第九話 魔王復活
――ドクン。
地下聖堂が揺れた。
床の魔法陣から黒い光が噴き上がり、天井を突き破って空へ伸びていく。
「全員、退避!」
俺が叫ぶ。
王都警察の兵士たちが一斉に動いた。
「王女殿下をお守りしろ!」
レオンがアリシアの前に立つ。
だが、アリシアは首を横に振った。
「レオン……私は逃げません」
「殿下!」
「ここで逃げたら、魔王を止められません」
アリシアは俺を見る。
「黒崎様。私に何をすればいいのか、教えてください」
「……分かった」
俺は地下聖堂の魔法陣を見る。
中央にはアリシア。
その外側には、俺の魂を示す紋章。
そしてさらに外には、王都へ伸びる十二本の魔力線。
「魔王復活の仕組みは分かった」
ミレイユが尋ねる。
「どうするんです?」
「十二本の魔力線を切る」
「全部ですか?」
「ああ」
「でも、王都全体ですよ!」
「だから警察の出番だ」
俺は王都の地図を広げた。
「この十二本は、過去の魔法犯罪が起きた場所を繋いでいる」
ミレイユが地図を見る。
「つまり、魔王軍が長年作ってきた魔法陣……」
「そうだ」
「では、十二か所すべてを同時に破壊する必要があります」
「正解」
レオンが剣を抜いた。
「ならば、私も行きます」
「いや」
俺は首を振った。
「お前にはここを任せる」
「ここを?」
「ヴァルネアがいる」
俺は魔王軍幹部を見る。
ヴァルネアは笑っていた。
「私一人で止められると思うか?」
「一人じゃない」
俺は警察兵たちを見る。
「全員で止める」
ヴァルネアの笑みが消えた。
「……警察ごときが」
「警察だからだ」
俺は言った。
「一人では事件を解決できなくても、組織ならできる」
王都各地。
警察官たちが一斉に動き始めた。
「第一地点、到着!」
「魔法陣を確認!」
「破壊開始!」
――ドォン!
一本目の魔力線が消えた。
「第二地点も破壊!」
――ドォン!
二本目。
三本目。
魔王の復活が少しずつ弱まっていく。
だが、敵も動いた。
「魔王軍が来ます!」
「迎え撃て!」
王都中で戦闘が始まる。
剣と魔法。
炎と雷。
そして警察官たちの連携。
俺は無線代わりの魔導通信機を握った。
「全隊、状況を報告!」
『第四地点、制圧!』
『第五地点、破壊完了!』
『第六地点、敵の抵抗が激しい!』
「第六地点には第二部隊を送れ!」
『了解!』
俺は地図を見る。
残りは三地点。
しかし――
「待て」
俺は違和感に気づいた。
「おかしい」
ミレイユが尋ねる。
「どうしました?」
「十二本の魔力線じゃない」
俺は地図を見つめる。
「十三本ある」
「十三本……?」
「隠された線が一本ある」
それは王城からまっすぐ地下へ伸びていた。
「王城地下……」
俺は気づいた。
「最後の魔法陣は、最初から王城にあったんだ」
地下聖堂。
ヴァルネアが魔法を放つ。
レオンが剣で受け止める。
「ぐっ……!」
吹き飛ばされるレオン。
「レオン!」
「大丈夫だ!」
立ち上がる。
しかし、ヴァルネアの力は圧倒的だった。
「人間風情が!」
黒い炎が襲いかかる。
レオンは盾を構えた。
「私は――」
盾が砕ける。
「王女殿下の側近だった」
剣が折れる。
「そして――」
レオンは拳を握る。
「今は王都警察の騎士だ!」
折れた剣を握り、ヴァルネアへ突撃する。
「何っ!」
レオンの一撃がヴァルネアの肩を切り裂いた。
「ぐあっ!」
「殿下には指一本触れさせない!」
その頃。
俺は王城地下へ向かっていた。
「黒崎様!」
ミレイユが後ろから追ってくる。
「最後の魔法陣は、この下です」
「分かってる」
扉を開ける。
そこには巨大な地下空間が広がっていた。
中央にあったのは――
一つの黒い石。
その石には、見覚えのある紋章が刻まれていた。
「これが……最後の魔法陣」
「壊しましょう!」
ミレイユが杖を構える。
「待て」
俺は石を見る。
「これは魔法陣じゃない」
「では?」
「魔王の心臓だ」
黒い石が鼓動する。
――ドクン。
――ドクン。
そして、背後から声がした。
「よく来たな」
振り返る。
グレンだった。
いや。
もうグレンではない。
巨大な角。
黒い翼。
赤い瞳。
魔族へ完全に変貌したグレンが立っていた。
「局長……」
ミレイユが呟く。
「私はもうグレンではない」
男は笑う。
「魔王のしもべだ」
俺は銃を構えた。
「なら、逮捕する」
「まだそんなことを言うか!」
グレンが襲いかかる。
俺は横へ飛ぶ。
爪が壁を砕く。
ミレイユの魔法が直撃する。
「効いてない!」
「なら、別の方法だ!」
俺はグレンの足元を見る。
黒い鎖。
魔王の心臓から伸びている。
「そういうことか……」
俺は気づいた。
「グレン、お前も魔王に操られている」
「何を言う!」
「お前自身の魔力が、魔王の心臓に吸われている」
「……!」
「つまり、お前も利用されているだけだ」
グレンの動きが止まった。
「俺たちが倒すべき相手は、お前じゃない」
俺は黒い石を見る。
「魔王そのものだ」
その瞬間。
黒い石が砕けた。
「……!」
地下空間全体が揺れる。
巨大な黒い影が立ち上がった。
「ようやく……」
低い声が響く。
「完全な器が揃った」
アリシアの身体が光る。
「きゃあっ!」
黒い霧がアリシアへ吸い込まれていく。
「アリシア!」
俺は走る。
だが、間に合わない。
アリシアの髪が黒く染まる。
瞳が赤く輝く。
「黒崎……様……」
「アリシア!」
「逃げて……」
声が二重に響く。
王女の声。
そして、別の声。
「もう遅い」
アリシアが顔を上げる。
「我は魔王なり」
王都の空が真っ黒に染まる。
十二本の魔力線がすべて消えた。
そして――
王女の身体から巨大な魔王が姿を現した。
「復活だ」
俺は銃を握りしめる。
魔王が俺を見る。
「黒崎蓮」
「……」
「今度こそ、お前を殺す」
俺は一歩前へ出た。
「悪いな」
銃を構える。
「今回は、こっちも一人じゃない」
背後からレオン、ミレイユ、そして王都警察の仲間たちが集まる。
レオンが剣を構えた。
「行くぞ、黒崎!」
ミレイユが杖を掲げる。
「王女殿下を取り戻しましょう!」
俺は頷いた。
「全員――」
魔王を見据える。
「最後の事件を解決するぞ!」
魔王が咆哮する。
王都が震える。
そして――
最終決戦が始まった。




