第35話 勉強会メンバーで遊びにいく・その3
(お~最近のクレーンゲームって色々あるんだなぁ)
陽介はずらりと並ぶクレーンゲームの筐体を眺める。
「わぁ……ぬいぐるみだけじゃないのですねっ」
隣で咲月も声を弾ませていた。
「そうだな。アニメのフィギュアなんかもあるけど……あれは取れるもんなのか?」
「確かに箱も大きいですし、難しそうですね……」
「逆にあっちのお菓子のやつは、比較的取りやすそうだな」
陽介がドーム型の筐体を指差す。
スコップのようなアームを動かして、下を流れているお菓子をすくう。そしてすくったそのお菓子を前後に移動する台座に乗せて、積み上がっているお菓子を落とすタイプだ。
「……これ、やってみたいです」
控えめに陽介に伝えてくる咲月。
「いいんじゃないか? ほら、四季はあっちで早速、ぬいぐるみを狙ってるぞ?」
少し離れた場所で、筐体内のぬいぐるみの位置を確認している信司を指差した。
「本当ですね。……それでは、一回やってみます」
「うぃ。えっと……一回十円で操作に時間制限があるっぽいな。最初から、どこを狙うか決めておいた方がよさげだな……。四季みたいに確認してみるのもいいかもな」
「なるほど……」
陽介の言葉に小さく頷くと、咲月はお菓子すくいの筐体内を観察する。
(ははっ、すげぇ真剣な顔してるな……やるからには全力でやりたいんだろうな)
数分すると、咲月が陽介のそばに戻ってきた。
「狙いは決まったのか?」
「はい、実際にやってみないとわかりませんが……試してみたいと思いますっ」
フンスッとやる気を出している咲月。
その拍子に、銀髪のポニテがフワッと楽しげに揺れた。
「おうっ、ファイトだっ」
「はいっ!」
咲月は十円玉を投入し、アームを操作するボタンに手を置く。
陽介が後ろから見守っていると、アームを動かし始めた。
「おっ……」
ガサッとアームが下を流れるお菓子をすくう。そしてタイミングよく、すくったお菓子を押し出し台に乗せた。
だが――
「ああ……ちょっと足りなかったかぁ」
「むむっ、悔しいですね……」
「あと九回くらいならいいんじゃね? それでも合計で百円だし」
「それもそうですね……では、続けて……」
続けること、四十円目。
すくったお菓子を台座に乗せた。
そして――
「やったっ……やりましたっ!」
「おう、見てたぞ。……ほら、初の戦利品を取り出さないと」
「はいっ……わ~、お菓子ですっ」
咲月はアメジスト色の瞳をキラキラと輝かせて、手に持ったお菓子を見つめる。
「よかったな。……それにしても」
「? どうかしましたか?」
「いや、さっきのエアホッケーもそうだし、お菓子すくいもそうだけど、初めてなのにだいぶ上手いなぁって思ってさ」
「ふふっ♪ 褒めていただけて嬉しいです。ですが……自分ではイマイチわかりませんね……。あ、ただエアホッケーは昔習っていたテニスに似ているな、と思ってコース取りはテニスを参考にしてみました」
「はぁ~なるほどな。別の経験を活かしたのか……咄嗟にできるの、すげぇなぁ」
エアホッケーで信司や奈々を見ていても思ったが、ステータスのゴリ押しでは厳しい局面は存在する。
(積極的に色んな経験をしていった方がいいんだろうな)
そんなことを考え始める陽介だったが、今は皆で遊んでいる時間だ。
考察はあとにして気持ちを切り替える。
「よしっ、俺もクレーンゲームやるか~」
「今度は私が星崎さんを応援しますねっ!」
「うぃ、ちなみに常陸院さんは好きな動物ってなに?」
「好きな動物ですか? う~ん、好きな動物は多いんですよね」
小首を傾げて悩む咲月。
「あ~まぁ、俺もそうだけどな」
犬に猫、それ以外にも可愛い動物はたくさんいる。
咲月が悩むのも仕方がないだろう。
二人で話しながら、並んでいるクレーンゲームの筐体の間を歩いていく。
「あっ……」
「ん? どうした?」
咲月が漏らした小さな声が耳に届き、陽介は彼女を見た。
「あ、いえ……」
言い淀みながら、チラチラと筐体内のぬいぐるみを見る咲月。
その視線の先にはデフォルメされた白いうさぎのぬいぐるみがあった。
(もしかして、あのぬいぐるみが気になったのか?)
陽介はそのクレーンゲームの前で立ち止まり、白うさぎの位置を観察する。
「星崎さん?」
「ちょっと待って」
(う~ん……前から見る分にはいけそうな気がするんだけど)
キョトンとする咲月に声を掛けつつ、横からもチェックして、陽介はいけそうだと判断する。
(これなら千五百円以内で取れそうだな……多分)
信司と話していた時に決めた、今日のクレーンゲームの上限額だ。
「よしっ、常陸院さんがあの白いうさぎのぬいぐるみが気になってるっぽいし、今日はあれを狙ってみようかな~」
「ふぇっ⁉ せっかくのゲームなのですから、星崎さんが楽しめるものを取る方がいいと思いますっ……」
そう言いつつも、筐体内の白いうさぎを横目で見る咲月。
「ははっ、こういうのはぬいぐるみそのものが欲しいんじゃなくて、取る過程が楽しいんだよ。だから常陸院さんは気にしなくていいんだぜ?」
「そ、そうですか……わかりましたっ。応援しますからっ……!」
陽介が安心させようと微笑みかけると、咲月は頬をほんのりと色づかせた。
しかし当の陽介はそのことに気づかずに、財布から小銭を取り出していたのだった。
「まずは位置をズラして……」
アームでぬいぐるみを押し、アームのツメを使って向きを動かしていく。
数回、位置を調整して――
「一度、取りにいってみるかっ」
「頑張ってくださいっ……!」
いつの間にか陽介のすぐ隣にいた咲月が、うさぎのぬいぐるみを見つめていた。
(ここで取れなくても、まだいける……。とりあえず手応えを確かめよう)
息を吐いて緊張を逃して、陽介は操作ボタンを押す。
クレーンがぬいぐるみの上にたどり着き、ゆっくりと降下する。
アームが白うさぎの胴体と腕の下を挟んで、徐々にぬいぐるみを持ち上げていく。
(このまま、いってくれればいいんだけど……)
陽介と咲月が見守る中、クレーンは落とし口へと動く。
アームに掴まれた白うさぎがグラグラと横に揺れた。
「うぅっ……もう少しですっ……。頑張ってくださいっ……」
咲月の応援が効いているのだろうか。クレーンはもうすぐ落とし口に着く。
(このままいってくれっ……!)
だが――
「あッ……!」
ズルっとぬいぐるみが滑った。
「ぶねぇっ……!」
落ちそうになった白うさぎの首にアームのツメが引っ掛かり事無きを得る。
「このままっ……このまま、ですっ……!」
胸の前で祈るように両手を握る咲月。
その祈りが通じたのか、落とし口に無事にたどり着いた。
「やったっ……やりましたね、星崎さんっ!」
喜びで身体を左右に揺らす咲月。
すぐ隣にいる陽介の腕に、彼女の柔らかな二の腕が当たる。
(煩悩退散っ……! くぅっ、気持ちいい感触も、いい匂いも意識しちゃダメだっ)
集中が途切れた途端、隣にいる咲月の存在を強く意識してしまう。
湧き上がる欲望の熱を、深く息を吐いて外に逃がす。
「ふぅぅ……最後ヒヤッとしたけど、上手く取れてよかったわ。……ほい、どうぞ」
白いうさぎのぬいぐるみを取り出し、咲月に手渡した。
「あ、あの……本当にいただいてもよろしいのですか?」
受け取った咲月は上目遣いで陽介を見つめる。
「もちろん。むしろ俺の部屋にそいつがいても、ちょっとなぁ……」
「くすっ……それはそれで可愛らしいと思いますけどね。……ですが、星崎さんからのプレゼント、ありがたくいただきます。ありがとうございますっ♪」
目尻を下げ、フニャッと表情を緩める咲月。
その柔らかく温かい笑みを向けられ、陽介は頬をポリポリと掻いた。
(男の子に可愛いは褒め言葉じゃないんだよなぁ……)
内心でため息を漏らしつつ、しっかりと両腕でぬいぐるみを抱きしめる咲月を見て、陽介は満足感に包まれるのだった。




