第十話 刑事は魔王を逮捕する
王都が震えていた。
空は黒く染まり、巨大な魔王が王城の上空に浮かんでいる。
その姿は、もはや人間には理解できないほど巨大だった。
「我は魔王――」
赤い瞳が王都を見下ろす。
「この世界を再び支配する者だ!」
魔王が腕を振る。
黒い雷が地上へ落ちた。
「全員、散開!」
俺が叫ぶ。
王都警察の隊員たちが一斉に動いた。
ミレイユが防御魔法を展開する。
「結界、展開!」
巨大な光の壁が王都を包む。
だが――
――バキッ!
結界に亀裂が入った。
「持ちません!」
「あと何分だ?」
「三分……いえ、二分が限界です!」
「十分だ」
俺は魔王を見上げる。
「二分あれば十分だ」
レオンが隣に立つ。
「何をする?」
「魔王を倒す」
「どうやって?」
「倒さない」
「何?」
「逮捕する」
レオンが呆れた顔をした。
「……本気か?」
「ああ」
俺は魔王を見る。
魔王の身体は、アリシアの身体と完全には融合していない。
胸の中央に、黒い核が浮かんでいる。
「あれが魔王の魂だ」
ミレイユが驚く。
「でも、どうやって分離するんです?」
「アリシアの中にある聖女の魂を使う」
俺は聖女の少女を見る。
「できるか?」
少女は頷いた。
「できる。でも、一人では無理」
「なら、俺が手伝う」
「あなたの魂を使うことになる」
「構わない」
レオンが俺の腕を掴んだ。
「黒崎!」
「大丈夫だ」
「また自分を犠牲にするつもりか!」
「違う」
俺は笑った。
「今回は全員で解決する」
王城の屋上。
魔王がこちらへ向かってくる。
「無駄な抵抗だ」
「そうかな」
俺は拳銃を構える。
「お前には一つ、重大な欠点がある」
「何だ?」
「お前は人間のことを知らない」
俺は引き金を引いた。
弾丸は魔王へ向かわない。
その後ろにある魔法装置を撃ち抜いた。
――バン!
王都中に張り巡らされていた魔力の一部が消える。
「なっ……!」
魔王が動きを止めた。
「犯罪捜査ではな」
俺は言った。
「犯人が使った道具を調べる」
ミレイユが魔法を放つ。
王都各所の魔法陣が次々と消えていく。
「第一から第六地点、封鎖完了!」
通信が入る。
「第七から第十地点も完了!」
さらに報告。
「残り二地点!」
魔王が咆哮した。
「小賢しい!」
黒い炎が降り注ぐ。
レオンが俺たちの前に立った。
「ここは私が防ぐ!」
剣から光が溢れる。
「王女殿下を返してもらう!」
魔王とレオンが激突した。
巨大な腕を、レオンが受け止める。
「ぐっ……!」
「レオン!」
「行け!」
レオンは叫んだ。
「私の役目は、殿下を守ることだ!」
俺は頷いた。
「任せた!」
俺はアリシアへ近づく。
彼女の身体は黒い魔力に包まれていた。
「アリシア!」
「……黒崎様」
一瞬だけ、彼女の瞳が元に戻る。
「私は……まだ……ここにいます」
「分かってる」
「でも、もう……抑えられません」
「大丈夫だ」
俺は彼女の手を握る。
「俺が必ず助ける」
「……約束してください」
「何を?」
「今度こそ……死なないで」
俺は笑った。
「ああ」
「絶対ですよ」
「警察官は、簡単には死なない」
アリシアが微笑んだ。
その瞬間。
聖女の少女が魔法を発動した。
「今です!」
白い光がアリシアを包む。
魔王の魂が引きずり出される。
「ぐあああああ!」
魔王が叫ぶ。
「貴様らごときが、我を――!」
「今だ、黒崎!」
ミレイユが叫ぶ。
俺は魔王の魂へ向かって走った。
拳銃ではない。
腰に差していた手錠を取り出す。
魔法で作られた特殊な手錠。
犯罪者の魔力を封じるため、王都警察が使っているものだ。
「魔王!」
俺は叫ぶ。
「お前を――」
魔王の魂が襲いかかる。
俺はその腕をかわした。
「王女暗殺未遂」
手錠を片方の腕へ。
「王都警察署襲撃」
もう片方へ。
「王国民への殺人未遂」
魔王の魔力が暴れる。
「魔王軍による国家転覆」
俺は両手の手錠を繋いだ。
そして――
「その他、余罪多数!」
手錠が光り輝く。
「よって――」
俺は魔王を睨んだ。
「お前を逮捕する!」
――ドォォォン!
巨大な光が王都を包んだ。
魔王の魂が砕ける。
「こんな……人間に……!」
最後に魔王の声が響く。
「馬鹿な……」
黒い魔力が消えていく。
空が青く戻る。
王都に静寂が訪れた。
「……終わった?」
ミレイユが呟いた。
俺は空を見る。
「ああ」
アリシアが倒れた。
「殿下!」
レオンが駆け寄る。
「大丈夫です!」
アリシアはゆっくり目を開けた。
「……黒崎様」
「ここにいる」
「本当に……生きていますね」
「ああ」
俺は笑った。
「約束したからな」
アリシアも微笑む。
「ありがとうございます」
その言葉を聞いた瞬間。
俺の中にあった前世の記憶が、静かに消えていった。
もう、過去に縛られる必要はない。
前世の俺が残した事件は、終わったのだ。
数週間後。
王都警察魔導犯罪捜査局。
新しい看板が掲げられていた。
「異世界犯罪特別捜査課」
俺はその課長席に座っている。
目の前には大量の書類。
「黒崎さん!」
ミレイユが走ってくる。
「新しい事件です!」
「またか?」
「はい!」
「今度は何だ?」
ミレイユは真剣な顔で答えた。
「ドラゴンによる銀行強盗です!」
「……」
俺は頭を抱えた。
「異世界の警察って、本当に忙しいな」
隣では、正式に警察騎士となったレオンが笑っている。
「黒崎、行くぞ」
「分かった」
俺は立ち上がる。
そして新しい事件ファイルを手に取った。
事件がある限り、俺は捜査する。
相手が人間でも。
魔族でも。
魔王でも。
俺は刑事だ。
だから――
「行くぞ。事件解決だ」
王都警察の扉が開く。
その先には、まだ見ぬ事件と謎が待っている。
そして俺たちの異世界警察物語は――
ここから始まる。




