第30話 夏休みのバイト・上
夏休みに入って、陽介は叔父――星崎謙吾に相談して夏休み中はバイトのシフトを週二日から週四日に増やしてもらった。
(夏休みはバイトもガンガン頑張ってくぞっ!)
そう意気込む陽介はバイト先の『喫茶スター』で、謙吾と彼の奥さんの美樹、娘の美雪と他のバイト店員とお昼のピークタイムを終えた。
(ふぅっ……こっからはホールの方はのんびりできるかな。あ、叔父さんの調理補助につかないと)
陽介はキッチンに入り、謙吾の調理補助について料理の下準備と賄いを作る。
ちなみに本日の賄いは、ミートドリアとオニオンスープだ。
順番に賄いで昼食を取っていく。
陽介も最後に謙吾と一緒に賄いを食べる。
(満足満足っ……今度、ウチでもドリア作ってみようかな)
陽介はホールへと戻った。
「いらっしゃいませ」
「わっ~、ホントに星崎くんがバイトしてるっ!」
「ちょっ! 奈々っ、声デカいから抑えてっ……!?」
信司が奈々を連れて『喫茶スター』に来店する。
(おぉっ……! 今日は夏川さんを連れてきたのかっ……)
原作にはない主人公とヒロインのデートイベントに感動する陽介を尻目に、信司は奈々の声のトーンを抑えさせようと必死になっていた。
信司と奈々の様子を見ていた美雪が、陽介に近づいてきて耳打ちをしてくる。
「あの男の子って、陽介くんの友達よね?」
「ん? ええ、そうですね」
「この間は違う子を連れて来てたよね?」
「はい。あいつは将来、ハーレムを築く男ですから」
「……なんか陽介くん、いつもよりも愉しげだよ?」
「おっと……すみません。ただ、あいつらを見てるのが楽しいんですよ」
オタク心が溢れすぎて、美雪に指摘されてしまった。
(いかんいかん、表情に出さないように気をつけないと……)
上がったテンションを抑えようと陽介が深呼吸をしていると美雪が話を続ける。
「もしかして、陽介くんも他人の恋愛模様を眺めるのが好きなタイプ?」
「そういうわけじゃないですよ。単純に四季とその周囲にいる女子が仲良くしてるのを見ているのが楽しいだけです」
「へぇ、そうなんだ~。友達想いなんだねぇ」
陽介のオタク心が違う形で伝わり、美雪がサムズアップしてくる。
(まぁ……友達としてハーレムルートに入って欲しいと四季を応援してるから、友達想いといえば、そうなのかもしれないな。本人はありがた迷惑かもしれんけど)
陽介と美雪がコソコソと話しているうちに、信司たちも一段落ついたようだ。
二人して、陽介のそばにやって来る。
「星崎くん、騒がしくしてごめんね」
「ああ、いや。四季が悪いわけじゃないし、夏川さんも悪気があるわけじゃないことはわかってるから。……でも、癒やしとか、静かな空間を求めてこのお店に来てくれているお客さんのことも慮ってもらえると嬉しいかな」
「ううっ……ごめん~星崎くんっ……」
陽介の言葉に、シュンッ……とする奈々。
「まぁ、反省してんなら別にいいよ。それよりも……夏川さんが恥をかかないように止めてくれた四季に感謝しときなよ」
「うんっ……! 信司、あたしを止めようとしてくれて、ありがとねっ」
「あ、うん。せっかくなら奈々にもこのお店の雰囲気を楽しんで欲しかったからさ」
真正面から奈々に感謝された信司は、ポリポリと頬を掻く。
(いいねっ! 甘酸っぱいこの雰囲気、最高にいいぞぉっ……!)
目の前の光景に陽介は内心で手を合わせる。
それから、二人をテーブルに案内した。
仲良くメニューを眺める信司と奈々を、カウンターに戻って眺める陽介。
(まだまだ夏川さんのルート開放は先だろうけど、今の二人の友人感もいいよな。それに今後のイチャイチャが期待できて、すげぇワクワクするなっ)
奈々のルートを開放するためには、『運動』と『体力』のステータスを上げる必要があった。
ゲームならプレイヤーが主人公のスケジュールを組んで、任意のステータスを上げられる。
だが、ここは現実世界だ。
プレイヤーは存在せず、四季信司本人の趣味嗜好や意思、周囲の影響によって、彼の伸びていくステータスは変わっていく。
(やっぱ四季が入りたいルートを選べるように満遍なくステータスは伸ばしておいて欲しいんだよなぁ……。そして、あわよくば俺の願望であるハーレムルートに入って欲しいっ……!)
そんなことを考えていると、信司に呼ばれる。
「注文、お願いします~」
「お待たせいたしました。ご注文、承ります」
信司たちのテーブルに行き、エプロンのポケットから紙の伝票を取り出す。
「えっと、僕は……クラブハウスサンドとコーラフロートをお願いします。それで、奈々は……」
「あたしはオムライスとメロンソーダ、あとバナナパフェでっ!」
「はい、かしこまりました。クラブハウスサンド、コーラフロート、オムライス、メロンソーダ、バナナパフェでございますね。少々お待ち下さい」
一礼して、陽介がオーダーを通しに行く。
後ろから信司に話し掛ける奈々の声が聞こえてきた。
「うわ~星崎くん、完璧にお仕事モードって感じだったねっ」
「うん、凄いよね~。だから……星崎くんのバイト先に迷惑をかけたりしちゃダメだからねっ」
「う、うんっ。ちゃんと反省してるってっ」
二人のテンポのいいやりとりに、陽介はニヤけそうになるのを必死に抑えていたのだった。
出来たての料理を持って配膳を終える。
信司と奈々は早速、料理を食べ始めた。
「んぅ~ッ……!! オムライス、美味っ……!」
「あははっ、気に入ってもらえたみたいで僕も嬉しいよ」
「うんっ! 今度は葉瑠香も誘って三人で来ようよっ」
「いいね、葉瑠香にも聞いてみるよ。このお店、雰囲気もいいし、奈々もクラスで仲良くなった子たちと来るのもいいんじゃない?」
「あ~それもいいかも。しかもお値段もちょっと高めのファミレスとそんなに変わらないしねっ」
声のトーンを抑えつつも楽しそうに会話をする信司と奈々。
そんな二人を陽介は、カウンターから眺めていた。




