閑話1 星崎陽介は青春を思う
期末考査も無事に終わり、陽介はバイトに復帰する。
バックヤードでエプロンを着けて、厨房に向かう。
厨房では叔父――星崎謙吾が次のピークタイムに向けて下準備をしていた。
「叔父さん、お疲れ様です」
「やぁ、陽介くん。今回のテストはどうだったんだい?」
「お陰様で、学年三位でした」
この成果も試験前のシフトを融通してくれたおかげで、勉強時間をしっかりと取ることができたからだ。
話をしながら叔父の横に並んで下準備の手伝いを始める陽介。
「おぉ~、暦乃宮学園で学年三位はかなり凄いことだよ。それにしても、まさかあの感性と直感で生きている兄貴の息子が勉強のできる理性派に育つとはね」
「あはは。なんていうかフリーダムな感じですよね、親父って」
『今世の星崎陽介』の記憶の中の父――星崎圭介の姿を思い起こす。
なんというか勢いのある人、という印象だ。
(その割に、親父の撮った写真って繊細っていうか、凄く計算されている感じがするんだよなぁ……)
引っ越した時の荷物に入っていた圭介の写真集や、陽介の小さい頃の写真を集めたアルバムを見た時に思ったことだ。
(やっぱカメラとか写真が好きで興味があって、そこに時間を目一杯投下し続けたから、親父はプロフェッショナルとして世界で活躍できてるのかな?)
ステータスというゲームシステムの存在を知らなくても一流になった存在が、意外と身近にいたことに改めて気がつく。
陽介がそんなことを考えていると、叔父が笑いながら話を続ける。
「はは、そうだね。それに良くも悪くも真っ直ぐな人だよ。だから義姉さんも心配して兄貴のマネージャーをやってるわけだしね。そういう意味では義姉さんの中では、兄貴よりも陽介くんのことを信用してるんじゃないかな、あはは」
「いや~それは息子としては笑えないですよ」
陽介がこの世界に転生する前日。
彼が空港に見送りに行った時、圭介は世界中で写真が撮れる喜びと、陽介を置いていくことへの心配を滲ませた複雑な目をしていた。
それに週に数回は両親とメッセージのやり取りをしているし、時々、通話をすることもある。
ちゃんと大切にしてもらっていることが伝わってきて、むず痒くもあり、嬉しくもあった。
最初のうちはあまり関わるとボロが出て別人だと疑われるのではないかと心配していたが、どうやら元の陽介とほとんど同じ性格のようで、その辺りは特に問題がなかった。
(イメージとしては元の性格、人格に、前世のゲーム知識が上乗せされただけ。みたいな感じなんかねぇ……。まぁ、その方が『身体を乗っ取ってしまった』みたいな罪悪感を抱かなくていいから、別にいいんだけどな)
そんなことを考えていると、従姉弟の美雪が厨房に入ってくる。
「陽介くん、こんにちは」
「こんにちは」
「陽介くんはもうそろそろ夏休みでしょ? 予定とかあるの?」
「あ~……友達と遊びに行ったりとか、色々と約束してますね。アミューズメントセンターに行くとか、祭りとか花火大会とかも」
「うわぁおっ! 青春真っ盛りだね~」
陽介の答えに、ニヨニヨと表情を崩す美雪。
「…………まぁ、高校生ですんで、青春真っ只中ですよ」
なんというか、美雪に余計な情報を教えてはいけない。
陽介の本能がそう警告を出していた。
美雪は決して悪い人ではない。
むしろフレンドリーで面倒見のいい人だと思う。
ただ、咲月と祭りや花火大会に行くことを知られたら全力でイジられる。
そんな確信があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
シフト上がりに賄いで夕食をいただき、陽介は家路につく。
(あっつ……それに湿気がキツいっ……)
『喫茶スター』からアパートまでの道のりを少し歩いただけで、額に汗がジワッと滲む。
額の汗を手の甲で拭いながら歩いていると、公園の入り口横に設置されている掲示板が目についた。
(お、祭りと花火大会のポスターが貼ってある)
掲示板の前でつい立ち止まり、陽介は二枚のポスターを眺める。
どちらも洗練されたデザインで、業者に頼んだようなクオリティだ。
ポスターを見ているだけで、期待感が煽られた。
(祭りも花火大会も楽しみだな。……それに常陸院さんは浴衣、着てくんのかな?)
なんとなく着てくるような気がする陽介。
(まぁ、当日のお楽しみだな)
肩に掛けたボディバッグのポジションを直して、アパートに向けて歩き始める。
(四季たちと遊びに行くのも楽しみだし、夏休みも充実しそうだ)
一学期は中身の濃い日々だったと思う。
そんな陽介の学園生活の中心にいたのは、やはり常陸院咲月だ。
(あとは四季もだな。なんだか妙に懐かれたのは予想外だったけど。っていうか四季のステータス上げの誘導が上手くいってないんだよなぁ……。手応えがあったのは、期末テストの勉強会くらいか?)
そんなことを考えながら歩いていると、あっという間にアパートについた。
部屋に入るとすぐにエアコンをつけて、部屋着を用意する。
そしてさっさと汗を流すために陽介は風呂の準備を始めたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
(青春かぁ……)
湯船に浸かりながら、バイト先で美雪と話したことを思い返す。
この世界で前世の記憶を取り戻した時は、『自分の将来のためにステータスをできる限り上げる』という目標と『四季信司のハーレムエンドが見たい』という願望しかなかった。
だが、常陸院咲月との関わりが深くなっていくほど『もっと周りの人たちと今の生活を楽しみたい』と陽介はだんだんと思うようになってきていた。
(ステータス上げはもちろん続ける。四季のハーレムルートを見るために、ステータス上げの誘導もそれとなくしていく。……そんで『青春』も楽しもう)
思えば図書室で咲月を祭りと花火大会に誘った時にはもう、『青春』を楽しむ選択を陽介自身がしていたのかもしれない。
(それに……常陸院さんのあの無防備な笑顔が見たいからな……)
これから始まる夏休みを楽しく充実したものにしていこう。
星崎陽介はそう決心するのだった。




