第37話 両親との対面とカメラ
(う~ん……緊張するなぁ……)
陽介はキッチンでおもてなし用の料理を作っていた。
今日は両親――星崎圭介と陽子がアパートを訪ねてくる日なのだ。
(とは言え、緊張してばっかもいられないしなぁ……。とりあえず、海外にいるんだし舌が肥えてるはずだから、研究中のパスタソースの試食役くらいはやってもらおうと思って料理作ってるけど……)
半分本音で、残り半分は緊張を紛らわすためだ。
二人とはメッセージのやり取りや、通話はしていた。
だが、前世の記憶が戻ってから陽介が彼らに直接会うのは今日が初めてなのだ。
(大切にしてもらってることはちゃんと伝わってきてる……。あとは俺がどれだけ二人に応えられるか、だとは思うんだけどなぁ)
どう接すればいいか、やはりわからない。
わからないなりに考えた結果、陽介は研究中のカルボナーラスパゲッティを作っていた。
(とりあえず付け合わせのサラダと、コンソメスープも用意したし……。あ~一応、成績表も見せた方がいいのか?)
メッセージで一学期の成績はちゃんと報告している。
だが、直接見せた方が安心してくれるかもしれない。
(まぁ、なにはともあれ……ちゃんと学園生活を送っていることと、こうして自炊もできていることを見せるのが一番安心してもらえるだろうしな)
約束の時間が近づいてきていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「おう、久しぶりだな~陽介」
時間通りにやって来た圭介と陽子。
「ああ、久しぶり。空港以来だな」
陽介は平常心を心がけながら、二人をリビングに案内する。
「陽介。あなた、ちゃんと掃除しているみたいね。それに、この匂い……」
リビングを見回し、片付いている部屋を見て満足げに頷く陽子。
だがすぐにキッチンから漂ってくる料理の匂いに首を傾げる。
「今、昼飯作ってるとこだから……あれ? 親父に昼飯は俺が作るから、って伝えたはずなんだが?」
チラッと圭介を見ると、ニヤリと口角を上げていた。
「はははっ、母さんへのサプライズだよ、サプライズ!」
「はぁぁ~……まぁ、いいけどさ……。とりあえずテーブルについて待っててくれ。もうできるから」
「了解~! 飯は何かなっ」
(うん……確かにこの軽いノリの人間を一人で海外に行かせるくらいなら、自分もついて行って、高校生を一人暮らしさせる方を選ぶよな)
陽介が一人納得していると、陽子も肩をすくめる。
「本当にこの人は……。まぁ、サプライズには驚いたけど陽介の料理、楽しみにしているわね」
「おう、叔父さんにも見てもらってるから大丈夫だと思うぞ」
「あら、謙吾くんに? それは期待が膨らむわ」
両親をリビングに置いて、陽介はキッチンに戻る。
(思ってたよりも普通に話せたな……うん、多分)
カルボナーラスパゲッティに葉物野菜とプチトマトのサラダ、オニオンスープをリビングに運んでいく。
「お~いい匂いだなっ!」
「本当ね。とても美味しそうだわ」
テーブルに並んだ料理を見て、圭介と陽子は嬉しそうに目尻を下げた。
「まぁ……まだカルボナーラは試作中だからさ。感想も聞かせてくれ」
「おう、任せとけ。それじゃあ、いただきますっ」
二人がパスタを食べるのを見守る陽介。
「んっ……おおっ! 濃厚で美味しいじゃないかっ!」
「本当ね。でもくどすぎないから、食べやすいわね」
圭介と陽子の肯定的な感想に、陽介は内心でホッと息を吐く。
「そっか、それならよかったよ。使うチーズをアレコレ変えてみたんだけど、今のとこはこの味付けが一番しっくりくるんだよな。……ホントはもっと味の濃いチーズも試してみたいんだけど、この辺じゃ売ってないんだよなぁ」
自分が興味を持って研究していることなので、陽介はつい饒舌になっていた。
そんな陽介を見て、陽子が頬に手を当てながら笑みを浮かべる。
「あらまぁ……陽介も圭介さんに似てきたわねぇ」
「え? どこが?」
「興味を持ったものにのめり込むところよ」
「……う~ん」
心当たりはかなりある。
ただ、圭介に似てきたと言われてもピンとこない。
「なんだぁ? 俺に似るのは不本意か?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど」
そう言いつつ、陽介もカルボナーラスパゲッティを食べ始める。
(うん、やっぱこれくらい濃い方が美味しいよな)
自分の作った料理を満足げに食べていると、陽子が話し掛けてきた。
「そういえばメッセージでも聞いたけど、あなた勉強も頑張っているみたいね」
「ん? ああ……ほら、これ。一学期の成績表」
「どれどれ……わっ、こうして成績表を見ると実感が湧くわね。お小遣いアップも検討しておくわ」
「……陽介、勉強は俺に似なくていいからな」
フォークでサラダをモソモソと食べながら、圭介がボソッと呟く。
「まぁ、勉強はちゃんと続けてくから、多分大丈夫だぞ」
和やかに星崎家三人の昼食の時間は過ぎていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
食事が終わり、インスタントコーヒーを飲んでいると圭介が思い出したように声を出した。
「そうだ、陽介。お前にこれをやろう」
「ん? なにくれんの?」
年季の入った革製のカバンをゴゾゴゾと漁った圭介が、カバンの中から紙袋を取り出す。
そして、それを陽介に手渡した。
「ほれ、中見てみ」
圭介に促され、陽介は紙袋に手を突っ込む。
そして中に入っていたものを確認した。
「……カメラ?」
「そうだ。デジタル一眼レフカメラだな。俺が前に使っていたもんだけど、結構いいやつなんだぜ」
「ほう……」
ゴツいボディと、適度な重みが男心をくすぐる。
陽介が手に持ったデジタル一眼レフカメラをしげしげと眺めた。
「使い方は今から簡単に教えてやる。まずはな――」
電源の入れ方から始まり、構え方や調整の仕方、レンズのことをざっくりと教えてもらう。
「まぁ、趣味で撮る分にはオートモードかプログラムオートで充分だけどな」
「なるほどなぁ……」
なんとなくカメラを構えて、目の前にいる圭介と陽子にレンズを向ける。
そして、シャッターを切った。
「おぉ……すげぇ綺麗に撮れるんだなぁ……」
液晶モニターで自分が撮った写真を見て、驚く陽介。
「興味が湧いたら、替えのレンズとか三脚とか色々と調べてみるといいぞ」
「ああ、分かった……ありがとな、親父。大切に使うわ」
「……はは、そうしてくれ」
照れくさそうにした圭介が、陽介の頭に手を伸ばす。
クシャリとやや乱暴に頭を撫でられた。
「…………もうそんなガキじゃないぞ?」
しばらくの間、陽介はされるがままに頭を撫でられていたのだった。
その後、少し話をしたのち、圭介と陽子はホテルに戻っていった。
(一泊二日か……。日本に帰って来たと思ったら、すぐに海外戻るとか、ホントに慌ただしいなぁ……。まぁ……自惚れじゃなきゃ、二人は俺に会いに戻って来ただけなんだろうけどさ)
部屋に一人になった陽介が、もらったカメラをいじっているとスマホが鳴った。
(ん? メッセージか)
確認してみると、咲月からだった。
常陸院咲月:『星崎さん。ご両親との再会はいかがでしたか?』
星崎陽介:『ああ、普通だった。あとカルボナーラは好評だった』
常陸院咲月:『それでしたら、よかったです』
常陸院咲月:『それと私も星崎さんのカルボナーラ食べてみたいですっ』
星崎陽介:『うぃ。さらに研究を進めておくよ』
(親父から連絡きた時に『難しい顔をしていますけど、大丈夫ですか?』って言われちゃったし、思ってた以上に心配してもらってたのかもなぁ……)
だが今日実際に両親に会ってみて、もう大丈夫な気がしている陽介。
それからしばらく、陽介と咲月はメッセージのやり取りを続けた。




