリティちゃんを悪用して他者のエンフレに干渉すると、その反動でコンフレに戻れなくなるのだ。
そしてそいつらは俺を見つけると逆恨みして絡んでくる。
【崖っぷち〜。ご覧の通り俺はもう助からねえ〜。この始末をどう付けてくれンだよオメェは〜】
「チョコくれよ」
知るか〜。オメェが勝手にやったことじゃねえか〜。ガキじゃねんだ〜。さっさとレイド級に喧嘩売るなりしてロストしろや〜。
【記憶が飛ぶのは別にいい〜。問題はレベルだよ〜。次の俺が上手くやれるよう根回ししとかねぇとな〜】
「チョコくれよ」
冒険者ギルドか〜。スマイルの旦那は手広くやってるみてぇだな〜。
「チョコくれよ」
耳元でチョコチョコうるさいんじゃボケぁ!
俺の渾身のナックルアローをテレサはあっさりと手のひらで止めた。なにっ……!
いや、そうか。はぐれってのは野良モンスターよりもステータスが高い。それがお約束ってもんだ。DQ5のゲレゲレも野良パンサーとは一味違ったしな。
おっとウサ耳どもが雁首を揃えてぞろぞろとこっちに歩いてきた。残党狩りか。調子に乗りやがって。俺は声を張り上げる。オメェら何しにきた! 俺らはもぐらっ鼻じゃねえぞ! 道を広がって歩いてんじゃねぇーよ! 邪魔だ! どけ! 殺すぞ! 俺以外のメンバーが殺すッ!
ウサ耳どもの班長と思しき男が一歩進み出た。
「ならリチェットを置いてけよ! そいつは旧帝国の頭だ! どう考えたって放置しとくのはマズいだろ〜!」
戦争は終わった! オメェらの勝ちだ! もう十分だろ! 放っとけや!
「眠たいこと言ってんじゃねえよ〜! 敵をやっつけましたメデタシメデタシって訳にゃ行かねえだろ〜! 王国は分裂するぜ! 手柄が要るんだよ〜!」
クズどもが! そんなのテメェらで勝手に……! やりやがれと言い掛けた俺をリチェットが手で制してくる。
「私がこの身を差し出せば他の者には手出ししないと誓うか?」
リチェット……!
ウサ耳リーダーが舌を突き出して下卑た目でリチェットを見る。
「女王さんよ〜。あんたはイイ女だな〜。俺ぁモテるからよ〜。正直に言うわ……! そりゃ無理だな〜! オメェらは揃いも揃って首にでっかい看板ぶら下げてンだよ〜」
「そうか。じゃあダメだな」
リチェットはあっさりと諦めた。うんうんと頷き、フフリと笑う。
「ちなみにその看板にはなんて書いてあるんだ?」
噛み付くのでエサをあげないでください、だな。どいつもこいつも好戦的で困ったもんだぜ。な? テレサ。
「チョコくれよ」
いちいちケツ揉むな。
俺らの後ろから一人の男がザッザッと足音を立てて近寄ってくる。放っておいたら勝手に死んでいたセミのような男だ。ロン毛の黒コートがウサ耳リーダーを見据えて言う。
「ハチはどこだ」
ウサ耳リーダーは気圧された。
「うっ……! せ、セブンか」
セブンてーのは、リチェットやメガロッパが手も足も出ないほど強いって訳じゃない。だが、危ない男だ。森の中で得体の知れない虫と出食わしたかのような怖さがある。ましてガンナーだからな。このゲームの弓職は対人特化の職業だ。いつでも殺れるという必殺の気迫がウサ耳どもの身動きを封じている。
ウサ耳リーダーは十分な勝算を持って事に臨んだ筈だが、実物のセブンを前にしてその勝算が吹っ飛んだらしい。このセミ野郎はいつも死んでるから、いざ実行に移した時に居るか居ないか分からないというあいまいさもあったのかもしれない。
セブンが続ける。
「知ってるのか知らねーのか。言え。知ってるなら最後まで生かしといてやる。そのほうがテメーらは有利だろう」
セブンの恫喝。その手には乗らないとウサ耳リーダーが吠えた。
「知ってても言わねーよ!」
セブンが皮肉げに口をひん曲げた。
「じゃあ死ね」
開戦。
俺とテレサはやることがないので、暇潰しに木の棒で地面を引っ掻いて五目並べをやる。
おっとテレサ。そうじゃねーよ。いくら俺がアホだからってよー、そんなあからさまに三並びを作っても意味ねーだろ。やるなら手が伸びる方向を限定しねーとダメだ。五目並べってのはリーチを二つ同時に掛けたら勝つゲームだからな。おい、聞いてんのかテメー。
「チョコくれよ」
……コイツもしかしてマスコットキャラクター枠なの? DQで言うところのスライム、FFで言うチョコボとモーグリみたいな……。
おっと決着が付いたようだな。
俺は呻き声を上げて地べたに転がるウサ耳どもを睥睨してこう言い放った。
「終わったな……」
ウサ耳リーダーが死に掛けながらも吠える。
「オメェーは何もやってねーだろ!」
ちっ、ウチの班員も詰めが甘ぇな。仕方ねぇ。俺っちがキッチリとどめを刺してやんよ〜。斧を担いでウサ耳リーダーに歩み寄る俺をセブンが押しのけた。
「ハチは。プフはどこだ。言え」
ウサ耳リーダーの傷は深い。歯を食いしばり、血のしぶきを飛ばしながらセブンの胸ぐらを掴んだ。
「セブン……! そのザマは、なんだ……! 俺ぁ、女のケツを追う、テメェの姿なんざ見たくなかった、ぜ……!」
どけ、セブン。無駄だ。そいつは喋らねーよ。俺が引導を渡してやる。
俺はセブンにブン殴られた。何しやがる。
「黙ってろ」
誰が黙るか。なぁそうだろうウサ耳! 敵にベラベラと機密を喋るアホがどこに居るってんだ!
ウサ耳リーダーはじっと俺を見て、へらっと笑った。セブンの胸ぐらを掴んでいた手から力が抜けて地べたに落ちる。
「女神像、だ……。行け……」
こ、コイツ……。俺が帰りたがってることを見抜いて……。
ガフさんが俺の肩を揺すってくる。
「女神像だと? どういうことだ?」
ちっ、期間限定の公式イベントだからな……。
復刻版チュートリアルの時も女神像からチュートリアル空間に入ったろ。
このゲームは移動に時間が掛かる。新規ユーザーでも参加できる場所ってーと、まぁポポロンの森だろう。だがサーバーによってはポポロンの森も怪しいかもな。
だったら女神像だ。
……けどよ、特定の「鍵」は要るぜ。プフを追ってるのが俺たちだけってことはないだろう。念じるだけで行けるならとっくのとうに誰かが行ってる。その情報が掲示板に流れた筈だ。
ハッとしたメガロッパが顔を上げる。
「パーティー申請……」
あん?
「バトルフェーズがあってから、ずっと考えてたんです。このゲームのパーティー機能は本当に形骸化してる。デサントの転職条件を満たしてしまうかもしれないし、パーティーチャットは使えなくて、パーティーを組んでなくても同じチャンネルに入れる……。もう野良パですらパーティーを結成することってないんですよ。だから、最後の最後で鍵になるのはパーティー申請なんじゃないかって」
……条件はパーティー人数か?
ここに居るメンバーは7人。ガフさん、俺、セブン、リチェット、メガロッパ、饅頭屋、そしてテレサだ。
テレサ、お前は……。
ネトゲーマーにはソロ気質のプレイヤーが多い。オンゲーのメインコンテンツは「人」で、一人でやれることに限りがあるのは当たり前だ。なのに人付き合いはストレスだからと、ソロでも問題なく遊べるようオンゲーは進歩してきた。
ぼっちでも条件を満たせるよう仕組まれていたのだとすれば、足りない頭数を埋めるのはNPCということになる。
怨霊はプレイヤーの影みたいなものだ。豊富なテキストと行動パターン。中の人が居るのではと疑ったこともあるが、それにしては男キャラへのセクハラ行為が徹底しすぎている。女キャラにセクハラしたほうが絶対に楽しい筈なのに。
もしも最初から7人揃っていればテレサ救出のイベントは発生しなかったのかもしれない。
そう、最後の鍵は、俺の胸をこねくり回しているテレサだった。
「お前、メスの顔してるぜ」
してねぇよ。
サッと立ち上がったセブンが女神像のある方角を見つめてぽつりと呟く。
「ハチ……」
Misson Clear!
ファンファーレと共に戦歴が表示されていく。
俺たちの推測を裏付けるように、戦果ゼロの項目に俺とテレサのキメ顔が仲良く並んだ……。
これは、とあるVRMMOの物語。
生意気なアルバイトに世間の厳しさを教えてあげるのも先輩の務めなのです。
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