表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
2/4

『涙に染まった願い』

空気が重い。


光は届かない。


この場所を照らしているのは――


光を持たない者たちの、祈りだけだった。



ソウタはゆっくりと目を覚ます。


どこからか、聞いたことのない古い言葉で祈りを捧げる声が聞こえていた。


ソウタ

「……ここ、どこだ……?」


体が重い。


ひどく疲れている。


動こうとした瞬間――


自分の手足が縛られていることに気づいた。


周囲を見る。


そこには、顔を隠した何人もの人間が立っていた。


ソウタ

「……何だよ、これ……?」


息が速くなる。


ソウタ(心の声)

「落ち着け……落ち着くんだ……」


その時――


一人の男が部屋へ入ってきた。


周囲の火が灯され、空間が少しずつ照らされていく。


ソウタは初めて、この場所の全貌を見る。


古い石造りの壁。


崩れかけた柱。


床や壁に刻まれた、意味の分からない文字。


そこはまるで――


遥か昔から地下に眠っていた遺跡のようだった。


そして、男を見る。


その瞬間。


ソウタの背筋を、言葉では説明できない恐怖が走った。


理由も分からない。


悲しいわけでもない。


それなのに――


目から涙がこぼれ始める。


ソウタ

「……何だよ、この涙……」


頬を伝う涙。


ソウタ

「悲しくないのに……」


次の瞬間――


恐怖が一気に全身を支配した。


ソウタは必死に体を動かす。


逃げようとする。


しかし、すぐに押さえつけられる。


ソウタ

「何なんだよこれ!!」


ソウタ

「助けて!!」


ソウタ

「お願いだから、離してくれ!!」


ただあの男を見ただけなのに。


それだけで――


死が目の前にあるような感覚がする。


ソウタ

「死にたくない!!!」


手も足も縛られたまま、必死に叫ぶ。


男は静かに両手を合わせる。


その瞬間――


周囲にいた全員が動きを止めた。


完全な静寂。


男がソウタを見る。


不気味な男

「次はこいつだ。」


少し間を置く。


不気味な男

「供物の中央へ運べ。」


ソウタは、自分に何が起きているのか理解できない。


しかし――


もう叫ぶことさえできなかった。


表情が消えていく。


周囲をぼんやりと見つめる。


ソウタ(心の声)

「……これが……」


ソウタ(心の声)

「自分が死ぬって分かった時の感覚なのか……?」


男たちに持ち上げられ――


供物を捧げるための石造りの場所へ投げ出される。


そこには無数の古代文字が刻まれていた。


ソウタは目を閉じる。



「どうして見つからないんだ!!」



ソウタが消えてから――


一日が経過していた。


警察が神社へ到着している。


境内の外では、ケンジたちの研究チーム、神社のマサト、そして警察官たちが話していた。


警察官

「昨日から捜索を続けていますが、今のところ手がかりはありません。」


ユイが警察官を見る。


ユイ

「お願いします……捜索をやめないでください。」


ケンジは森の方を見つめたまま答える。


ケンジ

「最後に見た時、あいつは川の方へ歩いていた。」


拳を握る。


ケンジ

「まさか……あそこまで離れるとは思わなかった。」


その時――


警察官の無線が鳴る。


無線

「こちら捜索班。」


無線

「川を辿った先に湖を発見した。」


全員が反応する。


無線

「周囲を確認したが、人影なし。」


無線

「繰り返す。川沿いを捜索したが、行方不明者の痕跡は確認できない。」


助手の一人が一歩前へ出る。


助手

「俺たちも残ります。」


助手

「絶対に見つけます。」


警察官は少し黙る。


警察官

「規定上、捜索期間をもう一日延長できます。」


全員を見る。


警察官

「現時点で約束できるのは、それだけです。」


誰も何も言えなかった。


ただ、不安そうな表情で互いを見る。



マサトはその場から離れる。


神社の奥にある一室へ向かう。


そこには複数の教師たちが集まっていた。


簡素な会議室。


全員の表情は険しい。


マサト

「何としてもあの青年を見つける。」


全員が静かに聞いている。


マサト

「誘拐された可能性がある。」


アカリを見る。


マサト

「アカリが周辺を調べた。」


アカリが頷く。


アカリ

「人間の匂いを感じました。」


アカリ

「複数人です。」


少し間を置く。


アカリ

「南へ向かっていました。」


アカリ

「道路に近い区域です。」


マサトの表情がさらに険しくなる。


アカリ

「何者かは分かりません。」


アカリ

「でも、人を攫ったのなら……良い目的のはずがありません。」


マサトは部屋にいる全員を見る。


マサト

「トオル。」


一人の男が顔を上げる。


マサト

「お前が調べろ。」


マサト

「他の者はここに残って警戒を続けろ。」


マサト

「境内と子どもたちを守れ。」


トオルは静かに頷く。


トオル

「分かった。」



森は広大だった。


しかし、トオルはこの土地を知り尽くしている。


森の中を高速で移動する。


木々の間を抜けていくたび――


周囲の風が刃のように鋭くなる。


トオル

「……もうすぐだ。」


足を止めない。


トオル

「気配がする。」


通信機を使い、マサトへ連絡する。


トオル

「マサト。」


トオル

「近くにいる。」


すぐに返事が返ってくる。


マサト

「戦うな。」


マサト

「目的は救出だけだ。」


マサト

「危険だと判断したら、すぐに連絡しろ。」


トオル

「了解。」



一方――


地下。


ソウタが再び目を開ける。


横を見る。


誰かが慌てた様子で不気味な男へ近づき、耳元で何かを伝える。


男の表情が変わる。


不気味な男

「全部運び出せ。」


全員が反応する。


不気味な男

「ここを離れる。」


その言葉と同時に――


空間全体が動き出す。


捕らえられていた人々が連れ出される。


古い巻物。


剣。


箱に保管された様々な遺物。


ガラスケースに入った物品。


次々と運ばれていく。



外には三台の大型トラックが待機していた。


ソウタも引きずられ、外へ連れ出される。


そこで初めて気づく。


自分がずっと――


地下にいたことに。


トラックの後部が開く。


ソウタは中へ投げ込まれる。


床に倒れる。


顔を上げる。


そこには――


赤ん坊。


子ども。


大人。


年齢の違う、多くの人々がいた。


全員が怯えた表情でソウタを見る。


誰も声を出さない。


不気味な男が外から叫ぶ。


不気味な男

「全員、準備しろ!」


荷物が積み終わる。


扉が閉じられる。


三台のトラックがゆっくりと走り出す。


その後方を――


四台のバイクが護衛するようについていく。


車列は森の中へ消えていった。



しかし――


不気味な男だけは、その場に残っていた。


ただ立っている。


静かに。


しばらくして――


口を開く。


不気味な男

「出てこい。」


森は静かなまま。


男は薄く笑う。


不気味な男

「その程度の弱い気配で隠れているつもりか?」


木々の間から――


トオルが姿を現す。


二人が向かい合う。


トオル

「俺はあの青年を連れ戻しに来ただけだ。」


不気味な男は笑う。


不気味な男

「俺を見た。」


不気味な男

「それだけで、お前を帰す理由はなくなった。」


暗い笑み。


次の瞬間――


男の姿が消える。


トオルの目が見開かれる。


一瞬で目の前。


強烈な蹴り。


トオルは腕で防御する。


――ドン!!


衝撃で体が地面へ沈み込む。


足元の土が大きくひび割れる。


トオルは相手を見つめる。


たった一撃。


それだけで理解した。


トオル(心の声)

「……格が違う。」


二人は距離を取る。


静かに向かい合う。


トオルが構える。


男は笑ったまま。


互いに踏み込む。


そして――


すべてが暗闇に包まれる。



ポタッ。


ポタッ。


液体が地面へ落ちる音。


しかし――


それは水ではなかった。


赤い。


暗闇の中。


男の手には――


トオルの頭部があった。


首から完全に切り離されている。


男はそれを一度だけ見る。


そして――


手を離す。


頭部が地面へ落ちる。


男は振り返ることなく、その場を去っていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ