第41話 トレーニングジムへ
「よろしくお願いします」
「お願いしますっ……」
陽介と信司は、五十嵐の実家が経営するトレーニングジム――『五十嵐ジム』にやって来ていた。
「ああ、こちらこそよろしく」
筋肉質でがっしりとした大柄な男性――五十嵐の父が陽介たちに爽やかな笑顔を向ける。
その横に五十嵐もいた。
「五十嵐もよろしくな」
「おう。器具の使い方の説明くらいなら任せてくれ」
そんな話をしていると、五十嵐父が陽介たちに声を掛ける。
「それじゃあ、まずは星崎くんと四季くんの日頃の運動習慣を教えてくれ」
陽介は毎朝のジョギングと筋トレ。信司は学園の体育の授業以外はやっていない。
二人は五十嵐父にそう伝えた。
「なるほど。今日は体験入会だし、軽めにするつもりだから四季くんも安心してくれ。とりあえずは下半身のトレーニングから始めよう」
早速、鏡張りの壁の前で五十嵐父にスクワットのフォームをチェックされる二人。
その後、バーベルのシャフトのみでスクワットをする。
「バーベルのシャフトだけでも二十キロあるからな。ゆっくり丁寧にやっていこう」
「はいっ」
「は、はいぃっ……!」
まずは十回一セットをこなす陽介と信司と五十嵐。
五十嵐はプレートをつけて重量を増やしていた。
「うん。二人ともフォームも崩れてないし、その重さで大丈夫そうだな。じゃあ残り二セット、自分のフォームを鏡で見ながら続けようか。とにかくフォームが重要だからな」
そのまま三人は残り二セットをやり切る。
「はぁぁ~……キツいぃ……」
「いや、普段授業以外で運動してないのに上出来すぎだろ」
シャフトを床に置き、信司は膝に手をついて俯いた。
そんな彼に陽介は半ば呆れて、突っ込んだ。
「星崎くんの言う通りだよ。キツそうなら十キロのシャフトと交換しようかと思っていたんだが、しっかりと三セットやり切れたんだから凄いよ」
「あ、ありがとうございますっ……ふぅっ」
呼吸を整える信司。
「よし、次はベンチプレスをしよう」
「わぁ……ジムっぽいね」
「確かにジムって言えば、ベンチプレスとかチェストプレスのイメージだよな」
「ははっ、あとでチェストプレスもやってもらうからな。ひとまずはベンチプレスだ。さっきと同じ様にシャフトのみでやっていこう」
最初は五十嵐父が補助に入り、陽介と信司が順番にバーベルのシャフトを上げる。
信司が五十嵐父にフォームを見てもらっているので、陽介は先に三セット終わらせた五十嵐に話し掛けた。
「流石、五十嵐はやり慣れてるな。さっきのスクワットもそうだったけど、フォームがすげぇ綺麗だったぞ」
「お、そう言ってもらえると嬉しいな。でも、そういう星崎も毎日筋トレしてるだけあって、安定感があると思うぞ」
「はは、サンキュー。バーベルのシャフトだけでも欲しくなってきたとこだよ」
「家庭用のは少し短めだから、置く場所があるなら買ってもいいんじゃないか? 星崎のことだから三日坊主にはならないだろうし」
そんなことを話していると五十嵐父に呼ばれ、陽介はベンチプレスの残り二セットをこなした。
その後、腹筋と背筋も器具を使ってトレーニングをしていった。
一時間ほどトレーニングをして、体験入会は終わったのだった。
「今日はこんなところかな。お疲れ様」
「ありがとうございました」
「あ、ありがとうございましたぁ……はふぅっ……」
適度に身体を動かし汗をかいて、スッキリとした気分になる陽介。
「星崎、四季。お疲れさん」
「おう、五十嵐もお疲れ。体験入会勧めてくれてありがとな。今日は普段よりがっつり運動できてよかったよ」
「そりゃよかった。……四季はしんどそうだな」
「うん、しんどい……ふぅぅ。でも、ギリギリ大丈夫だよ……」
床に座り込んだ信司が汗を拭う。
「ギリギリでも大丈夫なら問題ないな」
「ははっ、星崎はスパルタだな」
「……流石に強要はしないぞ?」
(ホントは四季のステータス上げもしたいんだけどな)
陽介がそんなことを考えていると、信司がジト目を向けてきた。
「今の間が気になるよぉ……」
「まあ、冗談はさておき。五十嵐、俺は入会するのもありだなって思ってるよ」
五十嵐ジムは自宅のアパートからも学園からも徒歩圏内なので通いやすい。
(それにやっぱ自重トレーニングより、加重トレーニングの方が筋肉に効いてる感じがあるんだよな)
日々のジョギングや筋トレで上がったステータスを更に上げるには、ジムに通う方が効率がいいと陽介は考え始めていた。
「お? マジか。俺はいつでも歓迎するぜ」
「おう。ただまぁ、月謝のこともあるし、ちょっと親と相談させてもらうよ」
「了解だ。ウチの親父にもそう伝えとく」
「うぃ、よろしくな」
陽介と五十嵐の会話を聞いていた信司は、申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「……僕は入会できないかなぁ。ゴメンね」
「気にしなくて大丈夫だぞ。筋トレはやりたい気持ちが大切だからな」
「五十嵐の言う通りだな。それに鍛えたくなったら、その時にまた考えてみればいいんじゃね?」
「うんっ、そうだねぇ」
陽介と五十嵐の言葉に、信司はホッと息を吐いた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ジムのシャワーで汗を流した陽介と信司。
二人は五十嵐と五十嵐父に挨拶をして、ジムをあとにする。
「ハンバーガーでも食って帰るか?」
「うん、いいねぇ~」
運動をして小腹が空いた二人はハンバーガーチェーン店に寄ることにする。
「公園の中、通って近道するか~」
「そうだね~。……うう、ちょっと太ももと二の腕が痛いなぁ~」
「はは、今日の夜とか明日の朝はしっかりと筋肉痛になるんじゃないか?」
「筋肉痛とか久しぶりすぎるな~……。ちょっと憂鬱だよぉ」
腕をさすりながら、眉を八の字に歪める信司。
「筋トレに慣れてくると、逆に筋肉痛にならないと心配になってくるんだよな」
「えぇ……? そ、そうなんだ~……?」
陽介の言葉にピンッときていないようで、信司は首を傾げた。
「そうそう。あと念のために言っておくけど、別にマゾ野郎ってわけじゃないぞ?」
「…………流石にそれは疑ってないよ~?」
「今の間が気になるな~」
そんな話をしながら公園を歩いていると人たがりを見かける。
レフ板を持っている人がいるので、なにかの撮影だろうか。
「ん? 撮影してるのかな?」
「そうかもね~。ちょっと見てみる? もしかしたら有名な人かもしれないし」
「うぃ。チラッと見てみるか」
(俺は有名人とかイマイチわかんないんだけどな……)
二人が人だかりに近寄る。
すると――
「あれ? もしかして秋海さんじゃない?」
「お、ホントだ……」
陽介たちのクラスメイト。
『フォーシーズンズ』のヒロインの一人でゆるふわギャル――秋海綾子がふわふわセミロングの金髪をなびかせながら、カメラの前でポーズをとっていた。
(まぁ読モだもんなぁ。しっかし、すげぇ様になってるな)
ボンキュッボンなグラマー体型がポージングによって強調されている。
エロゲの設定を思い出しながら、陽介は仕事中の綾子を眺めた。
「普段、同じ教室にいる人がモデルをやってるなんて、なんか凄いねぇ~」
信司が綾子に尊敬の眼差しを向けていた。
少しの間、陽介と信司が撮影風景を眺めていると、現場の雰囲気が弛緩する。
どうやら休憩のようだ。
「そろそろ行くか?」
「うん、そうだね~」
二人が移動しようとした。その時――
「あれぇっ? 信司くんに星崎くんじゃん?」
こちらに気づいた綾子が声を掛けてくる。
「あ、うん。こんにちは~、秋海さん」
「こんなとこでバッタリ会うなんて奇遇じゃ~ん」
「そうだね~。僕たちは帰り道なんだけどね。秋海さんは仕事?」
「そそっ。読モのバイト始めたんだっ~」
「読モかぁ、凄いねぇ~!」
「にひひっ、ありがと~」
葉瑠香たちとよく一緒にいる信司は、彼女たちの繋がりで綾子とも話をする仲になっていたようだ。
(って言うか四季の奴、もう名前呼びされてるんだな。会話のテンポもいい感じだし。知らない間に進展してたのか……。見逃したことを嘆くべきか、自然にハーレムルートに向かってることを喜ぶべきか)
そんなことを考えながら、会話する信司と綾子を眺めていると、綾子が陽介にも話を振ってくる。
「星崎くんとはちゃんと話すの初めてだよねっ~?」
「おう、そうだな。星崎陽介だ、よろしく」
「秋海綾子だよ~。っていうか、もう夏休みなのに、クラスメイト同士で自己紹介しなおすってウケるんだけどっ~」
「……確かに」
(ホント、もっとクラスメイトと関わった方がいいのか……? いや、男子たちとは話したりしてる、よな? ……もう少し自分から関わりに行くか、うん)
二学期はもっとクラスメイトと交流しよう、と陽介は決めた。
「それにしても二人とも私服オシャレだねぇっ~」
「お、読モに褒められると嬉しいな」
「でっしょ~?」
「この服、星崎くんに選ぶの手伝ってもらったんだ~」
(素直に言っちゃうんだ……。まぁ、そういう誠実なとこが四季のいいとこだしな)
「へぇっ~そうなんだっ。選んでくれる友達がいるのはいいことだよっ~」
ニコニコと信司と話す綾子。
(お? やっぱ正直に言った方が好印象なんだな)
綾子の反応に、陽介は少し突っ込んでみる。
「そのうち、秋海さんにも服を選んでもらったらどうだ?」
「お~それはいいかもっ。そん時は妥協はしないから、覚悟してよねっ~」
パチンと信司にウインクをする綾子。
「う、うんっ……」
「にししっ、顔が赤くなってるよっ~?」
「あ、赤くなってないよ~……あんまからかわないでよぉ」
ワタワタと信司が慌てる。
その楽しげな雰囲気に、陽介は思わず突っ込んだ。
「……話を振っておいてなんだけどさ、俺は何を見せられてるんだ?」
(いや、四季と秋海さんの関係が進展するのはいいことなんだけどさ)
三人で話していると、綾子がスタッフに呼ばれる。
「は~い! 今、行きます~! それじゃ、二人ともまたねぇっ~!」
「おう、またな」
「仕事頑張ってね」
トットットッと小走りで女性スタッフの元に向かう綾子。
だが、途中で立ち止まって振り返る。
「星崎くんにも服、選んであげよっかぁ?」
からかい半分、社交辞令半分といった感じで、綾子が陽介に声を掛けてくる。
「……結構で~す」
「そっかぁっ~」
今度こそ、綾子はスタッフの元に向かった。
(どうせ選んでもらうなら……いやいや、なにを考えてんだ)
綾子の背中を見送り、陽介と信司は公園をあとにして、予定通りにハンバーガーを食べに行ったのだった。




