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異世界警察官、姫暗殺未遂事件を捜査する  作者: sora


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第一話 転生した先は、魔法と犯罪の街だった

 俺が死んだのは、雨の日だった。


 仕事帰り、横断歩道を渡っていた俺は、信号無視のトラックに気づいた。


 ブレーキ。


 クラクション。


 そして――暗闇。


「……ここは?」


 目を開けると、見知らぬ天井があった。


 石造りの部屋。


 壁には見たこともない紋章。


 窓の外には、空を飛ぶ巨大な鳥。


 そして俺の隣には、青白い顔をした金髪の少女が立っていた。


「よかった……! 目を覚まされたのですね!」


「君は……?」


「私はミレイユ。王都警察魔導犯罪捜査局の捜査官です」


「……警察?」


 その言葉を聞いた瞬間、俺は自分が死んだことを理解した。


 どうやら俺は、異世界に転生したらしい。


 しかも、前世の記憶を持ったまま。


 俺の名前は黒崎蓮。


 前世では日本の刑事だった。


 そして、この世界で俺に与えられた職業は――


「あなたには今日から、王都警察の特別捜査官として働いていただきます」


「異世界でも警察かよ……」


 笑うしかなかった。


 だが、その三日後。


 俺はこの世界で初めて、本物の殺人事件に遭遇することになる。


「王女殿下が狙われました!」


 王城中に警報が鳴り響いた。


 事件現場は王女アリシアの私室。


 机の上には、一杯の紅茶。


 そして、その隣には倒れた王女。


「毒殺……ですか?」


 ミレイユが震える声で言った。


「おそらくな」


 俺は部屋を見回した。


 窓は内側から施錠されている。


 扉の前には二人の衛兵。


 毒を入れられる可能性があるのは、王女に紅茶を運んだ者だけ。


「誰が紅茶を?」


「侍女のリナです。ただし、彼女は厨房から運んだだけで……」


「他に触った人間は?」


「……一人だけです」


 ミレイユが顔を上げた。


「王女殿下の側近、レオン卿です」


 その名前が出た瞬間。


 部屋の隅に立っていた男が一歩前へ出た。


 黒髪。


 銀色の鎧。


 腰には王家直属騎士の剣。


 そして、王女から絶対的な信頼を得ている男。


「私を疑っているのか?」


 レオンは静かに言った。


「まだ疑ってない」


 俺は答えた。


「ただ、話を聞きたいだけだ」


「何を?」


「事件が起きる直前、あなたはどこにいた?」


「王女殿下の執務室にいた」


「紅茶には?」


「触れていない」


「本当に?」


「もちろんだ」


 即答だった。


 俺はレオンの目を見る。


 嘘をついている人間は、必ず目を逸らす。


 ――前世では、そう教えられていた。


 だが、この世界では違った。


 レオンは俺の目を真正面から見返していた。


「……妙だな」


「何が?」


「あなたは、嘘をついているように見えない」


「なら疑いは晴れたな」


「いや」


 俺は紅茶のカップを指差した。


「だからこそ怪しい」


 レオンの表情が、一瞬だけ固まった。


 俺はカップを調べた。


 紅茶には毒が入っている。


 しかし、毒そのものは普通の毒ではなかった。


「魔法毒だ」


 ミレイユが驚く。


「そんな……」


「普通の鑑定魔法では見つからないように細工されている」


「では、犯人は魔術師?」


「違う」


 俺はカップの底を見た。


 そこに、ごく小さな傷があった。


 王家の紋章。


 その紋章が――上下逆さまに刻まれている。


「これは魔王軍の印だ」


 部屋の空気が凍った。


「魔王軍……?」


「ああ」


 俺はゆっくり立ち上がった。


「この事件は単なる王女暗殺未遂じゃない」


 そして、レオンを見る。


「王城の中に、魔王のしもべがいる」


 レオンは何も答えなかった。


 ただ、その右手が――ほんの少し震えていた。


 その夜。


 王都の地下。


 誰も近づかない古い水路に、レオンは一人で立っていた。


「失敗したのか」


 闇の中から声がした。


「……申し訳ありません」


 レオンは膝をついた。


「次は必ず成功させます」


「次などない」


 闇の奥から、赤い瞳が浮かび上がる。


「王女を殺せ」


「……はい」


「そうすれば、お前の妹は解放してやる」


 レオンは拳を握りしめた。


「約束は……守っていただけるのでしょうね」


 闇の中の声が笑った。


「もちろんだ」


 しかし、その声の主は知っていた。


 レオンの妹は――


 もう三年前に死んでいる。


 そして王都警察の特別捜査官、黒崎蓮もまだ知らない。


 この事件の本当の標的が、王女アリシアではないことを。


 魔王が狙っているのは――


 異世界から転生してきた、ただ一人の刑事だった。

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