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儚く消えた願い

月明かりが、東京の街で遊ぶ子どもたちの幸せそうな姿を照らしている。


一人の母親が娘と一緒に、公園で少し時間を過ごそうと歩いていた。


街の音、夜の空気、そして母と娘が一緒に過ごすそのひとときは、まるで愛に満ちた一つの旋律のようだった。


公園に着くと、少女は嬉しそうに駆け出した。


母親はそんな娘を優しい眼差しで見つめている。


その時――


何かが少女の目を引いた。


夜空に、一筋の流れ星が見えた。


少女

「お願いごとを――」


しかし、言い終わる前に、その光は遠くの森へと消えていった。


母親

「どうしたの?」


少女

「ううん、なんでもない。」


その光は一瞬にして儚くなり、森の暗闇へと消えていった。


迷子になったのだろうか。


それとも――


大地に飲み込まれてしまったのだろうか。



いつもと変わらない朝。


目覚まし時計は午前7時を告げていた。


その音に、ソウタは飛び起きる。


ソウタ

「やばっ! また遅刻する!!」


焦った顔で時計を見る。


考えている暇などない。


勢いよくベッドから飛び出し、そのままシャワーへ駆け込んだ。


――しかし。


お湯が熱すぎた。


ソウタ

「あっつ!!」


慌ててシャワーから飛び出し、急いで服を着る。


いつもの黒いセーターに、若者らしいジーンズ。


その時。


「ニャー」


突然聞こえた鳴き声に、ソウタは胸を押さえる。


振り返ると、そこには愛する猫がいた。


その姿を見るだけで、慌ただしかった気持ちが少しだけ和らいだ。


ソウタ

「ミロ、行ってくるからな。」


その瞬間――


トースターから音が鳴る。


ソウタは焼けた二枚のパンを取り出し、急いでサンドイッチを作った。


家を出ようとする。


しかし、その直前。


一度だけ振り返った。


自分の家を見つめ、どこか愛おしそうに微笑む。


そしてドアを閉めた。



エレベーターが下降していく。


窓の向こうには、雲一つない青空の下、活気に満ちた東京の街が広がっていた。


建物を出たソウタは、そのまま走り出す。


道を歩く人々。


行き交う車。


朝の東京を包むさまざまな音。


その中を走り抜け、いつものカフェへとたどり着いた。


店に入ると、年老いた店主が彼を見る。


老人

「また遅刻か?」


ソウタは少し恥ずかしそうな顔をする。


ソウタ

「もう分かってるでしょ。」


その時、店内のテレビからニュースが聞こえてきた。


テレビ

「――東京の防衛隊は、誘拐されそうになっていた新生児二名を無事保護しました。」


ソウタはテレビ画面をじっと見つめる。


そのニュースに完全に気を取られていた。


――ゴトッ。


カウンターに何かが置かれる音で我に返る。


老人

「ほら、コーヒー。」


ソウタ

「ありがとう、じいちゃん!」


コーヒーを受け取り、再び店を飛び出した。


そのまま地下鉄へ向かう。



電車の座席に座ったソウタはイヤホンを耳に入れる。


音楽が流れ始める。


窓の外には東京の街並み。


音楽とともに流れていく景色を眺めながら、穏やかな時間を過ごす。


やがて目的地に到着した。


駅を出ると、目の前に自分が働いている建物が見える。


ソウタはなぜか嬉しそうにそれを眺める。


――少し変だろうか。


仕事に行くのが楽しみな人間なんて。



建物の中へ入ると、すでに仲間たちが待っていた。


助手1

「よう、ソウタ! 元気? 今日は現地調査だってさ。」


その時、扉からケンジ教授が入ってくる。


ケンジ

「誰が先に話していいと言った?」


怒ったような表情で助手を見る。


助手1

「す、すみません、先生。」


ソウタはケンジを眺める。


以前より少し老けたように見えた。


ケンジ

「ソウタ!」


ソウタは我に返る。


ケンジ

「ぼーっとするな。今日は現地調査だ。」


ソウタ

「えっ……あ、はい、先生! すぐ準備します! えっと……他には誰が行くんですか?」


ケンジ

「ケンタだ。」


そこへユイが現れる。


ユイ

「みんな、おはよう。今日も一日頑張りましょう。」


ソウタは思わず彼女を見る。


綺麗だ。


少し見とれてしまう。


全員が必要な機材を準備し、現地へ向かうバスに乗り込んだ。



バスは東京を離れていく。


進むにつれ、景色は少しずつ自然へと変わっていった。


高層ビルは一つ、また一つと姿を消していく。


まるで街そのものがゆっくりと消えていくようだった。


座席に座っていたソウタが教授を見る。


ソウタ

「先生、結局今日は何を調べるんですか?」


ケンジは窓の外を見ながら答える。


ケンジ

「ソウタ。今回は森に侵入した外来種の調査だ。」


ソウタは耳を傾ける。


ケンジ

「その木になる実には毒性がある。あの地域に生息する野生動物に悪影響を与えているらしい。」


他のメンバーもケンジの話に耳を傾ける。


ユイが続けた。


ユイ

「どのくらい繁殖しているのかを調べて、環境省に報告しないとね。」


そこで会話は途切れた。


しばらくして、運転手の声が聞こえる。


運転手

「到着しました。」


全員がバスから機材を降ろす。


そして――


目の前に広がる光景を見て、言葉を失った。


ソウタ

「うわ……神社?」


助手1

「すごい……綺麗だな。」


目の前にそびえる神社は圧倒的だった。


長い歴史を持っていることが、一目見ただけでも伝わってくる。


ケンジ以外のメンバーは、これほどの場所を見たことがなかった。


ケンジ

「いいか、お前たち。ちゃんと振る舞えよ。余計なことをして目立つな。」


全員に言い聞かせる。


すると神社の入り口から、一人の女性が姿を現した。


彼女はこちらへ歩いてくる。


メイ

「初めまして。メイと申します。この神社の宮司の補佐をしております。」


穏やかに頭を下げる。


メイ

「まず境内をご案内して、その後、皆さんのお部屋までお連れします。」


全員が挨拶を返し、感謝を伝える。



境内を歩いていると、遊んでいる子どもたちの姿が見える。


少し離れた場所には、何人かの先生たちもいた。


科学者たちはその美しさに圧倒されながら歩いていく。


メイに案内されながら、神社のさまざまな場所を巡った。


やがて彼女が立ち止まる。


メイ

「これで一通りのご案内は終わりです。」


目の前には宿泊用の部屋が並んでいる。


メイ

「こちらが皆さんのお部屋になります。何か必要なものがありましたら、遠慮なく私にお声がけください。」


全員が頭を下げる。


一同

「ありがとうございます!」


その時――


メイの背後から、大きな影が伸びた。


30歳ほどに見える、大柄で威圧感のある男。


ケンジの表情が一変する。


ケンジ

「マサト!!」


嬉しそうに叫ぶ。


ケンジ

「久しぶりだな!」


二人は再会を喜び、抱き合った。


その様子を見た助手が笑う。


助手1

「なんだ……もう怖く見えないな。」


マサトは全員を見る。


マサト

「皆さん、初めまして。この神社の宮司を務めているマサトです。」


メイを見る。


マサト

「うちの者がちゃんと案内してくれたかな?」


そしてケンジへ視線を戻す。


マサト

「今回は何日くらい滞在するんだ?」


ケンジ

「三日だけだ。それが終わったら戻る。」


マサト

「そうか。」


マサトは微笑む。


マサト

「自分の家だと思って、ゆっくりしていってくれ。歓迎するよ。」


全員が頭を下げる。


一同

「ありがとうございます!」



夜。


全員がそれぞれの部屋で休んでいた。


ソウタは窓の外を見る。


東京とはまるで違う。


空気さえも静かに感じる。


この場所には、不思議なほどの安らぎがあった。


ソウタは布団に横になる。


頭を枕に預け――


そのまま眠りについた。



翌朝。


子どもたちが訓練する音が聞こえてくる。


その音にソウタは飛び起きた。


ソウタ

「なんだよ、今の!?」


慌てて窓を見る。


外では子どもたちが一人の先生と一緒に訓練していた。


コン、コン。


扉を叩く音。


ケンジ

「ソウター! 起きろー! 仕事が呼んでるぞ!」


全員が起き、機材を持って外へ集まる。


ケンジが道を指差した。


ケンジ

「今日は神社のこの道を通る。この先が例の外来種が確認された森だ。」


全員を見る。


ケンジ

「絶対に一人で離れるなよ。日が暮れる前には戻る。」


全員がふざけて兵士のように手を上げる。


一同

「イエッサー!」


そして森へ向かって歩き始めた。



神社の中を通り抜けながら、その美しさに何度も目を奪われる。


やがて境内を抜けると――


深い森が姿を現した。


全員が森の中へ入っていく。


奥へ。


さらに奥へ。


そして――


ケンジ

「着いたぞー!!」


珍しく興奮した声を上げる。


ケンジ

「よし、仕事開始!」


それぞれが作業を始める。


土壌のサンプルを採取する者。


植物の写真を撮る者。


記録を残す者。


その中で――


ソウタは川に目を奪われていた。


気づけば、その流れを追うように歩き始めていた。


木々が揺れる音。


肌を撫でる風。


傷さえ癒やしてしまいそうな、優しい空気。


鳥たちのさえずりが、まるで彼を励ましているかのようだった。


歩けば歩くほど、森そのものが生きているように感じた。


怖くない。


むしろ――


自分をどこかへ導いてくれているようだった。


ソウタの瞳が輝く。


そして、気づかないうちに――


湖へとたどり着いた。


水は信じられないほど透き通っていた。


まるで天国から切り取られたような場所。


ソウタ

「すごい……!」


周囲を見渡す。


誰もいない。


ソウタ

「みんな見えないな……結構離れちゃったか。」


もう一度、湖を見る。


ソウタ

「でも……こんな機会、逃せないよな。」


服を脱ぎ――


そのまま湖へ飛び込んだ。


水の中で、ソウタは子どものように楽しんだ。


しばらく泳いだ後、湖のほとりへ上がる。


そのまま横になり、木々の隙間から差し込む光を眺める。


穏やかだった。


あまりにも穏やかだった。


ソウタ

「こういう場所は……誰にも知られないままの方がいいのかもな。」


ゆっくりと目を閉じる。



ソウタが目を覚ます。


辺りは――


真っ暗だった。


ソウタ

「ええっ!?」


勢いよく起き上がる。


ソウタ

「嘘だろ……俺、何やってんだ! 早く戻らないと!」


周囲を見る。


しかし――


来た道が分からない。


ソウタ

「……こっちだったかな。」


急いで服を着る。


そして森へ走り出した。


深い森の中を進む。


走る。


走る。


その時――


遠くに、人影が見えた。


ソウタは足を止める。


人だ。


しかし、その人物は――


仮面をつけていた。


見ているだけで、本能的な恐怖を感じるような仮面。


ソウタの体が動かなくなる。


目を離せない。


一瞬だけ顔を逸らす。


そして、もう一度見る。


――いない。


人影は消えていた。


ソウタは大きく息を吐く。


ソウタ

「はぁ……よかった。」


自分を落ち着かせる。


ソウタ

「もう真っ暗だし……このまま進めば着くはずだ。みんなも探してるだろうし……。」


その時。


背後から――


息遣いが聞こえた。


ソウタの体が凍りつく。


ゆっくりと――


首を後ろへ向ける。


次の瞬間。


首元に強い衝撃を感じた。


視界が揺れる。


力が抜ける。


ソウタはその場に崩れ落ちた。


薄れていく意識の中――


仮面の男の声だけが聞こえた。


仮面の男

「……成人を一人確保した。」


男は倒れたソウタを担ぎ上げる。


仮面の男

「こいつで足りる。」


そして――


ソウタを連れたまま、森の暗闇へと消えていった。

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