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ギスギスオンライン  作者: ココナッツ野山
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死亡フラグを乗り越えて

 1.決戦


 機械獣と化した饅頭屋が咆哮を上げる。片手を突き出すと、黒い金属片が結集していびつな形状の大剣を構築した。饅頭屋の腕からコードのようなものが伸びて大剣に接続する。全身を迸った稲妻が大剣に伝わっていく。

 残念ながら俺は大して戦力にならない。援軍は期待できない。ついさっき皆殺しにしてしまった。実質的にはガフさんと饅頭屋の一騎討ちということになる。

 気圧されたように後ずさったガフさんが戸惑いの声を上げた。


「なンだッ、あの魔石は!?」


 なんだろうねぇ。俺はすっとぼけた。

 なるほど、あるいは俺が悪いのかもしれない。あの魔石は妖精モード時にクラフト技能を使ったらなんか出来たブツだ。ウッディの力と記憶が作用したのだろう。ウッディの兵科は【工兵】で、工兵というのは戦場で塹壕を掘ったり橋を架けたりして味方が有利に戦える環境を作る兵士のことだ。

 今、視聴者プレゼントがめぐりめぐって俺の首を締めようとしている。巻き込んでしまったガフさんには申し訳なく思っている。

 でも俺たちはコンビなんだ。余計なことを言って仲間割れしてる場合じゃない。

 俺は大して戦力にならない。けど嫌がらせくらいならできるかもな。

 ガフさん! パーティー申請をくれ!


「チッ、仕方ねェ!」


 ガフさんは米国サーバーのプレイヤーだ。いつからそうなのかは分からない。最初からそのつもりだったのかもしれない。所属サーバーは最初にキャラクリした時に決まる。つまり何かの用事で日本に立ち寄った時にキャラクターデリートしてキャラクリしておけば、帰国しても日本サーバーの情報をリアルで横流しすることができる。

 デサントを増やすのはあまり良くないらしい。戒律武器は市場に混乱を招くから、なのだとか。しかし状況が状況だ。

 ガフさんのパーティー申請を受諾。どこからともなく差し込んだ光が俺を照らす。


【イベント】【戦場の槌】【Clear!】

【Class Change!】

【DXコタタマ さんがデサントにクラスチェンジしました!】


 饅頭屋ぁ!

 俺は吠えた。

 聞こえるか! 意識はあるか! なんでお前がここに居る! お前ほどの男が中国に辿り着けなかったってことはねえだろ! 何があった……。

 機械獣の胸から迫り出している饅頭屋の顔面がぐるんぐるんと回る。目尻から伝った一筋の涙が頬を横切って落ちた。


「へ、陛下。あの怨霊めは……拙者にござる。拙者自身にござるよ」


 それは……あまりにも悲しい独白だった。


「たとえこの身が朽ちようとも、ウサ耳めらを一人でも多く道連れにするでござる……」


 俺らはウサ耳じゃない。


「こ、この魔石は……自動的なものだ」


 饅頭屋の様子がおかしい。いや、ずっとおかしかった。大剣を引きずってこちらに歩み寄ってくる。俺とガフさんは同じだけ引き下がるが、さすがに壁にブチ当たるまで後退する訳には行かない。自由に動き回るスペースは絶対に必要だ。タイムリミットが近い。

 饅頭屋が続ける。いつになく切迫した様子で。


「この私の……意識、を……やれるようなヤツが、居るとは……」


 カッと目を見開いた饅頭屋が最後の力を振り絞るように叫ぶ。


「私のッ、顔面を狙えッ……! 急所はッ、胸にあるッ! 例外は、ない……」


 それきり饅頭屋は口を閉ざした。ギョロリと目玉を動かして俺とガフさんを交互に見る。

 ガフさんが背中に担いだ戦斧を引き抜いて叫ぶ。


「トレモーに避難するぞッ!」


 俺はこんなこともあろうかと拝借してきたウチの子たちのパンツを魔石に変換した。

 トレモーに? 名案とは思えなかった。何かが引っ掛かる。しかし考えをまとめる時間がない。正直に告げる。何かヤバい! いつでも離脱できるよう備えろ!

 ガフさんが頷いてトレーニングモードを起動した。パーティーを組んでいる俺も一緒にトレモーに入る。

 風景が一瞬で切り替わり、機械仕掛けの黒い地面に降り立つ。

 饅頭屋は瞬時に俺たちを追ってきた。クソ虫どもが俺たちを取り囲んでいる。【歩兵】の一斉射撃が俺とガフさんの肉と骨を削る。俺は胸中で舌打ちした。引っ掛かっていたのはコレだ。かつてマジュンくんはトレモーに細かく出入りしてリチェットたちを出し抜いた。トレーニングモードは便利すぎる。このゲームにおいて救済策などというものは当てにならない。


「うおおッ、ヤバい!」


 トレーニングモードは【ギルド】のホームだ。殺されても残機が減ることはないが、延々とリスキルされて足止めを食らうのはマズい。【ギルド】の幹部クラスが来たら何をされるか分からない。NAiもそんなことを言っていた。

 退くか? いや、しかし少しでも時間を稼げれば……。

 ダメっぽい! なんか来たッ!

 トレモーは通常フィールドの写し鏡のような空間だ。城内でトレモー入りすれば黒い金属で出来た城内からスタートになる。

 その城全体がぐらぐらと揺れていた。とても立っていられない。壁に亀裂が走った。尻もちを付いた俺とガフさんがひしっと抱きついて悲鳴を上げる。きゃーっ!

 壁に走った亀裂をこじ開けてデカい虫がじっと俺たちを見つめている。異様に長い触覚をしている。脚も長い。そこら辺の三下とは明らかに格が違う。

 やってられるかッ。俺とガフさんは即座にトレモーを脱出した。

 通常フィールドに戻るなり俺とガフさんは同時に仕掛けた。トレモーへの一時避難は有効なワザだが、待ち伏せに弱いという欠点がある。帰還した直後は棒立ちになるので、通りすがりのゴミが据え膳とばかりに襲い掛かってくるのだ。

 今回は俺たちが襲い掛かる側ということになる。通常フィールドに復帰した饅頭屋の立ち上がりを狙う。出し惜しみする理由はない。俺は戒律武器のボーガンをクラフトした。耐久力を犠牲に工程を短縮して一気に組み上げる。ボーガンは【スライドリード(射撃)】との相性が悪いので戦闘職には不評なのだが、生産職の俺には関係ない。矢に逆補正を仕込んで撃つ。

 ガフさんは嬌声を上げて突進している。どういった経緯を辿ったのかは知らないが、米国サーバーは【スライドリード】の三段階目を解放している。その真価は分身の操作よりも身体能力の爆発的な向上にある。

 饅頭屋の肩口に俺が放ったボーガンの矢が刺さる。稲妻のエフェクトを発したガフさんが戦斧を饅頭屋に叩き付けて、その巨躯を押し込んでいく。ここで決めるつもりだ。三段階目のスキルは消耗が激しい。血を吐くような絶叫と共に連打を浴びせて中庭を突っ切る。戦斧がへし折れた。饅頭屋の顔面を掴んで壁に叩き付けた。壁を突き破った饅頭屋が瓦礫に埋もれる。

 限界だった。四つん這いになったガフさんが滝のような汗を流し、酸欠に喘ぐ。マナポをキメようとするが、疲労のあまりそれすらままならなかった。手から零れ落ちたマナポが地面に転がる。マナポを目で追ったガフさんが小さく悪態を吐いた。


「くそッ……」


 瓦礫を押しのけた饅頭屋が上体を起こして目からビッと怪光線を放った。ガフさんは動けなかった。マナは枯渇し、もう戦える身体ではなかった。

 だから饅頭屋の狙いは矢の装填を終えた俺だった。光線に胸を貫かれて俺は死んだ。ふわっと幽体離脱した俺は、饅頭屋をびしっと指差す。

 ニッと笑ってパクパクと口を動かした。

 ガフガリオンにさよならは似合わない。

 饅頭屋の胸に生えてる顔面に棒手裏剣が刺さった。

 尾を引いた軌跡が大気に溶け込んで消えていく。

 俺がMPKで殺すまでもなく勝手に死んでいたセブンが城壁の上に立っていた。手のひらで棒手裏剣を弄びながらつまらなそうに鼻を鳴らす。


「ふん……」


 誰よりも早く死んでいたから誰よりも早く駆け付けることができる。セブンという男はそういうプレイヤーだ。

 饅頭屋の全身を覆っていた黒い金属片が分離し、再結集して黒い魔石となって地面を転がる。ビキリと亀裂が走り、半分に割れた。黒いもやを発しながら粉々に崩れさって跡形もなく消失した……。


 変身が解けた饅頭屋がドサリと倒れる。

 ガフさんが横目でセブンを見る。


「セブン、お前……」


 セブンは太々しく笑った。


「無事だったかよ? さっさと死に戻りしようぜ。プフを追う」


 あん? なんでだよ。


「ウチのハチが攫われてナ……」


 どうやら俺たちは世界の命運を賭けたファイナルバトルに突入するようだぞ……。




 これは、とあるVRMMOの物語。

 メンバー不足につき汎用キャラもレギュラー参戦できるよ。やったね。



 GunS Guilds Online


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