閑話4 星崎美雪から見た従姉弟
「美雪、ちょっといいかい?」
三月初旬のある日のこと。
星崎美雪は実家の喫茶店の閉店作業を終わらせて、一息ついていた。
そんな時、父でありこの店のオーナー兼料理人の星崎謙吾に話し掛けられた。
「お父さん? どうかしたの?」
「まだ時期は決まっていないんだけど、親戚の高校生がバイトに入ることになったんだよ」
「親戚の高校生……? もしかして陽介くん?」
親戚で高校生くらいの年齢は陽介しかいない。
とはいえ美雪が陽介に最後に会ったのは、彼が小学校低学年くらいの頃。
彼の両親に連れられて、夏休みに二週間ほどこの街に滞在していた時だ。
「あれ? でも、ウチから遠くなかったっけ?」
「ああ、陽介くんは今度、僕が持っているアパートで一人暮らしをするんだ。しかも暦乃宮学園に入学するそうだよ」
「へぇ~暦乃宮! 凄いじゃない!」
県内でも三本の指に入る進学校で、校内設備も日本屈指と言われている。
(でも圭介伯父さんの息子かぁ……。伯父さんって感性と勢いで生きてるタイプの人だし、その息子ってことは陽介くんも同じようなタイプの子なのかな?)
大人しい子だった印象はある。
だが成長すれば性格が変わることもあるだろう。
それは多感な時期の高校生なら尚更だ。
今度来るという従姉弟のことを、あれこれ考える美雪であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
どんな子なのか若干の不安があった美雪。
だが挨拶に来た陽介はとても礼儀正しく落ち着いた男の子だったので、一気に不安はなくなった。
(陽介くんは初バイトだし、ここは先輩としてもお姉さんとしてもしっかりと仕事を教えてあげて、何かあったらフォローしてあげないとね)
そう思っていた美雪だったのだが――
「ありがとうございました。またお越しください~」
会計を終えたお客さんに、丁寧に頭を下げる陽介。
(うわっ、初日でほぼ完璧に接客してるよ……)
それだけではない。
オーダーの取り方、通し方も一回教えたらできるようになったし、配膳も下膳も安定していた。
「いいね~、ホールの仕事は教えることはほとんどなかったよ。初バイトって聞いてたけど、即戦力だね~」
感じた通りに褒めると、陽介は照れ笑いを浮かべる。
「ありがとうございます。なんとかなりそうでよかったですよ。あとはレジにも慣れないとですねぇ……」
自分で改善点を挙げる陽介。
(真面目ないい子だなぁ)
バイトの仕事を教え始めて一時間くらいで、美雪は陽介をそう評価する。
美雪から見て、陽介は少なくとも自分が高校生だった時よりもだいぶ大人びた子に見えていた。
(あれかな……伯父さんが勢いで生きるタイプの人だから、陽介くんは逆に真面目で大人びた子に育ったのかな?)
美雪の中では高校生の息子を置いて、夫婦揃って海外に長期間仕事に行っている伯父への印象が悪くなった。
その代わり、陽介の印象は少しの時間で急激に上がったのだった。
それから木曜日の夕方と日曜日に陽介はシフトに入るようになった。
父である謙吾は『お金に困っているならまだしも、陽介くんは高校生だからね。最初からシフトを詰め込みすぎる必要はないよ』と言っていた。
学業優先ということで中間考査前の陽介は一週間、バイトを休んだ。
そして中間考査が終わると、陽介はすぐにシフトを入れていた。
ピークタイム外ということで、美雪はテーブルを拭いたり、椅子を整えたりとフロア内を歩き回って雑務をこなしていく。
そんな時、キッチンの中から声が聞こえてきた。
「陽介くん、中間テストはどうだったんだい?」
「あ、はい。学年五位でした」
「おぉ~それは凄いね」
そんな会話が美雪の耳に入る。
(えぇっ……あの暦乃宮で学年五位とか凄いっ! 陽介くんってば勉強もできるんだ。これはクラスの女子が放っておかないんじゃない?)
親戚の贔屓目かもしれないが、美雪から見て陽介は顔は整っているし、性格もいい。
清潔感もあり、真面目で年齢の割に大人びている。
その上、勉強までできるならモテる要素ばかりだ。
(……現役高校生の恋愛話、聞いてみたいな~)
カウンターを台拭きで掃除しながら、そんなことを考える美雪だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
陽介がシフトに入っている、とある日。
ピークタイムが終わって少し経った頃、美雪は食器を回収して、キッチンに入る。
するとキッチンのシンクでは陽介が食器や調理器具を洗っていた。
「お疲れ様。今日もお父さんに料理習ってたんだね~」
すっかりと見慣れた光景に、美雪はシンクの横に回収してきた食器を置きながら、陽介に声を掛ける。
「あ、美雪さん、お疲れ様です。ええ、やっぱプロに習うと成長が違いますね」
「あはは、嬉しそうだね。でも……大変じゃない? 大丈夫?」
「全然大丈夫ですよ、楽しんでやってますから!」
楽しそうにしているのは確かだが、陽介はまだ高校生。
しかも進学校で学年五位を取るくらい、勉強もちゃんとやっている。
それにアパートで一人暮らしだから、家事も全部やらなければいけない。
オーバーワークになっていないだろうか、と美雪は心配になった。
「それならいいんだけどねぇ。何かあったらお姉さんに言うんだよ」
「はいっ、ありがとうございます!」
それからも陽介はよく謙吾に調理を見てもらっていた。
そして美雪が気がついた時には調理補助として、キッチンに入るようになっていたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(色々と有能で優秀な従姉弟《陽介くん》がバイト先に友達を呼ぶとはねぇ……青春の香りがするわぁ~。ここは親戚のお姉さんとして、陽介くんの友達をそれとなくチェックしておかないとっ)
まるで小姑のように意気込んで、接客をしながら陽介の友人が来るのを待つ美雪。
最初に来たカップルと、次に来たカップルは仲睦まじい様子だった。
二組とも騒ぐこともなく、店の落ち着いた雰囲気に合わせて声のトーンを落としつつ楽しそうに会話をしていた。
(ほぉ~さすがは陽介くんの友達だわ、しっかりしてる。それに……彼女持ちの友達ばっかりなんだねぇ。これは陽介くんにもワンチャン彼女がいたりするのかな?)
美雪の期待は勝手に膨らんでいく。
そして――
(うわぁっ、凄い綺麗な子っ!! 銀髪がキラキラしてるっ~!!)
来店して、陽介と親しそうに話をしている小柄な銀髪美少女を見て、美雪のテンションが急上昇した。
(しかも、メイドさんを連れてるっ……。これはかなりいいところのお嬢様ねっ!)
陽介と絶世の銀髪美少女のやり取りを見守りながら、接客もきっちりとこなす。
そうこうしている内に陽介は銀髪美少女の接客を終えて、他のお客さんの接客を始めた。
(う~ん、もう少し二人の絡みが見たかったなぁ……。あとはお会計でひと絡み、って感じかな?)
少し冷静になった美雪も、仕事を続けていく。
そして、フッとフロア全体を見回した時――
(ん? …………ふふっ♪ やっぱりねぇ~♪ 隅に置けないなぁ~)
銀髪美少女のアメジスト色の瞳が見つめる先に気づいた美雪は、ニヤけそうになるのを必死に抑えるのだった。
銀髪美少女がメイドを連れて店から出る。
幸運なことにピークタイムはとっくに過ぎていて、お客さんはほどんどいない。
なので美雪は早速、陽介に詰め寄った。
「ねぇっ! あのめちゃくちゃ可愛い子、誰っ!? 陽介くんの彼女!?」
「い、いや、彼女じゃないっすよ……。クラスメイトで読書友達みたいな?」
陽介は否定していたが、きっとこれから二人の関係は変わっていくだろうと、美雪には確信があった。
(だって、あの子……陽介くんを見る目が乙女の目をしてたからね~)
なので美雪はもう少し踏み込んでみる。
「え~彼女じゃないんだ。でもさ、あんな可愛い子なんだよ? 付き合いたいとか思わないの?」
「いやぁ……どうなんですかねぇ?」
曖昧に誤魔化す陽介。
その態度が普通の友達に対するものとは違う感情を抱いているように、美雪は感じてしまう。
銀髪美少女の方にも自覚があるのかはわからない。
(もしかして……気づいてないのは本人たちのみ、って感じなのかなぁ~?)
いつ二人の関係に決定的なことが起きるのかはわからない。
だが――
(恋愛関係での私の勘は、よく当たるんだからね)
これからも時々、従姉弟の恋愛模様を見守る気満々の美雪だった。
これにて、第一部完です。
今後は、月・水・金の更新に切り替えさせていただきます。




