第36話 勉強会メンバーで遊びにいく・その4
クレーンゲームを楽しんだ陽介たちは、他の客の邪魔にならない場所に集合した。
「さっ、次はどうしよっ?」
奈々がウキウキとした様子で陽介たちを見る。
(流石、四季。ちゃんと夏川さんにもぬいぐるみを取ってあげたんだな)
犬のぬいぐるみを抱える奈々は、見るからに上機嫌だった。
(この二人ならステータス上げなくても、日々の積み重ねで付き合えるんじゃね?)
一瞬、そんな考えが陽介の頭をよぎる。
(いやっ、ステータスはあった方がいいはずだっ! それに、俺が見たいのは四季のハーレムルートなんだっ……!)
揺らぎそうになった気持ちを立て直していると、信司が奈々に答える。
「それならバッティングしにいく~? あれなら葉瑠香もできるしさぁ」
「そうだね~、エアホッケーに比べたら全然できるよ~。身体を動かすのは嫌いじゃないしねぇ」
「そうだねっ! バッティング、いいじゃんっ!」
信司と葉瑠香のやり取りに、奈々は手を上げて賛成した。
(なんか、こうして改めて聞いてると、四季と春山さんって喋り方似てるよなぁ……やっぱ一緒にいた時間が長い幼馴染だからか?)
そんなことを考えつつ、陽介は隣で白うさぎのぬいぐるみを抱きしめたままの咲月に声を掛けた。
「バッティング、常陸院さんはどう?」
「はいっ、いいと思います。授業でバットは振ったことがありますし、バッティングマシンは知っていますが、見たことはないので楽しみです」
「うぃ。それじゃあバッティングのコーナーに行くか~」
五人でゾロゾロとバッティング施設へと移動する。
そして、緩くスコアを競い合った。
運動が苦手と言っていた葉瑠香が綺麗なバッティングフォームで、信司よりも打っていたのが意外だった。
ちなみに上位争いは陽介、咲月、奈々。
接戦の末、陽介がギリギリ勝った。
その後、駄弁るためと小腹を満たすために五人はフードコートにやって来た。
陽介、信司、奈々はラーメンを。咲月と葉瑠香はクレープを頼んだ。
それぞれ自分の頼んだものを持って六人掛けのテーブルにつく。
席順は陽介の右隣に咲月。
陽介の向かいに信司。その右横に葉瑠香、左横に奈々だ。
「いや~動いたあとのラーメンは美味いなっ……!」
「だよね~……しょっぱいものが食べたくなるよねぇ」
ズルズルと麺を豪快に啜る陽介と信司。
信司の隣でラーメンを食べている奈々は意外にも丁寧に食べていた。
「もう、二人ともっ。あんまり勢いよく啜るとスープが跳ねるよっ!」
「お、すまんすまん……」
「そうだね~、気をつけるよ」
そんなラーメン三人組を見つつ、咲月と葉瑠香はクレープを食べていた。
「んぅっ~……やっぱり運動したあとは甘い物が身体に沁みるよねぇ」
「ふふっ、そうですね。それに出来たてだと、果物の甘みも強く感じますね」
「そうだね~。あ、そういえば常陸院さんは夏休みの課題の進み具合はどう~?」
「そうですね……大体、半分くらいは終わっていますね」
「わぁお~、凄いねぇ~。私ももっとペース上げないとだなぁ」
「期限までに終わればいいと思いますよ?」
「いやぁ~……私たちの場合は、その、ねぇ?」
咲月の言葉に、葉瑠香が言い淀みながらチラリと信司を見る。
「信司は毎回、休み中の宿題溜めちゃって、葉瑠香に泣きつくからねっ」
「ごほっ……! な、奈々っ、そういうのはもっとオブラートに包んでよぉっ」
「信くんはやればできるのに、なかなかスイッチが入らないんですよねぇ~」
席順的にも二人に挟まれている信司は恥ずかしそうにラーメンを啜る。
(いやぁ……四季と春山さんと夏川さんの絡み、最高ですっ!)
目の前の光景に陽介が内心でニヤニヤしていると、隣の咲月が話を振ってきた。
「星崎さんは、課題の進捗はどうですか?」
「ん~俺も半分くらいは終わってるかな? ほら、俺はバイトとかもあるし、できるだけ余裕を持って終わるようには計画してある」
一人暮らしなので日々、家事の時間も必要だ。
それ以外にもジョギングや筋トレ、パスタソースの研究などやりたいことも多い。
なので巻き気味で課題に取り組んでいた。
「はぁ~流石、学年一位と三位は違うねっ! あたしなんてようやく四分の一くらい終わったとこだよっ」
陽介と咲月の会話を聞いていた奈々が感嘆の声を漏らす。
「え? それくらい終わってれば、ペース的には充分じゃね?」
「あ~いや、そろそろ部活の合宿とか、大会とかあるからさっ……。中学の時もそうだったけど、その時期になったら疲れて机に向かい気力もなくなるよっ」
苦笑いを浮かべる奈々。
(いつも元気で体力があるイメージの夏川さんが疲れ果てるって、陸上部ってそんなにハードなのかぁ……)
奈々と同じ陸上部に所属している五十嵐は大丈夫だろうか、と少し心配になった。
「陸上部となると外での練習ですよね? この気温ですと大変そうですね……」
「本当だよね~。熱中症には気をつけるんだよぉ?」
「うんっ! その辺は顧問の先生も含めてみんなで気をつけてるからねっ」
「それなら多少は安心ですけど……」
心配そうに咲月が眉を八の字にする。
駅前で集合した時よりも、咲月の二人に対する態度が柔らかいものになっているのを陽介は感じた。
「常陸院さん、そんな心配そうな顔しないでよっ。ちゃんと気をつけるからさっ! あ、そうだっ……よければだけど、メッセージアプリのID、交換しない?」
「あ、私もお願いしたいな~」
「よろしいのですか? 私からも是非、お願いしたいです」
バッグからスマホを取り出す咲月。
その表情は明るく柔らかなものだった。
(やっぱ壁のある笑顔の常陸院さんよりも、今の温かい表情の方がずっといいよな。このまま二人と仲良くなってくれたら嬉しいんだけど……まぁ心配はいらなそうだ)
陽介はラーメンを啜りながら、女子三人のやり取りを眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「今日も送ってくれてありがとな。瀬戸さんもありがとうございます」
あのあとフードコートでしばらく五人で駄弁り、現地解散となる。
信司は葉瑠香と奈々に挟まれて帰っていった。陽介はその後ろ姿を見て、なぜかドナドナを想像した。
そして陽介は咲月に誘われて、常陸院家の車に乗せてもらっていた。
「いえいえ。せっかく楽しい一日でしたので、最後まで星崎さんと一緒にいたかっただけですよっ♪」
咲月本人は無自覚に発した言葉なのだろう。
だが、健全な男である陽介には刺激が強すぎた。
「~~ッ!? そ、そっか……。まぁ、そう言ってもらえるのは嬉しいけどな」
「……星崎さんは違うのですか?」
さらなる追撃に、陽介は顔が熱くなるのを感じる。
(グイグイ来るなっ……!? 今日が楽しすぎて、テンションがバグったのか?)
陽介があたふたしていると、咲月はアメジスト色の瞳を潤ませた。
そんな瞳に見つめられて、慌てて言葉を紡ぐ。
「お、俺も今日は楽しかったぞっ。だから名残惜しくて、もう少し常陸院さんと話していたかったって思ってるぞっ……?」
「ふふっ、嬉しいですっ……♪」
「……ホントに今日は楽しかったんだな」
「はいっ! 春山さんとも夏川さんともお話できましたし……それに」
白いうさぎのぬいぐるみを、ギュッと両腕で抱きしめる咲月。
「素敵なプレゼントもいただきましたからっ♪」
「うっ……そんなに喜んでもらえると、ゲーセンのプライズで申し訳ない気持ちになるんだけどなぁ……」
「いえっ、そんなことはないですっ! 取れるかどうか、あんなにハラハラドキドキして……そして星崎さんが私にプレゼントしてくれた子なのですから♪ 絶対に大切にさせていただきますからっ」
「…………そっか。おい、お前。常陸院さんに大切にしてもらえよ」
陽介は白うさぎの頭を一撫でする。
「ふふっ♪ また今日みたいな日を過ごしたいですね……」
「大丈夫だろ。春山さんたちとはもう打ち解けてきてたし、アプリのIDも交換してたじゃん? これからはもっと楽しくなるんじゃね?」
「……そう、ですね。楽しみです……♪」
ふんわりと柔らかく微笑む咲月。
「「…………」」
そこで二人の会話は途切れた。
なんとなく車の窓から流れていく街並みをボーッと眺める。
(無言の時間が気まずくないのはホントに心地いいよなぁ……)
陽介がそんなことを考えていると、ポケットの中でスマホが震えた。
(ん? 誰だ? 四季か?)
スマホを取り出して、確認してみると――
「え……?」
父――星崎圭介から『一時帰国するから会いに行く』と連絡が入ったのだった。




