閑話3 春山葉瑠香と夏川奈々の休日
ある休日の昼下がり。
四季信司の幼馴染である春山葉瑠香と、友人の夏川奈々は近所のカフェに来ていた。
「いや~期末テスト、いい感じの点数が取れてよかったよね~。勉強会様々だよ」
葉瑠香が先日終わった一学期期末考査の話題に触れた。
「だねっ! まさかあたしまでギリ平均点が取れるなんて思ってもみなかったっ」
勉強が苦手で普段なら試験や勉強の話を敬遠する奈々ですら、ニコニコと上機嫌で話に乗る。
「部活頑張ってるのはわかるけど、奈々ちゃんはもう少し勉強も頑張りなよ~。補習になったら、部活の時間も遊ぶ時間も減っちゃうよ?」
「は~い、ママぁ」
明るく元気に手を上げる奈々。
「誰がママですか」
葉瑠香は軽くため息を漏らしてから、ストローを咥えてアイスティーで口を潤す。
「それにしても、信くんも普段からもう少し勉強すればいいのにねぇ~」
「ほら、そういうとこがママなんだってっ。……でもまぁ、信司ってば中学卒業してからゲームばっかしてたもんね」
中学の頃は比較的、上位の点数を取っていた信司。
だが、卒業祝いで買ってもらったゲームにハマってしまったのだ。
そして一学期中間考査では学年で真ん中よりも下の順位まで成績を落としていた。
「そうそう。でも期末はちゃんと点数が取れてよかったわ~」
「全教科、平均点よりちょい上でしょ? ちゃんと持ち直せてよかったよねっ」
「あれは星崎くんのお陰だね。彼が信くんの勉強を見てくれたからだよ~。ほら、信くんって星崎くんに懐いてるでしょ? だから勉強会も乗り気だったしね」
「あ~星崎くん。確かに信司が凄く懐いてる感じだよねっ。あたしはちゃんと話したことないけどさ……葉瑠香は?」
「私もちゃんとは話したことないなぁ……。ちょっと前に信くんに誘われて、星崎くんのバイト先に行ったことはあるけど、その時は普通に店員さんとして対応してもらっただけだし」
「へぇっ~! 星崎くんはどこでバイトしてるの?」
クラスメイトのバイト先に食いつく奈々。
「星崎くんの親戚の人が経営している喫茶店。雰囲気も落ち着いていていい感じだし、料理も美味しかったよ~」
「ほうほうっ! あたしも行ってみたいな。美味しい料理、食べたいしっ!」
(奈々ちゃんがあの落ち着いた雰囲気の場所に行って、いつも通りの元気で大きな声を出さないか、ちょっと不安だなぁ……)
奈々の元気なところは彼女のいいところだと、葉瑠香は思っている。
だが、どこにいても大体同じテンションなので、落ち着いている喫茶店とはあまり相性がよくない気がしていた。
(まぁ、いざとなったら信くんが止めてくれるかなぁ?)
幼馴染に期待して、葉瑠香は話を続ける。
「信くんに言えば連れて行ってくれると思うよ。……ただし、星崎くんがシフトに入ってる時だけだと思うけどね~」
「あはっ! 信司の子犬属性は中学から全然変わってないねっ」
「それを言ったら、幼稚園の頃から既にそうだったかなぁ~。でも、子犬属性なところは可愛くない?」
「おおっ~さすが幼馴染っ! 未だにほぼ毎日、朝起こしに行くママは違うねっ。あと、可愛いかはちょっとわかんないかな?」
「もうっ、だからママじゃないってばっ~!」
アイスティーを口に含んでから、話を続ける。
「そういえば、信くんが『星崎くんって面倒見がよくて、頼りがいがあって、色んなことをスマートにこなせるんだよっ! 同じ男として理想に思っちゃうよ』って言ってたよ」
「へぇっ……めっちゃ高評価じゃんっ。でもまぁ、体育祭でも結構活躍してたし、期末も学年三位だったし、凄いっちゃ凄いんだろうけどっ」
奈々がコーラをコップから直接、グビッと飲んで信司の言葉に同意する。
(そういえば……)
葉瑠香は奈々が口にした単語で思い出したことがあった。
「体育祭といえばさ、星崎くんと常陸院さんが噂になったよね~」
「あったあったっ。男子たちの嫉妬が見苦しかったよねっ」
眉をしかめる奈々。
そういう表情を作りたくなる気持ちは葉瑠香にもわかる。
「というか……嫉妬だけじゃなくて、言動とかもちょっと、ね?」
「だよねっ、あれはキショかったっ! 女子の身体をジロジロ見て、胸の話とか大声でするなんてノンデリすぎてヤバいっ」
その時のことを思い出したのか、奈々は頬を膨らませた。
「そういうのもあるから、星崎くんってあんまりクラスメイトと広く交流してないのかもねぇ~」
「まぁ、そんな広く交流する必要もないし、いいんじゃないかな? 信司には懐かれてるし、常陸院さんとも仲よさそうだしっ」
「あ~……勉強会の時もあの二人、アイコンタクトとかしてたよ~。なんだか妙に息の合った仲良しカップルみたいな空気感だったな~」
「あははっ、マジかっ~。それは気づかなかった。常陸院さんもさ、教室にいる時よりも話しやすかったよねっ。勉強の教え方も上手かったし」
「確かにね~。さすがは学年首席だよ~」
「仲のいい学年首席と学年三位。それで二人とも運動もできて、仲良しカップルみたいな空気感を醸し出している。……他の男子が入り込む余地がないねっ」
ケラケラと楽しそうに笑う奈々。
デリカシーのない男子たちに同情する気はまったくないようだ。
それは葉瑠香も同じだった。
「ふふっ、笑いすぎだよ~。……気持ちはわかるけど。それに常陸院さんって元々、男子とは特に一定以上の距離を取ってるからね~。ほら、男子にはメッセージアプリのIDを教えないって話もあったし」
「あ~あたしもチラッと聞いたことあるかも。……これで星崎くんとはIDの交換してたら、もっと面白いよねっ」
そこまで言って、
「「…………」」
葉瑠香と奈々は顔を見合わせた。
「……してそうかも?」
「うん、あたしも言ってて、あの二人ならそんな気がしてきたっ」
想像するだけで、形容しがたいむず痒さを感じる二人。
(本当にそうだったら、なんかいいな~。応援したくなっちゃうっていうか)
コホンッと咳払いをして、葉瑠香は言葉を続ける。
「……まぁ、あまり人の人間関係に興味本位で首を突っ込むのもよくないよね~」
「だねっ。それにそういう噂話とか関係なく、常陸院さんとは仲良くなりたいなっ」
「それは私もかな~。そういえば、信くんがこの間の勉強会メンバーで遊びに行く予定を星崎くんと立ててるみたいだし、その時に仲良くなれたらいいね~」
その後も二人は学園の話や、最近のファッションの話などで盛り上がったのだった。




