第34話 勉強会メンバーで遊びにいく・その2
(星崎さんと別のチームになってしまったのは残念ですけど……頑張りましょうっ)
咲月は奈々の隣に立ち、マレットを手に取る。
(これは……柄の部分を握ればいいのでしょうか……?)
初めて見るエアホッケーの器具にまごついていると――
「常陸院さん、こういう感じで持つといいぞ」
盤上の向かい側から陽介が声を掛けてきた。
「えっと、こう……でしょうか?」
「そうそう、いい感じだぞ。それで試しに……こんな感じでちょっと動かしてみな」
陽介の動きを見ながら、真似をしてみる。
「うん、いいと思う。そんな感じでパック……円盤を打ち返す感じだな」
「はいっ! 星崎さん、ありがとうございますっ」
「うぃ。……それじゃあ、やるかっ~」
照れくさそうにポリポリと頬を掻いた陽介が、奈々に開始を促した。
「よ~しっ! 始めようっ!」
奈々の明るい声で、ゲームが始まった。
カンッカンッカンッとマレットがパックを打つ音が響く。
(思っていた以上にスピードのある競技ですっ……! もっと和気あいあいとしたものを想像していましたっ……!)
特に同じチームである奈々と、相手の陽介のスピード感は目で追うのも大変だ。
それに対して、信司は速度は普通だが、打ち返しづらい場所を狙うのが上手い。
咲月は気を引き締めて、マレットの柄を握る。
「くぅっ……星崎くん、上手いねっ……!」
「そういう夏川さんも、なっ……!」
二人の速いラリーの間で、咲月も持ち前の運動神経で食らいついていく。
(遊びで身体を動かすのって、こんなに楽しいものなのですねっ!)
本人も気づかないうちに、咲月は笑顔でパックを打ち返していたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(夏川さん、マジで手強いなぁっ……!)
日々、ステータス上げに邁進している陽介。
現時点での単純な身体能力なら、陽介の方が恐らく上だろう。
だが奈々との力量差は互角か、やや陽介が負けている。
(これが経験値の差か?)
同じチームの信司も、返しづらいコースをしっかりと狙って、咲月と奈々を牽制していた。
(始まる前はエアホッケーやるの渋ってたのになぁ……普通に上手いじゃんっ。っていうか常陸院さん、マレットの持ち方もわからなかったのに、なんでこんなに強いんだ?)
ゲームが始まってすぐはぎこちない動きだった。
それなのに、今ではパックを打ち返す速度も、コースの狙い方も凄くいい。
(これじゃ、経験の差を言い訳にできないんだけどっ……!)
現在の得点は六対六。
七点先取のルールなので、お互いにあと一点を獲った方が勝つ。
「四季っ、そろそろ決めにいくぞっ」
「うん、僕も頑張って返すよっ……!」
ギュッとマレットの柄を握り、手首を使って強打を打った。
陽介の放ったパックを打ち返そうと動いた咲月。
強打を強打で返そうと、彼女が身体を捻った。その時――
「……ッ」
大ぶりな胸部がプルンッと震えたのを陽介は見てしまった。
(しまっ……!?)
男の性でつい一瞬、魅惑の乳揺れに目が奪われてしまう。
「くっそぉっ……!」
完全に振り遅れた。
そう思った陽介は体勢を崩しつつも、強引に打ち返す。
「にへへっ、もらったよっ!」
威力の落ちたパックに狙いを定める奈々。
(ヤバっ……!)
パックを打ち返されて、陽介は負けを覚悟した。
だが――
「奈々っ、甘いよっ……!」
信司が奈々の強打をコツンッと軽く弾く。
外枠に当たり反射したパックが、滑らかに咲月たちのゴールに吸い込まれた。
「うおぉっ……すげぇっ! やったな四季っ!」
「うんっ!」
陽介と信司はハイタッチを交わす。
「ああっ……まさか、あそこでフィニッシュ役が信司だったなんてっ……。てっきり星崎くんが決めに来ると思ってたよぉ……」
「はは、作戦勝ちだねっ! 星崎くんが奈々の油断を誘ってくれたからね~」
「ぐぬぬぅっ……! でも、信司の動きも中学の時よりもよくなってたしっ……くぅぅっ……悔しいっ!」
奈々はガックリと肩を落として悔しがり、信司は得意げに胸を張った。
(四季、マジですまんっ……! 単純に揺れるおぱーいに気を取られただけなんだっ……! あれはただのミスショットなんだ……)
とはいえ、そんなことを馬鹿正直に言えるわけもない。
なので陽介は何食わぬ顔で信司たちを見守ることにした。
そうこうしていると信司とのじゃれ合いが終わった奈々が、咲月に声を掛ける。
「常陸院さん、ゴメンねぇ……」
「え? どうして夏川さんが謝るのですか?」
「だって常陸院さん、初エアホッケーでしょ? せっかくなら初プレイで初勝利させてあげたかったんだよぉっ……」
「……ふふっ、そのお心遣いだけで嬉しいです。それに凄く楽しかったですから」
奈々の言葉に、咲月がふんわりと柔らかい笑みを浮かべる。
「ですが……次は勝ちたいです」
「そうだねっ! 次は勝とうっ!」
奈々が『おーっ!』と右手を上げていた。
(…………とりあえず、楽しんでもらえたみたいでよかった、かな)
咲月のその笑顔を見て、陽介は表情を緩めるのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
陽介たちは休憩コーナーで、各々飲み物を買って喉を潤した。
「ぷはぁっ……常陸院さんも星崎くんも凄くいい動きしてたよねっ。運動部に入ってないのが勿体ないよっ」
紙パックのオレンジジュースを豪快に飲んだ奈々が二人に話し掛ける。
「いや~俺は家事とかバイトとか勉強があるしなぁ」
「私も部活動は……」
「そっかぁ……残念っ」
咲月と奈々は同じチームで戦ったことで少し距離が縮まったようだ。
特に奈々の方は砕けた声色になっていた。
(やっぱ楽しい体験を共有すれば、仲良くなっていくよな~)
二人を眺めながら、紙パックのヨーグルトジュースを飲んでいた陽介が信司に声を掛ける。
「なぁ、四季。次はクレーンゲームでいいか?」
「うん。さっきは葉瑠香が見てただけだからねぇ。葉瑠香、動物系でいいかな?」
「いいよ~。信くんが取ってくれるだけで嬉しいからね~」
おっとりと信司に笑顔を向ける葉瑠香。
「春山さんはぬいぐるみ、好きなのか?」
「うん、そうだねぇ。昔から信くんが取ってくれて、気がついたらぬいぐるみに囲まれてたからねぇ~」
「おお、四季はそんなにクレーンゲームが得意なのか。すげぇな」
「いやぁ……まぁ、気がついたら比較的得意になってたんだよね」
信司本人は言葉を濁しているが、恐らくは葉瑠香にぬいぐるみを取ってあげるために何度もプレイしたのだろう。
「なるほどなぁ。俺はクレーンゲームってほとんどやらないけど、今日はチャレンジしてみようかな」
「いいと思うよぉ。星崎くんならきっとすぐに取れるようになるよ~!」
「そうかぁ? ……まぁ、とりあえず上限は千五百円だな」
「うん、いいと思う。上限を決めておかないと、ズルズル続けちゃうからねぇ」
「お? もしかして、ズルズル続けちゃったことがあるのか?」
「あはは……まぁね。ちょっとムキになっちゃってさぁ」
バツが悪そうに頭を掻く信司。
そんな彼に葉瑠香が助け舟を出す。
「ふふふ~、あれは信くんが私のためにクマのぬいぐるみを取ってくれようとしただけなんですよ~」
「へぇ~やるじゃん。自分のためじゃなくて、春山さんのためっていうのがポイント高いぞ」
「へへっ、そう言ってもらえると嬉しいけどねぇ~」
照れる信司を、優しげな眼差しで見る葉瑠香。
そんな幼馴染同士の柔らかい空気感を、陽介がありがたく眺めていると、咲月と奈々が三人のそばにやって来る。
「それじゃ、そろそろクレーンゲームしに行こうっ!」
そして奈々は信司を葉瑠香と挟み込むように彼の横に立つ。
心なしか、さっきまでよりも信司と奈々の距離が近い気がした。
(気のせい……か?)
陽介が内心で首を傾げていると、咲月もトコトコと陽介の隣に並ぶ。
「星崎さん、クレーンゲームも楽しみですねっ」
肩が触れ合いそうな距離感で、咲月がニコッと笑みを浮かべた。
「そうだなぁ~。クレーンゲームなんて久しぶりだし、俺もワクワクしてるよ」
そういってクレーンゲームのある一角に五人でゾロゾロと向かう。
(四季が春山さんに何か取ってあげるなら、俺も常陸院さんに何か取ってあげれるように頑張ってみるかっ)
陽介はそんな決意をした。




