第六話 魔王復活の鍵
黒い魔法陣が俺の足元で輝いていた。
「黒崎様!」
ミレイユが俺に駆け寄ろうとする。
「来るな!」
俺は叫んだ。
魔法陣から伸びた黒い鎖が、俺の足に絡みついた。
「くっ……!」
身体から力が抜けていく。
まるで魂そのものを引きずり出されているようだった。
「黒崎!」
レオンが剣を抜く。
「お前を魔王軍には渡さない!」
「レオン、待て!」
俺は叫んだ。
「魔法陣を壊せ!」
「分かった!」
レオンが剣を振り下ろす。
――ガキン!
黒い結界に弾かれた。
「無駄だ」
グレンが笑う。
「この魔法陣は、お前の魂そのものを使っている」
「なら……」
俺は魔法陣を見る。
円形の術式。
中央に俺。
周囲に十二個の紋章。
「十二個……」
俺は呟いた。
「どうした?」
「この魔法陣、完成していない」
グレンの笑顔が消えた。
「何?」
「十二個ある紋章のうち、三つが欠けている」
ミレイユが目を凝らす。
「本当です」
「つまり、まだ魔王復活には時間がかかる」
「……!」
俺は笑った。
「警察の捜査と同じだ」
「何?」
「犯人は必ず証拠を残す」
俺は魔法陣を指差した。
「お前たちは完璧な魔法陣を作ったつもりだろうが、違う」
俺は一つの紋章を指差す。
「ここだけ魔力の流れがおかしい」
グレンの顔が青ざめる。
「馬鹿な……」
「設計者が違うんだ」
「……!」
「お前たちの魔法陣は、複数の人間が別々に作った」
俺は続けた。
「だから術式に微妙な癖がある」
グレンが怒鳴る。
「黙れ!」
黒い魔力が爆発する。
俺は吹き飛ばされた。
「黒崎様!」
ミレイユが俺を受け止める。
その瞬間。
「私に任せろ」
オルフェウスが前へ出た。
「賢者オルフェウス……」
老人は杖を構える。
「グレン。お前たちの計画は、すでに破綻している」
「黙れ、裏切り者!」
「裏切ったのは私ではない」
オルフェウスの杖から光が放たれた。
グレンが後退する。
「貴様……!」
「黒崎をこちらへ呼んだのは、魔王を復活させるためではない」
オルフェウスが言う。
「魔王を倒すためだ」
「ならば、なぜ黒崎の魂が必要なのだ!」
「魔王の魂を封印するためだ」
俺は驚いた。
「俺が……封印?」
「そうだ」
オルフェウスは俺を見る。
「かつて魔王を封印した者は、異世界から来た人間だった」
「まさか……」
「お前はその魂を受け継いでいる」
グレンが叫ぶ。
「嘘だ!」
黒い魔力が渦巻く。
「その魂は魔王を復活させるために必要なのだ!」
「違う!」
オルフェウスが叫ぶ。
「黒崎の魂は、魔王を封じるための鍵だ!」
俺は頭を抱えた。
突然、知らない映像が頭の中に流れ込んできた。
燃える王都。
巨大な魔王。
そして、その前に立つ一人の男。
その男は――
俺だった。
「……俺?」
男が振り返る。
顔は俺と同じだった。
そして、最後にこう言った。
――「次の俺へ。必ず王女を救え」
映像が消えた。
俺は膝をついた。
「今のは……何だ」
オルフェウスが静かに答える。
「前世の記憶だ」
「俺の……前世?」
「正確には、この世界に存在したお前の魂の記憶だ」
俺は混乱した。
「俺は日本人じゃなかったのか?」
「今世のお前は日本人だ」
「じゃあ、なぜ?」
「魂は一つでも、人生は一つとは限らない」
その時。
背後から声がした。
「話は終わったか?」
グレンが立ち上がる。
身体から黒い魔力が噴き出していた。
「私はもう、人間である必要はない」
「グレン……」
彼の身体が変形していく。
皮膚が黒く染まり、頭から二本の角が生える。
「魔王様のしもべとして――」
巨大な魔族へ変貌した。
「お前たちを殺す!」
ミレイユが杖を構える。
「黒崎様!」
「分かってる」
俺は拳銃を握り直した。
だが、弾丸では奴を倒せない。
「レオン!」
「何だ!」
「魔法陣の左側を攻撃しろ!」
「分かった!」
「ミレイユは右!」
「はい!」
「俺は中央を止める!」
三人が同時に動いた。
レオンの剣が魔法陣を切り裂く。
ミレイユの魔法が術式を破壊する。
俺は中央へ走った。
そして――
魔法陣の中心に拳銃を撃ち込んだ。
――轟音。
魔法陣が崩壊する。
「なっ……!」
グレンが叫ぶ。
「貴様、何をした!」
「簡単だ」
俺は立ち上がった。
「事件の証拠を消しただけだ」
魔法陣が完全に消滅する。
グレンは膝をついた。
「魔王様……申し訳……ありません……」
その身体から黒い煙が抜けていく。
だが――
煙は消えなかった。
空中で巨大な顔へ変わる。
赤い瞳。
鋭い角。
そして――
「黒崎蓮」
魔王が俺の名を呼んだ。
「お前は私を封じた魂の持ち主か」
俺は銃を構える。
「お前を逮捕する」
魔王が笑った。
「面白い」
その声と共に、黒い煙が消える。
床には一枚の黒い羽根だけが残った。
俺はそれを拾い上げる。
羽根には、新たな文字が刻まれていた。
――王都の外れ、聖女の墓地へ来い。
ミレイユが呟く。
「次の事件……ですか?」
俺は羽根を握りしめた。
「ああ」
そしてレオンを見る。
「お前も来るか?」
レオンは少し驚いた。
「私を……?」
「お前はもう魔王軍の手先じゃない」
俺は背を向ける。
「だったら今度は、警察として働け」
レオンはしばらく黙っていた。
そして――
「……分かった」
剣を腰に収めた。
「私も、殿下を守る」
こうして俺たちは、王都を出ることになった。
目的地は――
聖女の墓地。
そこには、魔王復活に関わるもう一つの秘密が眠っていた。




