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前世でハマった育成系エロゲのモブキャラに転生した ~主人公ハーレムを眺めたいので、自分を育てつつ主人公をサポートします~  作者: 秋之瀬まこと
第一章

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第15話 映画館

 土曜日の午後。

 陽介は駅前のロータリーで咲月を待っていた。


(まさか映画に誘われるなんてなぁ……)


 金曜日(前日)の昼休み。いつものように図書室で咲月と二人で読書会を開いていた時のことだ。

 数年前にヒットした青春小説が原作の映画が公開された、という話題になった。


「へぇ、あの小説の実写映画、上映が始まったんだ。映画になる、っていうのは知ってたけど」

「はい! 前々から公開日を楽しみにしていたので、早く観に行きたいですっ」


 その小説は陽介も転生後すぐに読んで面白いと思ったし、咲月も『最近の中では特にお気に入りの小説です』と言っていた。


「それで、ですね……星崎さんがよろしければ、一緒に映画を観に行きませんか?」

「お~映画かぁ。いいぞ、いつ行こうか?」


 もじもじしながら映画に誘ってくる咲月が微笑ましく感じ、陽介は快諾した。


「急ですが……明日か明後日はどうでしょうか?」

「あ~……明後日は叔父の喫茶店でバイトだから、明日とかどう?」

「はいっ、大丈夫ですっ!」

「うぃ。それじゃあ午後の回にするとして……チケットは俺がネット予約しておくよ。予約できたら、メッセ入れるから」

「わかりました、お願いしますっ。……ふふっ、楽しみですっ」


 弾んだ咲月の声から、彼女が映画を本当に楽しみにしていることが伝わってくる。


 こうして突発的に二人で映画を一緒に観に行くことになったのだ。


(映画は楽しみだし、常陸院さんと休日に出掛けられるのも嬉しいんだけど……)


 陽介は前髪を指で摘んで整える。


 昨晩、チケットのネット予約をする時に『カップルシート』という単語が目に入ってしまい、急に今日のことを意識してしまっていた。


(確かに図書館に比べて、男女二人で映画館に行くのは一気にデート感が出てくるんだよなぁ……)


 陽介がソワソワしながら咲月を待っていると、何度も見たことがある黒塗りの高級セダンが駅前ロータリーに入ってきた。

 停車した車の後ろのドアが開き、咲月が降りてくる。


(うわぁ……あの隣を歩いて大丈夫か、俺?)


 クリーム色のブラウスに、ライトブルーのハイウェストなジャンパースカートという、いつも通りのお嬢様ファッションだ。


 咲月は陽介の姿を見つけると、すぐにトコトコとそばに寄ってくる。


「星崎さん、こんにちは。お待たせしてしまいましたか?」

「こんにちは。いや、俺もさっき来たとこだから、大丈夫だよ」

「そうですか? それならよかったです」


 ホッとした表情を浮かべる咲月。

 そんな彼女の今日のコーディネートの感想を陽介は口にする。


「……今日の服装もおしゃれだな。落ち着いた雰囲気がいいと思うぞ」

「ふふっ、褒めてくださってありがとございます。以前、星崎さんが私はシンプルな格好が似合うとおっしゃっていたので、参考にさせていただきました」

「おぉ……そん時も言ったけど、常陸院さんはシンプルだったり、上品だったり、落ち着いたシックな感じの服装がよく似合うと思うぞ」

「そう何度も言われると、さすがに照れてしまいますよ……?」


 咲月がシミ一つない白い頬をほんのりと色づかせる。

 その表情がいつもよりも艶っぽく感じてしまい、陽介は少し視線を逸らした。


「ごめんごめん……。さ、映画館に移動しよう」

「はいっ。映画、楽しみですっ」


 咲月の歩幅に合わせて、普段よりもゆっくりと歩く。

 やはり咲月の美貌は人目を引くので、ただ歩いているだけで男女問わずチラチラと視線を向けられていた。


(常陸院さんを見たあとに並んで歩く俺を見て、周りの人たちはどう思ってるんだろうな?)


 ファッション等のセンス全般についても少しずつ学んで、『魅力』のステータス上げも始めてはいる。

 ただ、横を歩く咲月を見ていると『魅力』のステータスの積み上げの差を感じてしまう。


(やっぱお嬢様として小さい頃から一流のものに囲まれてきたんだろうし、センスは自然に育っていくよな)


 それを言うと世界的フォトグラファーの父を持つ陽介も、幼少期から多少は一流のものに触れていたはず。


(う~ん、前世の記憶が戻るまでの記憶を思い出しても、イマイチわからないなぁ……なんとなく日本全国の絶景とかに連れ回されたような記憶はあるんだけど)


 この時の陽介が気づいていないだけで、実は普通の人よりも充分に美的センスの積み上げはあったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「さて、と……まずはチケットを発券しようか」


 映画館に着いた陽介と咲月。

 ズラリと並ぶ自動発券機で、前日のうちにネットで予約しておいたチケットを発券する。


(クレカ持ってない高校生にとって、スマホ決済は神だなぁ)


 自動発券機から出てきたチケットのうちの一枚を咲月に手渡す。


「はい、これ。常陸院さんの分ね」

「予約も含めて、ありがとうございますっ」


 陽介から受け取ったチケットを大切そうにバッグに仕舞う咲月。

 その様子を見て、フッと前世の映画好きの友人のことを思い出した。


「そう言えば……映画が好きな人の中には、観に行った映画のチケットをスクラップブックに貼り付けてコレクションしたりする人もいるらしいね」

「それは素敵ですねっ。……小説の感想とかでもできるでしょうか?」

「多分できると思うな。表紙をスキャナーでコピーして、それを貼り付けた横に感想とか書いていけばいいんじゃないか?」

「なるほど、確かにそれならできそうな気がしてきます」

「あまり重く考えないで、とりあえずやってみて、合わなければやめればいいだけだと思うぞ」

「そうですね。とりあえずやってみたいと思いますっ」


 そんな話をしながら指定のシアターに向かう。その途中で売店コンセッションを見かけた。


「常陸院さんは映画館ではポップコーン食べる人? 俺は食べる派なんだけど」

「……いえ、飲み物だけですね。でも星崎さんが食べるのなら、今日は私も食べてみたいです」

「それじゃ、買いに行こうか」


 売店でポップコーンと飲み物を購入して、指定の席につく。

 ちなみに陽介はバター味、咲月はキャラメル味のポップコーンをそれぞれ買った。


 ざわざわしているシアター内を軽く見回し、陽介は映画館の雰囲気に浸る。


「……映画館って、上映を待ってる時間のワクワク感もいいよな」

「わかります。来ている人たちの楽しみにしている感情が伝わってくる感じがありますよね」

「そうそう。なんていうか、ポジティブな雰囲気が流れてる、みたいな」


 いつもよりも小声で話しているので、二人の顔の距離が近い。

 咲月が身動みじろぐたびに艷やかな長い銀髪が揺れ、ふんわりと甘い香りが陽介の鼻腔をくすぐった。


(くぅっ……なんでこんなにいい匂いがするんだろなぁ……)


 シャンプーの香りなのか。咲月本人の匂いなのか。両方なのか。

 陽介は胸の高鳴りが咲月に伝わってしまわないか不安になる。


 そして、劇場内の照明がスーッと落ちていく。


 お決まりの注意事項が流れ、宣伝を挟んで映画本編が始まる。

 上映中、陽介と咲月はずっとスクリーンに釘付けになっていたのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「いやぁ……よかったなぁ」

「はい……原作にちゃんと忠実で……。ですが映像でしかできない演出もあって……とにかくいい映画化だと思いますっ」


 咲月の声が弾んでいる。

 言葉通り、かなり満足できたのだろう。


「そうだなぁ……俺も制作陣の原作リスペクトを感じたわ」


 上映が終わり、照明が戻った。

 陽介たちは座ったまま、ポツポツと感想を呟く。


 周囲の客たちはそれぞれ、思い思いに席を立って劇場から出ていく。


「ん、俺達も出るか」

「はい、そうですね……」


 荷物をまとめて、並んで出口を目指す。

 咲月のテンションが少し下がったように感じた陽介は、彼女の声を掛ける。


「……せっかくだしファミレスかどこかに入って、感想とか話そうか?」

「はいっ、是非っ!」


 大きな瞳をキラキラと輝かせる咲月。

 その綺麗な瞳に陽介は思わず見惚れてしまったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 幼少期以来の映画館を楽しんだ咲月。

 帰宅後すぐに上機嫌で部屋着に着替えていた。


(今日も楽しかったですね……)


 映画館の雰囲気も。映画の内容も。

 その後のファミレスでの陽介との語らいも。


(星崎さんと一緒にいると、なぜだか安心するんですよね。だから、ついついそばにいたくなってしまいます)


 始めていだく感覚に胸の奥がソワソワする。

 だがそのソワソワ感は嫌なものではなく、むしろポカポカと温かい気持ちになる。


 部屋着に着替え終わり、ポスッ……とベッドに仰向けで横になる。


(ふふっ……不思議ですね。ずっと人と一定の距離を保とうとしてきたのに、一緒にいると心地よさを感じるなんて)


 ボーッと天井を眺めていると、夕食の準備ができたと声が掛かったのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「「…………」」


 見るからにご機嫌な様子で夕食を食べる咲月に、彼女の両親が不思議そうな視線を向ける。

 その視線に気がついた咲月が小首を傾げた。


「お父様、お母様……? どうかしたのですか?」

「あ、いや……そのなんだ、随分とご機嫌そうだな、と思ってね」


 咲月の父、常陸院夜月(よづき)が遠慮がちに言葉を選ぶ。


「あら、わかってしまいましたか……。ふふっ、今日はクラスのお友達と映画館に行ってきたのです」


 話したくて仕方がない。といった様子の咲月に、母の咲耶さくやが温和な笑みを向けた。


「あらあら、咲月ったら凄く嬉しそうね~」

「はい、お母様っ。映画の内容もよかったですし、そのあと、ファミレスで感想を色々と話し合えて……全部、凄く楽しかったですっ」

「おお。趣味のことを楽しく話せる相手がいるっていうのはいいものだからね。そのお友達は大切にするんだよ」

「はい、お父様」


 咲月は知らないことだが、前々から夜月と咲耶は執事の瀬戸から星崎陽介のことを聞いていた。

 娘がこれほどまでに楽しそうに話す相手――それも娘と同級生の男子――が気にならないわけがない。


「せっかくだし今度、そのお友達を夕食に招待してみてはどうかな?」

「いいのですか? 聞いてみますっ」


 夜月の提案に咲月は幼い頃のような無邪気な笑顔を浮かべる。

 そんな娘の心からの笑顔を見て、夜月と咲耶は暖かい視線を向けるのだった。

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