第26話 二人で夕食と帰り道
「ん~っ、終わったぁ……。あとは明日、副科目の確認をすれば、やれることは全部やった感じかなぁ……」
陽介は両腕を天井に向けて伸ばしながら背中を反らす。
「お疲れ様です、星崎さん。私もそうですね……ところで、このあとのご予定はなにかありますか?」
「このあと……? うわっ、もう七時手前じゃん!」
リビングにある大きな柱時計を見ると途中に取った休憩から、かなり時間が経っていた。
「そうです。なのでよろしければ、夕食を食べていってくれませんか? ……実はもうすでに星崎さんの分もシェフに手配してあるんです」
「あ、そうなんだ。それじゃあ、ごちそうになろうかな」
せっかくの咲月の厚意だ。受け取った方がいいだろう。
それに今から帰って夕食の準備をするのも骨が折れる。
「はいっ。今日は両親ともに帰って来るのが遅くなるので……星崎さんと一緒に夕食が食べられて嬉しいです」
「そ、そっか……それならよかったよ。一人で食べるよりも誰かと食べた方が楽しいもんな」
「はいっ♪」
フニャとした笑みを浮かべる咲月。
その緩んだ表情を見て、陽介はドギマギしてしまうのだった。
勉強道具をしまって、咲月と一緒に食堂に向かう。
この間と同じ席につくと、すぐにメイドさんが夕食を運んできてくれた。
ライスにオニオンスープ、サラダ。そして分厚いステーキだ。
「うぉぉっ……! ステーキだぁっ……!!」
湯気が昇るステーキを前に、陽介のテンションが一気に上がる。
「くすっ、やはり牛肉がお好きなのですね」
そんな陽介の様子を、微笑ましそうに眺める咲月。
「そりゃそうだよ。しかもこんなに分厚いなんてっ……」
「おかわりもありますから、いっぱい食べてくださいね」
「おうっ! ありがとうっ」
食事をしながら、好きな食べ物の話になる。
「牛肉以外だと、何がお好きなんですか?」
「う~ん、豚肉も鶏肉も好きだな? 馬肉とかラム肉とか鴨肉とかも美味しいと思う。結局、肉が好きなのかもなぁ……」
「くすくすっ、星崎さんは肉食系なんですね」
「それはなんか、意味が変わってくるような気がするなぁ……」
揶揄うような笑みを浮かべる咲月。
陽介はライスにステーキのソースを絡めながら、咲月の言葉にツッコミを入れる。
「ん~、それではお肉以外ではどうでしょう?」
「そうだなぁ……チーズとか卵とか好きかな? あ、さっき言ってたお菓子系、チーズケーキかプリンから始めてみようかな」
「チーズケーキにプリン、どちらもいいですねっ♪」
やはり年頃の女の子。スイーツが本当に好きなんだろう。
咲月はアメジスト色の瞳をキラキラと輝かせていた。
「そういう常陸院さんの好きな料理は?」
「そうですね~……麺類が好きです。パスタやお蕎麦、おうどんとかが好きですね」
「へぇ~麺類か。……ラーメンとか冷やし中華は?」
「名前は知っていますけど、食べたことはないです……」
残念そうに眉を八の字にする咲月。
(まぁ、ラーメンとか基本的に身体に悪そうだし、お嬢様な常陸院さんとは縁がなさそうだよな。……でも、ジャンクなモノって無駄に美味しいから、ご両親の許可が下りたら一緒に食べに行くのもいいもな)
そんなことを考えつつ、さらに質問してみる。
「じゃあ、お菓子とかスイーツ系だと何が好き?」
「う~ん……モンブランとか、あとはフルーツを使ったものが好きです」
「なるほど……。難しそうだけど、いつかは挑戦してみたいな」
「ふふっ、食べさせてもらえるのを楽しみにしていますね♪」
二人は和やかな夕食の時間を過ごしたのだった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「瀬戸さん、いつも送ってもらってしまってすみません」
黒塗りの高級セダンでアパートまで送ってもらう陽介。
「いえいえ。星崎様は当家にとって大切なお客様ですから」
後部座席の運転席の後ろ――いわゆる上座に座らされている陽介は、執事の瀬戸にそんなことを言われてモゾモゾと身体を動かす。
(親よりも年上の人に畏まられるのは、背中が痒くなるっていうか……落ち着かない気分になるよなぁ……)
転生者でこの世界を有利に生きるための知識を知っているとはいえ、陽介はただの高校生なのだ。
「僭越ながら……お嬢様は、学園に入学されてから明るくなられました。それは星崎様。貴方様と仲良くなってからなのです」
「そんな……自分は大したことはしていませんよ」
たまたま出会って、小説を通じて仲良くなった読書仲間なだけだ。
仲がいい自信と自覚はもちろんある。
信頼を寄せてもらっているのも感じている。
だが陽介は自分のおかげで咲月が明るくなった、と言われてもピンッとこない。
「いえいえ、それはご自身が気づいていないだけございます。旦那様も奥様も、お嬢様が学園生活を有意義に過ごせていることを感謝しているのですよ。もちろん私もです……お嬢様がお生まれになった時からお傍に控えておりますので」
「そう、ですか……」
常陸院家の面々からの高評価が、どうにもくすぐったい。
陽介としてはただ自身の思うがままに、普通に接しているだけだから。
(ゲーム『フォーシーズンズ』では『常陸院咲月』という名前と『完璧お嬢様』というあだ名のみの登場で、キャラの掘り下げとかがなかった。だから俺には常陸院さんの昔のこととかは何もわからないんだよなぁ……)
小説の趣味や、好きな食べ物などは徐々にわかってきた。
だが、『完璧お嬢様』と言われて、周りとフラットな距離感を保つようになった原因はまだ教えてもらえていない。
「はい。ですので、不躾なお願いではございますが……これからもどうか、お嬢様をよろしくお願いいたします」
「わかり、ました……自分も常陸院さんと一緒にいたり、話をしているのが楽しいですから。どこまで皆さんの期待に応えられるのかは、全然わかりませんけど……」
「ありがとうございます。ですが、そのままの星崎様でいいと思いますよ。あとはお二人やご友人たちと過ごす時間が、必ずや星崎様やお嬢様を育んでくれると信じております」
「はい……」
自分よりも何十年も長く生きている人からの言葉に、陽介はただ頷くのだった。




