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前世でハマった育成系エロゲのモブキャラに転生した ~主人公ハーレムを眺めたいので、自分を育てつつ主人公をサポートします~  作者: 秋之瀬まこと


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第11話 小説大好きお嬢様との約束の日

 咲月と図書館に行く約束の日になった。

 自室で着替えを終えていた陽介。


(う~ん……やっぱ俺もちゃんと男子なんだなぁ……)


 自分の服装を姿見で確認して、そんなことを考える。


 信司と遊んだ時もそれなりにしっかりとした格好をしていったつもりだったが、今日の服装はそれよりもバッチリと決めているように陽介自身が感じていた。


(デートってわけじゃないけど、休日に女の子と出掛ける……それも常陸院さんっていう絶世の美少女と二人っきりでのお出掛けなわけだし……ちょっとくらい浮かれるのは許して欲しい)


 自分自身になんとなく言い訳をして、指先で前髪を摘んで整える。


「…………よしっ、行くか」


 今、アパートを出たら待ち合わせの時間よりもかなり早く着く。

 だけど家にいても落ち着かない。

 陽介はそそくさとアパートを出たのであった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 待ち合わせ場所に三十分前についた陽介は、のんびりと咲月を待つ。

 すると、待ち合わせ時間の十五分前に見覚えのある黒塗りのセダンが駅前のロータリーに入ってきた。


(……早めに来て正解だったな。それにしても車からして目立つな)


 駅前にいる人たちの視線を若干集めている高級セダンが停車し、私服姿の咲月が降りてきた。

 今日の咲月は、淡いピンク色のワンピースに白いカーディガンを羽織った上品で落ち着いた服装だ。


 お嬢様然としたオーラを無自覚に撒き散らし、駅前のロータリーにいる人たちの注目を集めながら、咲月が陽介の元にやってくる。


「星崎さん、こんにちは。お待たせしてしまったみたいで、すみません」

「いやいや……家にいても落ち着かなかったから、遅刻しないように早く来ただけだよ。だから、気にしないでな」

「ふふっ、そう言っていただけると助かります」


 優雅に笑う咲月。

 彼女のそんな余裕のある態度に、陽介はちょっと悪戯心が湧き上がる。


「ん~上品な感じのコーディネート、いいと思うぞ?」

「ふぇっ……!? そ、そうですか……?」


 陽介が服装を褒めると、咲月はあたふた慌てる。

 照れている銀髪美少女の可愛らしい表情が見れて満足した陽介は言葉を続けた。


「ああ。個人的にはコテコテしてないシンプルで優美な感じがポイント高めだな」


 これは紛れもない陽介の本音だ。


(そもそも常陸院さんは超メインヒロイン級の美少女なんだから、それこそヨレヨレのスウェットとか芋ジャーを着てても許されると思うんだよなぁ……)


 そんなくだらないことを考えていると、咲月が上目遣いに陽介を見ながらおずおずと口を開いた。


「……星崎さんはシンプルなコーディネートがお好きなのですか?」

「う~ん、着ている人のイメージによるかな? 少なくとも俺的には常陸院さんはシンプルな格好の方が似合ってるって思うんだよな。もちろん、豪華絢爛なパーティードレスなんかも似合うとは思うけどさ」

「なるほど……参考にさせていただきますね」

「うぃ。さ、それじゃあ図書館に行こうぜ」


 陽介は咲月の横に並び、図書館に向かう。


「あっ、そうでした」

「ん? どうかしたか?」

「星崎さんの服装も、シンプルですけどおしゃれだと思いますよ」

「……さいですか。まぁ、褒めてくれてありがとな」


 咲月に不意打ちで服装を褒められ、顔が熱くなるのを感じる陽介だった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 久しぶりの市営図書館。やはり重厚感があり立派な建物だ。

 早速、二人は入館して読書用のテーブルと椅子があるコーナーに移動する。


「お互いにおすすめの本を取ってきて交換する感じでいいかな?」

「はい、大丈夫ですっ」

「それじゃあ十分後を目安に、またここに集合な」


 一度、咲月と別れて陽介は図書館内をウロウロする。

 とはいえ別行動と言っても二人とも小説の書架群しょかぐんにいるので時々すれ違う。


(う~ん、常陸院さんも有名作品は結構読んでそうだよな。どうしたものか……。常陸院さんが読んでなさそうなマイナー作品をおすすめするかぁ?)


 マイナーだけど面白い海外の小説を勧めるのも悪くないと思う。

 だが、そのチョイスは今回の趣旨とは少し違う気がした。


(……いや、面白い小説とかお気に入りの小説って何度も読み返すこともあるよな? それなら、読んだことがありそうでも、とりあえずは俺が好きなおすすめの小説を持っていくのがいいんじゃないのか?)


 好きな小説を勧めるのは、読書好きにとっての自己紹介みたいなものだと思う。

 だから奇をてらわず、自分の好きな作品を読んでもらうのがいいだろう。


 そう結論づけた陽介は有名な古典ミステリーを手に取って席に戻る。

 少し待っていると咲月も本を片手に帰ってきた。


 咲月が持ってきたのは十年くらい前に映画化もした青春モノの小説だ。

 タイトルは知っているが、陽介は読んだことはなかった。


「そのミステリー小説、タイトルは知っていますが読んだことはないですね」

「お? 奇遇だな。俺も常陸院さんが持ってきてくれた小説、タイトルは知ってるけど読んだことないんだよな」

「ふふっ、それならお互いに新鮮な気持ちで読めますね」

「そうだな。ちなみになんだけど……常陸院さんって、お気に入りの小説読み返すタイプ? 俺はそういうタイプなんだけど」

「私もそうでね。お気に入りの小説は急に読み返したくなる時があります」

「おお~、やっぱ読書好きはそういうもんだよな」


 そんなことを話しつつ、テーブルを挟んで向かい合って座る。

 そして互いに持ってきた小説を交換して読み始めた。


「「…………」」


 無言で小説を読む二人。

 ペラ……ペラ……とページをめくる音が耳に心地よい。


「ふぅぅ……」


 キリのいいところまで読み、陽介は本から顔を上げる。

 咲月も丁度、顔を上げたところだった。


 目が合った二人はしばし、視線を交わし合う。


(ホントに綺麗なアメジスト色の瞳だなぁ……宝石みたいで吸い込まれそうだ。……って違う違う。青春小説を読んでたからって、変な思考になるなっ)


 小説の世界観に浸っていた名残りのせいだと思いたい。

 そんな恥ずかしい思考を追い出して、陽介は短い沈黙を破った。


「……休憩がてら、近所のカフェでも行く?」

「そうしましょうか。小説も借りていきましょう」


 貸し出しの手続きをして、陽介と咲月は図書館のそばにあるカフェに入る。


「私、こういうお店に入るの初めてなんです」

「え? もしかして両親から禁止されてるとか?」


 もしそうならマズいことをしたのでは、と一瞬焦ったが――


「いえ、そういうわけではないですよ。ただ、一人では入りづらいですから」

「あ~そっちの理由か」


 そんなことを話していると、陽介たちの注文する番になった。


「ですので、何を頼めばいいのかわからないので……星崎さんと同じものをお願いしますね」

「了解……って、俺はアメリカンコーヒー頼むけど大丈夫?」

「はい、大丈夫ですよ。……お砂糖とミルクがあれば」

「ははっ、了解了解~。すみません、アメリカンコーヒーのMを二つください」


 レジ横からガムシロップ一つとミルクを二つ取る。


 会計を済ませ、トレイにコーヒーを載せて席を探す。

 幸いなことに店内は空いていたので、二人掛けのテーブル席を確保できた。


 陽介はミルクを、咲月はガムシロップとミルクを入れて一息つく。


「読書のあとって、喉が乾きますよね」

「わかるわ~。多分、集中してるから喉乾いてるのに気づいてないんだろなぁ……。で、集中が途切れると喉の乾きに気づく、みたいな?」

「ああ、そうかもしれませんね。勉強の後とかもそうですし」

「だな。……喉の乾きに気づかないくらいには楽しめた?」


 陽介はそれとなく勧めた古典ミステリー小説の感想を訊いてみる。


「そうですねっ。冒頭から小さな謎がいきなり起きて、読み始めてすぐに物語に引き込まれましたっ。そこからスムーズに事件に繋がっていく流れとテンポ感もいいですし、登場人物たちの会話が軽快でページをめくる手が止まらなかったですっ」


 嬉々として語り始める咲月。


(ホント、目をキラキラさせて小説の話をするんだよなぁ……)


 学園では男子たちが『完璧お嬢様』なんて呼んでいるが、陽介からすれば『小説大好きお嬢様』だ。


「まだ半分も読めていませんが、続きを読むのが凄く楽しみですっ」

「そかそか、ミステリーって『どうなるんだろ?』とか『どうやったんだろ?』とか『なんでやったんだろう?』みたいな先が気になるのもいいんだよなぁ」

「なるほど。ワクワク感がある小説が好きと前におっしゃっていましたが、ドキドキ感がある小説も星崎さんの好みなのですね」

「そうそう。だから、常陸院さんが選んでくれた青春小説も、ドキドキワクワクが最初からくるから、読んでて続きが気になる。あと、最初の方から甘酸っぱい感じが青春感出してるよなぁ」

「ふふっ、青春小説は甘酸っぱさとか切なさとかが大切ですからねっ」

「あぁ、わかるかも。俺もまだ三分の一くらいまでしか読んでないけど、感情描写が秀逸だよな。キャラたちのやり取りから甘酸っぱさが香り立ってる感じ」

「あら、『甘酸っぱさが香り立ってる』という表現は詩的で素敵ですね」

「えぇ……? なんかそう言われると恥ずかしくなってくるな……」


 ポリポリと陽介は頬を掻く。


「別に恥ずかしがることはないじゃないですか。褒めてるのですよ?」

「いやいや……なんか思い浮かんだことをポンッて口にしたら『詩的だ』って言われるのって、凄くいたたまれない気分になるぞ……?」

「くすっ。星崎さんって、いつも飄々としたイメージでしたけど、照れると可愛らしいんですね」


 楽しそうに温和な笑みを浮かべる咲月。


「…………年頃の男の子に『可愛らしい』ってのは褒め言葉じゃないからな?」


 そんな彼女の視線に気恥ずかしさを感じて、陽介はそっぽを向いたのだった。




 その後、小腹が空いたのでマフィンとコーヒーのおかわりを注文して、陽介と咲月は話を続ける。

 いつの間にか今日、勧め合った小説の話から、過去に読んで面白かった小説、あまり面白く感じなかった小説の話に移っていく。


 思った以上に会話が弾み、気がつくと夕方になっていた。


「ん~そろそろ帰るか」

「はいっ」


 今日はここまでにして、解散することにする。

 陽介が席を立とうとすると――


「あ、星崎さん。この間、お貸しする約束をしたラノベです」


 バッグからラノベを取り出して、陽介に差し出した。


「おぉ、そうだったな。ありがたく貸してもらうわ」

「はい。読み終わったら、感想を聞かせてくださいねっ」

「うぃ」


 受け取ったラノベをカバンにしまい、今度こそカフェを出る。


 咲月の迎えの車が来るまで駅前のロータリーで一緒に待ち、車に乗り込んだ彼女を見送ってから陽介は家路についたのだった。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 空がオレンジ色に染まる時刻。

 屋敷に戻ってきた咲月は部屋着に着替えて、夕食までの間、陽介が選んできた古典ミステリー小説の続きを読み進めていた。


(ミステリーって自分ではあまり選ばないジャンルですから新鮮でいいですね)


 サスペンス要素に引き込まれて、胸を踊らせながらページをめくって物語を追っていく。


(ドキドキ感が好き、と言っていた星崎さんの気持ちがわかります)


 途中、夕食に呼ばれて両親と食事をして、再び自室で読書に耽る。


「ふぅぅっ…………」


 最後まで読み終わり、パタンと本を閉じる。

 丁度読み終わったところでお風呂の時間になった。


 髪と身体、顔を洗い、広々とした湯船に浸かって足を伸ばす。


(面白い小説を読み終わったあとの、ふわふわとした感覚はやはりいいですね……)


 ほぅ……と息を吐き、心地のいいお湯加減と読後感に浸る。


(星崎さんのおすすめの小説は本当にハズレがないですね)


 逆に陽介が『面白くない』と言った小説は、咲月にも合わなかった。

 好みや感性が似ている読書仲間を見つけられたことを咲月は嬉しく思う。


(それにしても……出会って間もないのに、お出掛けするくらい仲がいい人ができるなんて思いもしませんでしたね……。それも、同い年の男子……男性です)


 幼い頃から『常陸院家の娘』として扱われ、周りから一歩引いた対応をされたり、逆に幼い咲月に取り入ろうとする人間の悪意に晒されてきた。


 そんな幼少期の経験から意識的にも、無意識的にも咲月は家族と使用人たち以外に対して一定の距離を置いて接するようになっていた。


 だが――

 お湯の中で腕を伸ばすと、チャプン……と水音が浴室に響いて解けていく。


(なんていうか……星崎さんからは悪意も邪念も感じないですし、私を見る視線がお父様や執事長の瀬戸みたいな暖かで優しい感じがするんですよね)


 小説を通じて話していく中で、咲月は陽介のことを読書仲間以上に人として信用し始めていたのだった。

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