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異世界警察官、姫暗殺未遂事件を捜査する  作者: sora


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2/10

第二話 消えた毒と裏切りの騎士

 翌朝。


 王都警察魔導犯罪捜査局には、いつもとは違う緊張感が漂っていた。


「王女殿下の暗殺未遂事件について、国王陛下から正式に捜査許可が下りました」


 ミレイユが一枚の書類を机に置いた。


「ただし、王城内の捜査は慎重に行うように、とのことです」


「つまり?」


「犯人が王城内部にいる可能性を、陛下も認めているということです」


 俺は書類を眺めながら、昨夜のことを思い出していた。


 王女の紅茶。


 魔法毒。


 逆さに刻まれた魔王軍の紋章。


 そして――レオンの震える右手。


「まず、紅茶を調べよう」


「ですが、毒入りの紅茶は昨夜、魔導研究所に運ばれたはずです」


「確認してくる」


 俺たちは王都魔導研究所へ向かった。


 ところが。


「申し訳ありません」


 研究員の男が頭を下げた。


「毒の鑑定に使った紅茶は、すでに処分しました」


「……何?」


「魔法毒は非常に危険です。研究終了後、浄化魔法で完全に消滅させました」


「容器は?」


「容器なら、こちらに」


 研究員が木箱を持ってきた。


 俺はカップを手に取った。


 ――違和感。


 カップの底にあったはずの小さな傷が消えている。


「このカップ、昨日のものか?」


「はい。間違いありません」


「本当に?」


「ええ」


 俺はカップを裏返した。


 王家の紋章は残っている。


 だが、昨日見た傷だけが消えていた。


「誰かが削ったな」


「え?」


「証拠を消したんだ」


 ミレイユが青ざめる。


「研究所の中に犯人が……?」


「違う」


 俺は周囲を見回した。


「犯人は、ここにいる人間とは限らない」


 その時だった。


 窓の外を黒い影が横切った。


「誰だ!」


 俺は走り出した。


 研究所の屋根。


 そこには黒いローブを着た男がいた。


「待て!」


 男が振り返る。


 顔には魔族特有の黒い紋様。


「魔王軍!」


 ミレイユが叫んだ。


 男は手を掲げた。


 炎の魔法が放たれる。


「伏せろ!」


 俺たちは身を伏せた。


 炎が壁を吹き飛ばす。


 その隙に男は屋根から飛び降りた。


「追うぞ!」


 俺は階段を駆け下りた。


 だが、外に出た時には男の姿は消えていた。


 地面には一枚の黒い羽根だけが落ちていた。


「逃げられましたね……」


「いや」


 俺は羽根を拾った。


「これは逃走のために落としたんじゃない」


「では?」


「俺たちに見せるためだ」


 羽根には、小さな文字が刻まれていた。


 ――次は王女ではない。


 ミレイユが息を呑む。


「どういう意味でしょう?」


「分からない」


 だが、俺には嫌な予感があった。


 その頃。


 王城では、レオンが王女アリシアの部屋を訪れていた。


「殿下」


「レオン?」


 アリシアは穏やかに微笑んだ。


「昨日は大変でしたね」


「……申し訳ありません」


「あなたが謝ることではありません」


 レオンは拳を握る。


「私は必ず、犯人を見つけます」


「ええ。あなたを信じています」


 その言葉に、レオンの顔が苦しそうに歪んだ。


 彼女は知らない。


 自分を殺そうとした犯人が――


 目の前にいることを。


「殿下」


「何?」


「もし……私が、あなたを裏切っていたら」


 アリシアは少し驚いた。


 そして微笑んだ。


「そんなこと、ありえません」


「……そうですか」


 レオンは目を伏せた。


 その瞬間。


 窓の外から黒い羽根が舞い込んできた。


 レオンの顔色が変わる。


 羽根には魔王軍の紋章。


 そして一言。


 ――今夜、決行せよ。


 夜。


 俺は王城の警備記録を調べていた。


 事件当日の記録。


 王女の部屋へ出入りした人物。


 侍女。


 料理人。


 衛兵。


 そして――レオン。


「やっぱり妙だ」


 俺は記録を見つめた。


「レオンは、事件の三十分前に王城を出ている」


「え?」


 ミレイユが記録を覗き込む。


「でも本人は、ずっと王女の執務室にいたと言っていました」


「ああ」


 つまり、レオンは嘘をついている。


 その時。


 城の鐘が鳴り響いた。


 ――ゴーン。


 ――ゴーン。


「夜間警報?」


 ミレイユが窓の外を見る。


 王城の中央塔が赤く光っている。


「王女殿下の部屋です!」


「……まさか」


 俺は走り出した。


 廊下を駆け抜ける。


 衛兵たちが倒れている。


 誰も傷ついてはいない。


 全員、眠らされているだけだ。


 そして王女の部屋の前。


 そこに立っていたのは――


 レオンだった。


 右手には剣。


 その刃には、黒い魔力がまとわりついている。


「レオン!」


 俺が叫ぶ。


 レオンが振り返った。


「黒崎……」


「剣を捨てろ!」


「できない」


「お前が王女を殺すつもりなのか?」


 レオンは答えなかった。


 その目には涙が浮かんでいた。


「俺を逮捕しろ」


「何?」


「早くしろ!」


 レオンが剣を構える。


「そうしなければ――俺は、本当に殿下を殺してしまう!」


 俺は拳銃を抜いた。


 この世界に銃は存在しない。


 前世から持ってきた、俺だけの武器だ。


「レオン」


 俺は銃口を向けた。


「最後に一つだけ聞く」


「……何だ」


「お前は、本当に王女を殺したいのか?」


 レオンの目から涙が落ちた。


「……違う」


「なら、まだ間に合う」


 俺は一歩近づいた。


「警察は、犯人を殺すためにあるんじゃない」


「……」


「生きて罪を償わせるためにある」


 レオンの剣が震える。


 その時。


 王女の部屋の中から、別の声が聞こえた。


「感動的な話は終わりか?」


 俺たちは同時に振り返った。


 そこにいたのは――


 王女アリシア。


 しかし、その瞳は赤く輝いていた。


「レオンは役に立たなかったようだな」


 アリシアが笑う。


 俺は息を呑んだ。


「……王女?」


「残念だったな、異世界の刑事」


 アリシアの背後から黒い魔力が噴き出す。


「この国の王女は――」


 赤い瞳が俺を見つめる。


「とうに魔王の器になっている」


 王城全体を、巨大な魔法陣が包み込んだ。


 第二の事件が始まった。

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