第1話 ハズレ職と錆びた短剣
新作『限界突破の魔導エンチャント無双 ~最底辺の解体屋、虹色の神装備を拾い育てる~』の連載を始めました。
ハズレ職【解体屋】として城を追い出された高校生カイが、錆びた短剣一本から、装備を「育てて」最強になっていく話です。
強化は+6から先、失敗すれば装備が灰になる世界。
カイが見つけたのは、使いこむほど成功しやすい「なじみ」と、続けて強化すると失敗しやすい「ひずみ」。運ではなく、仕様を理解して確率を育てていきます。
盾の騎士ノエル、猫耳のルゥ、眼鏡の魔導士セラ、竜人のシエナ。仲間たちと、火山の街から海の向こうの竜の国まで旅をします。
全100話、完結まで書き上げてあります。毎日更新していきますので、最後までお付き合いいただけたらうれしいです。
目を開けたら、天井がやたらと高かった。
白い石の柱が何本も立っていて、そのてっぺんには金ぴかの飾りがついている。床には青く光る線ででっかい円が描かれていた。いわゆる魔法陣というやつだ。
さっきまで俺は放課後の教室でスマホをいじっていたはずだった。やっていたのは『デッドライン・サバイバー』。極寒の荒野で食料と燃料をやりくりしながら、一日でも長く生き延びるゲームだ。ちょうど三十日目の吹雪を越えたところで床が光って、それで今ここにいる。
「おお……成功だ! 勇者様がたが降臨なされたぞ!」
白いひげのじいさんが両手を広げて叫んだ。まわりには鎧を着た兵士がずらりと並んでいて、奥の一段高いところには、王冠をかぶったおっさんが座っている。
俺のほかに魔法陣の上には三人いた。同じクラスの天城レンと、桜井ミオと、神崎ユウト。三人とも放課後まで教室に残っていた連中だ。
「な、なんだよここ……ドッキリか?」
神崎がきょろきょろしながら言った。
「落ち着け、ユウト」
天城がすっと立ち上がる。剣道部の主将で成績もいい。こういうときに真っ先に落ち着けるのが、いかにも天城らしかった。
白ひげのじいさんの説明は長かったけど、まとめるとこうだ。ここはルーンベルク王国。国の南にある大迷宮から魔物があふれそうになっていて、それを止めるために異世界から勇者を呼んだ。勇者には神さまから特別な「職業」が与えられている。それを今から調べる、ということらしい。
それから、もう一つ。この世界の人間には「レベル」というものがあるらしい。魔物を倒すと、その力の一部が体に流れこんでレベルが上がる。レベルが上がるほど、力も体の丈夫さも増していく。本当に、ゲームそのものだ。
正直、頭が追いついていなかった。でも、ゲームで鍛えた癖で俺はまず周りを観察した。出口は正面の大扉と、左右の小さな扉。兵士は三十人くらい。全員が剣を持っている。逃げるのは無理だ。だったら今はおとなしく話を聞くしかない。
一人ずつ、水晶玉に手を置かされた。
「天城レン殿――職業【剣聖】!」
水晶玉の上に白い光の文字が浮かび上がった。
[天城レン Lv1 剣聖]
力 42 守り 38 速さ 35 魔力 20
広間がどよめいた。王さまが身を乗り出して、満足そうにうなずいている。
「桜井ミオ殿――【聖女】!」
「神崎ユウト殿――【大魔導】!」
立て続けの当たりに兵士たちまで拍手を始めた。神崎なんか「マジかよ、俺すげえ」とガッツポーズを決めている。
最後が俺だった。
水晶玉は冷たかった。手を置くと、中に灰色のもやがふわっと浮かんだ。さっきまでの三人は金色や白の光だったのに俺のだけ妙にくすんでいる。
「鳴海カイ殿……職業は……」
じいさんが目を細めて、それから眉をひそめた。
「【解体屋】……ですな」
[鳴海カイ Lv1 解体屋]
力 6 守り 5 速さ 9 魔力 2
天城の数字の七分の一。同じレベル1なのにスタートからこれだけちがう。
広間がしんとした。
「解体屋?」
王さまが聞き返す。
「はい。魔物の死骸や壊れた武具をばらして、素材に分ける職でございます。街の解体場で働いておる者どもと同じかと」
「……戦えるのか」
「残念ながら、戦闘向きの力は、ほとんど。レベルの上がり方も職業しだいでございましてな。剣聖殿がレベルを一つ上げれば力が八つ九つ増えますが、解体屋では、せいぜい一つでしょう。いくら魔物を倒しても強くはなれますまい」
王さまは大きなため息をついた。そして、俺のことを見ないまま手を振った。
「ハズレか。仕方あるまい。召喚の儀には四人分の枠があったからな。一人くらいは外れも混ざる」
外れ。
ずいぶんはっきり言ってくれるな、と思った。
「その者には、当面の路銀と、武器庫から適当な武器を一つ持たせてやれ。城に置いておく理由はない」
「お、お待ちください!」
声を上げたのは桜井だった。
「鳴海くんもわたしたちと一緒に来たんです。いきなり追い出すなんて……」
「聖女殿はおやさしい」
王さまは桜井にだけ、にこりと笑ってみせた。
「だが王国には、役に立たぬ者を養う余裕はないのだ。わかってくだされ」
桜井は何か言いたそうに俺を見た。天城は腕を組んだまま、黙っていた。神崎は気まずそうに目をそらした。
まあ、そんなもんだろう。俺は教室でもこの三人とほとんど話したことがない。休み時間はずっとゲームをしていた。今さら「仲間だろ」なんて言えるほどの関係じゃない。
「大丈夫だよ、桜井さん」
俺は言った。自分でも意外なくらい、声は落ち着いていた。
「ここにいてもたぶん居心地悪いだけだし」
サバイバルゲームの鉄則その一。**最初にやるべきは、安全な場所の確保**。その安全な場所は、俺を歓迎していない城の中じゃない。
兵士に連れられて、俺は城の地下にある武器庫へ向かった。
武器庫の中はほこりっぽかった。立派な剣や槍は棚にきれいに並んでいて、兵士はそっちには目もくれず、隅っこにある木箱を指さした。
「お前の分はそこからだ。廃棄予定の箱だから、どれでも好きに持っていけ」
箱をのぞき込むと、刃こぼれした剣や、柄の折れた槍が、ごちゃっと突っ込まれていた。どれもこれも錆だらけだ。
ため息をつきかけた、そのときだった。
視界の端がちかっと光った。
「……ん?」
目をこすって、もう一度箱を見る。やっぱり光っている。いや、正確には、武器の表面に細い線が見えるのだ。葉っぱの葉脈みたいな、ぼんやりした光の線。剣にも槍にもその線が走っている。
なんだこれ。
線は武器によって見え方がちがった。ぶつぶつと途切れているものもあれば、ぐちゃぐちゃにからまっているものもある。たぶん、これが解体屋の力なんだろう。物の「つくり」が見える、みたいな。
そして箱のいちばん底に一本だけ、線がまったく見えない短剣があった。
いや、見えないんじゃない。線が錆の下に隠れている感じだ。分厚い錆の奥で何かが静かに光っている。
手に取った瞬間、頭の中にふっと文字が浮かんだ。
〔??? 名無しの短剣 +0〕
限界 ――
「……はてなが三つ?」
ほかの武器も手に取ってみる。
〔鉄の片手剣 +0〕
〔鉄の短槍 +0〕
ほかのは普通に鉄と書いてある。この短剣だけ、何の素材なのか書いていない。
「おい、早くしろ」
兵士がいらいらした声を出した。
「これにします」
俺は錆びた短剣をかかげた。兵士は鼻で笑った。
「よりによって一番のボロか。まあ、解体屋にはお似合いだな」
ボロでいい。ゲームでも正体のわからないアイテムは、とりあえず拾っておくのが基本だ。捨てるのはいつでもできる。
城の裏門で革袋を一つ渡された。中には硬貨が二十枚ほど入っていた。
「ルーン硬貨二十枚。安宿なら一晩もたんが、パンなら十個は買える。せいぜい大事に使え」
門がぎい、と音を立てて閉まった。
外は夕方だった。空がオレンジ色で見たことのない形の鳥が飛んでいる。石畳の道の向こうには、にぎやかな街並みが広がっていた。
持ち物は錆びた短剣が一本と、硬貨が二十枚。それと、学生服。スマホは電池が残り十二パーセントでもちろん圏外だった。
ふつうなら、泣きたくなる場面なのかもしれない。
でも俺はなぜか少しだけ、わくわくしていた。
だってこれは知ってる状況だ。何も持たずに見知らぬ土地に放り出される。『デッドライン・サバイバー』のいつもの一日目とそっくりだった。
腰のベルトに短剣を差して、俺は街のほうへ歩き出した。
背中で、城の鐘がゴーンと鳴った。
第1話 了




