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異世界警察官、姫暗殺未遂事件を捜査する  作者: sora


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第八話 王女の秘密

 聖女の墓地を包んだ戦いは、長くは続かなかった。


「下がって!」


 ミレイユの魔法が炸裂する。


 炎の壁が魔王軍の兵士たちを押し返した。


 レオンは剣を振るい、俺たちの前に立ちはだかる敵を次々と倒していく。


「黒崎!」


 レオンが叫んだ。


「ヴァルネアは任せろ!」


「一人で大丈夫か?」


「私はもう、魔王軍の騎士ではない!」


 レオンは剣を構え直す。


「王女殿下を守る騎士だ!」


「……頼んだ!」


 俺は聖女の少女とアリシアを連れて、墓地の奥へ走った。


「こっち!」


 少女が案内する。


 墓石の間を抜け、地下へ続く階段を降りる。


「ここは?」


「聖女の地下聖堂」


 古い扉が開く。


 中には巨大な石碑があった。


 石碑の中央には――


 王家の紋章。


 そして、その隣には俺とよく似た男の姿が刻まれていた。


「……俺?」


 俺は息を呑んだ。


「そう」


 少女が頷く。


「あなたの前世」


 石碑には古代文字が刻まれていた。


 ミレイユが読み上げる。


「『異界より来たりし黒の刑事、魔王を裁き、王女を救う』……」


 俺は石碑を見つめる。


「刑事……」


 やはり、この世界に俺と同じ存在がいた。


 ただの偶然ではない。


 俺の魂は、何度もこの世界と関わっている。


「黒崎様」


 アリシアが俺の袖を掴んだ。


「私も……知りたいです」


「何を?」


「私の中にいるものが何なのか」


 少女が静かに答える。


「アリシアの中にいるのは、魔王の魂だけじゃない」


「……え?」


「聖女の魂も入っている」


 俺は驚いた。


「どういうことだ?」


「昔、魔王を封印した時、聖女は自分の魂を二つに分けた」


 少女は石碑を指差した。


「一つは魔王を抑えるため」


「もう一つは?」


「人間の世界に残るため」


 少女の視線がアリシアに向く。


「その魂が、アリシアの中にある」


 アリシアは胸に手を当てた。


「だから……時々、知らない記憶が見えるのでしょうか」


「そう」


 少女が答える。


「あなたは魔王の器ではない」


 アリシアの目が見開かれる。


「なら……私は?」


「魔王を封じるための、最後の鍵」


 俺は考え込んだ。


 もしアリシアが魔王を封印できるなら、魔王軍が彼女を殺さずに利用しようとしていた理由も説明できる。


 だが、一つだけ疑問が残る。


「じゃあ、なぜ魔王軍は王女を『魔王の器』と言っている?」


 少女が黙る。


「……それは」


 少女が答える前に――


 地下聖堂の入口から爆発音が響いた。


 ――ドォン!


「来た!」


 ミレイユが杖を構える。


 黒い煙の向こうから、ヴァルネアが姿を現した。


「やはりここだったか」


 ヴァルネアは笑う。


「聖女の魂を受け継ぐ王女。そして、異界の刑事」


 その目が赤く輝く。


「二人が揃えば、魔王は完全に復活できる」


「違う」


 俺は銃を構えた。


「お前たちの計画には、決定的な間違いがある」


「何?」


「王女を殺す必要も、俺を捕まえる必要もない」


 俺は石碑を見る。


「必要なのは、俺と王女を同時にこの場所へ連れてくることだったんだ」


 ヴァルネアの表情が変わる。


「……気づいたか」


「この地下聖堂そのものが、巨大な封印術式だ」


 俺は床を見る。


 古代の魔法陣。


 俺の足元と、アリシアの足元。


 二つの紋章が光っている。


「俺たちがここに入った瞬間、術式が起動した」


 ヴァルネアが笑った。


「そうだ!」


 地下聖堂全体が揺れ始める。


「お前たちは自分から封印を解除しに来たのだ!」


「……!」


 アリシアの身体が光り始めた。


「きゃあっ!」


「アリシア!」


 俺が駆け寄る。


 しかし、アリシアの身体から黒い魔力が噴き出した。


「黒崎様……逃げて……!」


「離れるな!」


 俺は彼女の手を掴んだ。


 その瞬間――


 俺の頭の中に、前世の記憶が流れ込んできた。


 燃える王都。


 倒れる仲間たち。


 泣いているアリシア。


 そして、若い頃の俺。


 彼はアリシアに剣を渡していた。


「この剣で俺を殺せ」


 前世の俺が言う。


「そうすれば、魔王は封印できる」


「嫌です!」


 アリシアが泣いている。


「あなたを殺したくありません!」


「大丈夫だ」


 俺は笑っていた。


「俺は刑事だ」


「……?」


「死んでも、事件は解決する」


 そこで記憶が途切れた。


「……そういうことだったのか」


 俺は呟いた。


 前世の俺は、アリシアに殺された。


 そして、その魂が日本へ転生した。


 魔王を封印するために。


「黒崎様……?」


 アリシアが俺を見る。


「あなたは悪くない」


「え?」


「前世の俺は、自分で選んだんだ」


 俺は笑った。


「だったら今度は――」


 銃を構える。


「誰も死なせない」


 ヴァルネアが叫ぶ。


「無駄だ!」


 魔法陣が完全に光る。


 しかし、その瞬間。


 外から大きな衝撃音が響いた。


「何だ!?」


 ヴァルネアが振り返る。


 レオンが地下聖堂へ飛び込んできた。


「黒崎!」


「レオン!」


「魔王軍は私が食い止める!」


 レオンの鎧は傷だらけだった。


「ここは任せろ!」


 そして、その後ろから――


 王都警察の兵士たちが続々と入ってくる。


「王都警察だ!」


「全員、武器を捨てろ!」


 俺は驚いた。


「どうしてここに?」


 先頭の警官が答える。


「ミレイユ捜査官から緊急連絡を受けました!」


 俺は笑った。


「そうか」


 俺は銃を構える。


「だったら、ここからは警察の仕事だ」


 ヴァルネアが怒りに顔を歪める。


「人間ごときが……!」


 その瞬間。


 地下聖堂の奥から、巨大な音が響いた。


 ――ドクン。


 ――ドクン。


 まるで巨大な心臓が鼓動しているようだった。


 アリシアが胸を押さえる。


「……始まった」


「何が?」


 彼女の瞳が赤く染まる。


「魔王が……目を覚ます」


 地下聖堂の天井が割れる。


 遥か地下から、巨大な黒い腕が突き出した。


 ヴァルネアが笑う。


「見ろ!」


「魔王様の復活だ!」


 俺はその巨大な腕を見上げた。


 そして理解した。


 ここで魔王を止めなければ――


 王都そのものが消える。


「全員、聞け!」


 俺は叫んだ。


「ここからが本当の事件解決だ!」


 銃を握る。


「犯人は――魔王だ」


 そして俺たちは、最後の戦いへ向かった。

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