第32話 男友達との時間
陽介はバイトに精を出しながら、日課のジョギングに筋トレ、夏休みの課題、そしてパスタソースの研究をする日々を過ごしていた。
そして今日はパスタソースの試作をしていた。
先日、咲月がバイト先に来店した日の帰り道に、書店に寄って料理本を数冊買った。
そのうちの一冊。イタリア料理の本を見ながらフライパンでパスタソースを作っていく。
(よし、できた……)
キッチンに立つ陽介は茹で上がったパスタとソースを絡めて、皿に盛り付ける。
(う~ん、もっと味の濃いチーズが欲しいなぁ……俺の好みの問題かもしれんけど)
パスタの定番の一つ、カルボナーラをレシピ本を見ながら作って試食した陽介はそんな感想を抱いた。
(自炊のいいとこは自分の好みの味付けにできることだし、味の濃いチーズを探してみようかな)
陽介が試作カルボナーラを食べていると、スマホがメッセージを受信する。
(ん、四季からだ。えっと、一狩り行くお誘いか……『了解っ!』っと)
今夜、また信司と五十嵐と三人でオンラインゲームをすることになったのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「お、四季。そっちに行ったぞ~」
「了解~、そりゃっ」
ボイチャで報告する陽介。
その言葉を聞き、巨大な熊のようなモンスターに信司が攻撃を仕掛ける。
(四季の奴、敵の予備動作をちゃんと覚えてるんだな……。どんだけやり込んでるんだろう?)
「五十嵐くん、お願いっ」
「おうっ、任せろっ」
下がった信司と交代して、前に出る五十嵐。
敵モンスターの攻撃に合わせてパリィを決める。
「よし、俺もっ!」
その隙に陽介も熊モンスターを斬りつけた。
(こうやって男友達と遊ぶのも楽しいよな~!)
今の時間に満足感を覚えながら、陽介はキャラを動かし、信司たちと協力してモンスターと戦う。
十数分の戦闘の後、三人は討伐に成功したのだった。
ロビーに戻り、ボイチャで駄弁る陽介たち。
「五十嵐ってマジでパリィ上手いよな~」
「ははっ、筋肉は全てを解決してくれるんだよ」
そんな五十嵐の言葉に、信司が不思議そうにする。
「え~……タイミングが大切なパリィも筋肉でやってるの……?」
「そうだぞ四季。適度に鍛えた筋肉の反応力は素晴らしいものなんだ」
「本当かなぁ~……?」
五十嵐は陸上部に所属している。
普段から筋トレをしている者ならではの発言なのかもしれない。
(いや、単純に筋トレが好きなだけかもしれないなぁ……)
五十嵐がどんな筋トレをしているのか興味が湧いた陽介は、彼に訊いてみる。
「五十嵐って陸上部だし、やっぱ筋トレにも詳しいのか?」
「ああ、部活でもやるんだけどな。俺ん家、トレーニングジムをやってるんだ。だから器具は使わせてもらってるし、親父にも時々見てもらってるぞ」
「へぇっ、それは凄いなっ! 器具を使えるのも羨ましい」
「お? 星崎はジムに興味あるのか?」
「あるぞ。毎日、家で自重トレはやってるけど、ジムの本格的な器具を使ってみたい気持ちはかなりあるな」
ボディービルダーほどムキムキに鍛えたいわけではない。
だが細マッチョで実用的な筋肉を育てたいと陽介は思っていた。
「それなら、体験入会に来てみるか?」
「いいのか? 是非、行きたいな。せっかくだし四季もどうだ?」
「う~ん……体験入会だけならいいよ」
「おうっ、それでもウチは全然構わないぜ」
「ゲームやってて座りっぱだと足の血流も悪くなるからな。プロに見てもらって、適度に運動した方がいいと思うぞ」
「あ~まぁそうだよねぇ……。じゃあ、たまには少し運動してみようかなぁ……」
「おうっ、三人で汗かこうぜっ!」
こうして陽介と信司は、五十嵐の実家のトレーニングジムに一日体験入会をすることになったのだった。
(俺は単純に興味があったからだけど……上手くいけば四季の『運動』と『体力』のステータス上げになるかもしれないな。っていうか……)
ゲーム時代を思い返してみれば、スケジュール選択画面に『トレーニングジム』という項目があった。
(あれはゲームだと小遣いやバイト代から金を払って、効率よく『運動』と『体力』を上げるコマンドだったけど……もしかしたら五十嵐ん家のジムだったんじゃね?)
そんなことを考えつつ、陽介は信司たちと共に再びモンスターを狩りにフィールドに向かうのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
五十嵐の家のジムに一日体験入会に行くことが決まった翌日。
陽介はトレーニングウェアについて信司から相談を受けた。
(四季のやる気があるうちにウェア、買いに行くか~)
その日の午後。トレーニング用のウェアと、以前約束していた夏服を信司と二人で買いに行くことになった。
駅前で待ち合わせをして、そのままショッピングセンターに移動する。
陽介と信司はファストファッションの店に入り、二人で見て回る。
「とりあえずはTシャツとハーパンだな。四季の場合は続けるかわかんないし、普段着にもできるやつがいいと思うぞ。そうだな……速乾素材のやつがおすすめかな?」
「なるほど~。確かにTシャツとハーフパンツなら普段着にもできるね」
信司が納得したところで、陽介が並んでいるシャツを指差す。
「それに結構、おしゃれじゃね?」
「わかるかも。スタイリッシュな感じのデザインが多いねぇ」
割と乗り気でトレーニング用の服を見ている信司。
(四季は前に身体を動かすこと自体は嫌いじゃないって言ってたし、ジムに入会しなくても、スポーツで一緒に遊んだりするのはアリだな)
そんなことを考える陽介だった。
少し見て回り、二人は買う服を選び終える。
信司はブルーのTシャツにグレーのハーフパンツを、陽介はオレンジのTシャツにカーキのハーフパンツを、それぞれ購入した。
「よし、あとはこの前約束してた夏服を見に行くか」
「うんっ、よろしくねぇ~」
同じフロア内の別の洋服屋に入る陽介と信司。
早速、服を見て回る。
「お、この白のポロシャツ、四季に似合いそうだな」
「ワンポイントで入ってるロゴがおしゃれだねっ」
「だな。ポロシャツってサイズと色さえ間違えなければ、いい感じに見えると思ってるんだよなぁ」
そういう陽介も今日は紺色の鹿の子生地のポロシャツを着ていた。
「目の前に着てる人がいると説得力が違うっ……」
「あははっ、だろ?」
「だねっ!」
(ボケたつもりだったんだけどなぁ……つまらなすぎたか?)
恥ずかしさを咳払いで誤魔化して、陽介は話を続ける。
「……あとはアンクル丈のチノパンとかどうだ? このベージュとかネイビーのやつとかよさげじゃね?」
「おお、なんか大人っぽい感じがするかもっ」
「あと、この二色ならさっき買ったブルーのTシャツとも色的に合うと思うから、使い回しができるぞ」
「そう言われると、凄くいい気がしてきたよ~……」
陽介の言葉に乗り気になる信司。
(コイツ、店員に勧められるがままに買い物しないか心配になってくるな……)
そんな心配をしつつ、更に店内を回っていく。
「この黒の半袖シャツもいいかもな。これも使い回しができそうだ」
「う~ん……予算的にも大丈夫そうだから、星崎くんに勧めてもらったのを買ってくるよ!」
信司はポロシャツに半袖シャツ、アンクル丈のチノパン二着を持ってレジへと向かって行った。
「お、おうっ。予算内なら問題ないな……うん」
その後ろ姿を陽介は見送るのだった。




